シニガミヒロイン

山本正純

犠牲者

脱落者600人突破記念ゲームは惨敗だと恵一は思った。彼は何もできない。犠牲者を出さない唯一の方法を知る椎名真紀の助けがなければ、誰も救えない。
ネガティブな思いが少年の中で膨らむ中、恵一の部屋のドアが突然開き、今にも泣きそうな顔の白井美緒が部屋の中に飛び込んだ。
「恵一」
幼馴染の少女は涙を流しながら、少年に抱き着く。突然のことに恵一は驚き、思考が固まった。
少女の腕が小刻みに震えていることに気が付いた恵一は、少女に優しく声をかける。
「怖いのか?」
「あんなものを見せられたら怖いよ。初対面の男子の死ぬ姿が今でも頭に焼き付いてる。私もあんな感じに死ぬのかも……」
「お前は死なない」
「えっ」
少年の凛々しい発言に少女は思わず顔を赤くする。そして、少年は優しく微笑んだ。
「必ずお前を現実世界に戻す。もちろん生きた状態でな。それで中田の家に行って、線香を立てればいい」
「そうだよね。私のせいで死んだって謝らないと」
幼馴染の少年から手を離し、指で涙を拭く少女に対し、恵一は少女の右肩を優しく掴み、首を横に振る。
「だから、お前のせいじゃない。悪いのはこんな理不尽なデスゲームを開催しているラブだ。自分を責めるな!」
少年の発言を聞いた少女はクスっと笑う。
「何かおかしい。恵一を頼もしく感じるなんて。恵一なら真紀にも同じことを言うんだよね?」
「多分な。まだ真紀の事情は知らないから、同じことが言えるのかは分からないが」
その時、赤城恵一は違和感を覚えた。それは椎名真紀の事情に関する矛盾。何かがおかしいと唸り、眉間にしわを寄せる少年の顔を、白井美緒は覗き込んだ。
「恵一。どうしたの?」
「覚えてるか? お前が真紀の家の地下室でラブに出会った時のこと」
「うん」
「あの時最初にラブは真紀に対して何と言っていた?」
「確か正体を明かしたらいけないって言っていたよ」
「だがラブは、それから少し経った後で真紀の正体を明かしたんだ。真紀はプレイヤーYで、ラブと一緒にデスゲームを運営しているって。矛盾しているとは思わないか?」
何かがおかしいと美緒も感じる。そんな彼女は何かを思い出したように手を叩いた。
「そうだ。真紀は自分がデスゲームに関わっていることの証明として、恵一を呼び出したんだよ。その後真紀は、自分がシニガミヒロインの隠しヒロインだって打ち明けようとしたんだと思う」
「そのことだったら俺に正体を打ち明ける必要はないな。なぜなら俺や他のプレイヤーは、椎名真紀が隠しヒロインだってことは知っていたからな。普通の順序は、真紀が美緒に自分がシニガミヒロインっていうデスゲームの隠しヒロインだってことを打ち明ける。次にその証明として、俺と美緒を会わせる。これが自然な流れだから、真紀は俺にも自分の正体を聞かせようとしていたんだと思う」
「ラブが先に明かした、デスゲーム運営側の人間だっていう事実。シニガミヒロインの隠しヒロインだっていう事実。この2つの事実とは違う顔が真紀にはあるってこと?」
「そうだ。真紀には別の顔がある。そこで気になっているのが東郷深雪の存在」
「東郷深雪って?」
聞き慣れない名前に白井美緒は首を傾げる。
「シニガミヒロインのルールを分かりやすく説明するために、何度か登場するヒロインのことだ。なぜか真紀と顔や声が似ている。何となく椎名真紀と東郷深雪が似ている理由が、真紀の抱えている問題に関わっているような気がするんだ」


椎名真紀の正体は何なのかという議論を、モニター越しにラブと真紀は見ていた。ラブは画面から真紀の横顔に視線を向ける。
「真紀ちゃん。あっちの世界に行っても、余計なことは話さないでね。あなたの正体や事情を話したら、あなたの友達を問答無用で殺すから」
「美緒は私の行動を制限するための人質ってわけ?」
「そういうこと。あなたはこれまでのように、隠しヒロインとしてゲームを盛り上げればいいんですよ。ゲームを潰すなんてことは忘れてね」
その時、椎名真紀は思った。ラブは切り札の存在に気が付いていないと。
すると、黒服の男が慌てながらラブの前に姿を見せた。
「ラブ様、また遺体が消えました」
部下からの報告を聞き、ラブは隣の真紀の顔を睨みつけた。


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