シニガミヒロイン

山本正純

第2回イベントゲームの始まり

仮想空間内で行われる恋愛シミュレーションデスゲーム『シニガミヒロイン』が開始されて約1か月が過ぎた。
赤城恵一は最初のイベントゲーム終了後も、地道にメインヒロインの島田夏海と交流を進め、好感度を上げていった。
4月13日から19日までの1週間は順調だった。だが翌週、レベル20になってからが大変だったと彼は振り返る。レベル10以降のレベルアップに必要な経験値は1000。
レベル20になったらさらに一桁上がり10000経験値必要になる。地道にイベントを重ね、今日やっとの思いでレベルを上げることができた。ここまで18日。何となく先が思いやられると思いながら、赤城恵一は今日のメインヒロインアンサー終了直後のステータスを確認する。


赤城恵一


レベル21
知識:60
体力:50
魅力:50
感性:50


死亡フラグケージ:55


累計EXP:21080
Next Level Exp :8920


明日から鬼畜なデスゲームが再開される。そうなれば誰一人脱落していない現状が破壊されるだろう。今度はどんなゲームをやらされるのか。初心者の自分は勝ち抜くことができるのか。様々な不安が頭を過り、彼は静かに瞳を閉じた。

仮想空間。5月7日。木曜日の早朝。大きなアラーム音と朝に相応しい静かなクラシック音楽が赤城恵一の部屋に響く。第1回イベントゲーム開始と同じ曲。それは新たなるデスゲーム開始を告げる。
赤城が欠伸をしながら机の上に置いたスマートフォンを手にすると、画面に通知という文字が表示されていた。
『通知。ドキドキ生放送が開始されました』
おそらくここで第2回イベントゲームの内容が発表されるのだろう。赤城恵一は不安と恐怖に襲われながら、『ドキドキ生放送』というアプリをタッチする。
すると画面にラブの姿が映った。背景は相変わらず白い壁に覆われている。


『皆様。お久しぶりです。ゲーム開始から約1か月間。仮想空間内での生活に慣れた頃でしょう。それにしても優秀ですね。先月のイベントゲーム終了後から同じ生存者数をキープし続けているんですから。さて長話はここまでにして、今月のイベントゲームのルールを説明しましょう。その前に皆様は下校イベントをご存じでしょうか? 恋愛シミュレーションゲームをやったことがある人なら御馴染みなイベントですね。メインヒロインと一緒に帰宅することで、好感度を一気に上げる奴』
唐突なラブの説明に赤城恵一は思わずガッツポーズをとった。現実世界で赤城は幼馴染の白井美緒と毎日学校の登下校を共にした。
その経験をゲームに生かすことができれば、今度のゲームは楽に攻略できるかもしれない。そんな期待を抱きつつ赤城はスマートフォンに移された動画を見つめた。
『皆様には下校イベントを体験していただきます。それができるのかは自分次第だけどね。ということで第2回イベントゲームは、下校イベント争奪戦です。最初に告知しておきますと、今回のゲームは最大で24人しかクリアできません。最低でも6人は死にますよ』


『どういうことだよ』という趣旨のコメントが動画に多数流れる。おそらくゲームの参加者達は困惑している頃だろうとラブは思い、彼らを嘲笑う。
『皆様。6人死んだら、このシニガミヒロインで亡くなった男子高校生の人数が丁度600人になるんですよ。皆様は本当に運が良い。こんな記念すべき瞬間を私と一緒に味わえるんだから。今月のイベントゲームが終わったら、600人突破記念で特別なゲームでもやろうかな?』

