高校ラブコメから始める社長育成計画。
05.妖艶
「やっほー!」
ナオミ姐さんが叫ぶ。
やっほーやっほーやっほー……山にこだまする声。
「すげえな! りぃ、あっちを探検するぞ!」
「うん! 精霊さんがいそうなの!」
「おいおい……遊びに来たんじゃねーんだぞ」
「え? そうでしたっけ?」
「ふぬっ」
バンドへの加入を決めてから時は過ぎ、俺たちは今、山奥のお洒落な一軒家に来ている。
市街から二時間、ヒロさんの車に揺られ、緑豊かな林間の家。
周囲は見渡す限り山、山、山。
ここはベース担当の銀髪少年、啄木くんの別荘だ。
「すー、はー」
「すー、はー」
ナオミが大きく深呼吸をした。
それを見たりぃも真似をする。
「空気、おいしいでしょ」
「ああ、最高の合宿になりそうだぜ!」
「楽しみなの……」
――そう、俺たちのバンド『RAGERAVE』は、ロックフェスに向けて合宿をすることになったのだ。
一泊二日の短い合宿だが、母さんの了承も得て、俺とりぃも参加する。
ベースの啄木くんは良いとこの坊ちゃんらしく、周りを気にすることなく演奏できる、この別荘での合宿を提案してくれた。
「啄木くん、金持ちなんだな……」
「そんなことないよ。てか名前、言いにくいでしょ、呼び捨てでいいよ。同い年だし仲良くしよう、ゆーま」
「お、おう、啄木……よろしく」
男友達すらいない俺だから、なんか緊張する。
才川? ああ、そんな奴いたっけ。あいつも友達にカウントしてやらないこともない。
だが、まだ箕面をやるわけにはいかない。箕面は俺の男だ。ホモではないよ。
「みっちりスケジュール組んでっからな、みんな覚悟しろよ!」
「うはー、ヒロさん熱いねー」
「おうよ! ゆーま、スケジュール管理頼むぞ! こいつらほっとくと好き勝手しだすから」
「ういっす……!」
ゆーまと呼んでくれるリーダーのヒロさん。
事前に色々打ち合わせを一緒にした仲だ。
俺は雑用だから、人材管理からタイムキーパーまで何でもやる。
「はい! それでは早速、二十分以内にスタンバイと音作りして!」
俺はパンパンと手を叩き、メンバーを仕切り出す。
陸上部のトレーナー活動で養った、配下を動かす役割だ。
俺の手となり足となり、みんな命大切に頑張れってな。
「まだ来たばっかじゃーん。ちょっと休憩しようよ」
「だめだめ、意外と渋滞してて到着が遅れたから、スケジュール巻いてんだよ!」
「ふはは、兄貴くん、やる気だな!」
「そら、妹の将来もかかってっからね!」
「兄ぃ……大好き」
「ああ。俺もだよ。晩飯、楽しみにしとけ! 兄ちゃんが最高の晩餐にしてやるから」
「ふぬっ」
うちは両親とも健在だ。
だが、共働きで帰りが遅く、俺が晩御飯を自炊する日も多い。
というのも、一度りぃに作ってやった時、美味しい美味しいと大喜びしてくれるもんだから、料理スキルに目覚めた時期があったんだ。
結局は好奇心スキルからの賜物だから、飽き性な俺が続く訳もなく、最近はたまにしか作らないんだけど。
作るときは、どうせなら驚かせたいという気持ちが先行して、かなりこだわる。
好奇心スキルをお持ちの人なら、わかってくれるのではないだろうか。
だから今日はメンバーに振る舞うだけあって、最強のレシピにチャレンジするのだ。
石窯などがあるというのも啄木から聞いていたし。
鶏肉の表面にオリーブオイルを塗って。
あ、ローズマリーを乗せよう。
塩は岩塩だな。
よし、まずは薪を一時間ぐらい燃やして石窯を暖めるところからだ。
え? そこまでする必要あるのかって?
そりゃみんなに美味しいものを食べさせてあげたいし――
……なにより、みんなが練習している間、暇なんだよ!
