連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第7話:予兆
 3日前からラナ皇女の捜索が極秘に開始されるも、これまで目撃情報はなく、城内はざわつき始めた。
大将にも匹敵するラナが原因不明の不在となると、この機会にレジスタンスが城に攻め入る危険性も考えられた。
今の所はレジスタンスからの攻撃はない。
しかし、平和はいつまで続くかわからないのだ。
「がおーっ、サラにゃーを食べちゃうぞーっ」
「ニャッ!?」
「貴様はいつも通りだな……」
近衛達とクオンで食堂に入り浸り、4人と1匹はテーブルにあるパーティ用のフライドポテトを囲っていた。
食べ物が目の前にあっても誰も手を伸ばすことはなく、クオンは黙って空を見上げ、ヘリリアはテーブルに突っ伏していた。
城内全体に、どんよりと重い空気が流れているのが原因だ。
他のテーブルでも会話は殆どなく、皆暗い顔をしていた。
元気なのはミズヤと、もう1人
「皆の者ぉぉおおおお!!!!」
とてつもない勢いで扉が開かれ、トメスタスが参入する。
彼はレースの付いた蒼い女性もののパンツを頭に被り、堂々と仁王立ちして叫ぶ。
「今ならラナの下着を盗み放題だぞ! 誰か行こうぜ!!!」
「兄様、恥ずかしいからやめてください」
遠くからクオンの非難が飛ぶも、トメスタスはやめることなく、むしろパンツを深く被ってみせた。
「うんうん、わかるぞ妹よ。俺がラナのパンツだけ盗んだから嫉妬してるんだろう?」
「違います」
「わかってるわかってる。ちゃんとお前のパンツも盗ってきたから。ほれ」
ズボンのポケットから新たに黄緑色のパンツを取り出すトメスタス。
最早クオンは怒る気にもならず、哀れむ視線でトメスタスを見ながら薄く笑みを浮かべていた。
「みんなおかしくなってるねぇ〜っ」
ミズヤが何気なく呟いた言葉が、この状況を端的に示していたのだった。
1人の少女がいない、それだけで場が崩れ去るのは早く――。
◇
「私の歳の数と失踪日数が同じになったか……」
暗く深い森の中で、冷気を纏う息吹のような声が場を支配する。
そこで初めて少女は自分の心を知った。
いつもは理性的に生きてきた。
自分の感情を押し殺し、皇女としての役割を従事つつ国の糧となるため鍛錬を重ねた。
その見返りは、何一つなかった。
あの城で過ごし、尊敬されながらも人から距離を置かれ、これが自分の守ってきたものかと侮蔑するようになった。
心は野性だ。
いつも理性が押さえつけている、どんな生物でも持っている特性。
彼女は押し殺していた野性を甦らせ、野性の声を聞いた。
――もともと不信感はあった。
何故こんな国に付き従っているのか、と。
武力をもって大陸統一を果たしたくせに、今度は暴力はやめましょうと意見を翻している。
何が正しいのか後から気付いた、それで今まで殺した相手の親族や友人が許してくれるか?
そんな事はないし、でなければレジスタンスは生まれなかった。
誰だってわかっているはずだ。
頭が悪いと体も悪くなり、不良が出る。
何故なら、頭が悪ければ体調管理ができないから体も悪くなって当然のこと。
今のバスレノスなんてまさにそれじゃないか。
国家という頭が悪いから国全体を蝕んでしまう。
良くなっているのだろうか――?
復調するのはいつだろうか――?
