東方狐著聞集

稜さん@なろう)

二十尾 鬼の長対空狐 


 笑いながらも警戒を解かない勇儀に私はため息をつき勇儀の後ろの建物を睨みつけた。

「どうした勇儀、人間か?」

 建物から出てきたけだるそうに出てきた鬼は勇儀の後ろにいたラグナを見るなり殴りかかった。いきなりのことに反応できなかったラグナは迫りくる拳を紙一重で躱すとやれやれと言った風に崩れた着物を整えた。




「お母さん! 巻き込むんじゃないよ!」

「あーすまないね。無性に殴りたくなる顔をしている人間がいたからねぇ。久しいね、ラグナ」

「いきなり殴りかかってくるとは……それに昔より速かったな。桜花」

「ふん。まだ、全力じゃないんだけどね……それにしても驚いた。まだ生きてたとは、それにしても昔と全然変わってないね」

 どこからか取り出した酒を飲みながらラグナを睨みつける桜花は手でかかってこいという仕草をすると空になった酒を投げ捨て構えた。ラグナはそれに応じるように構えると一呼吸置いて、飛び込んだ。



 「ふぅ……ハァッ! 」

 シュンシュンと拳が風を切る音が聞えるほど鋭い一撃が桜花に叩き込まれた。しかし、桜花は笑いながら額で受け止めるとそのままラグナの拳ごと頭突きを入れた。

「腹ががら空きだよ⁉ オラァ!」

 ドスンと重い一撃がラグナの腹に食い込んだ。ラグナは何度か地面を飛び跳ね。地面に垂れ込んだが息を吐き土を払いながら立ち上がった。

「なるほど、あれから相当力を付けたのか。なら私もそれなりのモノを見せないといけないな」

「やっぱり手を抜いていたのかい。まぁ、オカシイと思ったが……早くお前の本気を見せておくれよ」

「まぁ、焦るなよ。今見せてやるから。変化『妖怪化』」

 ボフンと音を立ててラグナは煙に包まれると先ほどまでとの姿から狐耳と尻尾を持った姿に変化した。変化したラグナは体を伸ばすと先ほどと同じように構えた。

「それが本当の姿だったのかい。まさか九尾とはね」

「ただの九尾じゃないがな。ついて来いよ?」

 ラグナは思い切り踏み込むと桜花の懐に潜りこんだ。桜花は咄嗟に反応し守りの体制に入ったが。

「おそい! ハァ!」

 先ほどとは比べ物にならない速さの拳が桜花の腹を射抜いた。桜花はそのまま木のあるほうに吹きとんだ。




「ほぉ。お母さんを吹き飛ばすとはね」

「当然です! お姉様は強いですから!」

 自慢げに胸を張る雪夢に勇儀は笑いながら杯に注いだ酒を飲みほした。

「だが、お母さんも本気になったみたいだよ?」

 そういって桜花の吹き飛んだ場所を勇儀は向いた。そこには、自身の桃色の髪とは比べ物にもならない紅い妖力を纏った桜花が立っていた。


「何ですか……あの妖力は、山が騒めいている?」

「あれが鬼の頂点にして原点。鬼神にして母、鬼神母神こと鬼神おにがみ桜花さ」

「鬼の頂点として原点……それならお姉様だって負けませんよ! 神獣天狐の娘。空狐 ラグナお姉様ですから!」

 ドヤ顔で語る雪夢をみてニィと勇儀は笑うとどこから取り出した二つ目の杯に酒を注いで雪夢に渡した。

「あんた気に入ったよ。これは私からの些細な贈り物さ。さぁ、グイッと一杯」

「あ、ありがとうございます。 んぐ……ゴク……プハァ……」

「いい飲みっぷりだね! ささ、もう一杯」



 酒盛りが始まった勇儀たちを横目でラグナは羨ましそうにみていた。そして、前から飛んでくる木を見ずに避け続けていた。


「なぁ、桜花。私も酒が飲みたいんだが」

「そォかい! ならあんたをぶちのめした後に祝い酒でもしようかねぇ!」

「それはいいな! お前をぶちのめした後の酒は美味そうだ!」

 二人はお互いを煽ると動きを止めた。そして妖力を練り上げる。


「鬼の長。鬼神桜花!」

「空狐。ラグナ!」




「いざ、尋常に参る!」


 そして両者は再びぶつかり合った。


つづく



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