乙女よ。その扉を開け
数日経って知った事実
目覚まし時計を止めて紫はベッドから滑り落ちるように起きた。
「ねむ……」
「ゆーか。おはよう」
先に起きていたあやが朝食を持ってきた。
「……おはようございます。
お休みなのに早いですね」
「探偵は仕事の一環だからね。
夏休みだからと言って寝なーい!」
カーテンを開け放して眩しさに苦しんでる紫を見下ろした。
「ゆか。さっさと食べちゃって。
社内開けちゃうよ」
紫は慌てて飯をかき込んだ。
マフィアへの乗り込み、紫の本格的な探偵社への入社から二ヶ月以上が経った。
一週間はお試し期間だったため見学が多かったが入ってからは毎日仕事で勉強時間もきつきつだ。
(今は慣れたけどあの時は辛かったなあ)
その後、ひなみは無駄に干渉してくることも無く一応クラスの噂を免れるために昼はいつも通りに食べている――どちらも異能者として目立ちたくないのは一緒――
『紫。学校では怪しまれないように演技していなさい』
(普通一般人を殺してでもとか言いそうなんだけど。
そこはどこでも共通なんだ)
「……ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
紫は着替えを済ませ、本部へ行った。
「おはようございま……」
「お~はよ~ゆ~か~りん!」
ドアを開けて中に入るといかにも泥酔している真由美が抱きついてきた。
「うえ~酒くさ~い」
朝からきつい臭いを嗅いで紫は即刻ダウンしそうになった。
ついでに真由美の頭から突き出ている二本の角で顎を突かれて痛い。
「その角リンゴも突き刺すから気を付けてね」
「離れてから姉! お願い!」
真由美は普段酒を飲もうとしない。
だが一滴でも飲むと“阿修羅”と呼ばれる鬼に変わってしまい酒乱に陥ってしまう。
そうなったら満足するまで戻らない。
「から姉~突き刺されるの嫌~」
「ゆか。
この時は阿修羅って呼ばないと」
「阿修羅~」
「う~~~」
鬼特有の酒が入っているひょうたんを振り回す真由美を引き剥がして里奈のいる社長机に逃れて行った。
「阿修羅。
飲むなら邪魔にならない程度に飲んで」
「あ~い」
ひょうたんに口を付けてがぶ飲みしてる真由美を見て里奈は呆れ目をした。
(そういえばあのお酒って無くならないのかな)
「それはですね!」
心を読んだひよがにゅっと頭を上げた。
「あのひょうたんは鬼のものです。
それ故どれだけ飲もうと尽きることはありませんわ」
「へ~。
酒好きの人が聞いたら黙っちゃいないだろうね」
「一般人が飲めばその強さで即死ですけどね」
「…………………」
「ゆ~かり~ん!」
「やーー!」
追いかけてくる真由美に逃げまどっているとぽふりと誰かの体にぶつかる。
「ぷぅっ」
「おう……ってなんだゆかか」
目線を上げるとブロンドヘアに青く透き通った目をした外国人女性がいた。
「…………?」
「おーいゆかー?」
「だ、誰ですか!?」
女性はキョトンとして紫を見下ろした。
「は?」
「わ、私外国の方と出会ったこと……ていうかあなたとは初対面のはずです!」
言い切った後、女性は頬をひくつかせていた。
後ろを見ると「そういや教えてなかったな」的な顔をされてる。
「ゆか。彼女とは初対面じゃありませんわ」
ひよが寄ってきて黒のウィッグを女性に被せた。
「……………………」
「……………………」
「誰に見えますか?」
「浅葱さんに見えます」
「普通にあさで良いだろ」
そう。
顔立ちと言い目の吊り具合と言い似ている。
「何でウィッグ?」
「金髪が地毛だからです」
苦笑するひよにウィッグを渡し、あさはペンで何かを書いた。
「阿佐谷カルネ……木葉?」
「阿佐谷カルネ木葉ね」
紫は国語が苦手である。
「浅葱こころは偽名。こっちが本名。
フランスとのハーフで私は外国人譲りだったの」
だからブロンド――
「まあ皆“あさ”で統一してるからどうでも良いんだけどね」
「何で外国の血が濃いのに胸小さいの?」
「おいちょっと付き合えこら」
酔っている真由美の剣を鞘ごと持ってあやの方へ追い詰めて行った。
「ああもうまたやってる……」
「そういえば学校では喧嘩をしても異能は使いませんよねあさ」
しんに言ってみた。
「ああそうだね。
あさは外で異能を使いたがらないんだよ」
「何故?」
あさに聞こえないように小さく言った。
「……お兄さんを殺しかけたから。その異能で」
カツカツと足音が通路に響いて不気味さが増す。
「……ターゲット発見」
工場のような場所に少女は一人乗り込んだ。
「何だ嬢ちゃん。迷子か?」
少女――というより十七、十八くらいのあどけない女性の方が近い。
工場長と思われる男性が歩み寄ってきた。
「近頃我らがマフィアを脅かすような情報をそちらが流していると聞いた。
真意はいかに……」
「マフィア? 
