連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第12話:フォース・コンタクト④
ミズヤはトメスタス達に質問を投げかけながら、プロンに回復魔法をかける。
五角形の線が勝手に動き、プロンの体に光を放って傷を治していった。
「……ミズヤ、治すのをやめろ。そいつは国に反逆し、この辺の人間を殺した犯罪者だ」
「……嫌です」
断られると、トメスタスはそれ以上何も言わなかった。
今恐るべきは、ミズヤと敵対してしまう事。
ここでミズヤを怒らせて、身内で争っても仕方がないのだから。
しかし、ここにはもう1人お調子者がいる。
褐色肌で露出度の高い軽装備の女、クルタだ。
彼女はトメスタスの思いとは裏腹に、余計なことを口に出す。
「おいおい、アンタも裏切り者? 確かよそ者のガキだったっけ。まったく、他国の奴ってのは信用できんね。ヴァムテルもイかれてるしさぁ――」
「煩い」
饒舌なクルタの愚痴をミズヤは遮った。
ただプロンの傷を治す一点に集中していたために、つい口走ってしまったのだ。
その言葉で、クルタはギリッと大きな歯嚙みをする。
「……ねぇトメスタス? アイツぶっ飛ばしていい?」
「お前にできるなら、やっといてもいいぞ」
「おーけー、ちょっと教育してくる――」
「おい」
そこで再度、ミズヤはクルタの言葉を制した。
さらには無詠唱で魔法を使った。
トメスタスとその側近の周り、縦横無尽に黒い剣を突きつけて――。
「煩いって言ったんだよ……傷に響くでしょ? 僕、怒ってるんだよ? そんなに死にたいなら殺してあげるよ?」
「――――」
誰も声を発する事はできなかった。
物理的に口が動かず、体がピクリとも動かなかったのだから――。
ミズヤの目に睨まれ、その殺意が凍りつかせたのもある。
そして、魔法を用いても動かなくさせたのだ。
誰も、何もできない。
ミズヤはゆっくりとプロンの治療に集中した。
「……なんで、助けるの?」
意識のあったプロンは苦痛を堪えながらミズヤに問う。
敵の筈のその体を助ける義理はないだろうと。
しかし、ミズヤは笑って答えた。
「貴女とはご飯食べたりおかし食べたりしたし、ラナさんの話を聞かせてくれたりしてくれたし……僕にとっては、友達なので……死んでほしくないんです……」
その答えを聞いて、プロンは下唇を噛み締めた。
友達――互いに過ごした時間は少ないけれど、何回か話す事はあったり、確かにお菓子を作ってもらうこともあった。
それだけで友達と言ってもらえ、今は命さえ助けてもらっている。
その優しさに、プロンは涙を流した。
「嫌だなぁ……死ぬつもりで来たのに……」
涙で顔が歪みながら、プロンは今の思いを言葉に綴る。
自分の体を癒し、友人として扱ってくれる救世主を見ながら。
「……死にたく、なくなっちゃうじゃん……」
◇
阿鼻叫喚は続き、城はあちこち爆破音が鳴り響いて炎がうねる。
食堂もついには混戦となり、ケイク、ヘリリアはクオンを守るために避難を開始した。
「……おかしいですね」
「…………」
走りながらクオンが呟くも、あえてケイクはそれを無視した。
――まつまたく敵が襲ってこない、この状況ではいつ襲って来てもおかしくないが、レジスタンスはクオンを見ると身を翻して明後日の方向へ向かってしまう。
原因はわからないが、彼等はクオンを避けていた。
自身にとって都合がいい筈なのに、クオンは胸に苦しみを感じてしまう。
城の人々が命懸けで戦っているのに、自分はただ逃げるだけでいいのかと。
でもクオンはこれまで鍛錬をしても、未だに付け焼き刃の実力で、できてもサポートが限度である。
今は逃げるしかない――そう思っていた矢先のことだった。
「おぉ」
「あら、この子は……」
「ッ!!」
焼ける廊下の中、2人の人物と居合わせてしまう。
レジスタンスの統括者トメスタスと、その妹のミュベスだった。