ジャカジャカジャカ――
メンバーたちが隣の部屋で演奏しているのを横耳で聴く。
俺はそれに合わせて、ふふふんと鼻歌を口ずさむみながら料理に夢中。
そこへナオミの怒声が聞こえてくる。
「ヒロ! そこはもっとこう、オレンジ色の音を出せよな!」
「なんだよナオミ、オレンジの音って。ディストーションが足りないってことか?」
「ちげーよ! エフェクターの色じゃなくてだな! ほれ、りぃの声は紫っぽいだろ?」
「わかんねーよ! こうか?」
ジャラーン――
「おっ、それだ! それ!! やるじゃんヒロ!」
「よし! じゃあ、もっかい通すぞ!」
――なんか、熱く言い合ってるな。
音楽のことはよくわからんが、芸術家が人の心を奪うような作品を作り上げるには、こうしてぶつかり合うのも大事なんだろうな。
そうして演奏とぶつかり合いをを繰り返しながら、四時間ぶっ通し練習が終わり、へとへとになった様子で出てくるメンバーたち。
「ゆ゛ーま゛、ばんめじ、でぎだが……?」
「もうすぐ焼きあがりますけど……なんでギターのヒロさんが声ガラガラなんすか……」
「おー! 美味そうな匂いじゃねーか!」
「ボーカルのナオミ姐さんは全然へーきそうだし! りぃは大丈夫か!?」
「こくん…こくん…」
「おいっ! 立ったまま寝てるじゃねーか妹よ!」
「あは。僕もひさびさ暴れたよー。汗びしょびしょだから、みんな先お風呂入ろっか」
「ふぬっ!」
「……あーっ、すんません! 沸かすの忘れてた!」
「ゆ゛ーま゛ ……ばや゛ぐ、い゛れ゛でや゛れ゛……」
「ヒロさん……何言ってっかわかんないっすけど、妹が寝そうなんですぐ沸かしてくるっす!」
晩飯の前に風呂入って目を覚ましてもらわないと、りぃのやつ食べずに寝てしまいそうだ。
しっかり栄養とって貰わないと、明日の練習にも響くだろう。
トレーナーの血が騒ぐぜ!
そう思いながら浴室へ向かう俺。
浴室といっても、かなりデカい。
テレビで出てくる、ホテルのスイートルームとやらの規模である。
建物自体は古そうだが、最近リフォームしたらしい。
ああ、風呂掃除もしといてくれって言われてたんだっけ。
しまったな……急いでやるか。
ゴシゴシ――
ブラシで浴槽を磨きあげ、ぴかぴかにしたあと、湯を溜め始める。
その間に今度は床磨きだ。
効率よくいこう。
主夫スキル発動だ。
ゴシゴシ――
大理石で出来た床を磨く俺。
急がないとりぃが寝てしまう。
愛する妹のために、兄ちゃん頑張るぞ!
がらがら――
がらがら?
……そこへ裸にタオルを巻いた、ナオミ姐さんが現れた。
「はあっ!?」
「おう、なんだ、兄貴くんまだ掃除してたのか」
「まだ掃除してたのか――――じゃないっすよ!!!」
「私こっちで身体洗うからな、見んなよ」
「いやいやいやいや、見えちゃう! 見えちゃう!」
「ま、広いからいいだろ。眠いから早く入りたいんだよ」
「ひゃ、ひゃい!」
そう言って姐さんは、タオルを外し、シャワーを浴びだす。
濡れた髪を掻き上げる姐さんのうなじはセクシーで、鏡越しに、果実のような程よく張った胸が見え隠れしている。
熱い湯を浴び、湯気にほんわりと包まれた姐さんの身体は、バラ色に艶々と光っていた。
「じーっ……」
って、やばいやばい!
何がやばいって……健全な男子高校生の前で、普通にシャワー浴びてるこの女がヤバいって!
