高校ラブコメから始める社長育成計画。
01.うぃんうぃん
「やあ諸君。君たちは選ばれし者だ!  俺の手となり足となり、その命尽きるまで、ともに戦おうではないか!」
「……帰る」
反動もつけずにすくっと立ち上がり、疾風迅雷の如く立ち去ろうとするエリカを俺は腕で遮り、壁ドンする。
その振動で7月のカレンダーが揺れた。
「で、なんなの? また被害者増やすわけ!?」
「被害者ってなんだよ! フラッシュモブの時は結局お前も楽しんでたじゃねーか!」
「た、楽しかったけど……あんたの為じゃないんだからね!」
「それでいいじゃねーか。お前の可愛い笑顔が見れて俺は満足だ」
ヒューヒューと外野からやじが飛んでくる。
箕面はまたぽかんとした目で俺を見つめている。
「う、うるさい! 黙りなさいよね!」
俺は玉ドンを喰らう。
反則だろ……
癖になったらどうする。
今日は日曜日――
悪友である箕面の家で企画会議。
「それでは改めまして、第二回、百瀬ゆうまを社長にしようの会、企画会議をはじめます」
「いえーい」
箕面がノリノリで拍手する。
「初、箕面んちだよ! 感動だぜぇ!」
才川は箕面の家に呼ばれた事で、浮かれすぎて聞いちゃいない。
そしてエリカはといえばまた、呆れた顔でやれやれといったポーズをとっていた。
§
1ヶ月前――
「人に使われてみろ、です」
院長は五つ目の龍玉を俺に公開した。
結婚式のフラッシュモブが無事成功し、今俺は接骨院へ報告をしに来ているのだ。
サプライズは大成功で、美咲先生も喜んでくれていた。
結婚式自体、小さい頃にしか参加したことがない俺にとって、刺激的なものだった。
そのフラッシュモブだが、正直言って俺はみんなを引き合わせただけで、何の仕事もしていない。
一応企画者ってことであの場にはいさせてもらったが、見てるだけだった。
主役は美咲先生と新郎の白石さんであり、サブキャラは吹奏楽部の奴らや才川たち。
俺は何でもないエキストラ程度だ。
ただ、あんなに興奮するとは思わなかった。
美咲先生たちは喜んでくれていたし、吹奏楽部や才川たちも楽しんでくれていた。
そしてエリカの最高の笑顔を見れた。
胸が熱かった。
なんだったんだろう、あの感情は。
達成感というものなのだろうか。
そんなフラッシュモブ企画をする動機となったのは、ここの酒池肉林な院長からの宿題だったからだ。
俺はここで社長になるための裏技七つを教えて貰っている。
一つ目は、褒めキング。
二つ目は、あいづち。
三つ目は、印象。
四つ目は、夢アルバム。
実は先日のフラッシュモブのとき、歌っているエリカの写真をゲットした。
それが俺の夢アルバムになっている。
ストーカージャナイヨー。
そして五つ目が今日、やっと解放されたのだ。
『人に使われてみろ』だと。
「その響きが嫌っす」
使われるとかいいから。
酒池肉林はよ。
「社長になって人を使う立場になるにはですね、やはり使われる方の気持ちも分かってたほうが良いですよ。部下を褒めるにも気持ちが分からないと褒められなかったりするんですよ」
もっともな話で耳が痛い。
「まぁ、そうですよね。意味はなんとなく分かってましたけど。つまり働けってことっすか? 異世界ではなくリアルで?」
異世界にアニメをアウトブレイクさせる大使役とかならやりたいが。
「ちょっと何言ってるかわかりませんが。部活動に入るなり、アルバイトするなり、ってことですね」
「部活なんて見返りのないものはしない主義です」
青春を謳歌するなんてアニメ見てりゃ味わえる。
残るはバイトか。
金が貰えるけどしんどそうだ。
「でしょうね。どうせならコネも増やせて彼女もできそうなアルバイトしたらどうですか?」
コネを増やすということは……
「接客業すか?」
