東方狐著聞集

稜さん@なろう)

特別 バの付く日

ふと頭が痛くなるような甘い香りが鼻を刺す。
 私はそういえば今日……と心の中で確認をして寝巻きからいつもの服へと着替えると先ほどまで寝ていた布団を畳むと居間へと向かった。

  「あら、今日は起きるのが遅いのね」

  居間に着くと紅白の巫女が笑いながら言った。鼻にチョコレートをつけたまま。

なるほど、匂いの原因は彼女がチョコレートを作っていたからか。
 私は、彼女に鼻にチョコレートが付いていると伝えると彼女はやや恥ずかしそうに顔を赤らめチョコレートを拭っていた。

 「あれ? 何処かに行くの?」

  私は風呂とだけ言うと神社のそばにある天然露天風呂へと足を運んだ。

 ふぅ……いい湯だ。朝もとい昼から入る風呂は気持ちいい。このまま酒でもと思っていたら空から新聞記者の天狗が私を撮ろうとしていたので被弾させた。
 あややと目を回していたので服を脱がせ風呂に浮かばせておいた。 天狗の脱がした? 女同士なので関係ないだろう。

やれやれ、とため息をつき浮かんだままの天狗の脇腹を突いた。 変な声が聞こえるが知らん。

 本気で酒を飲もか悩んでいるとどこからか声が聞こえてきた。

「はぁい。私達も入ってもいいかしら?」

「ちょ! お待ちください! お姉さまの迷惑になりますってば!」

 どうやら声の主は妖怪の賢者と私の末の妹のようだ。
私が別に入っても構わないぞ と言うと妖怪の賢者は何故かスキマからではなくカギを閉めていたはずの客用の脱衣所からタオルを巻いて出てきた。

「まぁ、いい湯ね」

 どうやら彼女はお湯を見ただけで湯の良し悪しがわかるようだ。……私? 匂いでわかる。
おや、前が急に止まったせいで末の妹がぶつかったやうだ。

「まったく!」

「ごめんってば〜」

言い合っている二人に 冷えるよ と声をかけると二人は身体を洗い湯に浸かった。
 湯に浸かっていると 「そういえば」と妖怪の賢者がスキマの中からなにかを取り出した。
 それはチョコレートのようなもので。

「はい。あーん」

  そのチョコレートのようなものを無理矢理食べさせられた私はそのチョコの味に驚いてしまった。

「ふっふっふ。驚いたかしら?」

 妖怪の賢者は再度スキマから箱を取り出すと私に突きつけた。

「今日が何の日か知ってるわよね? それは私からのプレゼントよ」

 私はありがとうと言い貰った箱を開けてみた。
 すると中には先ほど食べたチョコレートが十個ほど入っていた。妖怪の賢者から左から食べるようにと言われたので一つ食べる。
  ……!? 味が違う。 また驚いていると

「ふっふっふ。またまた驚いたわね。そのチョコレートはアルコールが入ってるの。そして、最初食べたのはアルコールが低いチョコレートよ」
 
  なるほどじゃあ今食べたのは高いのか と聞くと妖怪の賢者は満足そうにうなずいた。

「えぇ、左からだんだん強くなっていくわ。十番目のチョコレートは度数九十だったかしら?」

 度数九十?! と驚いていると隣で話を聞いていた末の妹が

「ただ、外の世界の一番高い酒なので。幻想郷こっちと比べたら味も辛味も物足りないんですよね」

 それでも人間が飲んだら目を回しますけどねと付け加えるとどこからか取り出した杯を飲み干した。 
  
 「あら、どうしたの? もしかしてあなたもお酒が飲みたいのかしら?」

  おっと末の妹のことを凝視しすぎたようだ。
 妖怪の賢者はスキマに手を突っ込むとお猪口と日本酒を取り出した。

「この酒はね。私が作った酒よ。いろいろと施してて幻想郷基準で最高度数を誇るわ。たがらお猪口じゃないとすぐに酔うわよ」

そう言うとお猪口に注いで渡された。
……美味い。それに辛味もちょうどいいな。
だが、なるほど、これは……お猪口じゃないと飲めない。

「あら、一人で飲み始めちゃった。まずは乾杯からでしょ?」

 妖怪の賢者が音頭をとると三人きりの宴が始まった。

頭を鈍器で叩かれたような痛みが走る……どうやら私はよう潰れてしまったようだ。 うーむ。しかし、いつの間に寝室に戻ってきたのか……おや? これは、ふむ。どうやら妖怪の賢者様がここまで運んでくれたようだ。

 はぁ……頭が痛い。痛い、と言うよりズキズキと頭の中からくる痛みだ。
  台所で水を飲んでくるか……痛い。

 頭を押さえながら台所に行くと紅白の巫女が水を注いでいるところだった。

「あら、起きてきたの? 水を持って行こうかと思っていたのに」

 どうやら私が酔いつぶれて帰ってきたことを気づいていたようだ。水をもらい ありがとう と言うと巫女は

「だからあれだけ風呂の中で酒を飲むなって言ったのに。しかもあいつと一緒に飲んでたとか……馬鹿ね」

  ひどい言われようだ。私は水を飲み終え部屋に戻ろうと台所を出ようとしていると巫女が思い出したように

「はいこれ」

 巫女から箱を投げつけられ。何だこれと聞くと巫女は

「ほら、いつものお礼よ。何やかんやいってあんたのおかげで毎食食べれてるから。 えーとありがとうね。それじゃ、おやすみ」

 そういうと台所から急ぎ足で出て行ってしまった。

 「ありがとうか……ふふ。私の方がありがとうと言いたいよ」

 その日の私の夢は懐かしい人と巫女と一緒に笑いあうという夢だった。


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