乙女よ。その扉を開け

雪桃

幽霊怪奇事件?後編

 椎葉優人と呼ばれた男はまあ中太りが似合うようなどこにでもいるような人だった。

「何だよお前ら! 離せよ!!」

 椎葉が喚き散らしたがあやは聞く耳持たずだ。

「とにかくここに来たら何も出来ないよ。
 鈴ちゃんももう怯えなくていいからさ」

 見ると鈴はひなみに抱きついて震えていた。

「どしたのあの子」
「話したいことが沢山あるのだがどうしたものかねアサトン君?」
「だから誰がアサトンだ。
 今回の事件が目的なんだからそれが最優先でしょ」

 ふふ……と笑ってあやは言った。

「それではアヤロックちゃんが見事に解決してみせましょう!」
「……アヤロック?」
「気にすんな」

 あやはビニール袋からクローンと何やら重たそうな小型の機械を取り出した。

「この機械は……まあ名前は知らんが録音した言葉をリモコンで発生できるものでね。
 これがあの通学路の電柱に置いてあったわけですよ。
 ではスイッチオン!」

 再生のボタンを押した後、椎名鈴……椎名鈴……と機械から聞こえてきた。

「おお~」
「それにこのクローンにカメラ付けて様子を見ながら操作で音を流す。
 そうすれば犯人はいないのに声は聞こえることになるし、電柱の影になってて夜目がきいてなきゃこの機械は見えないし。
 だよね、優人君?」

 椎葉はあやを睨んだ。

「それだけで何で僕が犯人になるんだよ」
「も~往生際が悪いな~。
 鈴ちゃんとあなたの関係は元より収集出来てたしあなたのお母さんは鈴ちゃんのこと言ったらインターホンをきったし。
 それにさぁ警察沙汰になるよりここで白状しちゃえば良いと思ったんだけどなぁ?」

 チッと椎葉は舌打ちした。

「なああや。
 ちゃかちゃか話進めてるけどこいつ愉快犯じゃ無いのかよ」

 あやは困ったように肩をすくめた。

「だから話すことが多いって言ったんだよ。
 じゃあプレイバーックといきましょうか」





 鈴と椎葉は保育園の頃からの幼なじみだった。
 椎葉は元から内気な性格でいじめられっ子。
 それを助けていたのが正義感の強かった鈴だ。

「り、鈴ちゃんは強いね。
 勇気があって力も強くて……痛たたた!」

 鈴は椎葉のほっぺを思いっきりつねった。

「確かに優人はちょっと弱気なところがあるよ。
 だけど優しいじゃん!
 優しくて頭も良くて、だからあいつらにいじめられたくらいで諦めちゃダメなんだよ!」

 鈴の励ましで椎葉は勉強に努力を費やした。

「優人凄いじゃん! また百点!」

 鈴も同じくらいに喜んで応援してくれた。そのかいあって、中学に上がる時には椎葉の成績は学年でもトップになっていた。
 中学三年。
 優人は家が遠い鈴のため、下校を共にすることになっていた。

『ごめん優人! 先輩に捕まったからちょっと待って
て!』
(先輩か。校門で待ってます……と)

 数分経った頃、不良のような三人が椎葉を取り囲み、遠慮なくジロジロと椎葉を見た。

「こいつが椎名鈴と一緒にいるやつかよ。はっ、ブスじゃん」

 リーダーかと思しき不良の一人が嘲笑いながら罵った。
 それに続いて腹を蹴ったり顔を殴られたり、無限のようにサンドバッグにされた。

「お前みてえなブスがあいつに近づくんじゃねーよ」

 そう吐き捨てて不良達は去っていった。

「優人ごめん。遅くなりすぎ……優人?」

 鈴は泥や血でボロボロになっている椎葉を見て目を見張った。

「優人? え、何でこんなことに……じゃない!
 ほ、保健室行こう!」

 鈴の伸ばした手は思い切り払いのけられた。

「……せいだ」
「え?」
「お前のせいだ!
 お前があいつらをここに呼んだんだろ!
 そうでなきゃあんな都合よく僕が椎葉優人だって分からないじゃないか」

 急な椎葉の剣幕に少なからず鈴はたじろいだ。

「ねえどうしたの。あいつらって……」
「黙れ!」

 椎葉は鈴を突き放した。

「絶対復讐してやる。
 僕が凄いやつだってことをお前に思い知らせてやる!」

 椎葉は呆然とする鈴を置いて走り去った。




「と、これが一連の動機でしょうねえ」

 話し終えたあやは机に腰掛け一息ついた。

「ふーん。で、何で録音してたのが名前だけなのよ」
「あることないこと喋って動揺させるより同じことを繰り返した方が恐怖は倍増するし長い文にしたって全部聞かんでしょうよ。
 それより分かっていた筈なのに幼なじみ、大事な友達と思ってあなたを犯人呼ばわりしなかった鈴ちゃんの優しさをもう少し思って……」
「黙れ!!」

 椎葉は元から持っていたのか、尻ポケットから折りたたみ式のナイフを取り出し手首を縛ってあるロープを切って、そのままあやに向かって振り下ろした。

「せんぱ……っ!」

 紫が息を呑んで顔を引き攣らせる中、本人は「はあ」と溜息を吐き

「仕方ないなあもう」

 あやは胸の前に両手を差し出した。

げん……」

 緋色のたまが現れそこからパチパチと火花が飛び散った。

「下がってな」

 呆然とする紫達をやまは後ろへ追いやった。

「異能・燎原りょうげん

 パチパチと鳴る火は次第に大きくなっていき、椎葉のナイフを溶かしていった。

「は?」

 溶けるナイフを慌てて離し椎葉はあやを見た。

「さて優人君?
 この現象を次はあなたにかける。
 それが嫌ならストーカー騒動を止めるんだね」

 珠に再度火が灯った。
 ひっと椎葉は怯えたように一目散に逃げ出した。

「ありゃ」
「意気地無しの男ね。
 ちょっと脅しただけなのに必死の形相で逃げ出しちゃって。ま、良いけど」

 あさが意地悪そうに言った。

「さて、じゃあ最後にっと」

 あやが振り返るのと紫の意識が薄れゆくのは同時だった。
 少し顔を傾けるとひなみと鈴は既に気絶している

「?」
「あや」
「急に乱暴にするとか可哀想でしょ。 
 ごめんね三人とも。記憶は貰ってくよ」

 あやの胸に珠が浮かび上がるのを最後に紫は暗闇へ落ちていった。

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