連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第13話:サード・コンタクト③
所変わって西方軍事拠点――の上空では、ラージ・イグソーブによるレーザー、ドライブ・イグソーブの衝撃波、そして武器を持った人間が飛び交い、その度に何人もの人が落下していった。
「……うーん」
そんな戦火の中、ヤーシャは顎に手を当てて唸っていた。
別に、さっさと戦いが終わってくれればいいと願っているわけではない。
彼女が不意に見上げた上空には、トメスタスが妹のミュベスが停滞していた。
しかもちゃっかり“ブラッドストーンの瞳”を用いた結界で被弾を防いでいる。
叩こうにも叩けず、彼女としてもお互いに大将がまだ戦いに出向かないのはありがたい事で、ヤーシャものんびりと立っていた。
「……何してんスか?」
ガンッと鉄を潰して着地するマナーズを、ヤーシャはチラリと見た。
彼の両脇には胴を持たれたレジスタンスの男が2人居て、手がダラリと下がっている事から気絶している事を理解する。
「向こうの大将と同じで様子見よ」
「でも向こうは何か仕掛ける気で見てるんすよね? ……無意味じゃないッスか?」
「いいのよ、仕掛ける前に潰すわ」
「……なるほどね」
レジスタンス2人を寝かせながら相槌を打つマナーズ。
その味気ない態度にもはや文句も言わず、ヤーシャはただ敵を見据えた。
「……今の所は五分五分ってところかしら。マナーズが動いてる分アタシらが有利か……」
「少しサボってていースか?」
「ぶっ殺すわよ?」
「……じゃあもう、行きますよっと」
億劫そうに髪を掻きながら、マナーズはドライブ・イグソーブを噴射させ、空へ飛んでいった。
止まらない攻撃の中を、一瞬で――。
「元Sクラスハンター、【瞬炎禍】のマナーズ……。頼んだわよ、西軍のエース……」
ポツリと呟いたヤーシャの声は、銃撃音の中へと消えていった――。
◇
「……おー、やってるなー」
生死を賭けた戦いが上空で広がるさなか、環奈はキトリュー達の元で胡座をかいて座っていた。
なんとも呑気な様子にキトリューはため息を吐き、瑛彦はいつもの環奈が見られてホッとしている。
「つーかさ、瑛彦はレジスタンスなんよね。こっち寝返れば?」
「キトリューさんにもそう言われたけどよ……どうしたもんかね?」
「いいよ、理優連れてさっさと来なって。理優も相当寂しがってるでしょ。はよ安心させたれ」
「……。そうだな」
環奈の言う通り、今もレジスタンスの基地にいる理優は憔悴しきっていた。
突然異世界に連れてこられ、右も左もわからず、頼れるのは恋人のみ。
暗く寂しい環境だったために、もう心は疲弊しきっていたのだ。
そんな理優の姿が脳裏に浮かぶからこそ、瑛彦も環奈の言葉に頷くしかなかった。
「上でなんか戦ってんのは、無視してよ。ウチら関係ないわけだし、むざむざ身を危険に晒さんでもいいっしょ」
「お、おう……。ところで、瑞っちは?」
「教会に行ったよ? あそこ猫がいっぱい居るんよね」
「え……?」
「ん……?」
瑛彦の驚嘆に、環奈は首を傾げた。
その驚愕の顔というのも、マズいと書かれた顔だったのだ。
あの場所にはバスレノス唯一の善幻種ナルーが居る、そして敵はバスレノスの敵であるレジスタンス。
この事から、容易に想像がついた。
「……瑛彦、レジスタンスは何人ぐらい教会に行ったん?」
「……300人」
「うわぁ……」
予想を超える数に、環奈は空を仰いだ。
人手のない教会に対して大掛かりな数で行き過ぎであったから。
「……どうしよっか。ウチが行く?」
「俺が行こう。環奈よりも速い」
「俺なら一瞬だぜ?」
「貴様は教会の場所もわからんだろう」
瑛彦の言葉を一蹴し、キトリューは瞬時に姿を消した。
【時間調節】による時間遷延と【赤魔法】による身体強化を使ったその速度は、もはや常人には捉えることができない。
「……さて、ウチらはどうしようかねぇ?」
「俺は動きたくねぇ。戦うのも好きじゃねぇしな」
「ウチもそうだわ。ヤバい展開になっていっぱい死にそうになったら出ようかな……っと?」
