幻の歯車公爵家の姫と水の精霊の末裔の騎士
新しい名前を与えられたナムグは愛らしい姫君に従うことになりました。
「本当に行くの?」
シルベスターの問いに、素直にウンウンと頷くのは、傷の治りきっていない、所々に薬を塗り、傷を縫った所は毛が刈られ、ガーゼに包帯姿のナムグ。
『き、嫌われていても、良いんです。弱虫な私を救って下さった姫様にお礼だけでも……』
「腰が低いねぇ、君は」
ローバートは、マルムスティーンの騎獣養成所で優秀な成績を残し、そしてある騎士の卵に譲る為、送り出そうとしたのをシェイズ子爵家が横取りした形である。
その卵がアルファーナだった。
その上シェイズ子爵家は、ジェディンスダード公爵家に一番近い分家筋だと、自分達がジェディンスダードの正当な後継者と名乗り、あれこれ嫌がらせをすることで有名である。
流石に堪忍袋の緒の切れかかったエドヴィンが国王に訴え、正当な後継者と認められる書簡、ないしはペンダントなりを所持していない者を後継者に選ぶことはないと宣言したばかりである。
その嫌がらせを、このローバートが被害を受けたとなると、マルムスティーン家の威信にかけて、潰してくれると内心考えているところである。
ローバートは、ぽーっとした声で、
『姫様はとてもお優しかったです。いつも頭を撫でてくれて、あの主とは呼びたくない人間のいない隙に、翼の手入れをして下さいました。私たち一族は暑さに弱く、砂が大敵です。それを知っていて、目を洗ってくれて、毛皮をブラシで……本当にご恩をお返ししたいのに、できませんよね……』
シューンと項垂れる。
『私は、あの屋敷に戻らなくてはいけないですし……姫様にはふさわしい……』
「はいはい。あ、ウィリアム?」
軽く入浴して着替えてきた青年である。
「あ、叔父上。それに、この子は?」
「シェイズ子爵のバカボンに苛められて、ファーちゃんがかばったナムグのローバートだよ。本当は温厚だしこのクルンクルン見て。可愛い女の子でしょう?」
「わぁぁ……やっぱり女の子だったんですか?美少女ですね。でも、ローバートって……」
『元々はローライディアと言います。若君』
丁寧に挨拶をする。
まだ完全に成人していない、人間で言う成人前の初々しい少女に、
「うわぁ……そう言えば家のナムグもそわそわしていたなぁ……。シルゥ叔父上、いじめっこではないのですが、不器用な家のナムグとお見合い駄目ですか?」
「それはいいね。ロードは、とても賢くて頭のいいナムグだから」
『は、ハワワワ‼ろ、ロード様と言うのは、あの、だ、男爵の?』
おろおろと言う。
「あぁ、父がナーガ・デール・フィルセラの長男、サージェンス・ロードだよ。嫌いかな?」
ウェイトの問いかけに、プルプルと首を振る。
男爵と言うのは、先代国王が、母は同じでも国王である父親の血を引いていない兄が謀反を起こそうとするのを、寸でで止めた先代マガタ公爵と先代カズール伯爵にお礼の品物を、そして、怪我を負っても主人を守り、戦いのサポートをしたナーガ・デールにフィルセラ家と言う実際の爵位に家屋敷、土地を与えた。
本人は、土地を貰っても意味がないので、土地屋敷はロイド公爵に預け、名前だけ用いている。
『そ、そんな、あんなに素敵な雲上の方です。あ、憧れてて……あぁぁ‼』
ちらっと姿を見せる、父親似の深紅の毛並みのナムグ界でもレベルの違うサージェンス・ロード・フィルセラの姿に挙動不審になる。
「何しているの?」
『は、恥ずかしくて、姿を隠してます。毛を刈られて、元々可愛くないのに……その姿を、見せるのは……』
本人は必死だが、隠れる場所が小柄なシルベスターの後ろにちょこんとお座り……そして本人は隠れていると思い、ロードをチラチラ見ている。
