連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第8話:セカンド・コンタクト②
城下町内にある1つの有名な商会。
その商会では主に食料の売買を生業とし、売り上げも上々だった。
だからこそ商館も4階建ての立派な造りであり、警備員も魔物討伐のプロである“魔破連合”のAランクハンターを採用していた。
だが、その商館は今――
「……ワリィな、こんな事になってよ……」
少年は槍を床に刺し、倒れている男に謝罪する。
倒れた男は全身が痺れるように震え、その場から動けずにいた。
少年の周りには、同じように倒れた人間が30人ほど居て、殆どが同じ症状――中には死人もいた。
脳にある電磁波を与える――若しくは30mA前後の電流を流すと、人間は麻痺する。
特に後者の場合はその電流の流れるものに触れている限り、離れることはできない。
そして、過度な電流――50mA程度以上を流すと、心拍のタイミングが狂い、死に至る可能性がある。
電流の操作ミスで、何人かは死んでしまったのだ――。
「……其方は優しいのだな」
コツ、コツと靴音を鳴らしながら、1人の少年が近付いてくる。
物陰から現れたのは、紫の髪を持つ和服を着た少年。
「うっせーよ王子サマ。誰のせいでこんな事してると思ってんだ」
「俺とて人間が召喚されるとは思わなかったんだ。召喚魔法を見るのも初めてだったしな」
「……チッ。ここはもう制圧しただろ? 俺は休んでるわ」
「あぁ」
昭彦は槍を担ぎ、そのまま闇の中へ姿を消した。
4階建ての商館、そこはもうレジスタンスによって制圧されたのだ。
強者の傭兵がいた、それが何だと言わんばかりにあっさりと、制圧は完了したのだった――。
◇
「にゃー」
「ニャー」
「にゃー♪」
「ニャー♪」
「うるせぇ」
「にゃーっ!!!?」
バシンとミズヤは蹴られ、くるくると回って落ちていく。
が、ひとしきり回ってからトメスタス、ヘイラと同じ場所へ戻って飛んだ。
「テメェみたいなのがケイクと一緒に居んのか? ケイクをあまり怒らせんなよ?」
「はーいっ。サラ〜、あんまり暴れると落ちちゃうからね〜?」
「フシャーーー!!!」
主人が蹴られて怒る猫をミズヤは胸にギュッと抱きながら現場を目指す。
空を一直線に3人が飛び、障害もなく商館に辿り着いた。
「……奴は相変わらず、わかりやすいな」
トメスタスがポツリと呟く。
それは建物を囲う三重の結界が、もう1人のトメスタスが居ると告げていたから。
「ヘイラ、ミズヤ……割るぞ」
「了解っ!」
「はーいっ!」
ヘイラとミズヤはトメスタスの指示に頷き、各々の得物を取り出した。
ミズヤは刀を、ヘイラは――
「――イグソーブ・アックス」
その名を告げ、男は高々と斧を振り上げる。
全身が黒鉄でできた斧はどこか機械のように模様やボタン、斧の刃部分にはダイヤルがセットされていた。
「結界を破り過ぎて中の奴を殺さないよう気を付けるぞ」
トメスタスもそう注意を呼びながら刀を取り出した。
さらに、自身を抱き寄せるようにして影を作り、胸の中からあるものを取り出した。
それこそが、神楽器・小太鼓。
黒いケースに入ったままの小太鼓を既に展開してある羽衣ごと背負う。
「ミズヤ、1発目を頼む」
「かしこまりねこさんで〜すっ!」
ミズヤは帽子の中にサラを入れ、再び帽子を被る。
フゥッと息を吐きながら刀を構え、刮目した。
刀を中心に黒い魔力の渦が吹き荒れる。
雷撃のような激しい音を撒き散らし、天にまで登る黒渦は暗闇の空へ飲み込まれていく。
「【狂気色・黒】――【羽衣天技】……」
刹那、立ち上る黒い気流は刀に収束していった。
瘴気の塊が刀に飲み込まれていき、そして――
「――【一千衝華】!!!」
魔力の集まったその刀を、思いっきり振り下ろした。
放たれた斬撃からは黒い光が溢れ出し、建物へと一直線に衝突する。
20mにも及ぶ砂埃が、建物を覆った。
激突する破壊音、何かが割れる破壊音、立ち上る砂のノイズが3人の視界を埋めた。
「……ふにゃ〜っ」
撃った本人は魔力を失い、へにゃへにゃと空中でしゃがみ込む。
神楽器ありでの使用が想定された【羽衣天技】は使用に相当な負荷を掛ける。
(普通なら死ぬんだがな……)
トメスタスはミズヤを横目で見てそんなことを思う。
魔力の枯渇が前提の魔法ゆえ、常人が使用すれば即死なのだ。
(だが、この世界では善意と悪意が魔力になる。……ならば、彼奴は相当な善人……はたまた……?)