ラブは他人が死んでいく様を楽しんでいるようである。恵一は相変わらずラブは狂っていると思った。
一方でラブは、参加者達の心情を無視して、淡々と説明を続ける。


『特別なゲームに関しては、別の機会で言及するとして、今は下校イベント争奪戦についてですね。ゲームの流れはVTRをご覧ください』


ラブが画面越しに伝えると、画面が切り替わる。
『下校イベント争奪戦の遊び方』という文字が表示され、悠久高校の校舎が映る。その数秒後テロップが見えた。
『校舎内に隠されたカードを探そう』
次に画面にQRコードがプリントされたカードが映った。
『裏側にQRコード。表面に各メインヒロインの名前とアルファベットがプリントされたカードが校舎のどこかに隠されているよ』
東郷深雪の声でナレーションが入り、画面上のカードがオープンされる。すると『東郷深雪A』という文字が赤城恵一の目に映った。
『QRコードを読み込めば、メインヒロインを誘う順番が分かります。ここで幾つかの注意点を説明しましょう』


「注意点?」
赤城恵一は首を傾げながら動画に見入る。
『その1。カードは1人何枚でも所持可能。もちろん譲渡OK。だけど順番は各メインヒロインを攻略するプレイヤーが所持するスマートフォンじゃないと確認できないよ』


画面上に『東郷深雪A』と『東郷深雪B』というカードが表示された。
『その2。順番の変更はできません。例えば東郷深雪Aと東郷深雪Bというカードを入手したとしましょう。東郷深雪AというカードのQRコードを読み込み、表示された数字があなたの順番となります。その順番が気にいらなくて東郷深雪BのQRコードを読み込んでも、順番は変更できません』
カードは取捨選択しなければならない。赤城恵一は今回のイベントゲームは運要素が強いゲームではないかと思った。


『その3。校舎内に隠されたカードの枚数は、第1ゲームのみ28枚。第2ゲーム以降は14枚となる可能性もございます。尚ゲーム中に脱落者が出たら、カードの枚数が減ります』
意味が分からないと赤城は思った。なぜ初日だけカードの枚数が多いのか。赤城恵一には何のことだかサッパリ分からない。すると動画の中で補足説明が行われた。


『小倉明美と石塚明日香のカードは、プレイヤー数がそれぞれ1名しかいないため、最初から存在しません。第1ゲームで下校イベントを発生させたプレイヤーは、第2ゲームでは一番最後の順番に固定されます。即ち下校イベントを発生させたら、翌日の順番が最後になるということです。問題はメインヒロインを攻略しようとするプレイヤーが2名いた場合。プレイヤーAが第1ゲームで東郷深雪と下校した場合、プレイヤーBがプレイヤーAより先に彼女と交渉する権利が強制的に獲得されます。つまりカードを探す必然性がなくなるわけです』
淡々とナレーションが進み最後の注意事項が発表された。


『その4。入手したカードの有効期限は12時間限定。それを過ぎたらただの紙切れになっちゃうから注意してね。これでカードに関する説明は終わるよ。次は順番が回ってきた時の話』
数秒後高校の下駄箱の前に佇む1人の少女が映った。
その少女は東郷深雪で、夕日が下駄箱を照らしている。そこへスポーツ刈りの男子高校生が彼女の前に現れる。
「東郷さん。俺と一緒に帰らないか」
男子高校生が東郷深雪に頭を下げた。そこで映像が停まりテロップが表示される。
『メインヒロインに対して自分から一緒に帰ろうと誘おう』


数秒後再び映像が再生される。男子高校生の誘いに対して、東郷深雪は笑顔を見せた。
「いいよ」
間もなくして映像が再び停まり、大きな赤色の丸が画面に映る。それに合わせてテロップも表示された。
『メインヒロインが誘いを受けたら、一緒に彼女と通学路を歩こう』


そして映像が巻き戻され、男子高校生が東郷深雪を誘うシーンが再び再生される。
「東郷さん。俺と一緒に帰らないか」
先程と同じ映像が流れる。しかし今度は東郷深雪は彼に迷惑そうな表情を見せた。
「嫌よ」
黒色の大きなバツ印が映り、同じようにテロップが表示される。
『誘いに断られたら、また明日チャレンジしよう』