即座に飛び退くクオンをケイクはさらに押し飛ばして刀を手に前へ出る。
ヘリリアももう1人の人格を前面に出し、双剣を構えた。
しかし、トメスタスはそれを制する。
「よせ。貴様等に用はない。側近2人は殺してもいいんだが、俺自身は今回、戦いを早く終わらせるために動いてるんだ」
「なんだと……?」
「逃げるならさっさと逃げろ。ここも時期に火が前面に回る」
「…………」
ケイクもヘリリアも、構えを解く事はなかった。
しかし、攻撃することもない。
攻撃すれば死ぬと、わかっていたから。
「……なぜ、私を見逃すのですか?」
そんな中、クオンはトメスタスに問う。
この場で殺されることがないなら、疑問を口にしてもいいと考えたから。
しかし、帰って来た答えは、クオンにとって余計な悩み種を生む。
「ラナの頼みだ。お前は良く姉に思われているようだな」
「――――」
敵の親玉が自分の姉の名を口にしたことに、クオンは理解が追いつかなかった。
なんで、どうしてそんな頼みを敵にするのかと、答えの見えない思考を繰り返す。
そんな彼女に向けて、トメスタスは仕方ないと言わんばかりにこう話す。
「一応教えといてやる。今回のこの一戦、発端はラナだ。詰まる所――
この戦いは、ラナによるクーデターなんだよ――
その言葉を聞くと、クオンは目眩を起こし、倒れこむのだった。
◇
ミズヤはプロンの傷を完治させると、彼女の目の前にちょこんと座って問い掛ける。
「ねーねー、なんでラナさんは自分の家を襲ってるのー?」
「……積年の恨みってやつだよ。ずっと、自分が今のままこの国に使役されていいのかって、考えていた筈なんだ」
「えーっ……まぁ皇女様もいろいろありますよにゃー」
ミズヤはうんうんと頷くも、あまり関心はなさそうだった。
その様にプロンは笑い、より深く内容を話し始める。
「今から6年以上前……トメスタス様が神楽器を下賜された日。あの日から、全ては始まったのかな……」
プロンは思い浮かべる。
お互い幼かったあの日、陽光が差し込む皇帝の御前で傅くラナとトメスタスの姿を――。
五角形の線が勝手に動き、プロンの体に光を放って傷を治していった。
「……ミズヤ、治すのをやめろ。そいつは国に反逆し、この辺の人間を殺した犯罪者だ」
「……嫌です」
断られると、トメスタスはそれ以上何も言わなかった。
今恐るべきは、ミズヤと敵対してしまう事。
ここでミズヤを怒らせて、身内で争っても仕方がないのだから。
しかし、ここにはもう1人お調子者がいる。
褐色肌で露出度の高い軽装備の女、クルタだ。
彼女はトメスタスの思いとは裏腹に、余計なことを口に出す。
「おいおい、アンタも裏切り者? 確かよそ者のガキだったっけ。まったく、他国の奴ってのは信用できんね。ヴァムテルもイかれてるしさぁ――」
「煩い」
饒舌なクルタの愚痴をミズヤは遮った。
ただプロンの傷を治す一点に集中していたために、つい口走ってしまったのだ。
その言葉で、クルタはギリッと大きな歯嚙みをする。
「……ねぇトメスタス? アイツぶっ飛ばしていい?」
「お前にできるなら、やっといてもいいぞ」
「おーけー、ちょっと教育してくる――」
「おい」
そこで再度、ミズヤはクルタの言葉を制した。
さらには無詠唱で魔法を使った。
トメスタスとその側近の周り、縦横無尽に黒い剣を突きつけて――。
「煩いって言ったんだよ……傷に響くでしょ? 僕、怒ってるんだよ? そんなに死にたいなら殺してあげるよ?」
「――――」
誰も声を発する事はできなかった。
物理的に口が動かず、体がピクリとも動かなかったのだから――。
ミズヤの目に睨まれ、その殺意が凍りつかせたのもある。
そして、魔法を用いても動かなくさせたのだ。
誰も、何もできない。
ミズヤはゆっくりとプロンの治療に集中した。
「……なんで、助けるの?」
意識のあったプロンは苦痛を堪えながらミズヤに問う。
