連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第9話:フォース・コンタクト①
初動――城に攻め込んだのは、4人の反逆者であった。
ラナ・ファイサール・バスレノスと、3人の側近である。
ラナは皇女であると共に若くして最高戦力の大将と張り合える戦闘能力を身につけている。
それは皇女という生まれが起因するところも大きかった。
この世界は古来、魔法の使える色の数が多い者が治めてきた。
つまり、貴族や王族は魔法の素質があり、ラナやトメスタスは5色もの魔法が使える。
一般市民が1〜2色と考えると、これが優れている事と理解できるだろう。
そして、その側近も元貴族が多く、3〜4色は使える。
さらには側近に特別選出された腕の持ち主であり、そのため強力で――
「殺しはもうしないつもりだったけど、仕方ないよな……」
四方に散らばる死体を見渡しながら、1人の男が嘆くように呟いた。
全長1.5mはある巨大な包丁を担ぐ青年。
髪は黒く、ちぢれ毛のようにうねった髪を持っている。
青いコートに身を包んだその姿、幾千の贓物を切り裂く彼は、統一戦争中にこう異称を与えられた。
――【殺戮者】アーク・ヴァルスリット・タウグス
その剣一本で戦地を駆け巡る彼は今、ラナの忠臣として使える騎士になっていた。
主君を思い、主君の名を忠実に聞き、主君と共に歩む。
それが側近に託された役割だから――。
そして、他の2名もそれは同じ――。
城近辺にいる人物は1万人弱、兵士はその半分程度であり、文官や戦闘訓練を積んでない貴族も大勢居る。
そんな彼らを守りながら戦うのは難しいながらも、現在の敵戦力は僅か4人。
だからこそ――
最高戦力が潰しにかかる。
「よぅ」
野太い男の声が会議室内に響く。
そんな気軽に話し掛ける状況ではないというのに、その男はニヤニヤと笑いながらアークへと一歩、また一歩と足を進めた。
アークが目にしたのは、肌が程よく焼けた筋肉質な大男。
ジャージは特注品だろうか、あのサイズは他に着る者はヴァムテルぐらいだと考えられる服。
ジッパーは開き、鍛え上げられた腹筋が主張されている。
赤いタテガミのように逆立った髪には、緑玉の髪飾りが付いていた。
「ヘイラか――」
その男の名を、アークはよく知っていた。
バスレノス皇国軍大将の1人、かつてはその炎で城1つ燃やし尽くした男――。
今でこそイグソーブ武具のおかげで丸くなったものの、その力は今尚恐れられている。
「行方不明のラナ姫の側近が、なんたってこんな所で仲間をブッ殺してんだ?」
「仲間――? 僕らはバスレノスを仲間だと思っていないけど? 何故なら、我々にとってしては、いつもこの国に仕えていることに一物を抱いていたからさ。ラナ様含めてね」
「へぇ……。だったら今は、ただの反逆者ってわけか」
刹那、室内は熱気に包まれる。
熱気で視界はうねり、中央の机は炎もないのに溶けていく。
血は蒸発し、死体もが溶ける途端に昇華していった。
「……僕とヤる気か、ヘイラ」
「たりめーだぜ、反逆者。チィっとお仕置きしねぇとなぁ!!!」
バッとヘイラが手を伸ばすと、そこから炎の龍が飛び出した。
空気を燃やしながら走る火に対して、アークは剣を振るう。
「【水魔法】・【隼温変化】
そこに魔法を乗せると――炎の龍は、刀に当たることすらなく消えてしまった。
その魔法を見て、ヘイラは口を大きく開いて笑い、ギラギラとした眼差しを青年に送る。
【水魔法】――【無色魔法】と【青魔法】を組み合わせた合成魔法であった。
【無色魔法】による空気操作の圧力に加え、【青魔法】による温度操作で数万度もある火の龍を瞬時に消し払ってしまったのだ。
「いいねぇ……俺の炎をこんなに軽くあしらう奴は少ねぇんだ。精々楽しませてくれよ!」
「……楽しませるために戦ってるんじゃないんだがな」
イグソーブ武具を持たずにヘイラは飛び出した。
城に侵入した罪人については、特別な措置が許可される。
その措置は、
殺してでも身柄を拘束する、というものであった――。
◇
「くーおんっ!」
「わっ……ミズヤですか。驚かさないでくださいよ」
場所は食堂のまま、どうやってか結界内に入ったミズヤはクオンの前に現れた。
突然現れたミズヤに、クオンとその側近が驚きつつもそれ以上は何も言わなかった。
「ミズヤ、外に居たんですよね? 強襲とは聞きましたが、何が襲ってきたかわかりますか?」
「僕はラナ様に襲われたけど、それでいいのかな?」
『!?』
