連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第17話:座談会
「はぁ!? ここ【サウドラシア】なん!?」
城内の広間に少女の驚嘆が響く。
召喚された少女、千堂環奈はこの世界の名を聞いて驚いたのだ。
今、彼女ともう1人の召喚された少年は皇帝皇后の前に敷かれる赤いカーペットの上に立ち、その周りを囲うようにざわざわと兵士や商人、貴族達が騒ぎ立てている。
他世界からの召喚者、それを喜ぶかどうかは召喚された彼らの人格次第であり、すぐ叫ぶような輩では忌避される。
しかし、その中でもミズヤは冷静に2人を見ていた。
彼は自分を認識した2人が、他世界の自分と仲が良かったのだと理解しているから。
2人はどんな人なのか、どんなことを喋るのか……それを聞くため、静かにしていた。
「うむ……この世界は【サウドラシア】だが 、何か?」
環奈の言葉に、皇帝は聞き返した。
しかし、2人が転生者と言うのはすぐに話せたことでもない。
そのため、環奈とキトリューはひそひそと話し合い、キトリューが次の言葉を述べる。
「いえ、我々は小説でサウドラシアという国が出てくるものを読んだことがあり、本の世界に入ってしまったのかと思っただけです。どうやら、我々が読んだ物語とは別世界のようですがね。話を続けてください」
「あぁ、そうか……そう思うのもわからんでもないな」
皇帝はそう言って笑い、その息子達は何かを伝え合うように目配せをした。
ラナやクオンは特に、人の動きには敏感なのだ。
「ともかく、其方等はバスレノスの力になっていただけるのだな?」
「えぇ。私もこの環奈も、必ずや力になります。なんなら、明日にでも戦闘訓練を致しますが?」
「頼もしい限りだ。よし、本日は宴を行う! 総員準備せよ!」
皇帝が立ち上がり宣言すると、勢いよく歓声が沸いた。
その中でも一部は全く声を出さない。
そのグループはラナ達兄妹とその側近グループ、そして位の高い貴族であった。
「なぁ、ラナよ」
「姉上と呼べ、ゴミ弟」
「……姉上よ、あの2人はこの世界を知ってそうだな?」
トメスタスはラナに尋ねるも、ラナは答えなかった。
確証のないことを言うのは好きではないのだ。
「……ヘリリア、食べ過ぎですよ」
「むーむーっ!」
「……クオン様、其奴は放っておきましょう。宴なのですからご準備を」
「え? ええ……」
ケイクに連れられ、クオンも広間を退室した。
さっきからずっと大福を食べていたヘリリアはその場にのこり、まだまだ大福を食べていた。
ミズヤはそのまま動かず、自身を覆い隠す2人分の影に目を向ける。
そして、顔を上げた。
「やっほ、瑞揶。これなんの遊び? お姉さん怒っちゃうよ?」
「まったくだ。この世界が俺と環奈にとって忌々しいことぐらい、わかっていように」
「…………」
環奈とキトリューとそれぞれ怒った風にミズヤに話し掛けた。
しかしミズヤは冷静に、2人の顔を見て、いつもの彼らしくない、真摯な姿勢でこう言った。
「環奈さん、キトリューさん……話を聞かせてくれませんか――?」
この言葉に、2人は眉を跳ねさせた。
互いに目配せをさせ、環奈が呟く。
「これはどうやら、ただ事じゃあなさそうだね……」
◇
宴会は3時間に渡り行われた。
今宵も街を襲われたが、200の兵と大将の2人が出撃しており、貴族も数人出撃しただめ宴会は続行。
ミズヤとトメスタス、ラナは城に残っていた。
「2人とも人気だね〜っ」
「ニャーッ」
会場の隅でミズヤが呟くと、サラが相槌を返す。
クオンや他の側近は声を掛けられたり、主役の2人と話したりと忙しく、ミズヤは暇をしていた。
ちょこんと会場の隅で体育座りをし、履いたブーツの先にはサラがいる。
「サラは女の子なんだよね〜?」
「ニャァ」
「そっかぁ……変な所触るかもしれないし、持ち上げたりしたら駄目?」
フルフルと首を横に振り、嫌じゃないと意思表示をされる。
もう7年以上の付き合いになるのに、今更扱いが変えられても困るのだった。
サラはピョコンと飛んでミズヤの膝の上に立ち、ビシビシと前足でミズヤの額を叩いた。
「……暴力は駄目だよ〜っ」
バシッ!