敵の筈のその体を助ける義理はないだろうと。
しかし、ミズヤは笑って答えた。
「貴女とはご飯食べたりおかし食べたりしたし、ラナさんの話を聞かせてくれたりしてくれたし……僕にとっては、友達なので……死んでほしくないんです……」
その答えを聞いて、プロンは下唇を噛み締めた。
友達――互いに過ごした時間は少ないけれど、何回か話す事はあったり、確かにお菓子を作ってもらうこともあった。
それだけで友達と言ってもらえ、今は命さえ助けてもらっている。
その優しさに、プロンは涙を流した。
「嫌だなぁ……死ぬつもりで来たのに……」
涙で顔が歪みながら、プロンは今の思いを言葉に綴る。
自分の体を癒し、友人として扱ってくれる救世主を見ながら。
「……死にたく、なくなっちゃうじゃん……」
◇
阿鼻叫喚は続き、城はあちこち爆破音が鳴り響いて炎がうねる。
食堂もついには混戦となり、ケイク、ヘリリアはクオンを守るために避難を開始した。
「……おかしいですね」
「…………」
走りながらクオンが呟くも、あえてケイクはそれを無視した。
――まつまたく敵が襲ってこない、この状況ではいつ襲って来てもおかしくないが、レジスタンスはクオンを見ると身を翻して明後日の方向へ向かってしまう。
原因はわからないが、彼等はクオンを避けていた。
自身にとって都合がいい筈なのに、クオンは胸に苦しみを感じてしまう。
城の人々が命懸けで戦っているのに、自分はただ逃げるだけでいいのかと。
でもクオンはこれまで鍛錬をしても、未だに付け焼き刃の実力で、できてもサポートが限度である。
今は逃げるしかない――そう思っていた矢先のことだった。
「おぉ」
「あら、この子は……」
「ッ!!」
焼ける廊下の中、2人の人物と居合わせてしまう。
レジスタンスの統括者トメスタスと、その妹のミュベスだった。
即座に飛び退くクオンをケイクはさらに押し飛ばして刀を手に前へ出る。
ヘリリアももう1人の人格を前面に出し、双剣を構えた。
しかし、トメスタスはそれを制する。
「よせ。貴様等に用はない。側近2人は殺してもいいんだが、俺自身は今回、戦いを早く終わらせるために動いてるんだ」
「なんだと……?」
「逃げるならさっさと逃げろ。ここも時期に火が前面に回る」
「…………」
ケイクもヘリリアも、構えを解く事はなかった。
しかし、攻撃することもない。
攻撃すれば死ぬと、わかっていたから。
「……なぜ、私を見逃すのですか?」
そんな中、クオンはトメスタスに問う。
この場で殺されることがないなら、疑問を口にしてもいいと考えたから。
しかし、帰って来た答えは、クオンにとって余計な悩み種を生む。
「ラナの頼みだ。お前は良く姉に思われているようだな」
「――――」
敵の親玉が自分の姉の名を口にしたことに、クオンは理解が追いつかなかった。
なんで、どうしてそんな頼みを敵にするのかと、答えの見えない思考を繰り返す。
そんな彼女に向けて、トメスタスは仕方ないと言わんばかりにこう話す。
「一応教えといてやる。今回のこの一戦、発端はラナだ。詰まる所――
この戦いは、ラナによるクーデターなんだよ――
その言葉を聞くと、クオンは目眩を起こし、倒れこむのだった。
◇
ミズヤはプロンの傷を完治させると、彼女の目の前にちょこんと座って問い掛ける。
「ねーねー、なんでラナさんは自分の家を襲ってるのー?」
「……積年の恨みってやつだよ。ずっと、自分が今のままこの国に使役されていいのかって、考えていた筈なんだ」
「えーっ……まぁ皇女様もいろいろありますよにゃー」
ミズヤはうんうんと頷くも、あまり関心はなさそうだった。
その様にプロンは笑い、より深く内容を話し始める。
「今から6年以上前……トメスタス様が神楽器を下賜された日。あの日から、全ては始まったのかな……」
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