「まぁ、コネクションとなるとファミレスのウェイターとかレジとかより、お客さんと親密に会話できる仕事がいいでしょうね。さらに彼女も作りたいなら好きな子と一緒の職場に入ればいいでしょうね。嗚呼、そんな都合の良いアルバイトが……あった! うちの接骨院に勤めたらいかがですか!?」
「……わざとらしいっすね」
とんだ猿芝居だよ院長。
「でも俺なんか何の役にも立たないんじゃないっすか?」
「脱臼を治したり電気を当てたりとかは免許がいりますけど、テーピングしたりトレーニング指導したりは助手でもできますから。上原さんも将来接客業に就きたいからとの志望理由でしたよ」
ビューティアドバイザーか。
それが上原エリカの夢だ。
確かに会話も重要そうだし、あいつに足りなさそうなとこだよな。
きっと美咲先生にでも勧められたのだろう。
「ま、うちとしては光月高校の生徒を雇うことで、部活の子や親御さんも何かあったら来てくれるし、良い口コミが広がってくれればウハウハなので」
「じゃ、始めっからこうなることを想定してたんすか!?」
「そんなことないですよ。たまたま僕にとってのコネのメリットですね。いつか何か返ってくるかもっていうやましい期待は、無かったわけではないですが」
なるほど、知ってるぞ。
これが『お互いが得をするために』という『WIN・WIN』の考え方ってやつだな。
「いっときますが僕はね、WIN・WINとかゆう考え方は嫌いですからね」
「どーん!!」
頭ん中を一蹴されて驚く俺。
「それってつまり『お互いが得するギリギリで譲歩して同時清算ハイ終わり』ってことでしょ。結局は自分が損をしないようにって考える癖がついてくる。そのせいで短期的な会社ばかりが増えてると言われてるんですよ」
確かに一時的に儲かっても、最近はすぐ潰れたり売り渡したりしている会社が多いと聞く。
「最終的に得をしたいって思うのは誰でもそうだと思いますし、見返りを期待するのも悪いことじゃあない。 でも、だからこそ今はあまり使われない『ギブアンドテイク』って考え方のほうが断然いいです」
『GIVE & TAKE』
「与えて貸しを作る、いつかは返してもらうみたいな。一言で言ってしまうと印象悪く聞こえるかもしれませんが、貸しは信頼や人情がないと返ってきませんし、恩があると返すまで人は繋がる。繋がりが長ければ長いほど絆になる。得とか考えるんじゃなくて返ってくるかわからない相手にもギブしていくんですよ」
「返ってくるかわからない相手にもっすか?」
そんなのただの良い人じゃねーの?
あれだ、グリムの『星の金貨』だ。
あくまで童話。
最後に神様が金貨を恵んでくれるなんて現実ではありえないだろうに。
「どうすれば得するかより、何か貢献できないかって動機で始めようってことです。みんな共同体。結局のところ、全体で見れば誰かの損は自分の損、相手の得は自分の得。まあ、騙されないように知識は必要ですが。みんながギブしあう会社であれば強いと思いませんか?」
「まあ、何かをしてあげた時っつーのは気持ち良いものだとは思いますね」
「そう、結局は充足感。お金でもなく充足感を得ることで組織は続く」
こないだ、駅でエリカにありがとうを言われたときは嬉しかった。
「見返りを求めたっていいじゃないですか。ただその見返りは明日返ってくるかもしれないし、十年後かもしれない。はたまた違う人から巡り巡って返ってくるかもしれない。そんな気持ちが大切だと思います」
「そんな気持ち、俺に持てるかなぁ……」
だから院長も無償で色々教えてくれるんだな。
俺もその社会の共同体に入れるのだろうか。
「では、履歴書を書いて持ってきてください」
そんなこんなで、俺は助手として雇ってもらうことになった高校二年の夏のお話――
episode『うぃんうぃん』end...
