僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

20節ー春の祭りー

 ふあああ……今日は本当にいい天気。
 時間は朝10時、暖かい縁側に腰掛けているのは僕と銀露の二人きり。
 銀露と僕は暖かいお茶を飲みながら中庭に植わっている桜を眺めながら……。

「祭りじゃの……」

「お祭りだね……」

 本日日曜日、今日は月並神社で春一番のお祭りがあるんだ。
 桜の花びらが全部散ってしまう前に行われるこのお祭りは月読町桜花祭(つくよみちょうおうかさい)と言われていて、町の人たちが春で一番楽しみにしている行事事。

「酒じゃの……」
 
「わたがし……りんご飴……やきそば……」

「ふふ、食べ物ばかりじゃの」

 お祭りっていいいよね。気になるあの子とか誘っちゃって二人で出店回ったりとか、友達同士で金魚すくいと競ったりとかしちゃってさ。

 浴衣姿でいつもと違う雰囲気を漂わせる女の子にドキドキする男の子、射的がうまい男の子にときめいちゃったりする女の子とか!
 まあそんなロマンあふれる行事なわけだよ。

「楽しいよねお祭り。でもぼく行ったの随分前だったし……女物の浴衣着させられてたけど……」

 女の子との甘酸っぱい思い出とかないんだよね……。
 母さんと伊代姉と父さんと毎年行ってたなあ。

「くふふ、ぬしに女の浴衣は似合いそうじゃの」

「今年はちゃんと男物の着るから! ちゃんと用意してもらってるし」

 お祭りということもあって今日は旅館のお客様もそこそこに多い。
 母さんも朝から忙しそうだったけれど、今日は銀露も朝早くから起きてお手伝いしてたみたい。
 銀露ってすごく仕事ができるみたいで母さんすごい褒めてたんだ。
 お客さんからの評判もめちゃくちゃいいみたい。

「銀露もお祭りに参加するのはいいけどあんまり目立っちゃダメだよ?」

「くふふ、千草は心配性じゃの。まだまだ陽も沈んでおらぬというのに」

 うりうりと頭を銀露に撫でられながら、僕はこの前と打って変わってのんびりしたこの時間を楽しんでた。
 うーんでもなんだろう……銀露からものすごいいい匂いがする。
 なんだろ、フェロモンてきなものをものすごい感じる……そういえば銀露ってもう盛りの時期なんだって言ってたなあ。
 いわゆる発情期ってやつだよね。
 でも今の銀露はそんな時期だってことを悟られるような態度を一切とってない。
 けど……。

「銀露、そんなに匂い嗅がれると恥ずかしいんだけど……」

「ぬしの匂いを嗅いでおると落ち着く……」

「落ち着くの? んーじゃあ嗅いでくれててもいいよー」

 ずっと僕の首筋の匂いを嗅いできてるんだよね……。
 くすぐったくてちょっと恥ずかしいけど……仕方ないなあ、僕は銀露の尻尾の毛づくろいでもしてあげるか。

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