「痛いっ!?」
猫に遊ばれるミズヤなのだった。
◇
「ふっふっふー、今日は夜番なのですっ」
「ニャァッ」
廊下で1人騒ぎ立て、ミズヤとサラは今、クオンの部屋の前に居た。
現在約深夜2時、だがこれからも待機である。
クオンの部屋にはミズヤが結界を張ってあるため今は安全であるが、襲撃を受ければわからない。
しかし、そんなことは滅多にないため、夜番など大抵は本を読んだり仲間を呼んで雑談したりである。
ミズヤも暇な時間をサラとの会話、筋トレ、作曲などに充てていた。
ただし、今夜はわけが違う。
「やほーミズヤ。待ったー?」
遠くの方から呼ばれ、ミズヤは廊下の奥を見た。
そこから現れたのは学生服を着た黒髪の少女と金髪の少年であった。
異世界より召喚された千堂環奈、キトリュー・デメレオスは、ミズヤとこの時間に会う約束をしていたのだ。
3人が揃うと円を描くように座り、ミズヤが口を開く。
「初めに言っておくけど、僕は君達の知ってる“響川瑞揶”じゃない。僕はこの世界で生まれた男、ミズヤ・シュテルロード」
「! シュテルロード?」
「……ん?」
ミズヤの家名を環奈が聞き返し、ミズヤははてなを浮かべる。
2人は【サウドラシア】に召喚されたのであって、シュテルロードの名前を知るはずがないのだ。
ミズヤの反応を見て2人は目配せをして頷き、環奈は説明した。
「ウチらもさ、アンタと同じ、俗に言う転生者なんよ。【サウドラシア】で生まれて、それで別の世界である【ヤプタレア】で生まれ変わったんよ。こっちの世界ではノール・ハウランカールって名前だった」
「俺の旧姓はキトリュー・ヘイラ・ハヴレウスだった。元王族、環奈は旧公爵家の令嬢だ」
「……おお〜」
予想外の展開にミズヤは感嘆する。
転生者と転生者が出会う、ミズヤが今までの人生ではなかったことであり、共通の仲間がいてちょっとした感動を覚えた。
「んで、シュテルロードの名前も知ってるよ。フラクリスラルの有力な貴族っしょ?」
「……まぁ、そうだったね」
「あ、潰れたん? ドンマイ」
「…………」
環奈のあまりにも軽い言葉に、さすがにミズヤも目を細めた。
しかし環奈はカラカラと笑って誤魔化し、話を戻す。
「で、結局なんなん? ミズヤは記憶がないとか言いつつ、ウチらの事を知ってる風じゃん?」
「……うん。レジスタンスに、君らみたいに召喚された人が居て、その人が僕の幼馴染だったって言うんだ。だから……」
「あー、瑛彦?」
「うん、その人」
「あららぁ……」
環奈はすぐにピンときたようで、ミズヤが肯定すると呆れるように項垂れた。
【ヤプタレア】という世界と【サウドラシア】という世界、そしてミズヤの身の回りの人物。
これらの関係に、何もないと言えないのだ。
しかし、何があるのかはまだわからない。
だからこそここで情報を集めるため、話を聞いていた。
「……そしてね、環奈さん。僕の飼ってるこの猫……」
「うん……」
「響川沙羅っていう女の子の、記憶があるみたいなんだ……」
「…………」
ガシッと、環奈はミズヤの膝上に座るサラを掴み上げ、自分の目の高さまで持ち上げる。
「は? なんで猫になってんのアンタ? ミズヤがなんかしたん?」
「……僕が5歳の時に、サラは家に来たんです。それまでは何も知りません」
「ニャニャーッ!(離しなさいよー!)」
サラはジタバタと暴れて環奈の手を抜け、ミズヤのお腹に擦り寄った。
サラがまともに喋れないとわかり、環奈もため息を吐く。
「ではつまり、貴様らを中心に俺と環奈はこの世界に召喚されたわけか」
ここで、黙っていたキトリューが呟いた。ミズヤを中心に人が来ているのは明らかな事実であり、ミズヤも頷く。
「これはただの偶然じゃない……。だから、真相を知りたいん……です」
切実な思いをミズヤはそのまま口にした。
彼自身、胸の内にわだかまりがある。
本来なら友達同士で共に過ごしたであろう【ヤプタレア】の記憶がなく、その世界での恋人が猫として存在する。
とても奇妙で気持ち悪い――だから真相を知りたいのだが――。
「んな事ウチらに言われてもねぇ」
環奈があっけらかんと言い放ち、場の空気は暗くなる。
これ以上の情報を知る事ができないから、どうしようもないのだ。
情報を知っているかもしれないサラは猫であり、どうする事もできない。
「……むぅ」