「……帰る」
反動もつけずにすくっと立ち上がり、疾風迅雷の如く立ち去ろうとするエリカを俺は腕で遮り、壁ドンする。
その振動で7月のカレンダーが揺れた。
「で、なんなの? また被害者増やすわけ!?」
「被害者ってなんだよ! フラッシュモブの時は結局お前も楽しんでたじゃねーか!」
「た、楽しかったけど……あんたの為じゃないんだからね!」
「それでいいじゃねーか。お前の可愛い笑顔が見れて俺は満足だ」
ヒューヒューと外野からやじが飛んでくる。
箕面はまたぽかんとした目で俺を見つめている。
「う、うるさい! 黙りなさいよね!」
俺は玉ドンを喰らう。
反則だろ……
癖になったらどうする。
今日は日曜日――
悪友である箕面の家で企画会議。
「それでは改めまして、第二回、百瀬ゆうまを社長にしようの会、企画会議をはじめます」
「いえーい」
箕面がノリノリで拍手する。
「初、箕面んちだよ! 感動だぜぇ!」
才川は箕面の家に呼ばれた事で、浮かれすぎて聞いちゃいない。
そしてエリカはといえばまた、呆れた顔でやれやれといったポーズをとっていた。
§
1ヶ月前――
「人に使われてみろ、です」
院長は五つ目の龍玉を俺に公開した。
結婚式のフラッシュモブが無事成功し、今俺は接骨院へ報告をしに来ているのだ。
サプライズは大成功で、美咲先生も喜んでくれていた。
結婚式自体、小さい頃にしか参加したことがない俺にとって、刺激的なものだった。
そのフラッシュモブだが、正直言って俺はみんなを引き合わせただけで、何の仕事もしていない。
一応企画者ってことであの場にはいさせてもらったが、見てるだけだった。
主役は美咲先生と新郎の白石さんであり、サブキャラは吹奏楽部の奴らや才川たち。
俺は何でもないエキストラ程度だ。
ただ、あんなに興奮するとは思わなかった。
美咲先生たちは喜んでくれていたし、吹奏楽部や才川たちも楽しんでくれていた。
そしてエリカの最高の笑顔を見れた。
胸が熱かった。
なんだったんだろう、あの感情は。
達成感というものなのだろうか。
そんなフラッシュモブ企画をする動機となったのは、ここの酒池肉林な院長からの宿題だったからだ。
俺はここで社長になるための裏技七つを教えて貰っている。
一つ目は、褒めキング。
二つ目は、あいづち。
三つ目は、印象。
四つ目は、夢アルバム。
実は先日のフラッシュモブのとき、歌っているエリカの写真をゲットした。
それが俺の夢アルバムになっている。
ストーカージャナイヨー。
そして五つ目が今日、やっと解放されたのだ。
『人に使われてみろ』だと。
「その響きが嫌っす」
使われるとかいいから。
酒池肉林はよ。
「社長になって人を使う立場になるにはですね、やはり使われる方の気持ちも分かってたほうが良いですよ。部下を褒めるにも気持ちが分からないと褒められなかったりするんですよ」
もっともな話で耳が痛い。
「まぁ、そうですよね。意味はなんとなく分かってましたけど。つまり働けってことっすか? 異世界ではなくリアルで?」
異世界にアニメをアウトブレイクさせる大使役とかならやりたいが。
「ちょっと何言ってるかわかりませんが。部活動に入るなり、アルバイトするなり、ってことですね」
「部活なんて見返りのないものはしない主義です」
青春を謳歌するなんてアニメ見てりゃ味わえる。
残るはバイトか。
金が貰えるけどしんどそうだ。
「でしょうね。どうせならコネも増やせて彼女もできそうなアルバイトしたらどうですか?」
コネを増やすということは……
「接客業すか?」
「まぁ、コネクションとなるとファミレスのウェイターとかレジとかより、お客さんと親密に会話できる仕事がいいでしょうね。さらに彼女も作りたいなら好きな子と一緒の職場に入ればいいでしょうね。嗚呼、そんな都合の良いアルバイトが……あった! うちの接骨院に勤めたらいかがですか!?」
