高校ラブコメから始める社長育成計画。
06.礼賛
「ごちそうさん!」
「あーうまかったなー!」
「ふぬっ!」
「ゆーま、とても美味しかったよ。ありがとう」
「いえいえ、お粗末様です」
俺の晩飯はメンバーにも好評で、丹精込めて作った甲斐があったってなもんだ。
ただ、りぃだけは食べていない。
それは、俺がナオミ姐さんの裸に興奮していたからではない。
風呂からあがったあと、耐え切れず寝てしまったのだ。
長旅と慣れない環境に疲労がピークに達したのだろう。
無理やり起こしても、心の疲労骨折をすると判断した俺は、そのまま居間のソファで寝かせたままにした。
トレーナーは選手のコンディションに常時気を配ってやらねばならないのだ。
明日、温めなおしてまた食べさせてやろう。
そう思いながら、残しておいた晩飯にラップをかける。
「じゃ、また明日な!」
「ふぬっ!」
「おやすみー」
そう言って、みんなは各自の部屋へと移動する。
俺もりぃを部屋に連れていって休むとするか。
あまり役に立ってるのかよくわからんが、俺も少し疲れた。
そう思いながら、ソファで寝ているりぃの隣に座る。
そこへ、食卓の椅子に残っていたリーダーのヒロさんが声を掛けてきた。
「ゆーま、今日は本当にサンキューな」
「いえ、晩飯作るぐらいしかできてないっすけど」
「十分さ。それに、りぃちゃんを連れてきてくれてありがとう」
「いやそれは妹の意思で、俺は何にも……てか、こいつ大丈夫でしたか?」
俺はソファで眠る妹を指差して問う。
スースーと小さな寝息を立てているりぃ。
「ああ。ナオミの言ってた通り、この子の声は天使だったよ」
「そうですよねっ! こいつ才能あると思うんすよ!!」
興奮気味に立ち上がる俺。
ヒロさんは口に指を当てて言う。
「しーっ、あんまり大きい声出すと起きちゃうぜ」
「おっつ」
「ナオミがツインボーカルやりたいって言いだした時は、マジで驚いたけどな。あいつ、自分が一番目立ちたいんだろうなと思ってたから」
「ナオミ姐さん、豪快っすもんね」
「でも、違ったようだ。目立ちたいんじゃなくて、本当に良い音楽をやりたいんだろうな。それができるなら、りぃちゃんみたいな中学生であろうが、才能のある子と一緒にやりたいんだろう」
「ヒロさんもギター上手いっすもんね」
「……オレのは小手先のテクニックだけさ。才能なんて無い」
そう呟くヒロさんは、窓の外を遠い目で見ていた。
あのギターテク、十分な域に達しているように見えたけど、奥が深いんだろうな。
誰しも才能は欲しいよな。
俺ももっといろんな才能が欲しい。
「オレはナオミが好きだ」
「へ?」
「……オレはナオミに惚れている」
いきなりカミングアウトが始まりましたが、どう対応すればよろしいのでしょうか先生。
おいおい、ダンサー先輩いわく、一番まともなのはこのリーダーだろ?
ぶっ飛んでんじゃねーの?
「あっ、すまんゆーま。いきなりこんなことぶっちゃけられても困るよな」
「はい……」
「はい、って! 素直すぎだろ!」
「サーセン」
「実はな、オレとナオミは幼馴染なんだ」
それは前に聞いたので知ってます。
「あいつは四つ下で、いつもオレの後をくっついてくる可愛い奴だったよ。すぐ泣くし、寂しがり屋だった」
「へー。あのナオミ姐さんが」
「意外だろ? だから高校の頃、オレがバンドをやってたから仲間に入れてやったんだ」
「ヒロさんが誘ったんですね」
「そしてあいつは、バンドをやるようになってから変わったよ。良くも悪くも」
「……」
良くも悪くもか。
ナオミ姐さんが泣き虫だなんて想像がつかないけど。
「寂しがり屋のくせに、もっと人を避けるようになった。……というか、避けられるような行動をとるようになった」
「あんな派手な格好とかっすか?」
「おう。それでもあいつ、黙ってりゃ見た目もかなり美人だからな、よく男に告白されてたんだ」
「確かに、黙ってたらモデルみたいっすもんね」
「でも、全部断ってた。理由を聞いたらあいつ、『ネガティブな歌が書けなくなるから甘ったるい恋愛も、友達とかもいらん』だとよ」
「ふむ……甘ったるいっすか。あの人が言いそうなセリフだ」
俺は甘ったるくてもいいから、エリカと付き合いたいけどな!
