連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第19話:遠征前
太陽も隠れてしまい、明かりは消えて世界は夜へひっくり返っていた。
午後から起きていた僕は眠くはないけれど、今部屋に来ているクオンは眠たそうで、目が半開きになっていた。
「集まってもらい、ありがとうございます……」
覇気のない声でクオンが挨拶しながら頭を下げ、ゆっくりと顔を上げる。
その仕草を見る環奈さん、キトリューさん、僕と他のクオンの側近は渋い顔になっていた。
今現在、このメンバーで僕の部屋にいる。
クオンはベッドに座り、他のメンバーは床に座って丸くなっていた。
「……少し、カラノールに用があるので……その、遠征に出掛けます……」
「……クオン様、大丈夫ですか?」
「……平気ですよケイク。私を……誰だとお思いですか……」
心配の声をはねのけつつも、うつらうつらと眠たそうにするクオンのまぶたは誤魔化せない。
クオンもまだ12歳、無理するべきではないのだ。
しかし、ここに人を集めた以上はクオンも要件を述べる。
「日程は……私達で、明日の正午から、です……。今夜の夜番は、ケイクとミズヤで、交代しながら……お願いします……うぅ……」
それだけ告げると、パタリとベッドに倒れてしまう。
数秒遅れて「すぅ……すぅ……」たも小さな寝息が聞こえてきたため、全員でそっと廊下に出た。
廊下に出てから僕が部屋に結界を作り、廊下でまた話す。
「しかし、カンナ殿とキトリュー殿も行かれるのですか? 召喚されたばかりで、まだこの国に馴染めてないのでは……」
「いいよ別に。あまり馴染む気ないし」
ケイクくんの言葉を環奈さんはばっさりと切り捨てる。
キトリューさんは黙ったままだったけど、退屈そうな顔をしていた。
「えっ、遠征なんて、私は足手まといじゃ……」
「足手まといじゃないから、貴様はしっかりしろ」
「ひぃっ!? しっかりしてなくてごめんなさいぃいいいい!!!」
ケイクくんがビシッと嗜めるも、ヘリリアさんはいつもの如く頭隠して尻隠さず。
蹲って頭を押さえる彼女を見て、環奈さんとキトリューさんは目を細めた。
バカを見るようなジト目であったが、こんな事は最早恒例であるため、誰も気に留めなかった。
「ふむ……。ヘリリアを除いて、皆カラノールへ行くのは初めてだろう。少しではあるが、あらかじめ説明しておこう」
ケイクくんは立ち上がりながらそう言って、カラノールについての説明を始める。
「カラノールは貧困街だ。だから上物の服を来ている奴が珍しく、人に襲われる可能性も高い。襲われないために皆、ジャージを着る事だ。それから、よく魔物が出る。善幻種であるナルー様を殺したいがために出ているようだが、カラノールには我々バスレノスの西方軍事拠点がある。大抵の魔物は、俺たちが出るまでもなく始末してくれるだろう」
「……待て。魔物って何だ?」
話を切りキトリューさんは尋ねた。
約200年前にこの世界で生きていた彼は、魔物を知らないのだろうか?
「魔物は魔物だ。悪魔力の塊に過ぎない。代わりにほら、龍亭場に龍がいるだろう? あれは善魔力で出来てるらしい」
「……環奈」
「……こりゃあヤバいかもねぇ」
「……?」
ケイクくんの説明を聞いて、召喚された2人は張り詰めた顔になる。
……なんだろう? この世界では常識的なことのはず、だけど?
