東方狐著聞集

稜さん@なろう)

百七尾 狐と普通の魔法使い

  人間が寝静まる夜、ラグナこと私は一人夜道を歩いていた。
なぜ、こんな夜遅くに出歩いているのかだって?  人間が寝静まる時間は我々妖怪の時間だ……ふふっ、なんてな。特に理由があるというわけではないが強いて言うなら今だ治っていない両手を治すためだろうか。


「さて、そろそろ無くなった両手を戻すとするか」

 満月の光を浴びながら私は手首のない右手を掲げた。
 すると、にょきにょきと音を出しながら手が生えてきた。

「しかし、いつ見ても再生は気持ちのいいものではないな」

  再生とは、妖怪全てが持つ固定能力だ。満月の一番妖力が漂う時間のみできる能力で欠損箇所を再生するというものだ。
 
 「……ん。治ったな。よし、完全復活だ」

  しかしまぁ、両手をなくすことになるなんてな。これも貴重な経験としておくか。ただ、その貴重な経験の代償がなんともいえないがな。
 
 「さて、どこかで一杯やって帰るとするか。この時間だと……彼処があるか」

 
「おーい! 」 

  ……? 発光している何かが近づいてくる? あれは。


「おーい! お前、ラグナだろ? こんな時間に何してるんだ?」

「魔理沙じゃないか。君こそこんな時間に何してるんだ?」
 
  浮かんでいる箒から飛び降り私の隣に着地した魔理沙は笑いながら帽子の中を見せてきた。

「なんだこれ?」

「あぁ、これはふきのとうだよ。私の住んでるところで見つけたんでな、それを夢中になって取っていたらこんな時間になっていたというわけだ。それでどうだ、いい屋台があるんだが一緒に行かないか?」
  
  魔理沙から酒の誘いか。断る理由もないから行くとするか。


「是非連れて行ってくれ。こないだの宴会の時みたいにここの話を聞かせてくれ」

「あぁ、いいぜ! よし、そうと決まったら急いで行くか!」

 そういうと魔理沙は飛んで行ってしまった。
おいおい、立った状態から箒に飛び乗るとか幻想郷の飛行技術はどうなっているんだ。私の元部下ですらそんな飛行技術は待っていなかったというのに。

「……あいつめ、置いていくとは」

  あ、戻ってきた。なるほど魔理沙は、落ち着きがないのか。

「すまん。置いて行っちまった。お前さん、飛べるよな? 私の後ろを飛んで付いてきてくれ」

「あぁ、今度は置いて行かないでくれよ?」
   

   




 〜迷いの竹林 前〜

  魔理沙の後ろを追いかけてたどり着いたのは迷いの竹林の入り口近くだ。
 その入り口近くに『鰻もあります』と書かれた暖簾のついた屋台がポツリと置かれていた。

「あ、いらっしゃいませ〜」

  暖簾をくぐるとそこにはおでんを掬う夜雀と酒を注文している魔理沙がいた。

「お、ラグナしっかりこれたんだな。 お前の分の酒も頼んでおいたからな。それにここの名物の八目鰻もたのんでおいたぜ?」

  私は魔理沙に礼を述べ隣に座った。 おでんの香りが鼻をくすぐる。
 私も何かいただくとするか。

「女将、私にも大根をくれ」

「はーい」

 女将の働く姿を見ながら魔理沙のついだ酒を飲む。
うん、美味い。 今度霊夢を誘ってみるか。

「ところでなんで、お前はあんな所に居たんだ?」
  
  突然魔理沙がそんなことを聞いてきた。そういえば会った時にも聞かれていたな。うむ、別に隠すことでもないから話すとするか。

「あぁ、なくなった両手を治していたんだよ。満月の日は妖力がそこら中から溢れるからね」

「あー。こないだの紅魔館の爆発はお前の仕業だったのか」

「魔理沙も紅魔館に来ていたのか? 」

「あぁ、図書館に本を盗……借りに行ってたんだよ。そしたら爆発したから驚いたぜ」

「盗? レミリアからの依頼を達成するための爆発だから仕方なかったんだよ。まぁ、その代償に両手を持って行かれたけどな。それでもいいものを見れたから満足だよ」

  私はしゃべり終えると頼んでいた大根を食べた。 
うん、味が染み込んでいて美味い。からしを少しつけるだけで味がさらに美味しくなる。この女将の料理のスキルは相当なもののようだ。


「みすちー。さっきのふきのとうを上げてくれないか?」

  なるほど、女将の名前はみすちーというらしい。なかなか変わった名前だ。 女将……みすちーは『わかりました』とだけ言うと揚げ物の準備を始めた。

 数分後私は目の前に出されたふきのとうの揚げ物を見て目を輝かせていた。
 黄金に輝く衣をみて目を輝かせない奴がいたら私はそいつを殴るだろう。
 
 「どうぞ、お食べ下さい。熱いうちに食べたほうが美味しいので」

「あぁ、いただくよ」

  魔理沙の『食え食え』を無視し私は一つを口に運んだ。
 美味い……噛めば噛むほど味が出てくる。普通にふきのとうを揚げてもこんないい味は出せないぞ? 

「女将、このふきのとうの味付けはどうしたんだ?」

「塩を少々かけただけですよ。熱燗と一緒に食べたらいい感じです」
 
   なるほど、塩か。あと熱燗とも合うのか……。

「女将、熱燗ももらえるか?」

「わかりました〜」




  そんなこんなで飲み食いしていると横に座っていた魔理沙が口を開いた。

「ところでお前さん。武器や道具を作ったり直したりいじくったりできるって風の噂で聞いたんだが本当か?」

 改まった態度で話しかけてきたからなんかあったのかと思ったが道具製作の話か。
 しかし、どこから出た噂だ?

「あぁ、人並みにはできるさ。何か作って欲しいのか?」

「あぁ、マジックアイテムをな」

「マジックアイテム? なんだそれは?」
  
聞きなれない言葉だ。名前的に魔法道具か何かだろうが。

「知らんのか。マジックアイテムは便利道具のようなものだよ。それで、こいつをみてくれ」

  魔理沙から渡されたのは小さな八卦炉だった。それをよく見ると何やら色々と細工をされてるようだ。

「これは私の手札の一つなんだが、最近火力不足を感じていてな。お前に加工を頼みたいんだよ」

「すまないが私には無理だ。この八卦炉を弄ってしまったら奇跡的なバランスが崩れてしまってただの箱になってしまう。これを作った人に会ってみたいものだ」

「やっぱりこれを作ったやつじゃないとダメなのか。しゃあない、明日あいつのところに行ってみるか。そうだ、ラグナお前もどうだ?」

「……?」

「いやだから作った奴に会わせてやるって言ってるんだよ」

  あぁ、そういことか。なら、私も連れて行ってもらうとするか。もしかしたら私以上の発明家に会えるチャンスかもしれないからな。

「あぁ、ぜひ頼むよ」

「なら今日はもう解散だ! みすちー、会計頼む」

「はーい」
 

  魔理沙の奢りで店を出た私は博麗神社に帰った。魔理沙は明日の朝迎えに行くとだけいうと箒を発光させながら飛んで帰ってしまった。

「朝になるのが楽しみだ」


  ところで帰ってから霊夢に呑んでいたのがばれて夢想封印を喰らったのは内緒だ。


つづく

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品