東方狐著聞集
二十五尾 紫の友人
 命蓮寺跡地を後にしてふらふらと彷徨っていると懐かしい妖力を見つけた。
いや、見つけたというより見られていたと言ったほうが正しいのかもしれない。
「紫、居るのなら出てきなさい」
風に乗ってどこからともなく女性のクスクスといった笑い声が聞こえる。胡散臭い妖怪、八雲紫で間違いないようだ。
「何がおかしい? 早く姿を現してくれ」
スッと音が消えあたりが静かになる。
風も虫の鳴き声もない空間に耐えれなくなった私は舌打ちを一つして妖力を体中に覆うように放出した。
「三つ数える間に出てこないのならスキマをこじ開ける。一つ、二つ」
三つと言おうとした瞬間、目の前にスキマが現れた。
「ちょっと待って! こら! 藍!」
「ごめんなさーい! 紫様!」
「……どういうことだ」
どうやら紫は無視していた訳ではないらしい。むしろ息が上がって疲れているようにも見える。
「何があったのさ。そんなに息を上げて」
「藍が悪戯にスキマを開けて回ったのよ。はぁー疲れたわ」
「それはご苦労様。ところで藍は?」
「藍ならスキマの中に縛って転がしてるわ。それより貴女、今暇よね」
「さぁね」
私の返答に紫は頬を膨らませた。
まるで子供の様な仕草に私はクスリと笑みがこぼれる。
「冗談だ、適当にふらついていただけよ。紫は何の用で私に会いに来たんだ?」
「えぇ、実は私の友人に会ってもらいたくて貴女に会いに来たのよ」
「紫の友人ねぇ?」
これはまた面妖な、紫に友人とは、案外私より交友関係は広いのかもしれない。あの風見幽香とも知り合いだったようだし。
「ええ、そうよ。是彼方に会いたいと言っていたから」
「そうか、それなら私も会ってみたいな。よし、連れて行ってくれ」
「はい、スキマで送るから入って頂戴」
そういうと空を扇子でなぞった。するとなぞった空間が割けて紫がよく使うスキマが現れた。中を覗くとと無数の目がこちらを凝視してきた。
「うわぁ」
「引かないで下さる? 全く私のスキマに対して『うわぁ』だなんて」
心の声じゃなく口から本音が出てしまうとは、スキマ妖怪侮れないな。
「すまない。今度何か御馳走するよ」
「それなら許しますけど。では行きましょ」
どうやら紫も本気で凹んでいるわけではないようだ。まぁ、紫が本気で凹むことがあるとは思えない。
さて、スキマの中に入っていた紫の後を追うとするか。
少女?移動中
スキマの中はうねうねしていて非常に気分が悪くなった。なぜ紫はあの中を平然と歩けるのだろうか。
「大丈夫? まさか、スキマ酔いするなんてね。そういえば藍も最初は酔っていたわね」
「そうか、私はもう大丈夫だ。それより大きな門だな」
「でしょ?」
これほど大きな門だと貴族の人間なのか? いやだが、妖怪と友達になる人間などいるのか?