「……なぁ、ケイクとやら。俺たちは一度、西大陸に行きたいのだが……」
「それはクオン様に許可を取ってくれ。俺に許可を出す権利はない」
「いいよ、行っちゃおキトリュー。ウチらがカラノールから飛べば、2時間掛からんでしょ」
「……あれだけ強ければそうも言えるか。好きにするといい」
環奈さんは身勝手にそう言うも、ケイクくんは止める気がなさそうだった。
あれだけ強ければ、それはきっと、模擬戦を見ての感想なのだろう。
「……うにゃー、模擬戦見とけば良かった」
「おー、なになにミズヤ? ウチに興味出ちゃったん?」
「別に〜っ」
意味ありげに笑う環奈さんのそっぽを向く。
別に興味湧いてませんよーっ、サラもニャーニャー言って反論してるし。
「……ともかく、カラノールは貧困街だから、強盗に注意すること。命を狙われることはあまりないが、レジスタンスからも狙われる可能性がある。気を引き締めていくぞ」
『はーいっ』
「ごめんなさいぃ……」
口を閉ざしたキトリューさんと謝るヘリリアさんはともかく、僕と環奈さんの声は重なるのだった。
なんだか遠足みたいだけど、おやつは無制限だからいっぱい作って行こう〜っ。
◇
そんなこんなで明日の予定を語っていると、今夜も襲撃を受けたらしい。
今回は僕を含めトメスタスさん、環奈さん、キトリューさんの少数精鋭で出撃した。
それは前回、何もできずに部下が大量に死んだためでもある。
しかし結果、僕らが現場に着いた頃には敵は撤退していて、何もすることはできなかった。
環奈さんは「瑛彦に会えんかー」と残念そうにしていたが、顔色が変わるわけでもないようだ。
キトリューさんは元々、環奈の知り合いだったから瑛彦や【ヤプタレア】の僕を知っているというらしく、友人でもないからと気にしていなかった。
僕らは手ぶらで帰り、皆それぞれ床につく中で、僕はケイクくんに変わって夜番をする。
また4時間ぐらい経てば交代だ。
そうしたら僕は寝て、明日が来る。
「ちょっとした旅になりそうだね、サラ」
囁くように、胸に抱いた猫へ話し掛ける。
すでに眠ったサラは何も言い返さなかった。
ちょっと魔法の使える、可愛いねこさん。
君の知ってる話は、どんな話なんだろう――。
午後から起きていた僕は眠くはないけれど、今部屋に来ているクオンは眠たそうで、目が半開きになっていた。
「集まってもらい、ありがとうございます……」
覇気のない声でクオンが挨拶しながら頭を下げ、ゆっくりと顔を上げる。
その仕草を見る環奈さん、キトリューさん、僕と他のクオンの側近は渋い顔になっていた。
今現在、このメンバーで僕の部屋にいる。
クオンはベッドに座り、他のメンバーは床に座って丸くなっていた。
「……少し、カラノールに用があるので……その、遠征に出掛けます……」
「……クオン様、大丈夫ですか?」
「……平気ですよケイク。私を……誰だとお思いですか……」
心配の声をはねのけつつも、うつらうつらと眠たそうにするクオンのまぶたは誤魔化せない。
クオンもまだ12歳、無理するべきではないのだ。
しかし、ここに人を集めた以上はクオンも要件を述べる。
「日程は……私達で、明日の正午から、です……。今夜の夜番は、ケイクとミズヤで、交代しながら……お願いします……うぅ……」
それだけ告げると、パタリとベッドに倒れてしまう。
数秒遅れて「すぅ……すぅ……」たも小さな寝息が聞こえてきたため、全員でそっと廊下に出た。
廊下に出てから僕が部屋に結界を作り、廊下でまた話す。
「しかし、カンナ殿とキトリュー殿も行かれるのですか? 召喚されたばかりで、まだこの国に馴染めてないのでは……」
「いいよ別に。あまり馴染む気ないし」
ケイクくんの言葉を環奈さんはばっさりと切り捨てる。
キトリューさんは黙ったままだったけど、退屈そうな顔をしていた。
「えっ、遠征なんて、私は足手まといじゃ……」
「足手まといじゃないから、貴様はしっかりしろ」
「ひぃっ!? しっかりしてなくてごめんなさいぃいいいい!!!」
ケイクくんがビシッと嗜めるも、ヘリリアさんはいつもの如く頭隠して尻隠さず。
蹲って頭を押さえる彼女を見て、環奈さんとキトリューさんは目を細めた。
バカを見るようなジト目であったが、こんな事は最早恒例であるため、誰も気に留めなかった。
「ふむ……。ヘリリアを除いて、皆カラノールへ行くのは初めてだろう。少しではあるが、あらかじめ説明しておこう」
ケイクくんは立ち上がりながらそう言って、カラノールについての説明を始める。
「カラノールは貧困街だ。だから上物の服を来ている奴が珍しく、人に襲われる可能性も高い。襲われないために皆、ジャージを着る事だ。それから、よく魔物が出る。善幻種であるナルー様を殺したいがために出ているようだが、カラノールには我々バスレノスの西方軍事拠点がある。大抵の魔物は、俺たちが出るまでもなく始末してくれるだろう」
「……待て。魔物って何だ?」
話を切りキトリューさんは尋ねた。
約200年前にこの世界で生きていた彼は、魔物を知らないのだろうか?