可愛い顔立ちをしてそんな物騒なこと言うんじゃないよ。
探偵社と争われるだけで充ぶ……」
最後まで言い切る前に少女が拳銃で心臓を打ち抜いていた。
「ごふ…………」
血を吹き出し後ろに倒れ痙攣をした後、ピクリとも動かなくなった。
「……任務を遂行する」
残った従業員――否、情報屋は我先にと出口へ走った。
「異能――――」
数分後。
ひなみが少女の元へ寄った。
「あなたの異能はいつ見ても残酷だわ。
こんな死に方ごめんよ。
ねえ……?」
白目から涙を流し、泡を吹いて死んでいる何十人もの人間を見下ろした。
「幻覚の死神……高堂茜」
「………………」
自分が持っていた銃を見る。
「茜?」
(獣……)
あの娘に映っていた幻を茜は覚えていた。
(あなたは私が殺してあげる。
一番残酷で甘い死なせ方で)
「ねむ……」
「ゆーか。おはよう」
先に起きていたあやが朝食を持ってきた。
「……おはようございます。
お休みなのに早いですね」
「探偵は仕事の一環だからね。
夏休みだからと言って寝なーい!」
カーテンを開け放して眩しさに苦しんでる紫を見下ろした。
「ゆか。さっさと食べちゃって。
社内開けちゃうよ」
紫は慌てて飯をかき込んだ。
マフィアへの乗り込み、紫の本格的な探偵社への入社から二ヶ月以上が経った。
一週間はお試し期間だったため見学が多かったが入ってからは毎日仕事で勉強時間もきつきつだ。
(今は慣れたけどあの時は辛かったなあ)
その後、ひなみは無駄に干渉してくることも無く一応クラスの噂を免れるために昼はいつも通りに食べている――どちらも異能者として目立ちたくないのは一緒――
『紫。学校では怪しまれないように演技していなさい』
(普通一般人を殺してでもとか言いそうなんだけど。
そこはどこでも共通なんだ)
「……ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
紫は着替えを済ませ、本部へ行った。
「おはようございま……」
「お~はよ~ゆ~か~りん!」
ドアを開けて中に入るといかにも泥酔している真由美が抱きついてきた。
「うえ~酒くさ~い」
朝からきつい臭いを嗅いで紫は即刻ダウンしそうになった。
ついでに真由美の頭から突き出ている二本の角で顎を突かれて痛い。
「その角リンゴも突き刺すから気を付けてね」
「離れてから姉! お願い!」
真由美は普段酒を飲もうとしない。
だが一滴でも飲むと“阿修羅”と呼ばれる鬼に変わってしまい酒乱に陥ってしまう。
そうなったら満足するまで戻らない。
「から姉~突き刺されるの嫌~」
「ゆか。
この時は阿修羅って呼ばないと」
「阿修羅~」
「う~~~」
鬼特有の酒が入っているひょうたんを振り回す真由美を引き剥がして里奈のいる社長机に逃れて行った。
「阿修羅。
飲むなら邪魔にならない程度に飲んで」
「あ~い」
ひょうたんに口を付けてがぶ飲みしてる真由美を見て里奈は呆れ目をした。
(そういえばあのお酒って無くならないのかな)
「それはですね!」
心を読んだひよがにゅっと頭を上げた。
「あのひょうたんは鬼のものです。
それ故どれだけ飲もうと尽きることはありませんわ」
「へ~。
酒好きの人が聞いたら黙っちゃいないだろうね」