だからこそ化け物のような魔力容量の在り処を知りたいが、もしミズヤが悪い奴ならばというのは無意味な懸念だとトメスタス自身がよくわかっている。
ミズヤはどこからどう見ても無垢で愛らしい少年である。
そのため、悪意が多くあると考えられなかった。
考え事がまとまらない中、土埃が晴れてようやく結界の様相が観れる。
結果としては1枚が割れ、2枚目が少し傷付くに至っていた。
「やるなぁ……ま、【羽衣天技】なら当然だがな」
「えへへぇ……」
ヘイラが褒めるとミズヤは頬を緩めて頭を掻く。
そのついでに帽子を取り、中からサラを出していた。
「んじゃ、次は俺ですかい、大将?」
「ああ、1枚割ってくれ」
「はいよっと」
ヘイラは相槌を返し、ヘイラは斧を携えて結界の上に降り立った。
「set――」   
ケバブのように黒く太い腕で斧を軽々と持ち上げる。
カチリとボタンが押され、半月の刃からは黄色い炎が燃え上がった。
「ミズヤ、結界は堅いだろう?」
「え? ……まぁ、はい」
トメスタスが不意に、サラを撫でているミズヤに問いかける。
羽衣天技――それは世界でも屈指の大技である。
魔法道具に頼らずに羽衣天技以上の技を出せる者は居ない。
「しかし、あの武器をあの男に持たせれば、どれほど強固であろうと関係がない。なんせ特注の武器だからな、あのアックスは……」
猛るように燃え、ギアが変わるように炎が一度吹き荒れて橙色の炎に変わる。
カチリとアックスについたダイヤルが回り、ギアが変わったのだ。
更にギアは回る。
ブオンと炎が吹き、炎が紅くなる。
「あれはギアが変わる度に、威力が変わる。だが入力魔力量は少なくていい。それが、イグソーブ武器の特徴だからな」
カチリ――そして炎は蒼くなる。
「蒼の色になると、威力がな――」
持ち手のボタンを押し、 炎は男の身長の倍ほどまで高く燃える。
空気をも熱し、炎の先からは湯気が舞った。
「――10倍になるんだ」
トメスタスの言葉がミズヤの耳に届いた刹那、
「Execution――!!!」
炎の斧は、振り下ろされるのだった。
その商会では主に食料の売買を生業とし、売り上げも上々だった。
だからこそ商館も4階建ての立派な造りであり、警備員も魔物討伐のプロである“魔破連合”のAランクハンターを採用していた。
だが、その商館は今――
「……ワリィな、こんな事になってよ……」
少年は槍を床に刺し、倒れている男に謝罪する。
倒れた男は全身が痺れるように震え、その場から動けずにいた。
少年の周りには、同じように倒れた人間が30人ほど居て、殆どが同じ症状――中には死人もいた。
脳にある電磁波を与える――若しくは30mA前後の電流を流すと、人間は麻痺する。
特に後者の場合はその電流の流れるものに触れている限り、離れることはできない。
そして、過度な電流――50mA程度以上を流すと、心拍のタイミングが狂い、死に至る可能性がある。
電流の操作ミスで、何人かは死んでしまったのだ――。
「……其方は優しいのだな」
コツ、コツと靴音を鳴らしながら、1人の少年が近付いてくる。
物陰から現れたのは、紫の髪を持つ和服を着た少年。
「うっせーよ王子サマ。誰のせいでこんな事してると思ってんだ」
「俺とて人間が召喚されるとは思わなかったんだ。召喚魔法を見るのも初めてだったしな」
「……チッ。ここはもう制圧しただろ? 俺は休んでるわ」
