連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第8話:欲しい
サラとは会う約束をした。
でもそれで、僕が誰かと恋人になるかなんて考えてない。
結局、僕はどうするんだろうか。
皆の気持ちを無碍にしたくないし、どちらの気持ちも強いから断れない。
2人とも、なんて考えは論外だろう。
サラを選べば僕は別世界に行くし、クオンを選べば、僕は……皇帝になるんだろうか?
「怖いですにゃー……」
「ミャーン」
僕の不安な声に呼応するかのように、サラは僕の腕の中で鳴いた。
可愛い鳴き声に、思わず手を伸ばしてサラの頭を撫でる。
サラは僕に撫でられると、目を細めて耳をパタパタさせた。
今日の作業が終了した就寝時間、僕とサラは2人でベッドの上に座っている。
僕が考え事をしていると、サラは僕に構ってもらおうとして叩いて来たりする。
「むーっ。サラを選んでもクオンを選んでも、どっちもめんどくさそうだなぁ〜……」
「ニャッ!?」
〈【ヤプタレア】に帰ったら高校生活に戻るだけでしょ!?〉
「あ、そうなんだ。じゃあサラの方がいいけどなぁ〜っ」
「ニャアッ」
然りと言うようにウンウンと頷き続けるサラ。
クオンの今後を考えると、ついて行くのが大変だし控えたいんだけど、そうは言っても立場とか抜きにすればクオンの気持ちも受け入れてあげたいし……。
「僕が2人いれば良いのにね?」
〈じゃあそうすれば良いんじゃない?〉
「え?」
サラのボードにはそんな文字が浮かんでいる。
でも僕は、魔法を使っても2人になることはできない。
どういうこと?
サラの首元にあるボードを僕は手に持ち、移り変わる文字を読んだ。
「"貴方が記憶を取り戻した時、全能の能力も取り戻す"……」
読み上げた言葉の文字は、きっとそのまんまの意味だろう。
サラはたまにそのことをボードに書いていた。
でもその力はこの世界で使うと神様の迷惑になるからと使ってはいけないらしく、バスレノスのために使えないなら今の僕が頑張るしかない。
でも、戦いにならなければお払い箱、かな。
側近をやって、戦う術を互いに競い合ってきた。
それももう、終わりなのかな……。
「この人生さ、家族が死んだり、城が乗っ取られたり、色々と大変だけど、いろんな出会いがあって、悪いものじゃなかったと思うんだ……」
「ニャー……」
「まだ死ぬわけじゃないけどね……。僕死なないし。あははっ、サラは可愛いですにゃ〜っ」
「みゃーん♪」
褒めるとデレデレするサラを撫で回し、笑い合う。
たった1人の家族、この笑顔に僕は癒された。
「今日はもう寝ようね。おやすみ、サラ」
「ニャァ」
短く返事をすると、サラは僕の足元から枕元に移動した。
目の前で寝るらしい、これもいつもの事だ。
それもまた可愛いなと思いつつ、僕も薄い掛け布団をベッドに掛ける。
「着替えるよーっ。見たら変態ねこさんだからね!」
「…………」
返事はなかったけど、僕は半袖と長ズボンのパジャマに着替える。
この世界の男性は長襦袢という白くて長い服一枚で寝るらしいけど、前世がある分、僕には抵抗があってパジャマを作った。
黄色い色に水玉模様のあるそのパジャマに着替えていると、コンコンとノックする音があった。
「どうぞ〜っ」
着替えが済んでから入室の合図をすると、外からはゆっくりとクオンがやってきた。
銀髪はすでに降ろされ、彼女の服の色であるネグリジェ姿だった。
寝る前だと思うけど、どうしたんだろう?
