東方狐著聞集

稜さん@なろう)

番外編! 陰陽師ラグナと正体不明の妖し その一

これは、陰陽師をしていた頃のラグナと雪夢のドキドキでハラハラな思い出話の一つ。
 正体不明の鵺退治の話である。



  ◇ 

 ~都の隅にあるラグナと雪夢の家~


「ん~朝……か」
   

「お姉ちゃん!」

 目が覚めて最初に見たのは、私に飛び込んでくる妹、雪夢の姿だった。
 雪夢の顔は私の口から語りたくない程歪んでいた。いったい何が彼女を動かしているのだろうか。
雪夢を避けるように飛び上がると雪夢はそのまま後ろの窓から外に飛び出して行ってしまった。


「……とりあえず顔を洗うか」

 一人になった部屋に私の声が寂し気に響いた。






 私が身支度を終えて居間にいるとボロボロになった雪夢が入ってきた。どうやら外で気絶していたようだ。


「イタタ。もう、お姉ちゃん! どうして避けるの!?」

「いや、あんたが飛び込んでくるからだよ」

「なん……だと……?」

 などと話していると雪夢のお腹からぐぅーとかわいらしい音が鳴った。


「あぅ……」

「そろそろ朝食にしようか」

「はい!」




   ~少女朝食中~






 朝食を食べ終え二人でくつろいでいると玄関を叩く音が聞こえた。

「すまぬ! 誰もおらんのか!」

「あの声は、晴明ね」

  晴明。安倍晴明と呼ばれる平安時代最強の陰陽師と謳われた男。
この男は生きながらにして多くの伝説を残している人間だ。
 術のみの戦いなら負けることはないがなんもありの戦いでは負ける可能性もあるだろう。

「はーい、今行くわ」

 玄関に行くとやはり晴明が居た。
晴明は遅いと言いたげな顔を見せたがすぐに仕事をするときの顔に戻った。

「ラグナ、お前に依頼が届いてるぞ」

「またか?」

「そうだ、今度は天皇直々だ」
 
「嘘でしょ。あのジジイ?!」

 天皇。都を納める人間のことだそうだ。私は奴が何を考えているのかがわからないからあまり好感を持てないでいる。
 

「失礼だろうが」
 
「で、どのような依頼ですか?」
  雪夢はどういう訳か他人の前では敬語になる癖があるような。普段はお姉ちゃんと呼ぶのに誰かいるとお姉様と呼ぶ。もしかして恥ずかしいのか?


「そうだったな。依頼内容は鵺の封印もしくは討伐だ」
 
「そうですか。お姉様?

「あ、あぁ、了解した。報酬は?」
 
 話を聞き逃すところだった。考え事に夢中になる癖をどうにかしないとな。



「金銀財宝をくれてやるとのことだ」

「私が何とかしてやるからそれは全部貧しい人に寄付しておいてくれ」

「いつも通りだな。では頼んだぞ」

 晴明を見送ったラグナと雪夢はそれぞれ支度をして夜が来るのを待った。


「じゃあ夜まで普通通りといこうか」
 
「はーい! それじゃあ、お姉ちゃん!」

 また懲りずに抱きついて来た雪夢を拳骨で沈めたラグナだった


「アイタ!?」


 つづく

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