漫然一致で絶句した。
それもそのはず、行方不明だった皇女が国に反旗を翻し、攻撃を仕掛けたなどと、簡単に信じられる話ではない。
かといって、この場で冗談を言う必要もないし、ミズヤは冗談を言う性格でもないのだ。
「それは確か、なんですよね?」
「うん。僕の部屋、ラナさんに吹き飛ばされたよ。サラが結界を張ってくれたから助かったけど、その結界も壊されちゃって、反撃しようとしたら逃げちゃった」
「……ミズヤは強いですからね、戦うのは避けたかったのかもしれません。でも、そうですか……」
あからさまに肩を落とすクオンに、そっとケイクは寄り添った。
「クオン様、あまり憂なさらないでください。ラナ様の事です、きっと何か考えがあるのですよ」
「……ええ、そうだといいのですが……」
クオンの言葉は歯切れが悪く、重苦しい空気が続くばかりだった。
いつも孤高で気高く、鍛錬を積んできた自分に持たな人にも厳しく、そんな彼女だからこそ尊敬されてきた。
その皇女が逆賊になるなどと、誰も考えたくないのだ。
「……とりあえず、僕はクオンを守ればいいよね?」
そこへ、ミズヤは控えめな声で主君の皇女に尋ねる。
もともと、ここに来たのもクオンを守るためだった。
でも、今は一刻も早くの鎮圧が必要であり、それが一人でも多くの命を救うに繋がる。
だからこそ、クオンはこう言い渡した。
「……ミズヤ、貴方は今回の襲撃者を捕らえに行ってください。生死は問いません、早めの鎮圧を心掛けてください」
「はーいっ。あ、でもこれは置いとくね?」
そう言ってミズヤは、自身の影からヴァイオリンを取り出した。
周囲の視線が途端に冷める。
何故最強の武器を置いていくと言うのか。
「……あの、ミズヤ?」
「えっ、何?」
「……神楽器、使わなくてよろしいのですか?」
「【羽衣天技】使ったらお城壊しちゃうし……それに、楽器がなくても十分強いから、クオンが持ってていーよ」
「はぁ……本当に?」
「本当でーすっ」
「……。わかりました」
クオンは眼前に置かれたヴァイオリンケースを持つと、すぐにそれを背負う。
ミズヤは戦闘で神楽器を殆ど使わない。
対人に対してはさらに使わない。
それは、楽器は武器じゃないと言う教えから来るものである。
しかし、もう1人の楽器使いは、そうではなかった――。
ラナ・ファイサール・バスレノスと、3人の側近である。
ラナは皇女であると共に若くして最高戦力の大将と張り合える戦闘能力を身につけている。
それは皇女という生まれが起因するところも大きかった。
この世界は古来、魔法の使える色の数が多い者が治めてきた。
つまり、貴族や王族は魔法の素質があり、ラナやトメスタスは5色もの魔法が使える。
一般市民が1〜2色と考えると、これが優れている事と理解できるだろう。
そして、その側近も元貴族が多く、3〜4色は使える。
さらには側近に特別選出された腕の持ち主であり、そのため強力で――
「殺しはもうしないつもりだったけど、仕方ないよな……」
四方に散らばる死体を見渡しながら、1人の男が嘆くように呟いた。
全長1.5mはある巨大な包丁を担ぐ青年。
髪は黒く、ちぢれ毛のようにうねった髪を持っている。
青いコートに身を包んだその姿、幾千の贓物を切り裂く彼は、統一戦争中にこう異称を与えられた。
――【殺戮者】アーク・ヴァルスリット・タウグス
その剣一本で戦地を駆け巡る彼は今、ラナの忠臣として使える騎士になっていた。
主君を思い、主君の名を忠実に聞き、主君と共に歩む。
それが側近に託された役割だから――。
そして、他の2名もそれは同じ――。
城近辺にいる人物は1万人弱、兵士はその半分程度であり、文官や戦闘訓練を積んでない貴族も大勢居る。
そんな彼らを守りながら戦うのは難しいながらも、現在の敵戦力は僅か4人。
だからこそ――
最高戦力が潰しにかかる。
「よぅ」
野太い男の声が会議室内に響く。
そんな気軽に話し掛ける状況ではないというのに、その男はニヤニヤと笑いながらアークへと一歩、また一歩と足を進めた。
アークが目にしたのは、肌が程よく焼けた筋肉質な大男。
ジャージは特注品だろうか、あのサイズは他に着る者はヴァムテルぐらいだと考えられる服。
ジッパーは開き、鍛え上げられた腹筋が主張されている。
赤いタテガミのように逆立った髪には、緑玉の髪飾りが付いていた。
「ヘイラか――」
その男の名を、アークはよく知っていた。
バスレノス皇国軍大将の1人、かつてはその炎で城1つ燃やし尽くした男――。
