東方狐著聞集
百十九尾 狐、旧友を訪ねる
「でかいな……うちの神社より大きいじゃないか。しかもロープウェイで人里との行き来もできるとなんてな」
   これはうちの神社もうかうかしてられんな。とりあえず帰ったら今後のことを霊夢と真剣に話し合おう。
「ふむ、誰もいないようだ。とりあえず参拝しておくか」
  「おや……妖怪が参拝とはこれまた奇妙な」
 いつのまにか後ろに現れた人物は警戒しながら私に話しかけてきた。 どこか懐かしい声に私は自然と穂が緩む。
「珍しいか? 八坂神」
「なっーーおまえは」
 私の顔を見た途端血相を変えた守矢神社の神、八坂神奈子が私に向かって走る。
「ラァァァグゥゥナァーー! 」
 ズシンと重たい一撃が私の頭に落ちた。 
「っぁあ!? いっ痛いじゃないか! 」
「何が痛いじゃないかだ! 数千年も音沙汰なしで、どこほっつき歩いてたんだい。諏訪子も心配してたんだよ!?」
「うぅ、それは悪かった。いろいろなところを歩い回ってたんだ。それより二人はーー」
「ラグナが来てるの!? 」
 今度は神社の中から声が聞こえた。ドタドタと駆け寄ってくる音はついに私にぶつかった。
「あいたっ!?」
「んんー。数千年ぶりのもふもふの尻尾だぁ」
  私の尻尾に抱きついてきたのは守矢神社のもう一人の神、守矢諏訪子だ。実は守矢神社の本当の祭神は彼女なのだがある事情により神奈子が祭神だということになっている。
「いきなり抱きついてきては危ないじゃないか……久しぶりだな諏訪子、神奈子」
「あぁ、久しぶり。ラグナ」
「一本も連絡をよこさないのはどうかと思うよ!  でも、元気そうでよかったよ。久しぶり、ラグナ」
  
そういって二人は笑顔で私を迎えてくれた。
「ラグナはいつこっちに来たのさ」
「幻想郷に来たのは博麗大結界が張られる前だよ。それから色々あって地底に居たんだ」
「地底? なんでそんな所に?」
  尻尾にくっついたまま諏訪子が不思議そうな顔した。
 一方神奈子は私の持って来た酒を飲みながら耳を傾けている。
「幻想郷に多大な影響を与えたからだよ」
 「ふーん。そういえばうちの巫女とあったんでしょ? どうよ」
   察した諏訪子が話題を変え巫女のことを聞いて来た。どうやら、先日あった早苗が諏訪子たちに話をしたらしい。
「早苗か、面白い子だよ。現人神なんてなかなかお目にかかれない」
「ふふ、そーか。うん、それを早苗にいったら喜ぶと思うよ。それより……」
 ゾワっと諏訪子の雰囲気が突如変わった。 
「あの時の約束、覚えてるよね?」
「な、なんのことだったかーー」
「とぼけないで、さぁ、早く構えたら」
 そう言ってさらに神力を放出する諏訪子を見て私は諦めるようにため息をついた。
 どうやら諏訪子は別れた時の約束をいまだに覚えていたようだ。
「わかった。ただし、ここでやると荒れるからもう少し広い場所に行こう」
  
 わかったと諏訪子は神力を抑えて私の後ろをついて来る。 さて、どこで戦うのがいいのか。
 
  ◇ 妖怪の山 訓練所
 私が向かったのは訓練の時に使っている場所だった。 
 ここなら結界やらなんやら貼ってあるので多少無理しも大丈夫だろう。
「ここなら本気でやれると思う。さぁ、やろうか」
「いいね。私も本気で行かせてもらうよ!」
 
 そういうって諏訪子は神力と祟りの力を全身を包むように放出した。 
  
◇
 拳で打ち合って約三十分くらいだろうか。お互い体には傷一つ付いていなかった。
 
「あーう。 これじゃラチがあかないよ。そろそろ本気を出してよ」
  痺れを切らした諏訪子が隠していた鉄の輪を二つ取り出して片方は投げ、もう片方で斬りつけるために飛び込んできた。
 「ハッーー」
 とっさに霊剣を作り出し、飛んできた輪を避け斬りかかってきた諏訪子と鍔迫り合いの形にもつれ込んだ。
「ふふ、たかが霊力でできた剣じゃこの、鉄と神力で鍛え上げた輪には勝てないよ!」
  ほんの少し神力を輪に付与した途端、霊剣が豆腐を切るようにスルリと切断されてしまう。
 
 「っち……霊力で生み出した物じゃ無理があるか。これならどうだ?  狐【天の九尾】」
 天の九尾を二回程振り突きの構えをとった。
全妖力を刀に集中させる。一方、諏訪子はその場から動かずに不敵に笑みを浮かべていた。
 「それがラグナの本気なんだ。いいよ真っ正面から叩き潰してあげる!」
「その余裕、今に崩してみせよう! 奥義【九尾乱れ突き】ーー!」
  九尾狐の尻尾のように九つに増えた刃の突きが諏訪子に向かって放たれた。
  しかし、諏訪子は不敵に笑みを浮かべたまま手に持った鉄の輪に神力を込めていた。
「はぁああああーー! 」
「やああああーー!」
  刹那、天の九尾が刀身から崩れていく。 そして、完全に消えて無くなってしまった。
 「な、なんだと!? 天の九尾が……」
「ふふん!……って、私の鉄の輪が!?」
 諏訪子の鉄の輪にも変化が起きていた。
グニャグニャと変化し、最後に尻尾の形をした刃が内側から突き破って出てきたのだ。
 「そこまで! 勝負、引き分け!」
 隅の方で見ていた神奈子によって戦いが止められる。 神奈子の隣には東風谷早苗も居た。どうやら、神奈子の隣で私たちの戦いを観戦していたようだ
「引き分けかぁー」
「まさか私の奥の手が破られるとは思わなかったよ」
「へへーんって言いたいとこだけど、私の鉄の輪も壊されちゃったからなんとも言えないよ」
 そういうと諏訪子はあーうーとため息をついて地面に座り込んだ。
 鉄の輪が破られたのがよほど悔しいらしい。だが、悔しいと思っているのは私もなのだ。  私の最高傑作である天の九尾がいとも容易く破壊されてしまったのだから。
「よし、久しぶりに飲もうじゃないか! 早苗、酒の準備をしておくれ」
 「神奈子様! まだお昼ですよ!?」
「いいね! 今日はじゃんじゃん飲もうよ」
 神奈子に賛同するように諏訪子も立ち上がると神社の中に入っていった。
 
「ほら、ラグナ。早く中に入る」
「あ、ああ」
  その後、夜まで飲み明かしたのち博麗神社に帰った私は霊夢に「あんた酒臭い。どこをほっつき歩いてたのよ」と夢想封印を喰らったのはいうまでもないだろう。
 
「……そういえばなにかを忘れているような気がする。まぁ、いいか」
つづく
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