シニガミヒロイン

山本正純

唯一の方法

3時間目終了を告げるチャイムの音が鳴り響き、岩田波留はすぐさま廊下に出た。
滝田湊と島田夏海が一緒に歩いていたら、アウト。チャンスはない。焦りを見せ額から汗が零れる。すると岩田の視線の先に、ロングストーレートヘアな女子高生が、数人の女子の友達と共に歩いている様子が見えた。
その近くには滝田の姿はない。これはチャンスだと思い、ズボンのポケットの中でガッツポーズをとる。
岩田は首を縦に振り、島田夏海が所属するグループに近づく。その直後、夏海の後ろから近づく赤城恵一と矢倉永人が、彼女たちを追い越した。恵一は夏海と接触しそうな岩田の姿を見かけると、すぐに右手を岩田に向ける。それから2人の手が合わさり、彼らはハイタッチを交わした。
そのことを島田夏海は気に留めず、そのまま友達たちと歩き始める。
「すみません。島田夏海さんですよね」
自分と島田夏海との距離が近づき、岩田は彼女に声を掛けてみた。それに反応し、彼女は立ち止まる。
「そうだけど、あなたは?」
「B組の岩田波留です。忙しいかもしれないけれど、確認したいことがあるんですよ。情報収集を重要視し、『三ツ者』と呼ばれる隠密組織を用いていた戦国武将って誰でしたっけ?」
「武田信玄だけど、それがどうしたの?」
「クロスワードパズルの答えの確認です。ネットで調べるより、詳しい人に聞いた方が良いと思って。歴史好きだって有名な夏海さんだったら、分かると思いました」
「三ツ者について知っている人がいるって分かっただけでも、嬉しいわ」
なぜか島田夏海は笑顔になり、岩田波留の元から、遠ざかる友達の集団に加わる。
「これで答えが導き出せそうです」
岩田波留は遠ざかっていく島田夏海の後姿を見ながら、自信満々に頬を緩めた。


昼休み早々に弁当を食べた赤城恵一と三好勇吾、矢倉永人の3人は人気がない体育倉庫前に向かう。時間は昼休み開始から10分程。
3人が駆け付けた時、倉庫のドアの前には岩田波留が待機していた。3人は急いで岩田の元へ駆け寄る。そうして集結した4人は、互いの顔が見えるように丸くなった。
「これで全員ですか?」
岩田が赤城と顔を合わせ尋ねる。それに合わせて恵一は首を縦に振った。
「そうだ。早速だが例の物を渡してほしい」
「急かさないでくださいよ。三好君でしたね。堀井千尋を攻略しようとしているのは。彼女は人見知りが激しいでしょう。あのタイプは黙って寄り添うだけでも好感度が上がりやすいから、初心者でも攻略できるかもしれません。1度だけ彼女と接してみたんだけど、経験上、堀井千尋さんは魅力を重視したキャラのようです。こうなると思ってミサンガを持ってきたので、これを身に着けて部活に参加してください」
岩田はズボンのポケットからミサンガを取り出し、彼に手渡す。少年からミサンガを受け取った、三好は彼に頭を下げる。
「ありがとう。今日は一番最初に堀井さんと下駄箱の前で話すことができるから、絶対に今日中に3回戦進出を決める」
岩田がにっこりと微笑み、頷いた後で彼は赤城と矢倉と視線を合わせる。
「島田夏海は知識重視。だから鞄の中に辞書を入れてください。歴史関係の本を入れても効果はあると思いますが」
経験者のアドバイスを聞いた矢倉も、頭を下げ岩田に感謝する。
「ありがとう。でもいきなり辞書を鞄に入れろって言われても……」
「大丈夫。図書室で辞書か歴史の本でも借りればいいんですから」
「岩田君。そうするよ」