考えるほど闇の思考に陥り、もはや抜け出す事はできない。
それに――私の私情がこの闇を進めと促す。
ああ、私は進もう。
こんなに汚れた私に、まだついて来てくれる仲間と共に――。
◇
夕食を終え、ミズヤとサラは部屋に戻っていつものようにミズヤの足の上に金の猫が座っていた。
彼等のスキンシップタイムであるが、主にミズヤがサラを撫でるだけである。
「……ラナさんが居なくなって、大分めんどくさくなったねぇ〜っ」
やんごとなしにミズヤが呟くと、ベッドに置かれた板切れが文字を映す。
ミズヤはそれを読んだ。
〈家を飛び出したい気持ちはわかるわ。私は押し付けられて王女やってるわけだし、疲れるわ……〉
「でも、美味しいもの食べたりできるでしょ? いい部屋で住めるし、悪くはないと思うけどな〜っ」
〈反乱がなければ裕福な生活を送れる。だけど、裕福に暮らすためにはそれ相応の働きがいるわ。私は民衆の偶像として、立派な皇女に育たなきゃいけないのよ〉
「ぐう……ぞう? ねこさんは難しい言葉を使うんだねっ」
〈これぐらいわかるでしょ……〉
呆れ返り、ミズヤの足の上で仰向けになってふてくさるサラ。
そのお腹をミズヤが撫でてやると、サラは両手をバタつかせて喜んだ。
「……もしも本当のサラと会ったら、こうやってお腹を撫でることもできないかな? セクハラになっちゃう?」
〈私は別にいいけど、猫みたいに可愛い反応は期待しないでよ?〉
「その点は……でも、サラはきっと可愛いと思うし、ねこさん撫でるよりときめくかも」
〈……。ま、確かに私は可愛いけどね〉
満足そうに顔を緩ませるサラを見て、ミズヤも笑みをこぼした。
こうして無意識に恋人のように接するも、姿が違うという壁がある。
早く南の国へ、だからこそこの国を早くなんとかしたいとミズヤは考えるのだった。
そこでピクリと、サラは態度を変えて起き上がる。
ミズヤの足の上で四つ脚を使って立つと、またボードの文字が変わる。
〈ミズヤ、結界を張って!〉
「……ん? なんでー?」
〈なんかヤバイのが来てるわよ!!〉
「え〜?」
突然態度を変えるサラに対し、ミズヤは楽観したままでカラカラと笑った。
しかし、その刹那――
――ドォォオオオオオン!!!
爆音が鳴り響いた。
「ッ〜〜〜〜……な、なんですにゃ?」
耳鳴りのする両耳を抑えながら、ミズヤは身を翻して立ち上がる。
しかし次の瞬間、ミズヤの視界は黒く染まった。
再びなった爆音と共に、部屋の壁が吹き飛ばされて――。
大将にも匹敵するラナが原因不明の不在となると、この機会にレジスタンスが城に攻め入る危険性も考えられた。
今の所はレジスタンスからの攻撃はない。
しかし、平和はいつまで続くかわからないのだ。
「がおーっ、サラにゃーを食べちゃうぞーっ」
「ニャッ!?」
「貴様はいつも通りだな……」
近衛達とクオンで食堂に入り浸り、4人と1匹はテーブルにあるパーティ用のフライドポテトを囲っていた。
食べ物が目の前にあっても誰も手を伸ばすことはなく、クオンは黙って空を見上げ、ヘリリアはテーブルに突っ伏していた。
城内全体に、どんよりと重い空気が流れているのが原因だ。
他のテーブルでも会話は殆どなく、皆暗い顔をしていた。
元気なのはミズヤと、もう1人
「皆の者ぉぉおおおお!!!!」
とてつもない勢いで扉が開かれ、トメスタスが参入する。
彼はレースの付いた蒼い女性もののパンツを頭に被り、堂々と仁王立ちして叫ぶ。
「今ならラナの下着を盗み放題だぞ! 誰か行こうぜ!!!」
「兄様、恥ずかしいからやめてください」
遠くからクオンの非難が飛ぶも、トメスタスはやめることなく、むしろパンツを深く被ってみせた。
「うんうん、わかるぞ妹よ。俺がラナのパンツだけ盗んだから嫉妬してるんだろう?」
「違います」
「わかってるわかってる。ちゃんとお前のパンツも盗ってきたから。ほれ」
ズボンのポケットから新たに黄緑色のパンツを取り出すトメスタス。
最早クオンは怒る気にもならず、哀れむ視線でトメスタスを見ながら薄く笑みを浮かべていた。
「みんなおかしくなってるねぇ〜っ」
ミズヤが何気なく呟いた言葉が、この状況を端的に示していたのだった。
1人の少女がいない、それだけで場が崩れ去るのは早く――。
◇
「私の歳の数と失踪日数が同じになったか……」
暗く深い森の中で、冷気を纏う息吹のような声が場を支配する。
そこで初めて少女は自分の心を知った。
いつもは理性的に生きてきた。
自分の感情を押し殺し、皇女としての役割を従事つつ国の糧となるため鍛錬を重ねた。
その見返りは、何一つなかった。
あの城で過ごし、尊敬されながらも人から距離を置かれ、これが自分の守ってきたものかと侮蔑するようになった。
心は野性だ。
いつも理性が押さえつけている、どんな生物でも持っている特性。
彼女は押し殺していた野性を甦らせ、野性の声を聞いた。
――もともと不信感はあった。
何故こんな国に付き従っているのか、と。
武力をもって大陸統一を果たしたくせに、今度は暴力はやめましょうと意見を翻している。
何が正しいのか後から気付いた、それで今まで殺した相手の親族や友人が許してくれるか?
