少女メイと呪われた聖剣セグンダディオ

小夜子

第25話「試験大会のちょっと裏側」



七瀬茜はメイたちの試合を見守っていた。
セグンダディオを従え、その強大な力で戦うメイ。
ハルフィーナを従え、縦横無尽に戦う理沙。
半年間の経験で戦闘慣れしており、メイよりも柔軟に動くことができる。
二人は中学からの仲良しコンビである。
加えて妖精であり、メイをご主人様と慕うノノ。
攻撃力こそ少ないが、回復や補助魔法を得意とする。
まさに後方支援には打ってつけだろう。
ほぼ無敵に近いコンビはこの大会でもよい結果を残すはずだ。
茜はそう思いつつ、双眼鏡でメイ達の試合を観戦していた。
やはり妹想いの姉故にどうしても気になるのだ。




「茜殿、メイ達は順調に勝ち進んでいるな。このままだと優勝もいけるだろう」




隣にいるロランが笑みを浮かべる。
彼女は目が良いので双眼鏡無しでも観客席からメイを見れる。
彼女の表情や服の皺の数がわかるほど見えるというのだから驚きだ。
ミオも同じぐらい視力が良く、夜目に自信があるのはこの視力の良さから来ているのだろう。




「…ロラン、おかしいと思わない?」




「ん?」




「あのウォリアーゴーレム、喋ってたわよね。しかもメイと握手をしていた。
私はこれでも結構旅をしてきているんだけど、あんなゴーレムがいるなんて、見たことも聞いたこともないんだけど」




「…確かに。やけに人間臭いゴーレムですね。変といえば、参加者が5組しか残らないのも変ですね」




「ふむ。あのゴーレム、もしかしたら人工的に育てられた奴かもね。しかも参加者の資格があるかどうかを試すゴーレムじゃない。非常に頑丈で丈夫な、例えば古代遺跡を守護する力のあるプロトゴーレムかもしれない」




「・・・・あの文献にしか出てこないゴーレムですか」




ゴーレムは大昔からナイトゼナ全土にいるモンスターだ。
その中には賢い者もいて強大な力を持つことから、重要な拠点の番人とされた。
彼らはプロトゴーレムと呼ばれ、今いるゴーレム達のご先祖様にあたる。
現代のゴーレムは喋ることはおろか、凶暴でじっとなどしていない。
よく遺跡や迷宮の中などにいるが、侵入者を見かければ容赦なく襲って来るだろう。
だが、プロトゴーレムは言語を理解し、非常に頑丈だったという。
その強さは普通の戦士はおろか、ベテランの騎士でも倒すことができないほどだと言われている。ただ、文献にしか存在せず、その存在はまだ確認されていない。
そもそも遺跡の調査には危険が伴い、あまりお金にもならないので各国は資金を出そうとしなかった。その為、この国の歴史レベルは高いとは言えない。




「仮にあのゴーレムがそれだとして…どうしてそんなのを採用したのでしょうか」




「ニルヴァーナはお金無いからね。他国の領土だった時期もあるし、名産品もない。騎士候補生が欲しいのもあるけど、要は本当に使える人間がいればいいのよ。だから参加者をわざと絞った。ここにいる人間が落とすお金も手に入る。まさに一石二鳥ね」




大勢の人間を騎士候補生として採用するならこんな大規模な試合などする必要はない。そのまま面接なり、簡単な試験なりをして増やせばいいだけだ。だが、ここまで大々的にやるのは客のチケット購入等の観戦収入も目当てだ。また、ダフ屋の取締も厳しくしており、そこから得る収益も計算しているだろう。嘘偽りが大勢いても役に立たないが、本物が一人いればそれでいい。だからこそ、参加試験で普通のゴーレムではなく、プロトゴーレムを使ったのだ。勿論、これは茜の推察であり、証拠は何もないが…そう考えると辻褄が合う。




「王様は知っていたのかもね。メイがシェリルを倒したという事実を。異世界の人間で情報を欲しているということも。尚且つ世界各地を渡り歩く騎士候補生…そんな職業を与えやれば必ず試合に出ると考えた。そこでボルノーさんに依頼したのかもね」




「…養子縁組したと聞きましたが、まさかそれが理由で?」




「さあね。これは単なる憶測に過ぎないわ。王様が頼んだなんて証拠はどこにもないし、第一、ボルノーさんが引き受けるメリットがない。お金のないこの国じゃ謝礼なんてロクに払えないだろうし…でも何か裏があるはずよ」




「警戒はしておいた方がいいですね」




「ええ。本当に子供ができないからメイ達を選んだのか、それとも…。あの子には悪いけど、義理人情だけで養子縁組するとはどうしても思えないからね」




茜は横目でボルノーを見る。
ビールを飲みつつ、妻と2人でメイの試合をじっくりと観戦するふたり。
その二人に怪しい素振りは感じられなかった。
話しぶりや性格からしても嘘をついているようには見えなかった。
もちろん、メイ達も養子縁組の話を聞いた時は疑ったはずだ。
メイはともかく、理沙は疑り深い性格なので疑問視する声を上げたはず。
今は裏付けがない憶測に過ぎないが、考えを留めてアンテナを張っておくことは有効だ。そうしておけば普段は気にも留めない些細な事も脳が必要な情報としてキャッチするだろう。心理学用語で言う、カラーバス効果だ。




「引き続き警戒しましょう。ロラン、情報収集を引き続きお願いね」




「了解です。ミオにも伝えておきます」




そして、姉は再び妹の観戦を続けることにした。

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