その時、レジスタンス側のトメスタスに、レジスタンスの1人が何かを言っているのを環奈は見た。
あの紫髪の男が敵の大将である事は環奈も承知しており、ついに動くのかとワクワクしていた。
感染する側としては、どう戦いが左右するのかわからないのは面白いもの、どんな手を使うのか、という思いを馳せていた。
やがて、ついにトメスタスが声を発する。
「全員後退!! 今すぐこの場を離れろ!!!」
◇
「ぬあああぁぁっ!!!」
「ひゃーっ」
右手のドライブ・イグソーブに出現した魔法剣をジャンプして躱し、ミズヤは怖がりアピールをしながら走って逃げる。
渾身の一撃を放ったにも関わらず外すも、フィサは武器を噴射させてすぐさまミズヤに迫った。
打ち込みながらもう一方の重機で衝撃波を5つ生み出す。
初速度の無い空砲は一瞬でミズヤの元へ辿り着くも、全て紙一重に避けられてしまう。
【無色魔法】を使える者は空間を認識できる――つまり、どんな攻撃がどの場所にくるのか、風の変化でわかるのだ。
「でやぁっ!」
再びフィサはドライブ・イグソーブを2つとも掲げ、即座に魔法剣がミズヤへと伸びた。
「ふぅっ……」
だが、ミズヤは呆れるように息を吐き出して、フィサの足を蹴った。
バランスを崩し、剣は上を向いて前のめりに倒れそうになる少女。
そんな彼女の右手を掴み、ミズヤは瞬時にドライブ・イグソーブを取り上げた。
「――ッ!」
手を取るミズヤを蹴り返し、カンッとボタンを押して後方へ飛ぶフィサ。
片方の武器を無くし、彼女は顔に焦りを見せる。
一方のミズヤはつまらなそうに口と目を閉ざし、ドライブ・イグソーブを捨てて踏んづけた。
「……もう投降してください。実力の差はわかっていますよね? 痛い思いをするのは……嫌でしょう?」
唐突に少年は提案した。
戦うのが心底嫌というような、冷たい声で。
だがその言葉に応じれるフィサでも無かった。
彼女はこの場を任されたのだ、300人の兵を連れてナルー奪取を命じられたのだ。
断れるわけがない、そして何より――
「私をナメないで……」
大役を任される彼女の実力はこんなものでは無いのだ。
「……うーん」
そんな戦火の中、ヤーシャは顎に手を当てて唸っていた。
別に、さっさと戦いが終わってくれればいいと願っているわけではない。
彼女が不意に見上げた上空には、トメスタスが妹のミュベスが停滞していた。
しかもちゃっかり“ブラッドストーンの瞳”を用いた結界で被弾を防いでいる。
叩こうにも叩けず、彼女としてもお互いに大将がまだ戦いに出向かないのはありがたい事で、ヤーシャものんびりと立っていた。
「……何してんスか?」
ガンッと鉄を潰して着地するマナーズを、ヤーシャはチラリと見た。
彼の両脇には胴を持たれたレジスタンスの男が2人居て、手がダラリと下がっている事から気絶している事を理解する。
「向こうの大将と同じで様子見よ」
「でも向こうは何か仕掛ける気で見てるんすよね? ……無意味じゃないッスか?」
「いいのよ、仕掛ける前に潰すわ」
「……なるほどね」
レジスタンス2人を寝かせながら相槌を打つマナーズ。
その味気ない態度にもはや文句も言わず、ヤーシャはただ敵を見据えた。
「……今の所は五分五分ってところかしら。マナーズが動いてる分アタシらが有利か……」
「少しサボってていースか?」
「ぶっ殺すわよ?」
「……じゃあもう、行きますよっと」
億劫そうに髪を掻きながら、マナーズはドライブ・イグソーブを噴射させ、空へ飛んでいった。
止まらない攻撃の中を、一瞬で――。
「元Sクラスハンター、【瞬炎禍】のマナーズ……。頼んだわよ、西軍のエース……」
ポツリと呟いたヤーシャの声は、銃撃音の中へと消えていった――。
◇
「……おー、やってるなー」
生死を賭けた戦いが上空で広がるさなか、環奈はキトリュー達の元で胡座をかいて座っていた。
なんとも呑気な様子にキトリューはため息を吐き、瑛彦はいつもの環奈が見られてホッとしている。
「つーかさ、瑛彦はレジスタンスなんよね。こっち寝返れば?」
