僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

20節ー縁側ー

「あははっ、尻尾に寝癖ついてるよ」

「んん……あの蛇が抱き枕にしとったからの……」

 もふもふの尻尾を僕の膝に預けてくれて毛並みを整えてあげていたら、綺麗な銀色の毛が逆立っているところがあった。
 昨日は夜刀の部屋が用意できなくて、銀露と同じ部屋で寝てもらったんだけど……その時に銀露の尻尾を抱いて寝てたんだって。

「まったく、奴も相当無礼者じゃ。祭りの朝でなければ山に捨てておったところじゃぞ……」

「銀露もお祭り好きなんだね」

「昔は盛大に祀られておったからの。祭りに直接参加したことはないが、遠巻きに眺めて楽しそうじゃとは思っておった。娯楽のない儂にとっては目の毒じゃったの」

 行われる形態によって様々なんだけど祭って神仏、祖先に感謝や祈り、慰霊のために行われる儀式なんだよね。
 銀露は祀られる側だったから参加なんてできないだろうし……。
 銀露からすればただドンチャン騒いでる人を眺めているだけの行事でしかなかったのかな。

「供物の酒がたらふく飲めるだけの行事じゃった」

「なんだかんだ結構楽しんでるじゃん!」

「うまい酒ではなかったがの」

「贅沢言ってる! もーそういうとこあるからなあ銀露は!」

 尻尾をわしゃわしゃと毛羽立ててあげると銀露は耳をぴーんと立てて嫌がった。

「んぼっふ! いたっ、いたた、痛いよ銀露!」

 仕返しに尻尾で何度も顔をぶたれたけど尻尾で叩かれてもモッフモフだから痛くないけどね。
 むしろ尻尾のほんわりとした匂いを嗅げていいけどね。
 一応痛がっておかないと銀露の気が晴れないから!

「まったく、ぬしは時折やんちゃが過ぎるの」

「ごめんねー」

「よいよい、ぬしのそういうところもわしは気に入っておる」

 落ち着いた銀露は煙管を胸元から取り出して指先に銀色の火を灯し、その火を先端の火皿に落とす。
 そうして吸い口に口を当てると煙を吸って……。

「ふぅー……」

「銀露、お祭り一緒に回ろっか」

「うん? なんじゃ、わしはとっくにそのつもりじゃったぞ。そのための浴衣も用意しておるしの」

 銀露の浴衣は母さんが用意したんだって。やっぱりお祭りには浴衣だよね。

「……銀露、気になってたんだけど今日ちょっと顔赤いね。調子悪いの?」

「血がよう巡っておるだけじゃ気にするでない」

「やっぱり発情期とか関係あるの?」

「……」

 銀露は少し恥ずかしげに目だけ動かして僕をちらりと見ると、すぐに向き直ってしまった。

「きひひ、今は真っ盛りのはずでありんす。正直よくおとなしくしているものじゃと感心させられるのじゃ」

「夜刀、おはよー」

「う、うむ……おはよーなのじゃな」

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