「魔物は魔物だ。悪魔力の塊に過ぎない。代わりにほら、龍亭場に龍がいるだろう? あれは善魔力で出来てるらしい」
「……環奈」
「……こりゃあヤバいかもねぇ」
「……?」
ケイクくんの説明を聞いて、召喚された2人は張り詰めた顔になる。
……なんだろう? この世界では常識的なことのはず、だけど?
「……なぁ、ケイクとやら。俺たちは一度、西大陸に行きたいのだが……」
「それはクオン様に許可を取ってくれ。俺に許可を出す権利はない」
「いいよ、行っちゃおキトリュー。ウチらがカラノールから飛べば、2時間掛からんでしょ」
「……あれだけ強ければそうも言えるか。好きにするといい」
環奈さんは身勝手にそう言うも、ケイクくんは止める気がなさそうだった。
あれだけ強ければ、それはきっと、模擬戦を見ての感想なのだろう。
「……うにゃー、模擬戦見とけば良かった」
「おー、なになにミズヤ? ウチに興味出ちゃったん?」
「別に〜っ」
意味ありげに笑う環奈さんのそっぽを向く。
別に興味湧いてませんよーっ、サラもニャーニャー言って反論してるし。
「……ともかく、カラノールは貧困街だから、強盗に注意すること。命を狙われることはあまりないが、レジスタンスからも狙われる可能性がある。気を引き締めていくぞ」
『はーいっ』
「ごめんなさいぃ……」
口を閉ざしたキトリューさんと謝るヘリリアさんはともかく、僕と環奈さんの声は重なるのだった。
なんだか遠足みたいだけど、おやつは無制限だからいっぱい作って行こう〜っ。
◇
そんなこんなで明日の予定を語っていると、今夜も襲撃を受けたらしい。
今回は僕を含めトメスタスさん、環奈さん、キトリューさんの少数精鋭で出撃した。
それは前回、何もできずに部下が大量に死んだためでもある。
しかし結果、僕らが現場に着いた頃には敵は撤退していて、何もすることはできなかった。
環奈さんは「瑛彦に会えんかー」と残念そうにしていたが、顔色が変わるわけでもないようだ。
キトリューさんは元々、環奈の知り合いだったから瑛彦や【ヤプタレア】の僕を知っているというらしく、友人でもないからと気にしていなかった。
僕らは手ぶらで帰り、皆それぞれ床につく中で、僕はケイクくんに変わって夜番をする。
また4時間ぐらい経てば交代だ。
そうしたら僕は寝て、明日が来る。
「ちょっとした旅になりそうだね、サラ」
囁くように、胸に抱いた猫へ話し掛ける。
すでに眠ったサラは何も言い返さなかった。
ちょっと魔法の使える、可愛いねこさん。
君の知ってる話は、どんな話なんだろう――。
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