再び画面が切り替わり、腕を組んだラブが映る。
『皆様。ご理解いただけましたか。補足説明すると、今日の放課後からある特定の場所で帰宅イベントが発生します。特定の場所はメインヒロインごとに異なるかもしれません。皆様は先程の映像のように、メインヒロインに一緒に帰宅したいと誘ってください。一度でも帰宅イベントを成功させたら今月のイベントゲーム終了です。QRコードは、これからアップデートするシニガミヒロインの新機能を利用することで読み取れます。さらにカード探しを効率的に行うために、校舎に隠されたカード枚数と2枚以上のカードを所有しているプレイヤーの名前を専用ページにて公表します。これを見れば誰が何枚カードを持っているのかが分かります。是非攻略にご活用ください』


ラブは深呼吸して、深刻そうな声を男子高校生たちに聞かせる。
『そしてお忘れかもしれませんが、メインヒロインは1人しかいません。そのため誰か1人が帰宅イベントを成功させたら、それ以外のプレイヤーの皆様には帰宅イベントが発生しません。尚このゲームにはいくつかのルール違反が設定されています。ルール違反についてはVTRをご覧ください』

ラブが再びプレイヤーたちに伝えると、今度は『ルール違反に注意しよう』というテロップが表示される。
画面には夕日に照らされた下駄箱が映り、そこに東郷深雪が佇む。するとそこへ先程のスポーツ刈りの男子高校生が彼女の前に現れた。
「東郷さん。頼むから山田と一緒に帰ってくれ」
その男子高校生の台詞が流れた後、スマートフォンに大きな黒色のバツマークが表示される。
『自分以外の他のプレイヤーと一緒に帰るよう促すことは禁止だよ』


このようなテロップが表示され、再び同じシーンが繰り返される。今度はスポーツ刈りの男子高校生とお河童頭の男子高校生が東郷深雪に近づく。
「東郷さん。今日は山田と俺と3人で帰ろう」
再び画面に大きなバツマークが映る。
『下校イベントは1対1だよ』
続けて東郷深雪とスポーツ刈りの男子高校生が、夕暮れ時の歩道を歩く姿が映った。
「斎藤君。今日は一緒に帰ってくれて、ありがとうございます」
画面の中で東郷深雪が男子高校生に頭を下げると、彼女と向かい合う男子高校生は同じように頭を下げた。
「東郷さん。良かったら明日も俺と一緒に帰ってくれ」
先程と同じように大きな黒色のバツマークとテロップが表示される。
『下校の予約は禁止だよ』


ドラマ仕立てな映像が終わり、スマートフォンにラブの姿が映る。
『以上3つのルールを1つでも違反した方は、即刻ゲームオーバーです。下校イベント争奪戦が発生するのは1日1回。そのゲームを合計12回程行い、1回でも下校イベントを成功させることができれば、イベントゲームクリアとなります。尚下校イベントを発生させることができれば、多くの好感度を上げることができ、メインヒロインとの距離も縮まることでしょう。彼女を誘うことができるのは1人1回のみ。持ち時間5分が経過したら、次のプレイヤーに交渉権が渡る仕組みです』
ラブは少し間を置き、説明を続ける。
『下校イベントは平日にしか発生しません。休日に下校イベントとかおかしいから。大竹里奈と倉永詩織を攻略しようとしている方は結構難しいけど、チャンスは12回あるから何とかしてね。だから、今月のイベントゲーム終了日は、5月22日。金曜日となります」

最後にラブはゲームオーバーの条件をプレイヤーに伝えた。
「最終日までに1回も下校イベントを発生させていない方。もしくはイベントゲームをクリアした人数が24名になった時点で、まだメインヒロインと下校していないプレイヤーは即刻ゲームオーバー。因みにイベントゲーム開催期間中に、残りプレイヤー数が24名を下回っても、最終日までは、ゲーム続行だからね。保守的な行動しちゃダメよ。言い忘れていたけど、今月のイベントゲームをクリアした人は、5月22日まで死亡フラグケージが溜まらなくなるからね。早めにイベントゲームをクリアして、月末の中間テスト勉強に集中しましょう! それでは第2回イベントゲーム、下校イベント争奪戦。スタートです』
第2回イベントゲームは、メインヒロインと1回下校すればクリアというシンプルな物だった。だがこの時の赤城は知らなかった。このゲームがえげつないことに。

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