友達は……中途半端な友達はいらないな。それは賛成。
箕面がいれば俺もそれでいいと思っちまう。
ナオミ姐さんもそんな感じなのだろうか。
「今は気の合うダンサーの友達とかが出来たみたいだけどよ。――――感情をさらけ出して生きてるあいつは、この先ちゃんとやっていけるのか心配だよ」
「なんか父親みたいなセリフっすね……ヒロさんは姐さんのどこが好きなんすか」
「………………顔?」
「……世の中ね! 顔かお金かでした!」
「はは、あいつの顔はマジ好きだぜ。あとどこって言われると難しいな」
「難しいんすか!」
「表現できないんだ。全部好きと言えば簡単なんだが……だからオレはその気持ちを曲に込めたいと思ってる」
「アーティストっすね」
「……でもな、あいつと一緒にバンドをやってる限り、どうやらそれも無理のようなんだよな」
「どうしてっすか?」
「さっき言ったようにナオミの信条は『ネガティブな歌が書けなくなるから甘ったるい恋愛も、友達とかもいらん』だ」
「……」
「つまりあいつは――――ラブソングが嫌い」
――ヒロさんから、ナオミとの関係を聞いた俺は、なんとも言えない気持ちでもやもやとしていた。
そうだよな、告白しても答えがわかっている上に、その気持ちを音楽に込めることもできないヒロさん。
「つまらない話に付き合わせて悪かったな。じゃ、また明日もよろしく!」
「うす……」
気の利いた言葉も出せなくてすんません。
部屋へ戻るヒロさんを見送り、りぃの寝顔を見る。
……俺も寝るか。
りぃをお姫様抱っこして部屋へと連れて行き、そっとベッドへ寝かせる。
「おやすみ……」
そっと髪の毛を撫でる俺。
顔を見つめていると、りぃは瞼をそっと開けた。
「んんっ……」
「あ、すまねえ、起こしちまったか」
「んーん……」
「ゆっくり寝てくれな」
そう言ってもう一度髪の毛を撫でたあと、立ち上がる俺の裾をりぃが掴んだ。
「兄ぃ……こもりうた……」
「ん?」
「こもりうた……うたって……」
「どうした? しんどいのか?」
「おねがい……」
「仕方ないな。今日はりぃ、よく頑張ったもんな」
「うん……」
子守歌か。
俺たちの子守歌と言えば、北原白秋の『ゆりかごのうた』だ。
俺もりぃも、母さんによく歌ってもらっていた。
りぃが病気で寝込んだときとかは、俺が代わりに歌ってやってったっけ。
母さんはりぃに似て良い声――というかりぃが母さんに似てるんだけど、綺麗な声だ。
俺はその血は受け継いでないのか、へたくそなんだがな。
久しぶりに歌ってやるか。
りぃの身体をぽんぽんと優しく叩きながら歌い始める俺――
「……ゆりかごのうたを――――」
「カナリヤが――うたたうよ――――」
「兄ぃ……」
「ねんねこ――ねんねこ――――」
「大好き……なの……」
最後まで歌いきるまでに、眠りに落ちる妹。
可愛い奴め。
俺なんかの歌で寝てくれるんだから、やっぱり歌には愛を込められるんじゃねーかな。
愛する妹にも俺の気持ちが伝わってくれるといいな。
「今日もよく、がんばったな……」
こうして、スースーと寝息を立てる妹に布団を掛けなおしたあと、俺は自室へ戻り、眠りにつく合宿の夜であった――
「あーうまかったなー!」
「ふぬっ!」
「ゆーま、とても美味しかったよ。ありがとう」
「いえいえ、お粗末様です」
俺の晩飯はメンバーにも好評で、丹精込めて作った甲斐があったってなもんだ。
ただ、りぃだけは食べていない。
それは、俺がナオミ姐さんの裸に興奮していたからではない。
風呂からあがったあと、耐え切れず寝てしまったのだ。
長旅と慣れない環境に疲労がピークに達したのだろう。
