高校ラブコメから始める社長育成計画。

すずろ

25.大切な人Ⅱ

「で、来週誕生日なんだけど、家族でお祝いできるのも最後かなって奮発しちゃうわけ」


上原はそう言った。
少し寂しそうな、また優しい顔で。
たくさん思い出作ってきたんだろうな。
俺の知らない上原エリカ。


「おめでとう……だよな。寂しくなるな」


身内の結婚だ。
とりあえずおめでとうだよな。


「あ、ありがと……」


どこか大きな瞳を潤ませているようにも見える上原は、そう呟いた。
なんだこの気持ちは。
頭をわしゃわしゃと撫でてやりたい。


「彼氏かと思ったじゃねーか」
「いらないわよ、そんなもの」


いないじゃなくて、いらないかよ。


「友達といたら恋バナとかすんじゃねーの? 欲しくなったりしねーの?」
「さあ? あたし付き合ったことないし、本気で人を好きになったことないから」


そうだったんだな。
意外っちゃ意外だ。
こんな美人、誰もほっとかないだろうに。


「じゃああの階段で俺としたのは、お前もファーストキス……いでっ!!」


言った瞬間に上原のカバンが俺の頭に飛んできた。


「言わないで!!! なかったことにしてたのに!! あーもうあたしの黒歴史よ……絶対に許さないんだからね!」


そうか、そうか、そうだったのか!
いや、すまんが嬉しいわ。
初めて同士だったとは。
事故だもん。
わざとじゃないもん。



「……それに友達なんて、面倒くさい」


そういえば、こいつが他の女子といる所はあまり見たことがないかもしれない。
なんかあったのか?
その言葉を放つ勇気が出ず、無言のまま時は過ぎた――




そしてその後、帰りの電車の出来事。
それが俺たちの関係を少し変えたんだ――


電車で上原の中学時代の同級生らしき男子達と乗り合わせた。


「あれ、上原じゃね? やっぱ男といるよ」
「あいつ、男漁りしすぎて周りの女子にハブられたんだろ?」
「高校でもまた男に色目使ってんじゃね?」
「とっかえひっかえって噂だしな」
「今日もお盛んなことで。あはは」


うぜえ。
なんだこいつら。
中学のことは全く知らねえが、上原はどっちかっつーと男の免疫なさそうな奴だ。
男漁りってなんだよ。
聞こえるように言ってんじゃねーか。


上原を見ると、うつむいてじっと黙っている。
だが、明らかに目が潤んでいるのがわかる。
さっきの叔母さんの話とは違う目だ。
涙をためている。


「おい、お前ら!!」
「……え?」
「言いたいことあんならコソコソしゃべってんじゃねーよ! みっともねーな!」


俺は怒鳴った。
周りの奴らが俺を見る。
相手の高校生よりむしろ上原のほうが驚いた顔をしている。


「なんだお前……やんのか? あ?」


睨みながら近づいてくる男。
ああ、俺はこんな奴じゃなかったのに。
知らない奴とは関わりたくないのに。


でもよ、こいつが涙を溜めてんだ。
肩ふるわせてんだ。
上辺で繋がりを増やして行く中で、本当に信頼できる三割、その中に上原エリカを入れたい。
上原の大切な人に、俺も加えられたい。
惚れた女だ。
俺だってやるときはやってやる。


「いいから……!」


上原が叫んだ。
俺の袖をつまんで肩を震わせている。


「でもよ、お前泣いてんじゃん。許せねーだろ」


「いいから! いいから……百瀬は黙って」



プシュー――


電車が俺たちの地元に着いた。
上原は俺の手を取り電車を降りた。
急ぎ足で改札まで引っ張られる。


「ハア、ハア……」
「……なんだったんだよ、あいつら」
「中学の時、あたしがフッた奴よ!」
「フッたって、お前……」


話を聞くとこうだ。


中学の頃からメイクやファッションに興味を持っていた上原は、派手な容姿から軽い女だと見られ、男子からよく声をかけられていたそうな。
そう言うと悪く聞こえるが、つまりはモテてたってことなんだろう。
それでも仲良しの女友達もいたし、趣味のオシャレが楽しいから、特に気にしていなかった。
そんな中、さっきの男子にもいきなり告られたらしい。
上原はもちろん断る。
今は恋愛なんて興味ないからと。
しかしあの男子は、当時一番仲が良かった女友達の好きな人だったらしく、上原に取られたと勘違いされた。
ま、逆恨みだろうな……
不憫な奴。


それから女友達からもハブられるようになり、誰も信用できなくなった。
……友達なんて面倒くさい、に至るわけだ。


だが、今だからわかるけど上原も悪いんじゃねーの。
基本近いよ。
スキンシップやばいよ。
可愛いうえにそんなんされたら誰だって勘違いするじゃねーか。
これが噂に聞く、無意識な天然小悪魔ってやつなのか?
絶対気付かずやってるもんな。
こっちはドキドキだっつーの。
今度パーソナルスペースについて講義してやろう。
俺は特に警戒心が強いんだかんね!


「ま、お前もそん時は運が無かっただけと割り切って、新しい縁を作ったらいいと思うぞ? きっといつか、心から分かってくれる奴が現れると思うからよ」


俺には幸い、箕面やりぃがいる。
それがどれだけ救いだったか、それがどれだけ心の支えになるか、強がりなコイツだからこそ、知って欲しいと思う。


「……うん」


もちろん俺が、上原の大切な人になれたら最高だけどな。


「あの……色々……あ……ありがと」


上原は俯きながら、目を合わせずそう言った。


「や、俺のほうこそ勝手に生意気なこと……スマン」


「それから――」


今度は向き直ってビシッと言い放つ。


「女の子を『お前』って呼ぶな」
「すんません……」


そうだよな。
しゅんとなる俺。


「エリカでいいわよ」


上原は顔を赤らめながら言った。


「は?」


「何度も言わせないで! もう! エリカさんか、エリカ様か、エリカお姉さまか! どれにするのよ!」


下の名前で呼んでいいぞって言いたいのか。


「エリカお姉さまて。自分で言ってて恥ずかしくないのか……エ、エリカ」


「ふんっ!」


プンスカして膨れたほっぺが、赤くて可愛い。
だが今は言うまい。


「じゃあ俺はゆーま」
「却下」
「なんでえ!?」
「あんたはあ・ん・た。名前はまだ無い」
「は? ひどくね!? 俺は猫か!? この悪魔! ドS女!! ツンデ——うぶしぇ!」


結局グーパン……ご馳走さまでした。




episode 『大切な人』 end...

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