「仕方ないさね。ウチらだって元の生活急に捨てさせられてこの世界来たんだし、ミズヤも妥協しなよ。割り切らないと生きてけないよ?」
「……うん」
環奈に諌められ、ミズヤは消え入るような声で呟いた。
だがその刹那。
ミズヤの背後の扉が開いた――。
「それなら少し、私に考えがありますよ」
扉から姿を現すクオンは微笑を浮かべながらそう言った。
城内の広間に少女の驚嘆が響く。
召喚された少女、千堂環奈はこの世界の名を聞いて驚いたのだ。
今、彼女ともう1人の召喚された少年は皇帝皇后の前に敷かれる赤いカーペットの上に立ち、その周りを囲うようにざわざわと兵士や商人、貴族達が騒ぎ立てている。
他世界からの召喚者、それを喜ぶかどうかは召喚された彼らの人格次第であり、すぐ叫ぶような輩では忌避される。
しかし、その中でもミズヤは冷静に2人を見ていた。
彼は自分を認識した2人が、他世界の自分と仲が良かったのだと理解しているから。
2人はどんな人なのか、どんなことを喋るのか……それを聞くため、静かにしていた。
「うむ……この世界は【サウドラシア】だが 、何か?」
環奈の言葉に、皇帝は聞き返した。
しかし、2人が転生者と言うのはすぐに話せたことでもない。
そのため、環奈とキトリューはひそひそと話し合い、キトリューが次の言葉を述べる。
「いえ、我々は小説でサウドラシアという国が出てくるものを読んだことがあり、本の世界に入ってしまったのかと思っただけです。どうやら、我々が読んだ物語とは別世界のようですがね。話を続けてください」
「あぁ、そうか……そう思うのもわからんでもないな」
皇帝はそう言って笑い、その息子達は何かを伝え合うように目配せをした。
ラナやクオンは特に、人の動きには敏感なのだ。
「ともかく、其方等はバスレノスの力になっていただけるのだな?」
「えぇ。私もこの環奈も、必ずや力になります。なんなら、明日にでも戦闘訓練を致しますが?」
「頼もしい限りだ。よし、本日は宴を行う! 総員準備せよ!」
皇帝が立ち上がり宣言すると、勢いよく歓声が沸いた。
その中でも一部は全く声を出さない。
そのグループはラナ達兄妹とその側近グループ、そして位の高い貴族であった。
「なぁ、ラナよ」
「姉上と呼べ、ゴミ弟」
「……姉上よ、あの2人はこの世界を知ってそうだな?」
トメスタスはラナに尋ねるも、ラナは答えなかった。
確証のないことを言うのは好きではないのだ。
「……ヘリリア、食べ過ぎですよ」
「むーむーっ!」
「……クオン様、其奴は放っておきましょう。宴なのですからご準備を」
「え? ええ……」
ケイクに連れられ、クオンも広間を退室した。
さっきからずっと大福を食べていたヘリリアはその場にのこり、まだまだ大福を食べていた。
ミズヤはそのまま動かず、自身を覆い隠す2人分の影に目を向ける。
そして、顔を上げた。
「やっほ、瑞揶。これなんの遊び? お姉さん怒っちゃうよ?」
「まったくだ。この世界が俺と環奈にとって忌々しいことぐらい、わかっていように」
「…………」
環奈とキトリューとそれぞれ怒った風にミズヤに話し掛けた。
しかしミズヤは冷静に、2人の顔を見て、いつもの彼らしくない、真摯な姿勢でこう言った。
「環奈さん、キトリューさん……話を聞かせてくれませんか――?」
この言葉に、2人は眉を跳ねさせた。
互いに目配せをさせ、環奈が呟く。
「これはどうやら、ただ事じゃあなさそうだね……」
◇
宴会は3時間に渡り行われた。
今宵も街を襲われたが、200の兵と大将の2人が出撃しており、貴族も数人出撃しただめ宴会は続行。
ミズヤとトメスタス、ラナは城に残っていた。
「2人とも人気だね〜っ」
「ニャーッ」
会場の隅でミズヤが呟くと、サラが相槌を返す。
クオンや他の側近は声を掛けられたり、主役の2人と話したりと忙しく、ミズヤは暇をしていた。
ちょこんと会場の隅で体育座りをし、履いたブーツの先にはサラがいる。
「サラは女の子なんだよね〜?」
「ニャァ」
「そっかぁ……変な所触るかもしれないし、持ち上げたりしたら駄目?」
フルフルと首を横に振り、嫌じゃないと意思表示をされる。
もう7年以上の付き合いになるのに、今更扱いが変えられても困るのだった。
サラはピョコンと飛んでミズヤの膝の上に立ち、ビシビシと前足でミズヤの額を叩いた。
「……暴力は駄目だよ〜っ」
バシッ!