「どーしたのー? お腹すいた?」
「いえ……。その、少し一緒に居ても良いですか?」
「いいよ〜」
何も考えずに返事をすると、クオンはいそいそと部屋の中に入ってきた。
ソワソワしてる姿を見るとどうしたのか声をかけたくなっちゃうけど、僕の事好きだから、そういう事なんだと思う。
だから敢えて何も言わず、クオンの言葉を待った。
「…………」
「……?」
「……サラが居る手前、ミズヤに手を出し辛いですね」
「にゃーです?」
手を出すっていうのは、きっと語弊だよね。
後ろに振り返ると、サラが凄い睨んでるし。
「……ミズヤ。とりあえず座りましょう」
「うん。今日も疲れたからね〜」
そういうわけで、僕とクオンはベッドの端に座った。
するとサラも僕らの方にやって来て、クオンから反対側の、僕から見て左側に腰掛ける。
僕は顔を右に向け、改めて訊いてみた。
「それで、どーしたのー?」
「……特に、用事はないんです」
「……そっか。でも、側に居ると嬉しいもんね」
「はい……」
クオンは囁くようなか細い声で頷き、下を向いてしまった。
突如、彼女は僕の右手を絡めとり、手のひらを重ねて繋いでくる。
クオンが積極的なアプローチをしてくるのは珍しくて、僕も少しドキドキして来た。
「…………」
「…………」
クオンが何も言わずに手を握り続けて、僕は黙って時間が経つのを待っていた。
僕の意識がクオンだけに向かないように、サラは僕の左手を舐めたり踏んだり、いろんな手段で抵抗する。
どちらも可愛くて、僕は気付かれないように微笑んだ。
「……ミズヤ。ただ無言でいるだけで、迷惑じゃないですか?」
「そんなことないよ〜。クオンは可愛いですにゃ〜」
「そ、そんなこと……。……」
言い淀んで、クオンは赤面しながら僕に抱きついて来た。
細身なのに筋肉や胸がある分肉付きが良くて、柔らかい感触が全身を包む。
こんなに愛されてしまいまして……嬉しいですにゃあ〜……。
「……ミズヤ、好きです」
「ありがとーっ。でも、僕なんて男らしくないのに〜……」
「それも魅力の1つですよ……。貴方は今のままでいい。全てを包み込むほどの優しさを兼ね備えているその心のまま、これからも成長してください」
「買い被りすぎだよ……。でも、ありがとーっ」
サラの引っ掻く僕の左手を起こし、両手でクオンを抱きしめ返した。
艶やかな声がクオンの口から零れる。
それからまた無言になって、ひたすらに抱きついていた。
「……ミズヤは、何が欲しいんですか?」
唐突に投げかけられた疑問は、答えるのが難しいものだった。
僕が欲しいもの、特に思い浮かばないや……。
「何もいらない、かな。今のままで、僕は十分だもの。衣食住はあるし、お金はいらないし、友達もいるし……満ち足りてるもん」
「……私のことは、欲しくないですか?」
「んー……こうやって抱きしめられたら嬉しいけどね。友達として、仲間として、それで今は十分だから……」
「……そう、ですか……」
ぎゅっと、クオンが手の力をさらに強めた。
僕は何も言わずに彼女の腕に抱かれ、愛を受け止めてあげられない苦しみに打ちひしがれる。
しかし、途端に彼女は立ち上がって、唇に人差し指を当てながら、優しくこう告げた。
「いつか貴方に――私の事を欲しいって、言わせてみせますから」
儚く、消え入りそうな笑顔で宣言するクオン。
僕は何も言えず、そのまま部屋を去る彼女の後ろ姿を、見送ることしかできなかった。
でもそれで、僕が誰かと恋人になるかなんて考えてない。
結局、僕はどうするんだろうか。
皆の気持ちを無碍にしたくないし、どちらの気持ちも強いから断れない。
2人とも、なんて考えは論外だろう。
サラを選べば僕は別世界に行くし、クオンを選べば、僕は……皇帝になるんだろうか?
「怖いですにゃー……」
「ミャーン」
僕の不安な声に呼応するかのように、サラは僕の腕の中で鳴いた。
可愛い鳴き声に、思わず手を伸ばしてサラの頭を撫でる。
サラは僕に撫でられると、目を細めて耳をパタパタさせた。
今日の作業が終了した就寝時間、僕とサラは2人でベッドの上に座っている。
僕が考え事をしていると、サラは僕に構ってもらおうとして叩いて来たりする。
「むーっ。サラを選んでもクオンを選んでも、どっちもめんどくさそうだなぁ〜……」
「ニャッ!?」
〈【ヤプタレア】に帰ったら高校生活に戻るだけでしょ!?〉
「あ、そうなんだ。じゃあサラの方がいいけどなぁ〜っ」
「ニャアッ」
然りと言うようにウンウンと頷き続けるサラ。
クオンの今後を考えると、ついて行くのが大変だし控えたいんだけど、そうは言っても立場とか抜きにすればクオンの気持ちも受け入れてあげたいし……。
「僕が2人いれば良いのにね?」
〈じゃあそうすれば良いんじゃない?〉
「え?」
サラのボードにはそんな文字が浮かんでいる。
でも僕は、魔法を使っても2人になることはできない。
どういうこと?
