高校ラブコメから始める社長育成計画。

すずろ

03.くんくん

「よろしくお願いします!」
「いえいえ、それはこちらのセリフですわ」

 深々と頭を下げる箕面。
 陸上部の助っ人をすることになったのだ。
 しかし、あの草むらに隠れていたアホ毛は何者だ。
 織田優理に尋ねる俺。
 優理によると、そいつは例の部室にいたもう一人、宮沢夏香なつかという同学年で四組の女子らしい。


 そいつの謎は翌日、さらに深まることとなった――


 休み時間、俺たちは移動教室のため、四組の前を通り過ぎる。
 教室ではなにやら女子達の黄色い声が響いていた。
 それは休み時間のなっちゃんこと夏香。

「いっせーので、いち!」

 あれは親指を立てて数を当てるゲームだな。
 夏香と他の女子三人が机に向き合って、古き良き戦いをしているではないか。
 立ち止まり廊下から覗く俺。

「やたー!! 私の勝利! じゃまず髪の毛から。クンカクンカ」
「ちょ、ちょっと夏香、くすぐったいよ!」
「ぐふふ、よいではないかよいではないか」
「そもそも勝ったら匂いをげるとか、意味不明!」

 なんの賭けだ!
 変態だ!



 昼休み、俺と箕面が教室で飯を食っていた時のこと――
 窓の外を見ると、中庭に数人の女子。
 その中心に夏香がいる。

「って、なんであいつ今時フラフープしてんの!?」
「わー、なつかしいねー。小学生の頃よくやったよー」

 フラフープか。
 直径一メートル弱ぐらいの輪を腰で回して遊ぶやつだ。

「おい箕面、見てみろよ! あいつ、半端ねえ腰使いじゃねーか!」
「わっ! 足で!? 肩で!? 二個も!?」

 フラフープをまるで自分の体のように器用に回し、クネクネしている夏香。

「なんだよあの超絶テク!」
「か、かっこいいかも……」

 動画サイトで見たことあるぞ!
 プロフラフーパーってやつじゃねーか!



 最後は放課後、掃除当番でゴミを焼却炉に持っていく途中のこと――

 飼育小屋の前で夏香を発見した。
 赤っぽい髪でクセっ毛なミディアムショート、柴犬のような顔立ちのそいつは、ニワトリに餌をあげているようだ。
 コケコさんを見て、夏香は首をかしげている。

「ねーねー、おいしーい?」

 きゃつめ、俺の数少ない友達コケコさんに話しかけよったな。

「コケーッ!」
「ほんと?」

 なにぃ、会話できるのか!
 うらやま。

「コッコッコッコッ……コケーッ!」
「いいの? やったー! ありがとー!」

 なにやら意気投合しやがった。

「……ぱぐっ」

 食べた!!
 おいおい、それ鳥の餌だぞ!

「ほげー……」

 ま、そうなるわな。

「あ……ありがとー! 今度は私のチョコあげるよっ」
「こらこら!!」

 思わず俺は駆け寄って声をかける。

「お、昨日の少年!」
「チョコをあげるのはやめたまえ」

 誰が少年だ。
 歳も変わらんだろうに。

「いやあ、お返しにと思ったんだけどやっぱまずいかなー?」
「だめだ。チョコレートに含まれるカカオのカフェインは鳥にとって猛毒なんだぞ」
「そっかあ。ごめんねーコケ美さん」

 意外と素直な奴じゃねーか。
 いやいや、騙されちゃあいけねえ。
 こいつは匂いフェチでプロフラフーパーで鶏の餌を食べる変態おっさんだ!

「ちなみに名前、コケコだからな!」
「へー、男子なのに変わった名前だね」
「いや俺じゃなくてニワトリ!」
「そっちかー」
「それはそうとあんた、部活行かないのか?」
「きょ、今日は、練習ないんだー!」

 なんだこの『嘘です』と顔に書いて目を泳がせている女は。

「うそつけ、今日箕面が練習に参加するって言ってたぞ」
「私リレーメンバーじゃないんだよー。棒高跳ぼうたかとび専門なんだっ」

 棒高跳び。
 五メートルぐらいの棒を使ってバーを飛び越える陸上競技だな。

「でも走るの速いんだろ? 一年の時に短距離で大会新記録を出したって聞いたぞ」
「えっへん。私にかなう者はいない!」

 両手を腰に当てて威張る夏香。

「じゃあ、出たらいいじゃねーか。ちょうど四人だろ」
「はわわわ、急に頭痛と骨折が!」

 夏香は頭を抑えながらうずくまった。

「頭痛はいいとしても、どうやって骨折したのか詳しく」

 どんだけ嘘が下手なんだよ。

「えーっと……と、鶏の餌が刺さって――」
「わかったわかった。もう聞かねーよ。でも速いんなら箕面にアドバイスでもしてやってくれねーか? あいつも絶対活躍できる奴だからよ」

 箕面が活躍して褒められると俺も嬉しい。
 唯一の親友だから。

「そうだねー。昨日こっそり見てたけど、あれじゃあ、優勝は難しそうだし」
「やっぱ見てたのかよ!」

 立ち上がり腕を組みながらの字顔でそう言い放った夏香。
 自供したな、草むらアホ毛女子。

「いやいや、箕面は運動神経いいから負けねーよ」
「私のが速いっす」
「いやいや、箕面は学年一番だ」
「私っす」

 夏香はキリッと俺を睨んでくる。
 負けず嫌いか、あおってやろう。

「じゃあ、勝負するか?」
「負けないっす」
「運動場で待ってるからな! 絶対来いよ!」
「ガッチャっす」

 あ、勝手に勝負を挑んでしまった。

 ま、いっか。
 箕面に伝えておこう。
 箕面に拒否権はない。
 唯一の親友だから。


 匂いフェチでプロフラフーパーで鶏の餌を食べる変態おっさんの夏香は、手帳で変身できそうな天真爛漫さを持った犬系女子。
 対して箕面はチビですばしっこくドジっ子だけど、分からない話でも頷いて聞いてくれるような、ナチュラル小鳥系女子。
 犬と小鳥じゃ相容あいいれない関係になりそうだな。
 うむ、実に面白い。


 そして放課後、決戦の時がやっきた――

「頑張れ小鳥! 犬に負けるな!」
「なにそれ……」

 箕面選手の登場。
 負けたら焼き鳥にして食っちまうぞ。

「わんわんっ!」
「あらあら宮沢さん、来てくれたんですね」

 犬、登場。
 来てくれたんですねって。

「久しぶりなんすか? 夏香が来るの」
「ええ、一ヶ月ぶりかしら」

 なんだよ、マジでやる気ねーじゃん。

「おい! 三年生は次の大会でもう陸上生活最後かもしれないんだぞ!」

 思い入れもあるだろうに。

「陸上生活最後……海に還るの?」
「ちげーよ!」
「てへ」



 episode『くんくん』end...

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