「一般人が飲めばその強さで即死ですけどね」
「…………………」
「ゆ~かり~ん!」
「やーー!」
追いかけてくる真由美に逃げまどっているとぽふりと誰かの体にぶつかる。
「ぷぅっ」
「おう……ってなんだゆかか」
目線を上げるとブロンドヘアに青く透き通った目をした外国人女性がいた。
「…………?」
「おーいゆかー?」
「だ、誰ですか!?」
女性はキョトンとして紫を見下ろした。
「は?」
「わ、私外国の方と出会ったこと……ていうかあなたとは初対面のはずです!」
言い切った後、女性は頬をひくつかせていた。
後ろを見ると「そういや教えてなかったな」的な顔をされてる。
「ゆか。彼女とは初対面じゃありませんわ」
ひよが寄ってきて黒のウィッグを女性に被せた。
「……………………」
「……………………」
「誰に見えますか?」
「浅葱さんに見えます」
「普通にあさで良いだろ」
そう。
顔立ちと言い目の吊り具合と言い似ている。
「何でウィッグ?」
「金髪が地毛だからです」
苦笑するひよにウィッグを渡し、あさはペンで何かを書いた。
「阿佐谷カルネ……木葉?」
「阿佐谷カルネ木葉ね」
紫は国語が苦手である。
「浅葱こころは偽名。こっちが本名。
フランスとのハーフで私は外国人譲りだったの」
だからブロンド――
「まあ皆“あさ”で統一してるからどうでも良いんだけどね」
「何で外国の血が濃いのに胸小さいの?」
「おいちょっと付き合えこら」
酔っている真由美の剣を鞘ごと持ってあやの方へ追い詰めて行った。
「ああもうまたやってる……」
「そういえば学校では喧嘩をしても異能は使いませんよねあさ」
しんに言ってみた。
「ああそうだね。
あさは外で異能を使いたがらないんだよ」
「何故?」
あさに聞こえないように小さく言った。
「……お兄さんを殺しかけたから。その異能で」
カツカツと足音が通路に響いて不気味さが増す。
「……ターゲット発見」
工場のような場所に少女は一人乗り込んだ。
「何だ嬢ちゃん。迷子か?」
少女――というより十七、十八くらいのあどけない女性の方が近い。
工場長と思われる男性が歩み寄ってきた。
「近頃我らがマフィアを脅かすような情報をそちらが流していると聞いた。
真意はいかに……」
「マフィア? 
可愛い顔立ちをしてそんな物騒なこと言うんじゃないよ。
探偵社と争われるだけで充ぶ……」
最後まで言い切る前に少女が拳銃で心臓を打ち抜いていた。
「ごふ…………」
血を吹き出し後ろに倒れ痙攣をした後、ピクリとも動かなくなった。
「……任務を遂行する」
残った従業員――否、情報屋は我先にと出口へ走った。
「異能――――」
数分後。
ひなみが少女の元へ寄った。
「あなたの異能はいつ見ても残酷だわ。
こんな死に方ごめんよ。
ねえ……?」
白目から涙を流し、泡を吹いて死んでいる何十人もの人間を見下ろした。
「幻覚の死神……高堂茜」
「………………」
自分が持っていた銃を見る。
「茜?」
(獣……)
あの娘に映っていた幻を茜は覚えていた。
(あなたは私が殺してあげる。
一番残酷で甘い死なせ方で)
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