連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第2話:ミズヤの気持ち
みんなそうだった。
霧代は僕が居たから死んだ。
サラは僕に会うためにこの世界にやって来てずっと頑張ってきた。
この世界での両親も、シュテルロードの家も滅んだ。
瑛彦さんや環奈さん、キトリューさんは僕が居るからこの世界に居る。
ずっとずっと、いっぱい、たくさん、償えきれないほどの迷惑を掛けていた。
そして、メイラも死んだ。
最期の笑み――その意味は理解できても、まだ別の道があったのを僕は知っている。
僕も君も罪人なんだ、一緒に罪を償って歩んでいくことだってできた。
僕だって何度も自殺した。
生き返るたびに地面を殴りつける日々も、過去にはあった。
君はそんな事も叶わず、もう2度と悲しみも苦しみも、喜びも表せない。
君は生き返らないから。
死なない僕に何かしらの力が宿ってるのは、サラと話してなんとなく感じた。
でも、この力で誰かを幸せに出来たことはなかった。
僕と近くにいるとみんな不幸になる。
僕にある力は、他人を不幸にする力だったんだ――。
「ねぇ、サラ……?」
薄暗い自室で、僕は手探りにサラの感触を掴み、その猫を抱え上げた。
血の付いた手だったからか、いつもと触り心地が悪かった。
「……にゃー」
無気力な声が返ってくる。
とても悲しくも聞こえた。
「……サラ。僕はね、君を不幸にしたくないんだ……」
「にゃーっ……」
「だって、サラは僕のことが本当に好きだもんね。わかるよ、ずっと一緒だったから。だから、僕も大好きなんだよ?」
「…………」
サラは無言で僕の手を優しく叩く。
戯れのつもりなんだろう。
僕の言葉を嬉しく思ってるのが伝わってきた。
だから、そう。
僕を好きでいたら、ずっと一緒に居て、不幸にしてしまう。
だから、
「サラ……」
――僕と、別れよう。
◇
軍議室には2つの影があり、外の扉には使用中の立て掛けがあった。
使用している2人は、本来の目的での利用ではなく、1人の少年について話していた。
小さな少女から一方的に話を聞き終え、向かいに座る女性は頷きながら言葉を返す。
「それは複雑な心境でしょうね……。前世の記憶があるとしても、ミズヤくんのあの性格では、事の重荷に耐えられないのは明白です」
フードを脱ぎ、メガネを外した皇后は嘆きの言霊を口から出した。
全てを見透かしたような澄んだ瞳は、正面に座るクオンを捉えている。
「……母上、私はミズヤに何ができるでしょう?」
おそるおそるクオンは母に尋ねる。
母であるサトリはしばし沈黙したのち、こう答えた。
「クオン。貴方はミズヤくんにどうなって欲しいのですか?」
「そんなの、元気になって欲しいに決まってます」
「うんうん、そうですよね……。ミズヤくんは、今は呪いが掛かっている。呪いとは厄介なもので、魔法の言葉じゃないと解除できないのです」
「…………?」
クオンが首を傾げると、サトリはクスクスと笑った。
「単なる比喩ですよ。呪いとはミズヤくんの今ある負の感情の事。これを解く魔法の言葉を、貴方自身で見つけなさい。それが貴方の成長にもなるのですから」
「…………」
ダンッと、クオンは机を叩いた。
いつも冷静な娘が怒る仕草に、サトリは驚いて口を開ける。
沈黙が流れたのち、クオンは再度口を開く。
「母上……そんな遊びをしている場合ではないんですよ。もし私の言葉でミズヤがこの城を攻めたら、どうなるかわかるでしょう! それほどミズヤは精神が不安定なんですよ!!」
クオンの怒号が響き渡る。
小さな体なのに、その言葉は真っ当で力があった。
実の娘に怒鳴られ、サトリの方は
「……フフッ」
可笑しそうに笑った。
「……何が可笑しいんですか」
クオンは訝しみながら尋ねた。
サトリはクスクスと笑いながら、娘の問いに答える。
「いや、その……フフッ。娘に言い返されるなんて、私はダメだなぁと思ったんですよ」
「…………」
愉快そうな母の様子に、クオンは顔をしぼませる。
こっちが困ってるというのに――そう思ってた矢先、サトリがクオンに問い返す。
「クオン、貴方はミズヤくんのことが好きなんですか?」
「……は?」
間抜けな声が室内に響く。
突拍子もなく問われ、わけがわからないと言いたい声だった。
「だって、貴方が必死な様子で相談を持ちかけて来て、今も私の言葉に本気で怒っている。貴方はよほど、彼を気に入ってるのですね」
「……。気に入ってるというのは否定しません。私は、彼に命を救われてから変わった気がするんです」
「どう変わってる、と?」
重ねられる問いに、クオンは堂々と答えた。
「いままで、私は国のことと自分の身の事ばかりを案じていました。ですが彼と共にいて、友人や家族、隣人……国という大きなものよりも個人に目を向けるようになりました。私は彼から多くを学んでいるんです。命まで救われたのに、借りばかり増える。だからこの借りを返したい、それだけです」
キッパリと言い放つその声はどこまでも真摯で、サトリはにこやかに笑顔を浮かべて聞いていた。
国よりも個人へ――大陸を統一する皇族の姫として、それはとても大切なもの。
(これを機に成長を、と思いましたが……親がしなくても勝手に成長しているものですね……)
少し悔しげにそう思い、サトリはため息まじりにこう言った。
「貴方の気持ち、分かりました。ミズヤくんの事について、私が考えられる限りを教えましょう。そして、これからの事も……」
「! はいっ、お願いします!」
高々と声を張り上げ、クオンは改めて座り直す。
そしてじっくりと話を聞き、対策を練るのだった。
