高校ラブコメから始める社長育成計画。

すずろ

04.来臨

「ゆーま、おはよー」
「おっす」

 俺と親友の箕面はご近所さんだ。
 蝉時雨の止まない真夏の朝。
 いつもこうして学校へ一緒に登校することが多い。
 アニメ好き同士、たわいもない声豚な会話などと共に。

 しかし今日の話題は違う。
 昨日は妹りぃと、ナオミのバンド練習を見学に行ったからだ。
 そして本格的にバンドへの加入を決めたりぃ。

「へえー! 面白そうじゃん!」
「まあ、そうなんだが……」

 俺もプロデューサーという肩書きで参加することになった。
 まあ……分かってるさ。
 また、ただの雑用なんだろうなと。
 それでも肩書きとしては申し分ないんじゃないか?
 院長に自慢できるかも、という虚栄心で受けてしまったところも実はある。
 いんだよ、りぃのためにもなるんだったら雑用でも歓迎だ。
 パムでもなんでも買ってきてやる。

「最近のゆーまは引っ張りだこだね!」
「そうだよな……ってそんなことねーけど。ほんと、アニメばっか見て過ごしてた一年の時とは大違いだわ」
「……ちょっと寂しいけど」
「ん?」
「んーん! 陸上部でもみんなに指示出してる姿、キラキラしててカッコいいよ! 魔王みたいで」
「そ、そうか……?」
「うん! 前からゆーまは凄い人だって知ってたから。それがみんなにわかってもらえてボクも嬉しい!」
「ま、まあ、俺は天才だからな」
「ボクも手となり足となり仕えるから、手伝えることあったら言ってねー!」
「おお、まだ魔王見習いだけどな。あんがとよ」

 ありがとう箕面。
 いつかお返ししてやれることがあったら、今まで一緒にいてくれたことを何かで返してやりゃなきゃな。
 ギブアンドテイク……いや、単純にこれからも一緒につるんでいてほしいから。こいつは大事な仲間だ。



 放課後――
 今日は接骨院でバイトの日。
 陸上部のほうは、地方大会に向けてみんな頑張っている。
 練習メニューもばっちり立てた。
 本人たちのやる気も申し分ない。
 怪我や体調管理への意識も、後輩ちゃんのおかげで高まっている。
 後輩ちゃんが出られないのだけが心残りだが。
 来年、また絶対に応援してやる。
 これだけは忘れないでおこう。
 と、いうわけで、正直、俺にトレーナーとしての役目はほぼなくなってしまっている。
 なので現在は接骨院のバイトを週三回で、トレーナー活動は週一、あとはフリーといった感じで過ごしている。
 そこに妹の保護者活動を入れるという訳だ。
 だが忘れちゃいけない。
 俺の夢は、社長になって酒池肉林だからな。
 その夢のために、片想い相手の上原エリカをゲットすること、それも同時進行ですすめるのだ。

「お疲れ様っす!」
「来たわね」

 エリカはバイトの同僚である。
 二年になって色んなことがあった。

 そもそもの始まりは、この上原エリカとの出来事。
 ある日、階段で落ちそうになった俺を、彼女が支えてくれたのだ。
 しかし、二人して一緒に落ちてしまったのだが。
 その時俺たちはキスをした――
 といっても、たまたま転んだはずみで唇が重なってしまったわけだが。

「何見てんのよ! 変態!」
「や、エリカの唇がぷるるんとしてて……うぶしぇ!」
「やめなさいそのエロ目!」

 アッシュブラウンに染められた艶やかな長髪、天使の輪を纏うエリカはグーパンの使い手。
 そんなツンデレツン多め彼女が、捻挫した俺をこの接骨院の院長と引き合わせてくれたわけで。
 えん――というのか。
 俺の静かだった人生は、エンジンがかかったように音を立てて唸り出した。
 それは決して嫌な音ではなく、興奮と情熱に満ちた音である。


「――あいかわらずシスコンね」
「違う、妹がブラコンなだけだ」

 俺はエリカにバンド加入の話をした。
 ギターのヒロさんが、前に連れていってもらった美容院の人だったというのは、エリカも知らなかったようで驚いていた。
 ちなみにりぃとエリカは、第一回百瀬ゆーまを社長にしようの会で会っている。
 ナオミ姐さんとは直接面識が無いものの、フラッシュモブの一件では軽く繋がりがあるわけで。