サラの首元にあるボードを僕は手に持ち、移り変わる文字を読んだ。
「"貴方が記憶を取り戻した時、全能の能力も取り戻す"……」
読み上げた言葉の文字は、きっとそのまんまの意味だろう。
サラはたまにそのことをボードに書いていた。
でもその力はこの世界で使うと神様の迷惑になるからと使ってはいけないらしく、バスレノスのために使えないなら今の僕が頑張るしかない。
でも、戦いにならなければお払い箱、かな。
側近をやって、戦う術を互いに競い合ってきた。
それももう、終わりなのかな……。
「この人生さ、家族が死んだり、城が乗っ取られたり、色々と大変だけど、いろんな出会いがあって、悪いものじゃなかったと思うんだ……」
「ニャー……」
「まだ死ぬわけじゃないけどね……。僕死なないし。あははっ、サラは可愛いですにゃ〜っ」
「みゃーん♪」
褒めるとデレデレするサラを撫で回し、笑い合う。
たった1人の家族、この笑顔に僕は癒された。
「今日はもう寝ようね。おやすみ、サラ」
「ニャァ」
短く返事をすると、サラは僕の足元から枕元に移動した。
目の前で寝るらしい、これもいつもの事だ。
それもまた可愛いなと思いつつ、僕も薄い掛け布団をベッドに掛ける。
「着替えるよーっ。見たら変態ねこさんだからね!」
「…………」
返事はなかったけど、僕は半袖と長ズボンのパジャマに着替える。
この世界の男性は長襦袢という白くて長い服一枚で寝るらしいけど、前世がある分、僕には抵抗があってパジャマを作った。
黄色い色に水玉模様のあるそのパジャマに着替えていると、コンコンとノックする音があった。
「どうぞ〜っ」
着替えが済んでから入室の合図をすると、外からはゆっくりとクオンがやってきた。
銀髪はすでに降ろされ、彼女の服の色であるネグリジェ姿だった。
寝る前だと思うけど、どうしたんだろう?
「どーしたのー? お腹すいた?」
「いえ……。その、少し一緒に居ても良いですか?」
「いいよ〜」
何も考えずに返事をすると、クオンはいそいそと部屋の中に入ってきた。
ソワソワしてる姿を見るとどうしたのか声をかけたくなっちゃうけど、僕の事好きだから、そういう事なんだと思う。
だから敢えて何も言わず、クオンの言葉を待った。
「…………」
「……?」
「……サラが居る手前、ミズヤに手を出し辛いですね」
「にゃーです?」
手を出すっていうのは、きっと語弊だよね。
後ろに振り返ると、サラが凄い睨んでるし。
「……ミズヤ。とりあえず座りましょう」
「うん。今日も疲れたからね〜」
そういうわけで、僕とクオンはベッドの端に座った。
するとサラも僕らの方にやって来て、クオンから反対側の、僕から見て左側に腰掛ける。
僕は顔を右に向け、改めて訊いてみた。
「それで、どーしたのー?」
「……特に、用事はないんです」
「……そっか。でも、側に居ると嬉しいもんね」
「はい……」
クオンは囁くようなか細い声で頷き、下を向いてしまった。
突如、彼女は僕の右手を絡めとり、手のひらを重ねて繋いでくる。
クオンが積極的なアプローチをしてくるのは珍しくて、僕も少しドキドキして来た。
「…………」
「…………」
クオンが何も言わずに手を握り続けて、僕は黙って時間が経つのを待っていた。
僕の意識がクオンだけに向かないように、サラは僕の左手を舐めたり踏んだり、いろんな手段で抵抗する。
どちらも可愛くて、僕は気付かれないように微笑んだ。
「……ミズヤ。ただ無言でいるだけで、迷惑じゃないですか?」
「そんなことないよ〜。クオンは可愛いですにゃ〜」
「そ、そんなこと……。……」
言い淀んで、クオンは赤面しながら僕に抱きついて来た。
細身なのに筋肉や胸がある分肉付きが良くて、柔らかい感触が全身を包む。
こんなに愛されてしまいまして……嬉しいですにゃあ〜……。
「……ミズヤ、好きです」
「ありがとーっ。でも、僕なんて男らしくないのに〜……」
「それも魅力の1つですよ……。貴方は今のままでいい。全てを包み込むほどの優しさを兼ね備えているその心のまま、これからも成長してください」
「買い被りすぎだよ……。でも、ありがとーっ」
サラの引っ掻く僕の左手を起こし、両手でクオンを抱きしめ返した。
艶やかな声がクオンの口から零れる。
それからまた無言になって、ひたすらに抱きついていた。
「……ミズヤは、何が欲しいんですか?」
唐突に投げかけられた疑問は、答えるのが難しいものだった。
僕が欲しいもの、特に思い浮かばないや……。
「何もいらない、かな。今のままで、僕は十分だもの。衣食住はあるし、お金はいらないし、友達もいるし……満ち足りてるもん」
「……私のことは、欲しくないですか?」
「んー……こうやって抱きしめられたら嬉しいけどね。友達として、仲間として、それで今は十分だから……」
「……そう、ですか……」
ぎゅっと、クオンが手の力をさらに強めた。
僕は何も言わずに彼女の腕に抱かれ、愛を受け止めてあげられない苦しみに打ちひしがれる。
しかし、途端に彼女は立ち上がって、唇に人差し指を当てながら、優しくこう告げた。
「いつか貴方に――私の事を欲しいって、言わせてみせますから」
儚く、消え入りそうな笑顔で宣言するクオン。
僕は何も言えず、そのまま部屋を去る彼女の後ろ姿を、見送ることしかできなかった。
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