「兄ぃ、犯罪者顔なの……」
「わっ! りぃもいたのか!」
「えっち……」
タオルを巻いた妹が入り口の前に立ち、ジト目で俺を見ていた。
「だって、姐さんいきなりなんだもん!」
「じーって、なおたんの胸見てた……」
「そりゃ、妹のぺったんより、姐さんのグレープフルーツのほうが堪らんっつーか、ラッキースケベ万歳というか、ぐへへ」
「……最低……なの」
「だって、男の子だもん!」
「ふんっ……知らない……」
「りぃ、すまんって!」
「……ぷいっ」
つってもまあ、妹も知らないあいだに女っぽくなってるじゃねーか。
こないだまで俺が風呂に入れてやってたような気がするが、もう中学三年だもんな。
「兄ぃ、見ないで……!」
「ああ、すまん! お前も成長したなって思ったらつい!」
「へんたい……!」
……妹に罵倒されるのも悪くないぜ。
プンプンしてるりぃも可愛いな。
しかし、ナオミ姐さん、無防備すぎだろう。
このままじゃ、理性が保てない。
そう思った俺は、そそくさと掃除を中断して出て行くのであった――
名残惜し……いえ、なんでもありません。
ナオミ姐さんが叫ぶ。
やっほーやっほーやっほー……山にこだまする声。
「すげえな! りぃ、あっちを探検するぞ!」
「うん! 精霊さんがいそうなの!」
「おいおい……遊びに来たんじゃねーんだぞ」
「え? そうでしたっけ?」
「ふぬっ」
バンドへの加入を決めてから時は過ぎ、俺たちは今、山奥のお洒落な一軒家に来ている。
市街から二時間、ヒロさんの車に揺られ、緑豊かな林間の家。
周囲は見渡す限り山、山、山。
ここはベース担当の銀髪少年、啄木くんの別荘だ。
「すー、はー」
「すー、はー」
ナオミが大きく深呼吸をした。
それを見たりぃも真似をする。
「空気、おいしいでしょ」
「ああ、最高の合宿になりそうだぜ!」
「楽しみなの……」
――そう、俺たちのバンド『RAGERAVE』は、ロックフェスに向けて合宿をすることになったのだ。
一泊二日の短い合宿だが、母さんの了承も得て、俺とりぃも参加する。
ベースの啄木くんは良いとこの坊ちゃんらしく、周りを気にすることなく演奏できる、この別荘での合宿を提案してくれた。
「啄木くん、金持ちなんだな……」
「そんなことないよ。てか名前、言いにくいでしょ、呼び捨てでいいよ。同い年だし仲良くしよう、ゆーま」
「お、おう、啄木……よろしく」
男友達すらいない俺だから、なんか緊張する。
才川? ああ、そんな奴いたっけ。あいつも友達にカウントしてやらないこともない。
だが、まだ箕面をやるわけにはいかない。箕面は俺の男だ。ホモではないよ。
「みっちりスケジュール組んでっからな、みんな覚悟しろよ!」
「うはー、ヒロさん熱いねー」
「おうよ! ゆーま、スケジュール管理頼むぞ! こいつらほっとくと好き勝手しだすから」
「ういっす……!」
ゆーまと呼んでくれるリーダーのヒロさん。
事前に色々打ち合わせを一緒にした仲だ。
俺は雑用だから、人材管理からタイムキーパーまで何でもやる。
「はい! それでは早速、二十分以内にスタンバイと音作りして!」
俺はパンパンと手を叩き、メンバーを仕切り出す。
陸上部のトレーナー活動で養った、配下を動かす役割だ。
俺の手となり足となり、みんな命大切に頑張れってな。
「まだ来たばっかじゃーん。ちょっと休憩しようよ」
「だめだめ、意外と渋滞してて到着が遅れたから、スケジュール巻いてんだよ!」
「ふはは、兄貴くん、やる気だな!」
「そら、妹の将来もかかってっからね!」
「兄ぃ……大好き」
「ああ。俺もだよ。晩飯、楽しみにしとけ! 兄ちゃんが最高の晩餐にしてやるから」
「ふぬっ」
うちは両親とも健在だ。
だが、共働きで帰りが遅く、俺が晩御飯を自炊する日も多い。
というのも、一度りぃに作ってやった時、美味しい美味しいと大喜びしてくれるもんだから、料理スキルに目覚めた時期があったんだ。
結局は好奇心スキルからの賜物だから、飽き性な俺が続く訳もなく、最近はたまにしか作らないんだけど。
作るときは、どうせなら驚かせたいという気持ちが先行して、かなりこだわる。
好奇心スキルをお持ちの人なら、わかってくれるのではないだろうか。
だから今日はメンバーに振る舞うだけあって、最強のレシピにチャレンジするのだ。
石窯などがあるというのも啄木から聞いていたし。
鶏肉の表面にオリーブオイルを塗って。
あ、ローズマリーを乗せよう。
塩は岩塩だな。
よし、まずは薪を一時間ぐらい燃やして石窯を暖めるところからだ。
え? そこまでする必要あるのかって?
そりゃみんなに美味しいものを食べさせてあげたいし――
……なにより、みんなが練習している間、暇なんだよ!