「そこにいるのは何者だ!」
門を眺めていると門の上から一人の老人が降ってきた。
「私は九尾狐のラグナと申す者だ」
「おのれ、妖。何の用でこの屋敷に参った! まさか⁉ 幽々子様の命を狙ってか!? 許せん! この、魂魄妖忌の命に代えて守り切って見せましょうぞ!」
「紫、助けてくれ」
「はぁ……妖忌!」
紫が妖忌と名乗った老体に声をかけると彼はようやく紫の存在に気づいたようで、いつのまにか(・・・・)抜いていた刀を鞘に納め頭を下げていた。
「こ、これは、紫様!」
「妖忌、仕事を全うするのはよいことですが。このラグナは私の友人です」
「なんと! それはとんだ無礼をこの魂魄妖忌、腹切って……「しなくてよろしい」そうですか」
「それよりあの子のところまで案内を頼みます」
「かしこまりました」
そういって妖忌は案内するために大きな門を開いた。
つづく
いや、見つけたというより見られていたと言ったほうが正しいのかもしれない。
「紫、居るのなら出てきなさい」
風に乗ってどこからともなく女性のクスクスといった笑い声が聞こえる。胡散臭い妖怪、八雲紫で間違いないようだ。
「何がおかしい? 早く姿を現してくれ」
スッと音が消えあたりが静かになる。
風も虫の鳴き声もない空間に耐えれなくなった私は舌打ちを一つして妖力を体中に覆うように放出した。
「三つ数える間に出てこないのならスキマをこじ開ける。一つ、二つ」
三つと言おうとした瞬間、目の前にスキマが現れた。
「ちょっと待って! こら! 藍!」
「ごめんなさーい! 紫様!」
「……どういうことだ」
どうやら紫は無視していた訳ではないらしい。むしろ息が上がって疲れているようにも見える。
「何があったのさ。そんなに息を上げて」
「藍が悪戯にスキマを開けて回ったのよ。はぁー疲れたわ」
「それはご苦労様。ところで藍は?」
「藍ならスキマの中に縛って転がしてるわ。それより貴女、今暇よね」
「さぁね」
私の返答に紫は頬を膨らませた。
まるで子供の様な仕草に私はクスリと笑みがこぼれる。
「冗談だ、適当にふらついていただけよ。紫は何の用で私に会いに来たんだ?」
「えぇ、実は私の友人に会ってもらいたくて貴女に会いに来たのよ」
「紫の友人ねぇ?」
これはまた面妖な、紫に友人とは、案外私より交友関係は広いのかもしれない。あの風見幽香とも知り合いだったようだし。
「ええ、そうよ。是彼方に会いたいと言っていたから」
「そうか、それなら私も会ってみたいな。よし、連れて行ってくれ」
「はい、スキマで送るから入って頂戴」
そういうと空を扇子でなぞった。するとなぞった空間が割けて紫がよく使うスキマが現れた。中を覗くとと無数の目がこちらを凝視してきた。
「うわぁ」
「引かないで下さる? 全く私のスキマに対して『うわぁ』だなんて」
心の声じゃなく口から本音が出てしまうとは、スキマ妖怪侮れないな。
「すまない。今度何か御馳走するよ」
「それなら許しますけど。では行きましょ」
どうやら紫も本気で凹んでいるわけではないようだ。まぁ、紫が本気で凹むことがあるとは思えない。
さて、スキマの中に入っていた紫の後を追うとするか。
少女?移動中
スキマの中はうねうねしていて非常に気分が悪くなった。なぜ紫はあの中を平然と歩けるのだろうか。
「大丈夫? まさか、スキマ酔いするなんてね。そういえば藍も最初は酔っていたわね」
「そうか、私はもう大丈夫だ。それより大きな門だな」
「でしょ?」
これほど大きな門だと貴族の人間なのか? いやだが、妖怪と友達になる人間などいるのか?
「そこにいるのは何者だ!」
門を眺めていると門の上から一人の老人が降ってきた。
「私は九尾狐のラグナと申す者だ」
「おのれ、妖。何の用でこの屋敷に参った! まさか⁉ 幽々子様の命を狙ってか!? 許せん! この、魂魄妖忌の命に代えて守り切って見せましょうぞ!」
「紫、助けてくれ」
「はぁ……妖忌!」
紫が妖忌と名乗った老体に声をかけると彼はようやく紫の存在に気づいたようで、いつのまにか(・・・・)抜いていた刀を鞘に納め頭を下げていた。
「こ、これは、紫様!」
「妖忌、仕事を全うするのはよいことですが。このラグナは私の友人です」
「なんと! それはとんだ無礼をこの魂魄妖忌、腹切って……「しなくてよろしい」そうですか」
「それよりあの子のところまで案内を頼みます」
「かしこまりました」
そういって妖忌は案内するために大きな門を開いた。
つづく
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