霧代は僕が居たから死んだ。
サラは僕に会うためにこの世界にやって来てずっと頑張ってきた。
この世界での両親も、シュテルロードの家も滅んだ。
瑛彦さんや環奈さん、キトリューさんは僕が居るからこの世界に居る。
ずっとずっと、いっぱい、たくさん、償えきれないほどの迷惑を掛けていた。
そして、メイラも死んだ。
最期の笑み――その意味は理解できても、まだ別の道があったのを僕は知っている。
僕も君も罪人なんだ、一緒に罪を償って歩んでいくことだってできた。
僕だって何度も自殺した。
生き返るたびに地面を殴りつける日々も、過去にはあった。
君はそんな事も叶わず、もう2度と悲しみも苦しみも、喜びも表せない。
君は生き返らないから。
死なない僕に何かしらの力が宿ってるのは、サラと話してなんとなく感じた。
でも、この力で誰かを幸せに出来たことはなかった。
僕と近くにいるとみんな不幸になる。
僕にある力は、他人を不幸にする力だったんだ――。
「ねぇ、サラ……?」
薄暗い自室で、僕は手探りにサラの感触を掴み、その猫を抱え上げた。
血の付いた手だったからか、いつもと触り心地が悪かった。
「……にゃー」
無気力な声が返ってくる。
とても悲しくも聞こえた。
「……サラ。僕はね、君を不幸にしたくないんだ……」
「にゃーっ……」
「だって、サラは僕のことが本当に好きだもんね。わかるよ、ずっと一緒だったから。だから、僕も大好きなんだよ?」
「…………」
サラは無言で僕の手を優しく叩く。
戯れのつもりなんだろう。
僕の言葉を嬉しく思ってるのが伝わってきた。
だから、そう。
僕を好きでいたら、ずっと一緒に居て、不幸にしてしまう。
だから、
「サラ……」
――僕と、別れよう。
◇
軍議室には2つの影があり、外の扉には使用中の立て掛けがあった。
使用している2人は、本来の目的での利用ではなく、1人の少年について話していた。
小さな少女から一方的に話を聞き終え、向かいに座る女性は頷きながら言葉を返す。
「それは複雑な心境でしょうね……。前世の記憶があるとしても、ミズヤくんのあの性格では、事の重荷に耐えられないのは明白です」
フードを脱ぎ、メガネを外した皇后は嘆きの言霊を口から出した。
全てを見透かしたような澄んだ瞳は、正面に座るクオンを捉えている。
「……母上、私はミズヤに何ができるでしょう?」
おそるおそるクオンは母に尋ねる。
母であるサトリはしばし沈黙したのち、こう答えた。
「クオン。貴方はミズヤくんにどうなって欲しいのですか?」
「そんなの、元気になって欲しいに決まってます」
「うんうん、そうですよね……。ミズヤくんは、今は呪いが掛かっている。呪いとは厄介なもので、魔法の言葉じゃないと解除できないのです」
「…………?」
クオンが首を傾げると、サトリはクスクスと笑った。
「単なる比喩ですよ。呪いとはミズヤくんの今ある負の感情の事。これを解く魔法の言葉を、貴方自身で見つけなさい。それが貴方の成長にもなるのですから」
「…………」
ダンッと、クオンは机を叩いた。
いつも冷静な娘が怒る仕草に、サトリは驚いて口を開ける。
沈黙が流れたのち、クオンは再度口を開く。
「母上……そんな遊びをしている場合ではないんですよ。もし私の言葉でミズヤがこの城を攻めたら、どうなるかわかるでしょう! それほどミズヤは精神が不安定なんですよ!!」
クオンの怒号が響き渡る。
小さな体なのに、その言葉は真っ当で力があった。
実の娘に怒鳴られ、サトリの方は
「……フフッ」
可笑しそうに笑った。
「……何が可笑しいんですか」
クオンは訝しみながら尋ねた。
サトリはクスクスと笑いながら、娘の問いに答える。
「いや、その……フフッ。娘に言い返されるなんて、私はダメだなぁと思ったんですよ」
「…………」
愉快そうな母の様子に、クオンは顔をしぼませる。
こっちが困ってるというのに――そう思ってた矢先、サトリがクオンに問い返す。
「クオン、貴方はミズヤくんのことが好きなんですか?」
「……は?」
間抜けな声が室内に響く。
突拍子もなく問われ、わけがわからないと言いたい声だった。
「だって、貴方が必死な様子で相談を持ちかけて来て、今も私の言葉に本気で怒っている。貴方はよほど、彼を気に入ってるのですね」
「……。気に入ってるというのは否定しません。私は、彼に命を救われてから変わった気がするんです」
「どう変わってる、と?」
重ねられる問いに、クオンは堂々と答えた。
「いままで、私は国のことと自分の身の事ばかりを案じていました。ですが彼と共にいて、友人や家族、隣人……国という大きなものよりも個人に目を向けるようになりました。私は彼から多くを学んでいるんです。命まで救われたのに、借りばかり増える。だからこの借りを返したい、それだけです」
キッパリと言い放つその声はどこまでも真摯で、サトリはにこやかに笑顔を浮かべて聞いていた。
国よりも個人へ――大陸を統一する皇族の姫として、それはとても大切なもの。
(これを機に成長を、と思いましたが……親がしなくても勝手に成長しているものですね……)
少し悔しげにそう思い、サトリはため息まじりにこう言った。
「貴方の気持ち、分かりました。ミズヤくんの事について、私が考えられる限りを教えましょう。そして、これからの事も……」
「! はいっ、お願いします!」
高々と声を張り上げ、クオンは改めて座り直す。
そしてじっくりと話を聞き、対策を練るのだった。
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