その余りの可愛らしさに、シルゥはギュッと傷に触らない程度に抱きつき、
「うわぁぁ……可愛いよ~‼ローライディア。どうしよう‼家のエーナのお嫁さんに‼」
「叔父上、ロードが怒ってますよ。この子は私の恋人だって」
『えぇぇぇぇ‼そ、そんな、わ、私は……』
もじもじする姿も、本当に可愛いナムグに、今まで黙っていたロードが、
『駄目か?嫌われただろうか?』
とそっと聞き、ローライディアはブンブン首を振る。
『き、嫌いじゃありません‼ほ、本当に……こんな姿で、恥ずかしいのですが、構いませんか?』
『構わない。ありがとう』
元々口下手で父親似のきつい顔立ちの美男がぎこちないながら、告白した~‼
主のウェイトもビックリである。
「ロードが口説いた‼出来たのか?」
『ウェイトも頑張れ。私よりもウェイトは優しい』
『ロ、ロード様はと、とっても優しいです。こ、こんな姿の私に……』
『表の傷は癒えるが、心の傷は時間がかかる。傍にいるから、一緒に治そう』
流石、ウェイトのナムグである。
心配そうに、それでも歯の浮くような台詞を吐く。
その衝撃にウェイトは、自分の影響の強さを思い知ったのだった。
しかし、それを衝撃とは思わず、シルゥは、
「ローライディア?名前を変えない?辛い思いはもう忘れて新しい名前で、どうかな?」
『えっ?えっと……』
「ノルマリスは?確か、グランディアの花で、花言葉は『貴方の色に染まります』だったと思うよ」
直球の名前に、ロードも硬直する。
「駄目?綺麗な名前だと思うんだけど……」
コクコクと頷くロードに、ニッコリと、
「雨の時期に咲く花で、昔は『心がわり』と言われたんだって。でも、土の成分が酸性やアルカリ性の違いで色が変わるの。だから、ロードがどうかなぁ?頑張れる?」
『ど、努力します‼』
『エェ‼あの、あの、それは……』
「大丈夫大丈夫。ファーもいるから」
案内されると、シルゥはノックをして、
「フィア。ウェイトとお客様だよ」
「はーい」
扉が開けられ、フィアは目を丸くする。
「あれ?わぁ、ロードに、君は……」
フワフワクルクルの可愛らしいナムグだが、包帯を巻いたり、ガーゼを貼られ痛々しい。
「あ、あのナムグさんです‼」
ファーは近づき、
「大丈夫でしたか?ナイフで切ったり、刺されて……」
瞳を潤ませるファーに、ナムグはスリスリと頬を寄せる。
『姫様。本当に庇って戴きありがとうございます』
「それよりも……」
「あ、ファーちゃん。この子は、前の主の元に戻すことは国王の命令により禁じられ、新しい主を決めるようにと命じられたんだ」
「えっ?そ、それは良かったね‼あんな酷いことする人のところに、戻らなくて良かったね‼」
「でね?実はね?元々育てていたのは、僕たちの一族のマガタ公爵領の牧場でね、騎士の館に入る卵ちゃんにこの子を譲る予定だったのに、取り上げていったんだよ。シェイズ子爵が。シェイズ子爵と父さまがもめていてね、嫌がらせをするの。怪我をさせるなんて許したくない。だからね?ファーちゃん。元々主にって選ばれていたのは君なの。この子を従者で姉妹のように大事にしてくれるかな?」
シルゥとナムグを見たファーは、
「私のお友達として一緒にいてくれる?えっと、お名前は……」
『ノルマリスです。姫様もお花のお名前ですよね』
「じゃぁ、私のことはリリーって呼んでね?私はマリーってよぶね?」
『姫様を……』
「リリーだよ?ね?マリー」
ファーはマリーの目の下にキスをする。
「仲良くしようね?」
『ひ……はい、リリー』
可愛らしい主従に、
「わぁ、可愛いね。リアンもお友達だね」
とフィアはにこにこしたのだった。
