僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第18節33部ー銀狼様を護る僕ー
槐さんが持ってきてくれた着物は、いつも銀露が着ている黒を基調とした着物。
月や雲の金刺繍は入ってなかったりするけど、それでも見た目的には十分綺麗な着物だった。
いつもなら神気を使って、自分で着付けをする銀露だけど今はそんな余裕はないみたいで、槐さんに着付けをしてもらっていた。
「髪はぬしに手を入れてもらいたいのじゃが」
「髪? 僕、いつもの銀露の髪型のようにはできないよ?」
「よい。後ろに束ねる程度で十分じゃ。その代わり、丁寧に梳いてほしい」
「……ん、わかった」
鏡の前に座る銀露の後ろに回って、槐さんに渡された漆塗りの櫛でさらさらと銀露の髪を梳いていく。
撫でるように、ゆっくりと。ふんわりした艶のある銀色の髪。
長さがあるからひと束手に取ると少し重みを感じる幻想的な髪。
「むぅ、ぬしよ、子扱いはいただけんぞ」
「あはは、ごめんごめん」
梳き終わって銀露の小さな頭をお耳を避けながら撫でていると、むすっとしながらそんな言葉で僕を制してきた。
「ごめんね、僕のせいで……」
なにも、面白がってやっていたわけじゃない。鏡に映った僕の暗い顔を見て、銀露もそれはわかっていたみたい。
「ぬしが気に病む必要はない。腑抜けておったわしがわるいのじゃ。ぬしを護ると言っておきながら、この体たらく……。情けないのにもほどがある。逆に罵られても何も言えん失態じゃ」
そんなことを、真剣な表情で鏡に映った自分の顔を見据えて言う銀露だけど、そんなの仕方ないことだと思うんだ。
正確には何年かわからないけど、長い間山の祠に封じられてきた銀露が、人にとって永遠とも思えるような時間を経て旧知の仲に会ったんだ。
決して、顔には出さないし態度にも出さなかったけど、そう……楽しかったんだろう。
嬉しかったんだろう。
それこそ、僕が黒狼様に嫉妬してしまうくらいに、銀露は楽しんでたはずなんだ。
でも、そんな感情を押し殺して僕を護るっていう約束を守ってもらっても……多分、それはこの先長続きしない。
僕は、銀露とずっと一緒にいたい。
「いいよ、銀露。そんな気を張らなくて」
「……」
「今回のことは、僕が自分でなんとかする」
「ぬ、それではわしがそばにおる意味が……」
「意味なんていらない。銀露がこうしてここにいてくれることが僕にとって重要なことだから」
これは僕視点での言葉だ。これは、銀露にとって納得できる言葉じゃない。一方的な気持ちの押し付けだ。
「言ったでしょ。僕は銀露がずっと一緒に居たいって思えるような男になるって」
「う……うむ。忘れるわけなかろ……」
ふいに、銀露の頰に赤みがさして視線が泳ぐ。思い出して、どこか照れているように。
「護られてるばっかりじゃ、僕はそういう男になれないと思う。銀露の好みはどうあれ、僕が納得できない」
「ぅむ……ちょ、ぬし……。こんな時にそんな真剣な顔で……」
「だから、僕がなんとかするし……。今の銀露は、僕が護りたい」
「……っ」
僕がそう言うと、ぼっと湯気がでるんじゃないかと思うほど顔を赤くして、耳をぴんと立てて、ついでに尻尾も思いっきり立たせた銀露。
膝立ちで後ろにいた僕は、銀露の尻尾を顎に受けて尻餅をついてしまった。
「くぅっ、おい! ぬし! ずるくないかと思うのじゃが!」
「ずるいってなんでさっ」
「それを今言うか! こう見えて、わしは結構落ち込んでおる! 落ち込んでおるのじゃ! 弱みにつけこんで、そんなっ……そんなっ……ずるいじゃろ!」
立ち上がって振り返って、顔を真っ赤にしたまま色々な感情が入り混じる凄まじい形相を浮かべて、銀露はそうやってまくし立ててきた。
