乙女よ。その扉を開け

雪桃

急げ

「あさが行方不明!?」

 里奈の怒声が社内に響いた。

「何考えてんのよあんた!
 一人で充分だって言ったからあさだけ行かせたのにヘマやらかしてんじゃ無いわよ!
 後でたっぷり絞るから覚悟しときなさい!!」

 受話器を乱暴に置いて里奈は肩で息をした。

「里奈。そんなに怒ると白髪増えるよ」
「白髪じゃない銀髪!」
「いやどうみても白……」
「銀髪!!
 とにかくあさがGPSを作動させてくれてるし捜索に行きましょう。私とあや、ひよで良いわ。
 ゆかとやまは事件現場で調査。
 警部に直談判してきなさい。
 他は万が一に備えて待機」
「「「了解」」」

 全員が役職に入った。

(あさ。あなたは何があろうと殺させない。
 木葉として帰れるまでは)







「にい……ちゃ…………やめて」

 爪が肉にくい込むほど首を掻きむしりながら喘ぐあさを見下ろす。

「すごい精神力ね。
 常人は三十分経ったら死ぬか自殺しようとするのに。丈夫ね」

 ほとんど飲み込まれてはいるものの目には戦意が残っている。

「…………っ。はぁ、はぁ……ま、マフィア……たお……た………ぐぅ……」

 黄色く鋭い獅子の目が茜を睨む。

「闇に落ちたくせに光を求めて私と同じなのに一人だけのこのこと幸せに生きて。
 探偵社よりこっちの方がお似合い。
 あんたは……あんたなんか!!」

 苛つく声を出して茜はあさの腹を蹴った。

「あ…………」
「げほっ! う、うぇ……」

 茜はその場で固まった。

(こんなに感情を出したのはいつ以来だろう)

 倒れ込み涎を垂らすあさの顔を見る。
 すると前髪に金色の髪が混ざっているではないか。

 少し触れてみるとずるりと落ちて長いブロンドが姿を表した。

「…………………」
(いや違う。
 “あいつ”とは名前があってないじゃない。
 あの頃のことを思い出すな)
「ねえ浅葱。
 あなたがもし私のことを知っていたら“あの子”のように仲良くしてくれた?
 味方に……そんなのもういらないけどね」

 嘲笑いを浮かべてあさを本部へ連れていこうとした。

「――――――――っ!!」

 殺気を感じて素早く銃の引き金を引く。

「あら凄い。流石はマフィアの暗殺者部隊幹部。
 殺気には敏感なのね、幻覚の死神さん?」

 時を止めて里奈は弾を握りつぶした。

「…………百目か」

 里奈の後ろに控えているひよを睨む。

「異能を使いたければ好きにすれば良い。
 どうせこの女は死ぬ。
 破壊神がいればまだ対処出来たのにいないみたいね」
「あんた達の狙いはゆかでしょう?
 あんたを倒してから連れていくわ」
(そんな暇、こいつにあるかしら)

 茜は機関銃を二丁取り出した。

「異能者抹殺開始」

 そう言って茜の銃弾が絶え間なく襲いかかる。

「異能・時雨の化」

 その場で弾が全て落とされる。

「ひよ、あや、隙を見てあさを連れてきなさい。
 急がないと手遅れになるわ」
「はい!」

 里奈は隠し持っていたナイフを異能で増やし、一斉に襲いかからせた。

「行け!!」

 あやとひよは持ち前の体術であさの方へ向かった。

「あさ!」
「お、にい……ちゃ……もう…………」

 あさの目が虚ろになって来ており焦点も合わなくなってきている。

「本当に急がないと。
 命が“視”えなくなってきてます!」

 反対の出口の方へ向かった。

「行かせな…………」
「余所見とは良い度胸ね」

 こめかみ辺りにナイフを掠め血が流れる。

「ちっ!」
「あさを死なせるわけにはいかないわ。
 あの子にはまだやらなければいけないことがあるのだから」

 あやとひよは雑木林を分け進み走った。

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