シルベスターの問いに、素直にウンウンと頷くのは、傷の治りきっていない、所々に薬を塗り、傷を縫った所は毛が刈られ、ガーゼに包帯姿のナムグ。
『き、嫌われていても、良いんです。弱虫な私を救って下さった姫様にお礼だけでも……』
「腰が低いねぇ、君は」
ローバートは、マルムスティーンの騎獣養成所で優秀な成績を残し、そしてある騎士の卵に譲る為、送り出そうとしたのをシェイズ子爵家が横取りした形である。
その卵がアルファーナだった。
その上シェイズ子爵家は、ジェディンスダード公爵家に一番近い分家筋だと、自分達がジェディンスダードの正当な後継者と名乗り、あれこれ嫌がらせをすることで有名である。
流石に堪忍袋の緒の切れかかったエドヴィンが国王に訴え、正当な後継者と認められる書簡、ないしはペンダントなりを所持していない者を後継者に選ぶことはないと宣言したばかりである。
その嫌がらせを、このローバートが被害を受けたとなると、マルムスティーン家の威信にかけて、潰してくれると内心考えているところである。
ローバートは、ぽーっとした声で、
『姫様はとてもお優しかったです。いつも頭を撫でてくれて、あの主とは呼びたくない人間のいない隙に、翼の手入れをして下さいました。私たち一族は暑さに弱く、砂が大敵です。それを知っていて、目を洗ってくれて、毛皮をブラシで……本当にご恩をお返ししたいのに、できませんよね……』
シューンと項垂れる。
『私は、あの屋敷に戻らなくてはいけないですし……姫様にはふさわしい……』
「はいはい。あ、ウィリアム?」
軽く入浴して着替えてきた青年である。
「あ、叔父上。それに、この子は?」
「シェイズ子爵のバカボンに苛められて、ファーちゃんがかばったナムグのローバートだよ。本当は温厚だしこのクルンクルン見て。可愛い女の子でしょう?」
「わぁぁ……やっぱり女の子だったんですか?美少女ですね。でも、ローバートって……」
『元々はローライディアと言います。若君』
丁寧に挨拶をする。
まだ完全に成人していない、人間で言う成人前の初々しい少女に、
「うわぁ……そう言えば家のナムグもそわそわしていたなぁ……。シルゥ叔父上、いじめっこではないのですが、不器用な家のナムグとお見合い駄目ですか?」
「それはいいね。ロードは、とても賢くて頭のいいナムグだから」
『は、ハワワワ‼ろ、ロード様と言うのは、あの、だ、男爵の?』
おろおろと言う。
「あぁ、父がナーガ・デール・フィルセラの長男、サージェンス・ロードだよ。嫌いかな?」
ウェイトの問いかけに、プルプルと首を振る。
男爵と言うのは、先代国王が、母は同じでも国王である父親の血を引いていない兄が謀反を起こそうとするのを、寸でで止めた先代マガタ公爵と先代カズール伯爵にお礼の品物を、そして、怪我を負っても主人を守り、戦いのサポートをしたナーガ・デールにフィルセラ家と言う実際の爵位に家屋敷、土地を与えた。
本人は、土地を貰っても意味がないので、土地屋敷はロイド公爵に預け、名前だけ用いている。
『そ、そんな、あんなに素敵な雲上の方です。あ、憧れてて……あぁぁ‼』
ちらっと姿を見せる、父親似の深紅の毛並みのナムグ界でもレベルの違うサージェンス・ロード・フィルセラの姿に挙動不審になる。
「何しているの?」
『は、恥ずかしくて、姿を隠してます。毛を刈られて、元々可愛くないのに……その姿を、見せるのは……』
本人は必死だが、隠れる場所が小柄なシルベスターの後ろにちょこんとお座り……そして本人は隠れていると思い、ロードをチラチラ見ている。
その余りの可愛らしさに、シルゥはギュッと傷に触らない程度に抱きつき、