そんな事はないし、でなければレジスタンスは生まれなかった。
誰だってわかっているはずだ。
頭が悪いと体も悪くなり、不良が出る。
何故なら、頭が悪ければ体調管理ができないから体も悪くなって当然のこと。
今のバスレノスなんてまさにそれじゃないか。
国家という頭が悪いから国全体を蝕んでしまう。
良くなっているのだろうか――?
復調するのはいつだろうか――?
考えるほど闇の思考に陥り、もはや抜け出す事はできない。
それに――私の私情がこの闇を進めと促す。
ああ、私は進もう。
こんなに汚れた私に、まだついて来てくれる仲間と共に――。
◇
夕食を終え、ミズヤとサラは部屋に戻っていつものようにミズヤの足の上に金の猫が座っていた。
彼等のスキンシップタイムであるが、主にミズヤがサラを撫でるだけである。
「……ラナさんが居なくなって、大分めんどくさくなったねぇ〜っ」
やんごとなしにミズヤが呟くと、ベッドに置かれた板切れが文字を映す。
ミズヤはそれを読んだ。
〈家を飛び出したい気持ちはわかるわ。私は押し付けられて王女やってるわけだし、疲れるわ……〉
「でも、美味しいもの食べたりできるでしょ? いい部屋で住めるし、悪くはないと思うけどな〜っ」
〈反乱がなければ裕福な生活を送れる。だけど、裕福に暮らすためにはそれ相応の働きがいるわ。私は民衆の偶像として、立派な皇女に育たなきゃいけないのよ〉
「ぐう……ぞう? ねこさんは難しい言葉を使うんだねっ」
〈これぐらいわかるでしょ……〉
呆れ返り、ミズヤの足の上で仰向けになってふてくさるサラ。
そのお腹をミズヤが撫でてやると、サラは両手をバタつかせて喜んだ。
「……もしも本当のサラと会ったら、こうやってお腹を撫でることもできないかな? セクハラになっちゃう?」
〈私は別にいいけど、猫みたいに可愛い反応は期待しないでよ?〉
「その点は……でも、サラはきっと可愛いと思うし、ねこさん撫でるよりときめくかも」
〈……。ま、確かに私は可愛いけどね〉
満足そうに顔を緩ませるサラを見て、ミズヤも笑みをこぼした。
こうして無意識に恋人のように接するも、姿が違うという壁がある。
早く南の国へ、だからこそこの国を早くなんとかしたいとミズヤは考えるのだった。
そこでピクリと、サラは態度を変えて起き上がる。
ミズヤの足の上で四つ脚を使って立つと、またボードの文字が変わる。
〈ミズヤ、結界を張って!〉
「……ん? なんでー?」
〈なんかヤバイのが来てるわよ!!〉
「え〜?」
突然態度を変えるサラに対し、ミズヤは楽観したままでカラカラと笑った。
しかし、その刹那――
――ドォォオオオオオン!!!
爆音が鳴り響いた。
「ッ〜〜〜〜……な、なんですにゃ?」
耳鳴りのする両耳を抑えながら、ミズヤは身を翻して立ち上がる。
しかし次の瞬間、ミズヤの視界は黒く染まった。
再びなった爆音と共に、部屋の壁が吹き飛ばされて――。
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