「キトリューさんにもそう言われたけどよ……どうしたもんかね?」
「いいよ、理優連れてさっさと来なって。理優も相当寂しがってるでしょ。はよ安心させたれ」
「……。そうだな」
環奈の言う通り、今もレジスタンスの基地にいる理優は憔悴しきっていた。
突然異世界に連れてこられ、右も左もわからず、頼れるのは恋人のみ。
暗く寂しい環境だったために、もう心は疲弊しきっていたのだ。
そんな理優の姿が脳裏に浮かぶからこそ、瑛彦も環奈の言葉に頷くしかなかった。
「上でなんか戦ってんのは、無視してよ。ウチら関係ないわけだし、むざむざ身を危険に晒さんでもいいっしょ」
「お、おう……。ところで、瑞っちは?」
「教会に行ったよ? あそこ猫がいっぱい居るんよね」
「え……?」
「ん……?」
瑛彦の驚嘆に、環奈は首を傾げた。
その驚愕の顔というのも、マズいと書かれた顔だったのだ。
あの場所にはバスレノス唯一の善幻種ナルーが居る、そして敵はバスレノスの敵であるレジスタンス。
この事から、容易に想像がついた。
「……瑛彦、レジスタンスは何人ぐらい教会に行ったん?」
「……300人」
「うわぁ……」
予想を超える数に、環奈は空を仰いだ。
人手のない教会に対して大掛かりな数で行き過ぎであったから。
「……どうしよっか。ウチが行く?」
「俺が行こう。環奈よりも速い」
「俺なら一瞬だぜ?」
「貴様は教会の場所もわからんだろう」
瑛彦の言葉を一蹴し、キトリューは瞬時に姿を消した。
【時間調節】による時間遷延と【赤魔法】による身体強化を使ったその速度は、もはや常人には捉えることができない。
「……さて、ウチらはどうしようかねぇ?」
「俺は動きたくねぇ。戦うのも好きじゃねぇしな」
「ウチもそうだわ。ヤバい展開になっていっぱい死にそうになったら出ようかな……っと?」
その時、レジスタンス側のトメスタスに、レジスタンスの1人が何かを言っているのを環奈は見た。
あの紫髪の男が敵の大将である事は環奈も承知しており、ついに動くのかとワクワクしていた。
感染する側としては、どう戦いが左右するのかわからないのは面白いもの、どんな手を使うのか、という思いを馳せていた。
やがて、ついにトメスタスが声を発する。
「全員後退!! 今すぐこの場を離れろ!!!」
◇
「ぬあああぁぁっ!!!」
「ひゃーっ」
右手のドライブ・イグソーブに出現した魔法剣をジャンプして躱し、ミズヤは怖がりアピールをしながら走って逃げる。
渾身の一撃を放ったにも関わらず外すも、フィサは武器を噴射させてすぐさまミズヤに迫った。
打ち込みながらもう一方の重機で衝撃波を5つ生み出す。
初速度の無い空砲は一瞬でミズヤの元へ辿り着くも、全て紙一重に避けられてしまう。
【無色魔法】を使える者は空間を認識できる――つまり、どんな攻撃がどの場所にくるのか、風の変化でわかるのだ。
「でやぁっ!」
再びフィサはドライブ・イグソーブを2つとも掲げ、即座に魔法剣がミズヤへと伸びた。
「ふぅっ……」
だが、ミズヤは呆れるように息を吐き出して、フィサの足を蹴った。
バランスを崩し、剣は上を向いて前のめりに倒れそうになる少女。
そんな彼女の右手を掴み、ミズヤは瞬時にドライブ・イグソーブを取り上げた。
「――ッ!」
手を取るミズヤを蹴り返し、カンッとボタンを押して後方へ飛ぶフィサ。
片方の武器を無くし、彼女は顔に焦りを見せる。
一方のミズヤはつまらなそうに口と目を閉ざし、ドライブ・イグソーブを捨てて踏んづけた。
「……もう投降してください。実力の差はわかっていますよね? 痛い思いをするのは……嫌でしょう?」
唐突に少年は提案した。
戦うのが心底嫌というような、冷たい声で。
だがその言葉に応じれるフィサでも無かった。
彼女はこの場を任されたのだ、300人の兵を連れてナルー奪取を命じられたのだ。
断れるわけがない、そして何より――
「私をナメないで……」
大役を任される彼女の実力はこんなものでは無いのだ。
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