「うわぁぁ……可愛いよ~‼ローライディア。どうしよう‼家のエーナのお嫁さんに‼」
「叔父上、ロードが怒ってますよ。この子は私の恋人だって」
『えぇぇぇぇ‼そ、そんな、わ、私は……』
もじもじする姿も、本当に可愛いナムグに、今まで黙っていたロードが、
『駄目か?嫌われただろうか?』
とそっと聞き、ローライディアはブンブン首を振る。
『き、嫌いじゃありません‼ほ、本当に……こんな姿で、恥ずかしいのですが、構いませんか?』
『構わない。ありがとう』
元々口下手で父親似のきつい顔立ちの美男がぎこちないながら、告白した~‼
主のウェイトもビックリである。
「ロードが口説いた‼出来たのか?」
『ウェイトも頑張れ。私よりもウェイトは優しい』
『ロ、ロード様はと、とっても優しいです。こ、こんな姿の私に……』
『表の傷は癒えるが、心の傷は時間がかかる。傍にいるから、一緒に治そう』
流石、ウェイトのナムグである。
心配そうに、それでも歯の浮くような台詞を吐く。
その衝撃にウェイトは、自分の影響の強さを思い知ったのだった。
しかし、それを衝撃とは思わず、シルゥは、
「ローライディア?名前を変えない?辛い思いはもう忘れて新しい名前で、どうかな?」
『えっ?えっと……』
「ノルマリスは?確か、グランディアの花で、花言葉は『貴方の色に染まります』だったと思うよ」
直球の名前に、ロードも硬直する。
「駄目?綺麗な名前だと思うんだけど……」
コクコクと頷くロードに、ニッコリと、
「雨の時期に咲く花で、昔は『心がわり』と言われたんだって。でも、土の成分が酸性やアルカリ性の違いで色が変わるの。だから、ロードがどうかなぁ?頑張れる?」
『ど、努力します‼』
『エェ‼あの、あの、それは……』
「大丈夫大丈夫。ファーもいるから」
案内されると、シルゥはノックをして、
「フィア。ウェイトとお客様だよ」
「はーい」
扉が開けられ、フィアは目を丸くする。
「あれ?わぁ、ロードに、君は……」
フワフワクルクルの可愛らしいナムグだが、包帯を巻いたり、ガーゼを貼られ痛々しい。
「あ、あのナムグさんです‼」
ファーは近づき、
「大丈夫でしたか?ナイフで切ったり、刺されて……」
瞳を潤ませるファーに、ナムグはスリスリと頬を寄せる。
『姫様。本当に庇って戴きありがとうございます』
「それよりも……」
「あ、ファーちゃん。この子は、前の主の元に戻すことは国王の命令により禁じられ、新しい主を決めるようにと命じられたんだ」
「えっ?そ、それは良かったね‼あんな酷いことする人のところに、戻らなくて良かったね‼」
「でね?実はね?元々育てていたのは、僕たちの一族のマガタ公爵領の牧場でね、騎士の館に入る卵ちゃんにこの子を譲る予定だったのに、取り上げていったんだよ。シェイズ子爵が。シェイズ子爵と父さまがもめていてね、嫌がらせをするの。怪我をさせるなんて許したくない。だからね?ファーちゃん。元々主にって選ばれていたのは君なの。この子を従者で姉妹のように大事にしてくれるかな?」
シルゥとナムグを見たファーは、
「私のお友達として一緒にいてくれる?えっと、お名前は……」
『ノルマリスです。姫様もお花のお名前ですよね』
「じゃぁ、私のことはリリーって呼んでね?私はマリーってよぶね?」
『姫様を……』
「リリーだよ?ね?マリー」
ファーはマリーの目の下にキスをする。
「仲良くしようね?」
『ひ……はい、リリー』
可愛らしい主従に、
「わぁ、可愛いね。リアンもお友達だね」
とフィアはにこにこしたのだった。
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