無理やり起こしても、心の疲労骨折をすると判断した俺は、そのまま居間のソファで寝かせたままにした。
トレーナーは選手のコンディションに常時気を配ってやらねばならないのだ。
明日、温めなおしてまた食べさせてやろう。
そう思いながら、残しておいた晩飯にラップをかける。
「じゃ、また明日な!」
「ふぬっ!」
「おやすみー」
そう言って、みんなは各自の部屋へと移動する。
俺もりぃを部屋に連れていって休むとするか。
あまり役に立ってるのかよくわからんが、俺も少し疲れた。
そう思いながら、ソファで寝ているりぃの隣に座る。
そこへ、食卓の椅子に残っていたリーダーのヒロさんが声を掛けてきた。
「ゆーま、今日は本当にサンキューな」
「いえ、晩飯作るぐらいしかできてないっすけど」
「十分さ。それに、りぃちゃんを連れてきてくれてありがとう」
「いやそれは妹の意思で、俺は何にも……てか、こいつ大丈夫でしたか?」
俺はソファで眠る妹を指差して問う。
スースーと小さな寝息を立てているりぃ。
「ああ。ナオミの言ってた通り、この子の声は天使だったよ」
「そうですよねっ! こいつ才能あると思うんすよ!!」
興奮気味に立ち上がる俺。
ヒロさんは口に指を当てて言う。
「しーっ、あんまり大きい声出すと起きちゃうぜ」
「おっつ」
「ナオミがツインボーカルやりたいって言いだした時は、マジで驚いたけどな。あいつ、自分が一番目立ちたいんだろうなと思ってたから」
「ナオミ姐さん、豪快っすもんね」
「でも、違ったようだ。目立ちたいんじゃなくて、本当に良い音楽をやりたいんだろうな。それができるなら、りぃちゃんみたいな中学生であろうが、才能のある子と一緒にやりたいんだろう」
「ヒロさんもギター上手いっすもんね」
「……オレのは小手先のテクニックだけさ。才能なんて無い」
そう呟くヒロさんは、窓の外を遠い目で見ていた。
あのギターテク、十分な域に達しているように見えたけど、奥が深いんだろうな。
誰しも才能は欲しいよな。
俺ももっといろんな才能が欲しい。
「オレはナオミが好きだ」
「へ?」
「……オレはナオミに惚れている」
いきなりカミングアウトが始まりましたが、どう対応すればよろしいのでしょうか先生。
おいおい、ダンサー先輩いわく、一番まともなのはこのリーダーだろ?
ぶっ飛んでんじゃねーの?
「あっ、すまんゆーま。いきなりこんなことぶっちゃけられても困るよな」
「はい……」
「はい、って! 素直すぎだろ!」
「サーセン」
「実はな、オレとナオミは幼馴染なんだ」
それは前に聞いたので知ってます。
「あいつは四つ下で、いつもオレの後をくっついてくる可愛い奴だったよ。すぐ泣くし、寂しがり屋だった」
「へー。あのナオミ姐さんが」
「意外だろ? だから高校の頃、オレがバンドをやってたから仲間に入れてやったんだ」
「ヒロさんが誘ったんですね」
「そしてあいつは、バンドをやるようになってから変わったよ。良くも悪くも」
「……」
良くも悪くもか。
ナオミ姐さんが泣き虫だなんて想像がつかないけど。
「寂しがり屋のくせに、もっと人を避けるようになった。……というか、避けられるような行動をとるようになった」
「あんな派手な格好とかっすか?」
「おう。それでもあいつ、黙ってりゃ見た目もかなり美人だからな、よく男に告白されてたんだ」
「確かに、黙ってたらモデルみたいっすもんね」
「でも、全部断ってた。理由を聞いたらあいつ、『ネガティブな歌が書けなくなるから甘ったるい恋愛も、友達とかもいらん』だとよ」
「ふむ……甘ったるいっすか。あの人が言いそうなセリフだ」
俺は甘ったるくてもいいから、エリカと付き合いたいけどな!
