僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
19節ー洗いっこー
「子鞠、あまり兄様にご迷惑をおかけしてはいけませんよ」
「はーい……」
そのあとすぐに汰鞠がここにきて、子鞠に注意したんだけど僕は迷惑してないってことを伝えると……。
「兄様はお優しゅうございますから」
「いやいや……普通だよ普通」
真っ裸だった子鞠と違って、汰鞠はちゃんと体に布を巻いてる。
落ち着いた立ち振る舞いといい、下手すると銀露よりしっかりしてるんじゃないかと。
「ぬし、今なにか失礼なことを考えておったじゃろ」
「かんがえてなかとです」
蛇姫様をほっぽって、銀露が僕に対して詰め寄ってきた。ついでに我が神使である子鞠の頭を撫でながら……。
「汰鞠、苦労をかけたの」
「いえ、少々取り乱した部分はありましたが、問題ありませんでした」
その汰鞠の言葉を聞いて、なぜか僕の膝の上の子鞠がしゅんとしてしまった。
「どうしたの?」
「ねえさま、おこるとこわいの……」
「……確かに、おこると怖そうだもんね」
「こわかった……」
かなり暴れてたって話だからなあ。子鞠もあんまりお姉ちゃんが怒ってるところを見たくないんだろうし……。
しゅんとしてるお耳を優しく撫でてあげておいた。
「銀狼様、お背中をお流し致します」
「うむ」
「じゃあ、こまあにさまのおせなかごしごしする……」
「えっ、ほんとに? じゃあ後で子鞠の背中も流してあげるよ」
「わぁ……!」
汰鞠が銀露の背中を流し、子鞠が僕の背中を流す。そしてその様子を温泉に浸かりながら眺める蛇姫様がどこか微笑ましそう。
「銀狼、きさんの神使は随分と優秀じゃなぁ。わっちの者たちにも見習わせたいほどよ」
「当たり前じゃろう。自慢の娘たちじゃ、のう?」
「目をかけていただき、ありがたいことでございます」
「銀狼さまだいすき……!」
銀露の長い銀髪を丁寧に洗いながら汰鞠は笑顔でそう答え、子鞠は僕の頭をひたすらワシャワシャして楽しみながらそう答えた。
そのことに銀露は優しい笑みを浮かべ……。
「数がおるうぬらと違い、わしらは少ないからの」
「そんな優秀な神使がおるのなら、その人の子わっちにくりゃんせ」
「ぜっっったいにやらん! 千草はわしのじゃ。それにうぬはただこやつを利用したいだけじゃろうが」
「なにおう。まあその通りではありんす。しかし、きさんがそこまでして囲う人の子に興味を抱くなという方が酷だとは思わんかや?」
またも喧嘩が始まってしまいそうなところを、なんとか僕が宥めて大人しくさせたんだけど……。
なんだかじろじろと蛇姫様が僕の体を見てきているような……。
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