連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第4話:作戦

 場所は変わり、クオン達の客室。
 当時よりも大人びて見える凛々しい少女が加わり、5人と1匹が部屋に居る。
 2つのベッドにバスレノス勢の4人が座り、フィサが窓際に佇む。

 この少女が口下手で、とても空気が気まずかった。
 今後の展望を考えれば敵であり、どう話出せば良いものかと声が出なかった。

「……そんなに、こわ張らなくて良い」
『(ムリだ(です)……)』

 この時ばかりは皆の心中が同じになる。
 フィサは何を考えてるかわからず、得体のしれない人物であるため、強張るなど言われてもムリがある。
 フィサは皆の反応に対して1つ溜息を吐き、話を始めた。

「半年前ぐらい前、我が国に魔王がやって来た……」
「魔王……ですか?」

 クオンが聞き返すと、フィサはコクリと頷く。
 魔王といえば、今は亡きトメスタスに小太鼓を渡した張本人であり、世界に魔物をばらまく悪しき存在。
 その魔王が、何をしたのだろう。

「魔王は、大王と対談した。内容は我々側近でも知らない。2人だけで話してたから……。でも、それからおかしくなった。トメスタス様が、戦争に意欲的になったのも、その時から……」
『…………』

 一同は沈黙して話を聞く。
 つまり、魔王が何かをしてトメスタスの考えが変わってしまったのだ。

「優しい方だったのに……今は、胸に黒い一物があるみたい……。考えてる事は教えてくれないし、怒ってることが多くて……」
「国を統治するには、それなりにストレスが掛かります。私もトメスタス大王と話していて、彼の中に激しい葛藤があるのは見て取れました。……しかし、国の事は国王1人で決めて良いものでは決してありません。貴方達は正しい認識を持って会議を開くべきです」
「……それができれば、苦労はしない」
「そうなりますよね」

 ここまでの話の流れでは、トメスタスが魔王との話で唆され、戦争を仕掛けなければいけない状況にあるという事。
 トメスタスは他人に背負ってるものの事を離そうとせず、1人で抱え込んでいるという事。

「戦いは、失い続ける事でしかない。私はそれを止めたい……。どうか、あと1ヶ月の猶予で……大王を止めて欲しい」
「私は無論、そのつもりですよ、お話ありがとうございます、フィサ殿」
「…………」

 クオンが礼を述べると、フィサは頭を下げて退室して行った。
 静まり返る部屋に、1つのため息が木霊する。

 クオンは億劫だと言わんばかりに嫌そうな目をして、ため息を吐いたその口で指示を出す。

「私達もちましょうか」
「はーいっ」
「そうじゃないです。出発ってことです」

 即座に立ち上がったミズヤにクオンはすかさずツッコミを入れる。
 ミズヤの方は「そうなの!?」と驚いて目を丸くしていた。
 クオンはクスクスと笑って少年を眺めながら、ミズヤと同じように立ち上がる。

「行きましょう。此処では少し、話しにくいですからね――」

 今日より敵地と化したこの場所で、作戦を語ることは出来ない。
 クオン一行は当初の目的である追悼式参加を果たし、キュール城を後にした。



 ◇



 キュール城から遠く離れた上空――雲の上に絨毯を敷き、4人は円を組んで座っていた。

「トメスタスを幽閉します」

 クオンの第一声がそれで、全員虚を突かれたかのように動かなくなる。
 幽閉する、つまりは懲罰だ。
 閉じ込め、反省させるということ。
 皆が固まる中、クオンは話を続ける。

「まず、トメスタスだけではなく妹のミュベスも幽閉させる事が前提であると考えてください。トメスタスは今日も妹のミュベスと一緒に居ました。つまり、トメスタスだけが国について憂いているわけではないと考えられます」

 クオンの言うように、今日もトメスタスはミュベスと一緒にクオン達に会いに来て居た。
 兄妹仲は変わらぬようで、兄の変わりように妹が何も思っていないはずもなく、戦う理由を知らされているか、あるいは本当の無知か。
 それでも、兄の幽閉に反対するだろうから、共に幽閉する他ない。
 ここまでは考えられる話だった。
 話を聞き、やっと我に帰ったケイクが意見する。

「ですが、クオン様。相手はこの国の王、そうやすやすと幽閉されるとは……」
「ええ、キュール城の兵も殆どが元レジスタンスですからね。信頼は厚く、幽閉は反対されるかと思われます。だから――我々はそれ以上の物量差でキュールを圧倒しましょう」

 圧倒――その言葉をクオンが言い切ると、全員の表持ちが深刻なものに変わる。
 ヘリリア、ミズヤもが会話に混ざった。

「クオン様、まさか……」
「戦うの? もう戦争はしたくないよ……」
「そんなつもりはありませんよ……。ちょっと脅すだけです」
『脅し?』

 3人の声が重なる。
  脅し――それが通じるほど敵が弱くないと、クオンにはわかっているはず。
 なのに脅しでトメスタスを退位に追い込むとはどう言う事なのか、クオンは説明を始めた。

「そもそもの話、私達バスレノス側は戦力的にキュールに勝ってるんですよ。過去に私達は西軍でキュールと戦いました。その時、彼らを退けることに成功しています。当時はお互いに悪幻種が居ましたが、お互いに居なくなったのでこれを無くして考えましょう。

 今度は、4つの軍事拠点から中央の城1つに強襲を仕掛けます。

 どちらが勝つと思いますか?」

 クオンの質問の前に、仲間達は息を飲む。
 戦力差を考えればバスレノスが勝つと言うことは、皆わかっている。
 さらに、ここ3年でクオンも成長してフィサもバスレノスに付くと考えれば、バスレノス側の敗北はあり得ないと考えられる。

「脅すのは、私とミズヤ、各軍事拠点の最高司令官及び最高戦力で事足りるでしょう。トメスタス大王を脅し、幽閉するのです。彼は一度、頭を冷やした方がいいでしょう」
「……幽閉して、その後はどうするのですか?」

 ケイクが問い掛けると、クオンは顎に手を当てて考えながら答えた。

「うーん……政治に関しては私が代役をしても、反発する輩が多そうですし、そこはキュールとの兼ね合い次第ですかね」
「つまり

 国を奪還できる可能性があるのですか?」

 ケイクが再び問い掛けると、クオンは一瞬固まった後にせせら嗤う。

「国を取り戻す、それはバスレノスにとっては大義ですね……。しかし、私達の目的は大勢の幸せです。国の奪還だけなら、いつでも可能でしたから……」

 ポツポツと小さくなっていくクオンの声に、ケイクは質問した事を申し訳なく感じた。 

「トメスタスの使う最大の魔法であるあの隕石は、自身の根城では使えないでしょう。城ごと潰すことは、自国の崩壊に等しいですからね。そうすると、こちらの勝ち目は多い……。幽閉に失敗して戦闘になったとしても、まず間違いなく我々が勝ちます」

 クオンは言う。
 今回に限って敗北はあり得ないと。
 絶対に作戦は成功する――そして、国を取り戻しかねないと。

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