今でこそイグソーブ武具のおかげで丸くなったものの、その力は今尚恐れられている。
「行方不明のラナ姫の側近が、なんたってこんな所で仲間をブッ殺してんだ?」
「仲間――? 僕らはバスレノスを仲間だと思っていないけど? 何故なら、我々にとってしては、いつもこの国に仕えていることに一物を抱いていたからさ。ラナ様含めてね」
「へぇ……。だったら今は、ただの反逆者ってわけか」
刹那、室内は熱気に包まれる。
熱気で視界はうねり、中央の机は炎もないのに溶けていく。
血は蒸発し、死体もが溶ける途端に昇華していった。
「……僕とヤる気か、ヘイラ」
「たりめーだぜ、反逆者。チィっとお仕置きしねぇとなぁ!!!」
バッとヘイラが手を伸ばすと、そこから炎の龍が飛び出した。
空気を燃やしながら走る火に対して、アークは剣を振るう。
「【水魔法】・【隼温変化】
そこに魔法を乗せると――炎の龍は、刀に当たることすらなく消えてしまった。
その魔法を見て、ヘイラは口を大きく開いて笑い、ギラギラとした眼差しを青年に送る。
【水魔法】――【無色魔法】と【青魔法】を組み合わせた合成魔法であった。
【無色魔法】による空気操作の圧力に加え、【青魔法】による温度操作で数万度もある火の龍を瞬時に消し払ってしまったのだ。
「いいねぇ……俺の炎をこんなに軽くあしらう奴は少ねぇんだ。精々楽しませてくれよ!」
「……楽しませるために戦ってるんじゃないんだがな」
イグソーブ武具を持たずにヘイラは飛び出した。
城に侵入した罪人については、特別な措置が許可される。
その措置は、
殺してでも身柄を拘束する、というものであった――。
◇
「くーおんっ!」
「わっ……ミズヤですか。驚かさないでくださいよ」
場所は食堂のまま、どうやってか結界内に入ったミズヤはクオンの前に現れた。
突然現れたミズヤに、クオンとその側近が驚きつつもそれ以上は何も言わなかった。
「ミズヤ、外に居たんですよね? 強襲とは聞きましたが、何が襲ってきたかわかりますか?」
「僕はラナ様に襲われたけど、それでいいのかな?」
『!?』
漫然一致で絶句した。
それもそのはず、行方不明だった皇女が国に反旗を翻し、攻撃を仕掛けたなどと、簡単に信じられる話ではない。
かといって、この場で冗談を言う必要もないし、ミズヤは冗談を言う性格でもないのだ。
「それは確か、なんですよね?」
「うん。僕の部屋、ラナさんに吹き飛ばされたよ。サラが結界を張ってくれたから助かったけど、その結界も壊されちゃって、反撃しようとしたら逃げちゃった」
「……ミズヤは強いですからね、戦うのは避けたかったのかもしれません。でも、そうですか……」
あからさまに肩を落とすクオンに、そっとケイクは寄り添った。
「クオン様、あまり憂なさらないでください。ラナ様の事です、きっと何か考えがあるのですよ」
「……ええ、そうだといいのですが……」
クオンの言葉は歯切れが悪く、重苦しい空気が続くばかりだった。
いつも孤高で気高く、鍛錬を積んできた自分に持たな人にも厳しく、そんな彼女だからこそ尊敬されてきた。
その皇女が逆賊になるなどと、誰も考えたくないのだ。
「……とりあえず、僕はクオンを守ればいいよね?」
そこへ、ミズヤは控えめな声で主君の皇女に尋ねる。
もともと、ここに来たのもクオンを守るためだった。
でも、今は一刻も早くの鎮圧が必要であり、それが一人でも多くの命を救うに繋がる。
だからこそ、クオンはこう言い渡した。
「……ミズヤ、貴方は今回の襲撃者を捕らえに行ってください。生死は問いません、早めの鎮圧を心掛けてください」
「はーいっ。あ、でもこれは置いとくね?」
そう言ってミズヤは、自身の影からヴァイオリンを取り出した。
周囲の視線が途端に冷める。
何故最強の武器を置いていくと言うのか。
「……あの、ミズヤ?」
「えっ、何?」
「……神楽器、使わなくてよろしいのですか?」
「【羽衣天技】使ったらお城壊しちゃうし……それに、楽器がなくても十分強いから、クオンが持ってていーよ」
「はぁ……本当に?」
「本当でーすっ」
「……。わかりました」
クオンは眼前に置かれたヴァイオリンケースを持つと、すぐにそれを背負う。
ミズヤは戦闘で神楽器を殆ど使わない。
対人に対してはさらに使わない。
それは、楽器は武器じゃないと言う教えから来るものである。
しかし、もう1人の楽器使いは、そうではなかった――。
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