乙女よ。その扉を開け

雪桃

神殺し

「ソウダナ……我ノ依代よりしろヲ傷付ケタコトハ許サンガ境遇二同情シテスグニ殺シテヤロウカ」

 何も無い空間から刃を取り出し一気に恵子へ振り下ろす。

ガン! と首を刺すには有り得ない音が響いた。

「何ダ。
 恨ンデイタ母ニ対シテノ見方デモ変ワッタノカ」
「さあね。
 ただその体をいい加減返して欲しいんだよ。
 目を覚ました時に血塗れなんてゆかは耐えられないだろ」
「……アア。
 貴様ハ無効デキルノカ」

 破壊神はしんに視線を寄越した。

「我ニ殺サレルコトヨリモ娘ヲ助ケルコトガ優先カ」
「どうせ異能を使えば寿命は縮んでしまうのだし。源」

 破壊神に消されないように珠をこちらに寄せる。

「駄目だ。
 しんの……寿命が……」

 寿命を縮めないようにしんを遠ざけさせたというのに――

「ごめん兄さん。これが一番早いんだ」

 二人のやりとりを破壊神はただ傍観していた。
 自分を消すための手段だと言うのに。

(コノ娘ニハマダ絶望ガ足リテナイカ。
 ナラモウ少シ待ッテイナイト完璧ニハ操レナイナ)
「フフフ。
 ナラ別二貴様ガ異能ヲ使ワナクトモ良イワケダ」
「……急に何だ? 」
「娘ニハマダ光ガ残ッテシマッテイルカラ完全ニハ操レナイ。
 ダカラ今ハ退散シヨウカ」

 破壊神は掌に火の玉を乗せるとそのまま床に落とした。

 老朽化が進んでいる木材は時間をかけずに火を広げさせていった。

「サテ……早ク逃ゲルコトダナ。
 急ガナイト全テ焼キ尽クサレルゾ」

 そう言い残し破壊神――紫の体は火の渦に倒れ込んだ。

「ゆか! まさ、母さんを連れて外に出ろ。
 俺はゆかを助けるから」
「……分かった。母さん、立てる? 」

 まさは恵子を支えながら出口まで急いだ。

「よし……ゆかまでの道を開け。
 異能・山紫水明」

 人一人通れるくらいに火が治まった。
 同時に息苦しくもなったが。

(“あれ”と同じならゆかは当分目を覚まさないだろうな)

 しんはゆかを抱えてまだ火が燃え移っていない出口までの道を急ぐ。
 しかし

 ガシャン!

 燃えていた木の柱が倒れて行く手を阻む。

「チッ。異能……」
「よせ」

 すぐ隣には当道がいた。

「先程から思っていたがお前は自分の命を軽く見過ぎだ」
「なっ。敵に言われたくなんか……」
「命を軽々しく見る者に敵も味方も関係ない!」

 大声で叱責されて危うく紫を落とす所だった。

「私はお前を殺さぬ。
 命のありがたみも知らぬ奴など殺しても何の利益も無いわ」

 しんは重力なのか何なのか出口まで吹っ飛ばされた。

「!? さ、相模さ……」

 しんは思い切り病院――大型の方――の壁に打ち付けられた。

「か、はっ!」
「しん!」

 ゲホゲホと咳き込むしんの元へまさは急いで向かった。

「大、丈夫……ケホッ……母さんは」

 しゃがみ込んで呆けている恵子を二人は見る。
 腕の流血はまさが止めたのだろうから押さえてはいない。

「ねえ兄さん。破壊神の話……信じてる? 」
「……母さんの反応からして真実だと思うよ」
「どうする?」
「どうするって何が?」

 何だろうとしんも首を傾げた。
 考えるより先に出たのだろう。

「母さんの意図はどうにせよ今はとにかく社長に連絡を……」

 まさの言葉が途切れる。

「どうし……」
「ゆかの流血が止まってない気が」
「え?」

 そんなことあるはずが無い。

 アビリティーキラーの治癒力なら腹を切られてもすぐに――――

「……毒?」
「母さん!!」

 まさは呼ばれてビクリと体を震わせた恵子に掴みかかった。

「解毒!」
「え?」
「ゆかに含ませた毒を取り除いて! 
 流血してから大分時間がかかっているから失血死する!」
「あ……い、院長室にある」
「連れて行って! しん、ゆか抱えて」
「え、あ、うん」

 急な展開について行けていないしんを急かして院長室へ向かった。












「私はいらなかったようですよ乙女」
『いらなかった……ってね。
 小鳥遊莉乃はどうなったの』
「亡き者になりましたよ。
 彼女は人を殺しているのですからこの世界から不必要と認定させましたよ。
 からね」
『………………………』

 何とも言えない声が返ってくる。

「それにしても破壊神が寸でのところで止まって良かったですね〜後少しで死ぬ所でしたよ」
『一応聞いておくけど……誰が?』
「いやですね社長。
 決まってるじゃないですか」

 にやりと笑う。

「柊紫がですよ」
『…………覚えておきなさい。
 ゆかを殺したらあんたも殺すわよ。
 神殺し、笹崎錬』

 ブチリと一方的に通話を切られた。

「おやおや社長も無粋ですねぇ」

 にこにこ笑う錬は急ぐまさ達を見つからないように見下ろす。

「この世界に神などいらないんだよ。
 だからお前も敵だ。柊紫」

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