集会が終了ムードに包まれた中で、恵一は咳払いして、3人から注目を浴びる。
「問題はここからだ。これで今日、三好君と矢倉君が3回戦進出確定する。順番操作しなくても、矢倉君が一番を引き当てたからな。だがそれだけでは全員で生き残る作戦は成功しない。だから岩田君。今朝頼んだことの答えを教えてほしい」
恵一と波留が顔を合わせた。波留は再び微笑み、答えを口にする。
「三橋悦子と日置麻衣。共に下校イベントが発生する場所は下駄箱の前でしたよ。日置さんは毎週木曜日、演劇部が休みだからタイミングを合わせることも容易でしょう」
「そうか。これで完璧だな」
恵一の中で全ての不確定要素が消えた。その瞬間、赤城恵一は突然笑い始め、自信満々な顔を3人に見せる。
「無印組の3人が、明日までに3回戦進出したら、絶対に成功するじゃないか。この必勝法なら、ラブの思い通りにならない」
柄もなく高笑いを続ける恵一に対して、矢倉たちは一斉に人差し指を立てる。
「静かにしろ。何事かと思われて、女子が来たら死ぬ」
三好の一言で冷静さを取り戻した、恵一は頭を掻く。それから矢倉は、必勝法のことが気になったのか、恵一に尋ねてみた。
「それで必勝法というのは?」
赤城は静かな口調で、矢倉と三好の2人に対して必勝法を説明する。
「簡単なことだ。3回戦進出者は24人。それをランキングに置き換えると、24位以下の奴は負けることになる。だから俺は考えたんだ。同率24位になったら、全員生き残れるって。同じ時間、同じタイミングで下校イベントを発生させられたら、間違いなく誰一人欠けることなく3回戦進出できる。『せーの』っていう俺の合図と一緒に彼女たちに申し込むんだ」
やっとラブによって仕掛けられたデスゲームに反逆できる。恵一はこのように考えると、白い歯を見せ笑う。その少年の瞳は、これまでデスゲームに巻き込まれて亡くなった男子高校生の無念を晴らすために燃えているようだった。
「大切なことを忘れていますよ。その方法は、運良く4人全員が1番という順番を引き当てないといけないってこと。それと三橋悦子を攻略しようとしているグループと日置麻衣を攻略するグループのメンバーたちの協力なしでは成立しないってこと」
岩田が両手を叩き問題点を指摘する。その瞬間、赤城恵一の思考回路は停止した。
「全員が1番を引き当てるというのは、運要素が強い賭けになる。だから100%成功するかは分からない。その前にB組に行って、あいつらを説得してくる」
恵一は思い出したように走り去ろうとする。だがそれを岩田が呼び止めた。
「その必要はありませんよ。彼らは既に僕たちの仲間です。まず三橋悦子攻略組。初日に赤城君は達家玲央君を助けたでしょう。彼はその恩を返したいらしい。それで達家君が他の2人に呼びかけたら、協力するって決めたよ。次に日置麻衣攻略組は、今後も攻略を支援するっていう条件付きで、仲間に引き入れた。まだ赤城君の作戦は、全員で生き残って、ラブに復讐しようってことしか伝えていないけどね」
「そうか。だったら俺が責任をもって作戦を伝えるよ。だから彼らをこの場所に連れてきてほしい」
恵一は振り返りながら、後ろに立つ岩田と視線を合わせる。その恵一の瞳からは涙が零れていて、岩田たちは困惑する。
「赤城君。何で泣いているんだ」
三好が首を傾げ尋ねると、赤城は右手で涙を拭き取りながら答えた。
「うれしいんだよ。全員で生き残るっていう方法に賛同してくれる仲間がいて。自分さえ生き残ればそれでいいって考える奴が多いって思ったから」
その涙は本物だと3人は感じた。現在赤城恵一は、全員で生き残るという道を切り開くことができたと心から喜んでいる。岩田たちはそのように感じ取った。


それから数分後、岩田に連れられて6人の男子高校生が体育倉庫の前に集まった。彼らの内3人は日置麻衣を攻略しようとしている。一方残りの3人は三橋悦子を攻略しようとしているのだった。
反逆者たちの集い。そこで恵一は作戦を伝える。そして最後にこのように話した。
「この作戦は、今日中に古畑一颯君か石田咲君のどちらかが、大竹里奈さんと下校しないと成立しない。だから作戦の実行サインは、あの2人が握っているんだ。仮にあの2人の内どちらも下校できなかったら、裏切ったって構わない。俺は恨まないから」
こうして反逆者たちは各教室に戻った。放課後には、彼らの逆襲が始まる。


その頃、プレイヤーたちの同行を監視しているモニタールームには、ラブと黒服の屈強な男の姿があった。
ラブはキャスター付きの椅子に座り、モニターを見つめる。
「同率24位狙いね。やっぱりその作戦なんだ♪」
ラブの右隣りで仁王立ちする屈強な男は、ラブの覆面で隠された横顔を見ながら尋ねてみた。
「作戦を潰しますか?」
「そんなのアンフェアだよね。ゲームなんだから確率を調整することも簡単だけど、それでは意味がない。ここは結末を見守りましょうよ。アイテムで補正したって、赤城様はこのゲームで負けることは確定だから」
ラブは意味深なことを呟き、キャスター付きの椅子を回転させ遊ぶ。

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