「……わざとらしいっすね」
とんだ猿芝居だよ院長。
「でも俺なんか何の役にも立たないんじゃないっすか?」
「脱臼を治したり電気を当てたりとかは免許がいりますけど、テーピングしたりトレーニング指導したりは助手でもできますから。上原さんも将来接客業に就きたいからとの志望理由でしたよ」
ビューティアドバイザーか。
それが上原エリカの夢だ。
確かに会話も重要そうだし、あいつに足りなさそうなとこだよな。
きっと美咲先生にでも勧められたのだろう。
「ま、うちとしては光月高校の生徒を雇うことで、部活の子や親御さんも何かあったら来てくれるし、良い口コミが広がってくれればウハウハなので」
「じゃ、始めっからこうなることを想定してたんすか!?」
「そんなことないですよ。たまたま僕にとってのコネのメリットですね。いつか何か返ってくるかもっていうやましい期待は、無かったわけではないですが」
なるほど、知ってるぞ。
これが『お互いが得をするために』という『WIN・WIN』の考え方ってやつだな。
「いっときますが僕はね、WIN・WINとかゆう考え方は嫌いですからね」
「どーん!!」
頭ん中を一蹴されて驚く俺。
「それってつまり『お互いが得するギリギリで譲歩して同時清算ハイ終わり』ってことでしょ。結局は自分が損をしないようにって考える癖がついてくる。そのせいで短期的な会社ばかりが増えてると言われてるんですよ」
確かに一時的に儲かっても、最近はすぐ潰れたり売り渡したりしている会社が多いと聞く。
「最終的に得をしたいって思うのは誰でもそうだと思いますし、見返りを期待するのも悪いことじゃあない。 でも、だからこそ今はあまり使われない『ギブアンドテイク』って考え方のほうが断然いいです」
『GIVE & TAKE』
「与えて貸しを作る、いつかは返してもらうみたいな。一言で言ってしまうと印象悪く聞こえるかもしれませんが、貸しは信頼や人情がないと返ってきませんし、恩があると返すまで人は繋がる。繋がりが長ければ長いほど絆になる。得とか考えるんじゃなくて返ってくるかわからない相手にもギブしていくんですよ」
「返ってくるかわからない相手にもっすか?」
そんなのただの良い人じゃねーの?
あれだ、グリムの『星の金貨』だ。
あくまで童話。
最後に神様が金貨を恵んでくれるなんて現実ではありえないだろうに。
「どうすれば得するかより、何か貢献できないかって動機で始めようってことです。みんな共同体。結局のところ、全体で見れば誰かの損は自分の損、相手の得は自分の得。まあ、騙されないように知識は必要ですが。みんながギブしあう会社であれば強いと思いませんか?」
「まあ、何かをしてあげた時っつーのは気持ち良いものだとは思いますね」
「そう、結局は充足感。お金でもなく充足感を得ることで組織は続く」
こないだ、駅でエリカにありがとうを言われたときは嬉しかった。
「見返りを求めたっていいじゃないですか。ただその見返りは明日返ってくるかもしれないし、十年後かもしれない。はたまた違う人から巡り巡って返ってくるかもしれない。そんな気持ちが大切だと思います」
「そんな気持ち、俺に持てるかなぁ……」
だから院長も無償で色々教えてくれるんだな。
俺もその社会の共同体に入れるのだろうか。
「では、履歴書を書いて持ってきてください」
そんなこんなで、俺は助手として雇ってもらうことになった高校二年の夏のお話――
episode『うぃんうぃん』end...
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