「痛いっ!?」
猫に遊ばれるミズヤなのだった。
◇
「ふっふっふー、今日は夜番なのですっ」
「ニャァッ」
廊下で1人騒ぎ立て、ミズヤとサラは今、クオンの部屋の前に居た。
現在約深夜2時、だがこれからも待機である。
クオンの部屋にはミズヤが結界を張ってあるため今は安全であるが、襲撃を受ければわからない。
しかし、そんなことは滅多にないため、夜番など大抵は本を読んだり仲間を呼んで雑談したりである。
ミズヤも暇な時間をサラとの会話、筋トレ、作曲などに充てていた。
ただし、今夜はわけが違う。
「やほーミズヤ。待ったー?」
遠くの方から呼ばれ、ミズヤは廊下の奥を見た。
そこから現れたのは学生服を着た黒髪の少女と金髪の少年であった。
異世界より召喚された千堂環奈、キトリュー・デメレオスは、ミズヤとこの時間に会う約束をしていたのだ。
3人が揃うと円を描くように座り、ミズヤが口を開く。
「初めに言っておくけど、僕は君達の知ってる“響川瑞揶”じゃない。僕はこの世界で生まれた男、ミズヤ・シュテルロード」
「! シュテルロード?」
「……ん?」
ミズヤの家名を環奈が聞き返し、ミズヤははてなを浮かべる。
2人は【サウドラシア】に召喚されたのであって、シュテルロードの名前を知るはずがないのだ。
ミズヤの反応を見て2人は目配せをして頷き、環奈は説明した。
「ウチらもさ、アンタと同じ、俗に言う転生者なんよ。【サウドラシア】で生まれて、それで別の世界である【ヤプタレア】で生まれ変わったんよ。こっちの世界ではノール・ハウランカールって名前だった」
「俺の旧姓はキトリュー・ヘイラ・ハヴレウスだった。元王族、環奈は旧公爵家の令嬢だ」
「……おお〜」
予想外の展開にミズヤは感嘆する。
転生者と転生者が出会う、ミズヤが今までの人生ではなかったことであり、共通の仲間がいてちょっとした感動を覚えた。
「んで、シュテルロードの名前も知ってるよ。フラクリスラルの有力な貴族っしょ?」
「……まぁ、そうだったね」
「あ、潰れたん? ドンマイ」
「…………」
環奈のあまりにも軽い言葉に、さすがにミズヤも目を細めた。
しかし環奈はカラカラと笑って誤魔化し、話を戻す。
「で、結局なんなん? ミズヤは記憶がないとか言いつつ、ウチらの事を知ってる風じゃん?」
「……うん。レジスタンスに、君らみたいに召喚された人が居て、その人が僕の幼馴染だったって言うんだ。だから……」
「あー、瑛彦?」
「うん、その人」
「あららぁ……」
環奈はすぐにピンときたようで、ミズヤが肯定すると呆れるように項垂れた。
【ヤプタレア】という世界と【サウドラシア】という世界、そしてミズヤの身の回りの人物。
これらの関係に、何もないと言えないのだ。
しかし、何があるのかはまだわからない。
だからこそここで情報を集めるため、話を聞いていた。
「……そしてね、環奈さん。僕の飼ってるこの猫……」
「うん……」
「響川沙羅っていう女の子の、記憶があるみたいなんだ……」
「…………」
ガシッと、環奈はミズヤの膝上に座るサラを掴み上げ、自分の目の高さまで持ち上げる。
「は? なんで猫になってんのアンタ? ミズヤがなんかしたん?」
「……僕が5歳の時に、サラは家に来たんです。それまでは何も知りません」
「ニャニャーッ!(離しなさいよー!)」
サラはジタバタと暴れて環奈の手を抜け、ミズヤのお腹に擦り寄った。
サラがまともに喋れないとわかり、環奈もため息を吐く。
「ではつまり、貴様らを中心に俺と環奈はこの世界に召喚されたわけか」
ここで、黙っていたキトリューが呟いた。ミズヤを中心に人が来ているのは明らかな事実であり、ミズヤも頷く。
「これはただの偶然じゃない……。だから、真相を知りたいん……です」
切実な思いをミズヤはそのまま口にした。
彼自身、胸の内にわだかまりがある。
本来なら友達同士で共に過ごしたであろう【ヤプタレア】の記憶がなく、その世界での恋人が猫として存在する。
とても奇妙で気持ち悪い――だから真相を知りたいのだが――。
「んな事ウチらに言われてもねぇ」
環奈があっけらかんと言い放ち、場の空気は暗くなる。
これ以上の情報を知る事ができないから、どうしようもないのだ。
情報を知っているかもしれないサラは猫であり、どうする事もできない。
「……むぅ」
「仕方ないさね。ウチらだって元の生活急に捨てさせられてこの世界来たんだし、ミズヤも妥協しなよ。割り切らないと生きてけないよ?」
「……うん」
環奈に諌められ、ミズヤは消え入るような声で呟いた。
だがその刹那。
ミズヤの背後の扉が開いた――。
「それなら少し、私に考えがありますよ」
扉から姿を現すクオンは微笑を浮かべながらそう言った。
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