連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第15話:フォース・コンタクト⑦

「ハァ、ハァ……ハァ……!」

 小さな体躯が炎広がる廊下を駆ける。
 銀色のついんてーを揺らし、クオンは分け目もふらずに前を見つめて疾走する。
 彼女が探しているのは、ラナだった。
 クーデターを起こしたのが自分の姉だと聞いて、居ても立っても居られなかったのだ。

「クオン様、お待ちください!!」
「クオン様!!」

 ケイクとヘリリアも慌てて追うも、クオンは止まらない。
 その後ろからはさらに、サラが後を追っていた。

(動き回られると面倒ね〜……)

 バスレノスなど関係ないサラからすると、落ち着かない皇女が厄介なもので、内心溜息を吐いている。
 一方、そのラナは――



 ◇



「見つけたぞ」

 3階から降りる4人組に対し、ラナはそう言った。
 酷く睨みつけながら、どこのものかも知らぬ剣を向けて。
 それに対してトメスタスは全く動じず、ただ尋ねる。

「ラナ、お前の目的はなんだ? 何故こんな災厄を引き起こす? おかげで皇帝も皇后も死んだ、バスレノスの向後は真っ暗闇だ」
「もとよりこの国を治めることは両親の力量を超えていた。時間の問題だった事を終わらせてやったに過ぎん」
「それで? 人が大勢死んで、これはよかったのか?」
「最善は尽くした。あとはお前を殺すだけだ」
「……なるほど、本当に狂ってしまったようだな、ラナ」
「…………」

 ラナは肯定も否定もしなかった。
 認めるか否か判断できるほど、今の自分を分析できなかったから。
 しかし、ここまで進んでしまった事に後悔はない。
 これで最後、全てを終わらせる。

「来い。お前と戦うには、ここは狭過ぎる」
「良いだろう。全身全霊を掛け、正々堂々お前をぶっ殺してやる」

 殺意は共に同じ、彼等は決戦を迎えるべく中庭へと移るのだった――。



 ◇



「クオンはっけーんっ」
「えっ……ミズヤ?」

 一方、ミズヤは城を走り回るクオンと遭遇していた。
 彼女の足はミズヤの無色魔法により浮かされ、ぶらぶら前後に振るだけになって止める。
 後からケイクとヘリリアもやってきて、サラはミズヤに飛びついた。

「ふにゃっ!!? あーっ、サラねこさん。クオンの事見ててくれたかにゃ?」
「ニャー」
「それはそれはねこさんですねぇ〜っ♪」

 理解不能。

「……ミズヤ、その背負ってる人って」
「ん? プロンさんだよ。疲れて寝ちゃったけど」

 ミズヤの背負う人物に気付いたケイクが尋ねると、すんなりと答えた。
 先ほどまで満身創痍だった女性だ、疲労までは消せずに眠っている。

「とりあえず、確保したという事だな。親父が1人殺してたから、これでラナ様の側近は片付いたな」
「ケイクくんのお父さん? 大将なんだっけ?」
「ああ、今は外で暴れてる。暫くの間、レジスタンスは城に入ってこれないだろう」
「なんか手薄だと思ったら、そういう事なんですにゃあ……」

 あまり人と会わないなぁと思っていたミズヤは、その疑問が解消されてうんうんと頷く。
 しかし、そんな事は今どうでもいい。

「ミズヤ、お姉様を見ませんでしたか!?」
「あー、僕も探してるところなんだよね〜……。お城の中は大体探したんだけど、居ないから外かなぁ……」
「こちらも同じ状況です。ミズヤ、神楽器は返しますから【無色魔法】で私達を外に連れ出してください!」
「あ、うん。別にいいけど……神楽器はまだ持ってていいよ?」

 クオンの提案を半分断るも、クオンは首を横に振った。

「次に敵対するなら、お姉様です。止められる戦力はトメス兄様、ヘイラ、貴方の3人でしょう。さらにレジスタンスも妨害する筈、貴方には全力で戦って欲しいんです」
「……そういう事なら、返してもらうね」

 ミズヤはプロンを降ろすと、クオンからヴァイオリンケースを受け取った。
 真っ黒なケースを背負うと、みんなで移動するためにミズヤは魔法を使う。
 【黒魔法】の物質創造、作り出すのは黒一色の絨毯だった。

「よいしょっ」

 ミズヤが何気なく呟くと、クオン達は全員浮かされて絨毯に乗せられた。
 気絶したプロンも絨毯に乗せられると、最後にミズヤがサラを抱えながら飛び乗る。

「わーっ、これ魔法使いっぽいよね〜っ♪」
「ニャアッ」
「では、しゅっぱーつ!」

 殺伐とする戦禍の中、和気藹々とした1人と一匹を合図に絨毯は飛んだ。
 風を切る音がするほどの高速、阻む炎は迫る前にミズヤが吹き飛ばす。
 進む先に壁など無いように、ミズヤは障害物を消し飛ばして進んだ。

 突き当たりの壁も崩壊させて、久しぶりに星空を見ることとなった。
 地上40mはあるその場所で絨毯は停滞し、クオン達は一斉に辺りを見渡して居た。
 そして、よく訓練を行う中庭で、ついに目標を見つける。

 ラナは単独で、トメスタス一行の前に仁王立ちで構えていた。
 バスレノスを統括する血族、その姉弟が相対する様は緊迫に包まれて、誰も声を出せなくなる。

「……さて、それでは全力でやらせてもらおうか」

 スッとトメスタスは刀を抜いた。
 彼の背には小太鼓が背負われている、羽衣も纏っており、臨戦態勢だ。
 一方のラナは武器も構えず、ただ立ち尽くすのみ。

「……今まで、ここで何度も模擬戦をしたな」

 ポツリとラナの口から思い出が一粒溢れる。
 トメスタスはそれを鼻で笑って一蹴する。

「フンッ。あんなもの、真面目にやるものか。お前は本気だったやもしれんが、俺は全く本気を出してはいない。今日は勝たせてもらうぞ」
「……そうか。残念だったな」
「……?」

 何が残念なのか――聞き返す前に、トメスタスはラナの姿を見た。
 姉がただならぬオーラを放っているのはいつもの事、しかし今日は違う。ただ立っているだけで気押されるような恐怖を身に纏っていた。

「私も――模擬戦で本気を出した事は、ない」

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