友達は……中途半端な友達はいらないな。それは賛成。
箕面がいれば俺もそれでいいと思っちまう。
ナオミ姐さんもそんな感じなのだろうか。
「今は気の合うダンサーの友達とかが出来たみたいだけどよ。――――感情をさらけ出して生きてるあいつは、この先ちゃんとやっていけるのか心配だよ」
「なんか父親みたいなセリフっすね……ヒロさんは姐さんのどこが好きなんすか」
「………………顔?」
「……世の中ね! 顔かお金かでした!」
「はは、あいつの顔はマジ好きだぜ。あとどこって言われると難しいな」
「難しいんすか!」
「表現できないんだ。全部好きと言えば簡単なんだが……だからオレはその気持ちを曲に込めたいと思ってる」
「アーティストっすね」
「……でもな、あいつと一緒にバンドをやってる限り、どうやらそれも無理のようなんだよな」
「どうしてっすか?」
「さっき言ったようにナオミの信条は『ネガティブな歌が書けなくなるから甘ったるい恋愛も、友達とかもいらん』だ」
「……」
「つまりあいつは――――ラブソングが嫌い」
――ヒロさんから、ナオミとの関係を聞いた俺は、なんとも言えない気持ちでもやもやとしていた。
そうだよな、告白しても答えがわかっている上に、その気持ちを音楽に込めることもできないヒロさん。
「つまらない話に付き合わせて悪かったな。じゃ、また明日もよろしく!」
「うす……」
気の利いた言葉も出せなくてすんません。
部屋へ戻るヒロさんを見送り、りぃの寝顔を見る。
……俺も寝るか。
りぃをお姫様抱っこして部屋へと連れて行き、そっとベッドへ寝かせる。
「おやすみ……」
そっと髪の毛を撫でる俺。
顔を見つめていると、りぃは瞼をそっと開けた。
「んんっ……」
「あ、すまねえ、起こしちまったか」
「んーん……」
「ゆっくり寝てくれな」
そう言ってもう一度髪の毛を撫でたあと、立ち上がる俺の裾をりぃが掴んだ。
「兄ぃ……こもりうた……」
「ん?」
「こもりうた……うたって……」
「どうした? しんどいのか?」
「おねがい……」
「仕方ないな。今日はりぃ、よく頑張ったもんな」
「うん……」
子守歌か。
俺たちの子守歌と言えば、北原白秋の『ゆりかごのうた』だ。
俺もりぃも、母さんによく歌ってもらっていた。
りぃが病気で寝込んだときとかは、俺が代わりに歌ってやってったっけ。
母さんはりぃに似て良い声――というかりぃが母さんに似てるんだけど、綺麗な声だ。
俺はその血は受け継いでないのか、へたくそなんだがな。
久しぶりに歌ってやるか。
りぃの身体をぽんぽんと優しく叩きながら歌い始める俺――
「……ゆりかごのうたを――――」
「カナリヤが――うたたうよ――――」
「兄ぃ……」
「ねんねこ――ねんねこ――――」
「大好き……なの……」
最後まで歌いきるまでに、眠りに落ちる妹。
可愛い奴め。
俺なんかの歌で寝てくれるんだから、やっぱり歌には愛を込められるんじゃねーかな。
愛する妹にも俺の気持ちが伝わってくれるといいな。
「今日もよく、がんばったな……」
こうして、スースーと寝息を立てる妹に布団を掛けなおしたあと、俺は自室へ戻り、眠りにつく合宿の夜であった――
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