僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第15節—僕と学校、狼姉様とお酒—
《えー……新一年生のみなさん、入学おめでたですぅー。私はこの水無月高等学校3年生、生徒会長の九十九稲荷と申します。ここに来るまでの桜並木はとても綺麗でしたでしょう? 歴史あるこの学校……あ、副会長さん。カンペ見えねーです。もうちょっと上に……ああっ、ページがちげーです……ああ、新入生のみなさん、申し訳ねーです。えーっと》
迷い童の件から数日後。僕はようやく高校生になった。
なんだか締まらない金髪女性生徒会長の挨拶を聞きながらの入学式。はじめは、鮮やかな金色の髪をした美人生徒会長の登場にざわついてたんだけど。
このグダグダトークにみんな緊張がほぐれたのか、小さな笑い声まで聞こえてきた。
話によると、あの生徒会長の金髪は地毛らしい。変わった人もいたもんだなあ。これが高校か!!
なんて……思ってる余裕は今の僕にない。
女の子なのになんで男子の制服着てるの? なんて聞かれたら……そりゃ言うよね。てか叫ぶよね。“男の子ですけどぉ!?”って。
入学式が始まる前に、下手に目立ってしまった僕は顔を真っ赤にして俯いたままになってた。
「てめ、いつまで恥ずかしがってんだ。顔上げて聞いとけバカ。寝てんと思われっぞ」
「ご、ごめん一真……。いやもう恥ずかしくて恥ずかしくて……」
「っは、三年も経っといて本当変わらねぇのな? ったく、こりゃ高校も気ぃ抜けねェぜ」
僕の隣に座っている、ボッサボサの黒髪に三白眼、すでに制服を着崩している素行不良っぽい男子生徒、羽間一真は、小学校中学校と一緒だった僕の友達だ。
名前の順で座らされてるから偶然二つ飛びという近くに座ってたんだ。
久々だなあと挨拶を交わしたら無理やり一真が僕の隣に座ってきたんだ。元いた男子生徒を押しのけて。
いやまあ、知り合いがいたっていうこれが、唯一の救いだったわけなんだけどね。
《はいそこー、おしゃべりしねーで聞くですー》
金髪生徒会長の青い瞳が僕たちの座っている場所に向けられた……。あんまり大きな声で話してないのに……耳いいなあ。
「チィ……。ほらみろ」
「いや、これ喋ってたからだよね。僕が顔伏せてたの関係ないよね」
生徒会長の注意を受けて僕と一真はおとなしく、そこからあと40分はある入学式を耐えることになった。
……——。
「酒じゃ。酒が要る」
朝、学校へ行く千草を見送ってからここずっと、温泉に浸かっていた銀露はなにやら思い出したかのようにその言葉を口にした。
「そろそろ稲荷霊山の大行列が行われる時期のはずじゃが……」
頭の獣耳をピンと立てながら湯船の縁に片腕をかけ、湯船に浮かべた酒盆からおちょこを取り、グイッと日本酒を呷る。口の端から溢れた艶やかな酒の雫が、湯に浮かぶ豊満な胸の谷間に滑り落ち、濡らした。
すでに酒ならあるように見えるのだが……。
「残り少なかった霊吟醸酒は、酒瓶ごと千草が割ってしもうたからのー」
どうやら、この神様が求めているのは普通の酒ではないらしい。
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