ジャカジャカジャカ――
メンバーたちが隣の部屋で演奏しているのを横耳で聴く。
俺はそれに合わせて、ふふふんと鼻歌を口ずさむみながら料理に夢中。
そこへナオミの怒声が聞こえてくる。
「ヒロ! そこはもっとこう、オレンジ色の音を出せよな!」
「なんだよナオミ、オレンジの音って。ディストーションが足りないってことか?」
「ちげーよ! エフェクターの色じゃなくてだな! ほれ、りぃの声は紫っぽいだろ?」
「わかんねーよ! こうか?」
ジャラーン――
「おっ、それだ! それ!! やるじゃんヒロ!」
「よし! じゃあ、もっかい通すぞ!」
――なんか、熱く言い合ってるな。
音楽のことはよくわからんが、芸術家が人の心を奪うような作品を作り上げるには、こうしてぶつかり合うのも大事なんだろうな。
そうして演奏とぶつかり合いをを繰り返しながら、四時間ぶっ通し練習が終わり、へとへとになった様子で出てくるメンバーたち。
「ゆ゛ーま゛、ばんめじ、でぎだが……?」
「もうすぐ焼きあがりますけど……なんでギターのヒロさんが声ガラガラなんすか……」
「おー! 美味そうな匂いじゃねーか!」
「ボーカルのナオミ姐さんは全然へーきそうだし! りぃは大丈夫か!?」
「こくん…こくん…」
「おいっ! 立ったまま寝てるじゃねーか妹よ!」
「あは。僕もひさびさ暴れたよー。汗びしょびしょだから、みんな先お風呂入ろっか」
「ふぬっ!」
「……あーっ、すんません! 沸かすの忘れてた!」
「ゆ゛ーま゛ ……ばや゛ぐ、い゛れ゛でや゛れ゛……」
「ヒロさん……何言ってっかわかんないっすけど、妹が寝そうなんですぐ沸かしてくるっす!」
晩飯の前に風呂入って目を覚ましてもらわないと、りぃのやつ食べずに寝てしまいそうだ。
しっかり栄養とって貰わないと、明日の練習にも響くだろう。
トレーナーの血が騒ぐぜ!
そう思いながら浴室へ向かう俺。
浴室といっても、かなりデカい。
テレビで出てくる、ホテルのスイートルームとやらの規模である。
建物自体は古そうだが、最近リフォームしたらしい。
ああ、風呂掃除もしといてくれって言われてたんだっけ。
しまったな……急いでやるか。
ゴシゴシ――
ブラシで浴槽を磨きあげ、ぴかぴかにしたあと、湯を溜め始める。
その間に今度は床磨きだ。
効率よくいこう。
主夫スキル発動だ。
ゴシゴシ――
大理石で出来た床を磨く俺。
急がないとりぃが寝てしまう。
愛する妹のために、兄ちゃん頑張るぞ!
がらがら――
がらがら?
……そこへ裸にタオルを巻いた、ナオミ姐さんが現れた。
「はあっ!?」
「おう、なんだ、兄貴くんまだ掃除してたのか」
「まだ掃除してたのか――――じゃないっすよ!!!」
「私こっちで身体洗うからな、見んなよ」
「いやいやいやいや、見えちゃう! 見えちゃう!」
「ま、広いからいいだろ。眠いから早く入りたいんだよ」
「ひゃ、ひゃい!」
そう言って姐さんは、タオルを外し、シャワーを浴びだす。
濡れた髪を掻き上げる姐さんのうなじはセクシーで、鏡越しに、果実のような程よく張った胸が見え隠れしている。
熱い湯を浴び、湯気にほんわりと包まれた姐さんの身体は、バラ色に艶々と光っていた。
「じーっ……」
って、やばいやばい!
何がやばいって……健全な男子高校生の前で、普通にシャワー浴びてるこの女がヤバいって!
「兄ぃ、犯罪者顔なの……」
「わっ! りぃもいたのか!」
「えっち……」
タオルを巻いた妹が入り口の前に立ち、ジト目で俺を見ていた。
「だって、姐さんいきなりなんだもん!」
「じーって、なおたんの胸見てた……」
「そりゃ、妹のぺったんより、姐さんのグレープフルーツのほうが堪らんっつーか、ラッキースケベ万歳というか、ぐへへ」
「……最低……なの」
「だって、男の子だもん!」
「ふんっ……知らない……」
「りぃ、すまんって!」
「……ぷいっ」
つってもまあ、妹も知らないあいだに女っぽくなってるじゃねーか。
こないだまで俺が風呂に入れてやってたような気がするが、もう中学三年だもんな。
「兄ぃ、見ないで……!」
「ああ、すまん! お前も成長したなって思ったらつい!」
「へんたい……!」
……妹に罵倒されるのも悪くないぜ。
プンプンしてるりぃも可愛いな。
しかし、ナオミ姐さん、無防備すぎだろう。
このままじゃ、理性が保てない。
そう思った俺は、そそくさと掃除を中断して出て行くのであった――
名残惜し……いえ、なんでもありません。
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