僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第18節50部ー思わぬ大ピンチー
しばらく空の旅を満喫していたんだけど、高度が上がって遊郭街が模型のように見えるほどになってきた頃に朱音さんから注意がかかった。
「もう少ししたら、口を閉じておいてくださいっす。見張りの中をくぐるので、くれぐれもお願いしまっす」
ということで僕らは一切話さないようになった。子鞠はあぐらをかいた僕の上にその小さなお尻を下ろしてちょこんと座って、銀露は客車の壁に背を預けて目を軽く閉じてしまっていた。
木の格子がはめられた窓から外の様子が見えるんだけど……なるほど、朱音さんの注意の意味がそこら中に!
遠くから見ていたら全く見えなかった見張りとやらは、空を悠々と飛ぶ船や、これもまた空を飛ぶ馬に引かれた荷台に乗って辺りを警戒してるみたいだ。
それも、すごい数だ。見つかったら大変なことになるぞ……。
陽気な朱音さんも、気を張って口を閉じ、見つからないように結界を張っているみたいだ。
俄然僕も緊張してきた。銀露や子鞠は落ち着いたものだけどね。
なんだか僕だけ緊張してバカみたいに思えてくるな。こうなりゃ堂々としてやるさ。今は僕がしっかりしないといけないんだから。
「……!!」
と思ったところだった。窓のそばを通った見張りの神使が訝しげにこっちを見たんだ。
そう、気を入れなおして息を大きく吸ったのと同時に。
その音でさえ気づかれるほど近くにいたのか……!
「……」
体を動かすこともできずそのまま息を止めて耐えていると、すぐにその見張りはどこかに行ってしまった。
ほっとして、音を立てないように息を吐き、ゆっくりと吸う。
そんな様子を、片目を薄く開けて見たのか、銀露がにやにやと楽しそうに笑ってる。余裕あるなあと、ちょっと頼もしく思えて僕も落ち着くことができた。
ただ、ほっとしたのもつかの間、思わぬところから最悪の事態に陥ることに。
さっきまで耳を伏せていた子鞠が、耳をピンと立てて周りの音を拾おうとするかのごとく、くりくりと動かし始めたんだ。
子鞠は今、僕の膝の上。ちょうど立った耳が僕の鼻にをくすぐって……うわ、くしゃみが出そうです。
やばい、かなり景気のいいのが出そう。ちょっとした音すら立てちゃダメなのに!
「……!!」
僕の様子の変化に気がついたのか、銀露はどうしたのかと怪訝な表情を浮かべていた。でもやばい、くしゃみ出る!!
(っ……ぁ……っ)
「くしっ!」
……。
「……ごめんなさい、銀狼さま、あにさま……」
子鞠がくしゃみするんかーい!!
一瞬の静けさののちの、申し訳なさそうな子鞠の謝罪。時間が止まったかのようなこの空間で、次に発せられたのは朱音さんの言葉だった。
「ヤッバ」
間違いない、見張りに見つかったんだ。にわかに外がザワザワし始めて、見張りから声がかけられた。
「何者だ貴様!」
「えーっと、護り火の朱音と申しまっす。ちょっとお仕事でここまで……」
「護り火の朱音……ああ、なるほどな。噂には聞き及んでいる。で、どのような仕事で、身を隠しここまで来た?」
「運びの仕事っす」
「この先は通せん。運びならば別の道をいけ」
「いえ、楼閣に運び物なんすけどいいすか?」
「楼閣に……? 蛇姫様には聞いていないが。許可はもらってあるのか?」
そんな会話を客車の中で聞いていて、どことなくこのままスルーできるんじゃないかと思っていたら……。
「許可なんてもらってないって。いいからさっさと通してほしいいっす。朱音さん怒っちゃうぜー」
「中を確認してからだ」
その会話のすぐ後だった。
凄まじい牛車の加速とともに、僕と子鞠の体が客車の壁に打ち付けられたのは。
「もう少ししたら、口を閉じておいてくださいっす。見張りの中をくぐるので、くれぐれもお願いしまっす」
ということで僕らは一切話さないようになった。子鞠はあぐらをかいた僕の上にその小さなお尻を下ろしてちょこんと座って、銀露は客車の壁に背を預けて目を軽く閉じてしまっていた。
木の格子がはめられた窓から外の様子が見えるんだけど……なるほど、朱音さんの注意の意味がそこら中に!
遠くから見ていたら全く見えなかった見張りとやらは、空を悠々と飛ぶ船や、これもまた空を飛ぶ馬に引かれた荷台に乗って辺りを警戒してるみたいだ。
それも、すごい数だ。見つかったら大変なことになるぞ……。
陽気な朱音さんも、気を張って口を閉じ、見つからないように結界を張っているみたいだ。
俄然僕も緊張してきた。銀露や子鞠は落ち着いたものだけどね。
なんだか僕だけ緊張してバカみたいに思えてくるな。こうなりゃ堂々としてやるさ。今は僕がしっかりしないといけないんだから。
「……!!」
と思ったところだった。窓のそばを通った見張りの神使が訝しげにこっちを見たんだ。
そう、気を入れなおして息を大きく吸ったのと同時に。
その音でさえ気づかれるほど近くにいたのか……!
「……」
体を動かすこともできずそのまま息を止めて耐えていると、すぐにその見張りはどこかに行ってしまった。
ほっとして、音を立てないように息を吐き、ゆっくりと吸う。
そんな様子を、片目を薄く開けて見たのか、銀露がにやにやと楽しそうに笑ってる。余裕あるなあと、ちょっと頼もしく思えて僕も落ち着くことができた。
ただ、ほっとしたのもつかの間、思わぬところから最悪の事態に陥ることに。
さっきまで耳を伏せていた子鞠が、耳をピンと立てて周りの音を拾おうとするかのごとく、くりくりと動かし始めたんだ。
子鞠は今、僕の膝の上。ちょうど立った耳が僕の鼻にをくすぐって……うわ、くしゃみが出そうです。
やばい、かなり景気のいいのが出そう。ちょっとした音すら立てちゃダメなのに!
「……!!」
僕の様子の変化に気がついたのか、銀露はどうしたのかと怪訝な表情を浮かべていた。でもやばい、くしゃみ出る!!
(っ……ぁ……っ)
「くしっ!」
……。
「……ごめんなさい、銀狼さま、あにさま……」
子鞠がくしゃみするんかーい!!
一瞬の静けさののちの、申し訳なさそうな子鞠の謝罪。時間が止まったかのようなこの空間で、次に発せられたのは朱音さんの言葉だった。
「ヤッバ」
間違いない、見張りに見つかったんだ。にわかに外がザワザワし始めて、見張りから声がかけられた。
「何者だ貴様!」
「えーっと、護り火の朱音と申しまっす。ちょっとお仕事でここまで……」
「護り火の朱音……ああ、なるほどな。噂には聞き及んでいる。で、どのような仕事で、身を隠しここまで来た?」
「運びの仕事っす」
「この先は通せん。運びならば別の道をいけ」
「いえ、楼閣に運び物なんすけどいいすか?」
「楼閣に……? 蛇姫様には聞いていないが。許可はもらってあるのか?」
そんな会話を客車の中で聞いていて、どことなくこのままスルーできるんじゃないかと思っていたら……。
「許可なんてもらってないって。いいからさっさと通してほしいいっす。朱音さん怒っちゃうぜー」
「中を確認してからだ」
その会話のすぐ後だった。
凄まじい牛車の加速とともに、僕と子鞠の体が客車の壁に打ち付けられたのは。
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