「妹さんのおかげで素敵な披露宴になったわ。お礼、ちゃんと伝えてくれた?」
「ああ、ナオミ姐さんも喜んでたぞ」
「でも、バンドとか……妹さん大丈夫なの? 危なくないのかしら?」
「一応俺が背後霊として憑いていくつもりなんだが」
「犯罪者で背後霊とか……ぷぷっ」
「笑うな! つか、まず犯罪者じゃねーし! 犯罪者顔って言え」
「そこは認めてるのね」
「とにかく、バンド活動とかアンダーグラウンドな感じ、確かに心配ではある。ナオミ姐さんは悪い人じゃなさそうなんだが」
「他のメンバーさんは大丈夫なの?」
「わからん。一回会っただけだし」
「先輩に相談してみる? ナオミさんとお友達の」
「ああ、ダンサーの。エリカ、友達になったんだっけか」
「ええ。こないだも一緒にショッピングへ行って、そのあとダンススクールの見学とかさせてもらっちゃって、それからそれから――」

 話が止まらなくなるエリカ。
 目をキラキラさせながら。
 友達が出来たこと、よっぽど嬉しいんだろうな。
 つか、ダンススクール見学て。
 こいつもパイプ椅子仲間か。
 そんな可愛い笑顔で友達の話されると、相手が女であろうが嫉妬してしまうぞ。
 普段はクールに見える整った顔立ちのエリカだが、今の子供っぽい笑顔に改めてトキメく。
 褒めてやるか。

「エリカ……か、顔が……かわ、かわ、かわ」
「?」
「か、かわうそに似てるのは、いきも○がかりのボーカル」
「……はあ?」

 だめだ、イモる。
 すっと言える時もあるのだが、恋心が先行するとイモっちまうな。
 恥ずかしい。



 翌日、俺はエリカに連れられ、ダンサー先輩のクラスを訪ねた――

「やほー、エリカ!」
「先輩! 会いに来ちゃいました!」
「おお、いいこいいこ! いつでもおいでー!」

 頭を撫でられながら、にぱあと微笑んでいるエリカ。
 なんだ、こんな少女らしい一面がこいつにもあったのか。

「よしよ――」
「あんたは触るな!」

 ばしっと俺の手を払いのけるエリカお嬢様。
 俺もよしよししたかった……

「おっ、りぃちゃんの兄ぃちゃん!」
「あ、ややこしいから、ゆーまって呼んでもらえますか」
「あいよっ! で、ゆーまくん、今日はどうしたのー?」
「実は――」

 俺は一部始終をダンサー先輩に話した。
 ナオミがぶっ飛んだ言動で、家までりぃの勧誘に来たこと。
 りぃがボーカルとしてバンドに参加すること。
 そして、俺も付き人プロデューサーとして参加はすること。 

「ぶははは! りぃを私にくれ、ってー!」
「ほんと、びっくりしたっすよ……」
「そうきたかー。ナオミ、りぃちゃんのこと気に入ってたからねー」
「先輩、ナオミ姐さんと同じ中学だったんすよね?」
「そだよー、腐れ縁っ!」
「ぶっちゃけ、どう思いますか……?」

 どう思うか。
 そう、俺は最も心配していることを聞いた。
 まだ中学生の妹が、あんなぶっ飛んだ連中の中でやっていけるのか、だ。

「んー、まあナオミはぶっ飛んでるけど、まともなメンバーもいるよっ」
「そうなんすか? アーティストなんてみんな頭おかしいんじゃないっすか?」
「ちょ、爆弾発言はキミもだねっ! まあ、アーティストって……『変人って言われるのが最高の褒め言葉だー』と言う人が多いのは否定できないけど」
「芸術は爆発ですね」
「とにかくRAGERAVE、リーダーのヒロくんが一番まともな人間だと思うから大丈夫だよっ。ナオミの幼馴染だし!」
「美容師のギターさんっすね」
「うん、安心して任せていいと思うよ。ヒロくんがいなかったらヤバいかもだけどー!」


 リーダーのヒロさんか。
 茶髪で顎鬚の二十二歳、大人の人だ 。
 ナオミ姐さんが高校三年だから十八歳とすると、四つ上の幼馴染ってわけか。
 りぃはまだ十四歳だから、だいぶ年上だな。
 色々と面倒見てくれそうな人だったし、頼もしい。
 ってか、俺の存在、いらねーんじゃ……
 ま、肩書きだけは貰っとくぜ、いひひ。

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