でも、自分でも何を言っているのかあんまりわかってないみたいだ。
月や雲の金刺繍は入ってなかったりするけど、それでも見た目的には十分綺麗な着物だった。
いつもなら神気を使って、自分で着付けをする銀露だけど今はそんな余裕はないみたいで、槐さんに着付けをしてもらっていた。
「髪はぬしに手を入れてもらいたいのじゃが」
「髪? 僕、いつもの銀露の髪型のようにはできないよ?」
「よい。後ろに束ねる程度で十分じゃ。その代わり、丁寧に梳いてほしい」
「……ん、わかった」
鏡の前に座る銀露の後ろに回って、槐さんに渡された漆塗りの櫛でさらさらと銀露の髪を梳いていく。
撫でるように、ゆっくりと。ふんわりした艶のある銀色の髪。
長さがあるからひと束手に取ると少し重みを感じる幻想的な髪。
「むぅ、ぬしよ、子扱いはいただけんぞ」
「あはは、ごめんごめん」
梳き終わって銀露の小さな頭をお耳を避けながら撫でていると、むすっとしながらそんな言葉で僕を制してきた。
「ごめんね、僕のせいで……」
なにも、面白がってやっていたわけじゃない。鏡に映った僕の暗い顔を見て、銀露もそれはわかっていたみたい。
「ぬしが気に病む必要はない。腑抜けておったわしがわるいのじゃ。ぬしを護ると言っておきながら、この体たらく……。情けないのにもほどがある。逆に罵られても何も言えん失態じゃ」
そんなことを、真剣な表情で鏡に映った自分の顔を見据えて言う銀露だけど、そんなの仕方ないことだと思うんだ。
正確には何年かわからないけど、長い間山の祠に封じられてきた銀露が、人にとって永遠とも思えるような時間を経て旧知の仲に会ったんだ。
決して、顔には出さないし態度にも出さなかったけど、そう……楽しかったんだろう。
嬉しかったんだろう。
それこそ、僕が黒狼様に嫉妬してしまうくらいに、銀露は楽しんでたはずなんだ。
でも、そんな感情を押し殺して僕を護るっていう約束を守ってもらっても……多分、それはこの先長続きしない。
僕は、銀露とずっと一緒にいたい。
「いいよ、銀露。そんな気を張らなくて」
「……」
「今回のことは、僕が自分でなんとかする」
「ぬ、それではわしがそばにおる意味が……」
「意味なんていらない。銀露がこうしてここにいてくれることが僕にとって重要なことだから」
これは僕視点での言葉だ。これは、銀露にとって納得できる言葉じゃない。一方的な気持ちの押し付けだ。
「言ったでしょ。僕は銀露がずっと一緒に居たいって思えるような男になるって」
「う……うむ。忘れるわけなかろ……」
ふいに、銀露の頰に赤みがさして視線が泳ぐ。思い出して、どこか照れているように。
「護られてるばっかりじゃ、僕はそういう男になれないと思う。銀露の好みはどうあれ、僕が納得できない」
「ぅむ……ちょ、ぬし……。こんな時にそんな真剣な顔で……」
「だから、僕がなんとかするし……。今の銀露は、僕が護りたい」
「……っ」
僕がそう言うと、ぼっと湯気がでるんじゃないかと思うほど顔を赤くして、耳をぴんと立てて、ついでに尻尾も思いっきり立たせた銀露。
膝立ちで後ろにいた僕は、銀露の尻尾を顎に受けて尻餅をついてしまった。
「くぅっ、おい! ぬし! ずるくないかと思うのじゃが!」
「ずるいってなんでさっ」
「それを今言うか! こう見えて、わしは結構落ち込んでおる! 落ち込んでおるのじゃ! 弱みにつけこんで、そんなっ……そんなっ……ずるいじゃろ!」
立ち上がって振り返って、顔を真っ赤にしたまま色々な感情が入り混じる凄まじい形相を浮かべて、銀露はそうやってまくし立ててきた。
でも、自分でも何を言っているのかあんまりわかってないみたいだ。
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