「あぁ」
昭彦は槍を担ぎ、そのまま闇の中へ姿を消した。
4階建ての商館、そこはもうレジスタンスによって制圧されたのだ。
強者の傭兵がいた、それが何だと言わんばかりにあっさりと、制圧は完了したのだった――。
◇
「にゃー」
「ニャー」
「にゃー♪」
「ニャー♪」
「うるせぇ」
「にゃーっ!!!?」
バシンとミズヤは蹴られ、くるくると回って落ちていく。
が、ひとしきり回ってからトメスタス、ヘイラと同じ場所へ戻って飛んだ。
「テメェみたいなのがケイクと一緒に居んのか? ケイクをあまり怒らせんなよ?」
「はーいっ。サラ〜、あんまり暴れると落ちちゃうからね〜?」
「フシャーーー!!!」
主人が蹴られて怒る猫をミズヤは胸にギュッと抱きながら現場を目指す。
空を一直線に3人が飛び、障害もなく商館に辿り着いた。
「……奴は相変わらず、わかりやすいな」
トメスタスがポツリと呟く。
それは建物を囲う三重の結界が、もう1人のトメスタスが居ると告げていたから。
「ヘイラ、ミズヤ……割るぞ」
「了解っ!」
「はーいっ!」
ヘイラとミズヤはトメスタスの指示に頷き、各々の得物を取り出した。
ミズヤは刀を、ヘイラは――
「――イグソーブ・アックス」
その名を告げ、男は高々と斧を振り上げる。
全身が黒鉄でできた斧はどこか機械のように模様やボタン、斧の刃部分にはダイヤルがセットされていた。
「結界を破り過ぎて中の奴を殺さないよう気を付けるぞ」
トメスタスもそう注意を呼びながら刀を取り出した。
さらに、自身を抱き寄せるようにして影を作り、胸の中からあるものを取り出した。
それこそが、神楽器・小太鼓。
黒いケースに入ったままの小太鼓を既に展開してある羽衣ごと背負う。
「ミズヤ、1発目を頼む」
「かしこまりねこさんで〜すっ!」
ミズヤは帽子の中にサラを入れ、再び帽子を被る。
フゥッと息を吐きながら刀を構え、刮目した。
刀を中心に黒い魔力の渦が吹き荒れる。
雷撃のような激しい音を撒き散らし、天にまで登る黒渦は暗闇の空へ飲み込まれていく。
「【狂気色・黒】――【羽衣天技】……」
刹那、立ち上る黒い気流は刀に収束していった。
瘴気の塊が刀に飲み込まれていき、そして――
「――【一千衝華】!!!」
魔力の集まったその刀を、思いっきり振り下ろした。
放たれた斬撃からは黒い光が溢れ出し、建物へと一直線に衝突する。
20mにも及ぶ砂埃が、建物を覆った。
激突する破壊音、何かが割れる破壊音、立ち上る砂のノイズが3人の視界を埋めた。
「……ふにゃ〜っ」
撃った本人は魔力を失い、へにゃへにゃと空中でしゃがみ込む。
神楽器ありでの使用が想定された【羽衣天技】は使用に相当な負荷を掛ける。
(普通なら死ぬんだがな……)
トメスタスはミズヤを横目で見てそんなことを思う。
魔力の枯渇が前提の魔法ゆえ、常人が使用すれば即死なのだ。
(だが、この世界では善意と悪意が魔力になる。……ならば、彼奴は相当な善人……はたまた……?)
だからこそ化け物のような魔力容量の在り処を知りたいが、もしミズヤが悪い奴ならばというのは無意味な懸念だとトメスタス自身がよくわかっている。
ミズヤはどこからどう見ても無垢で愛らしい少年である。
そのため、悪意が多くあると考えられなかった。
考え事がまとまらない中、土埃が晴れてようやく結界の様相が観れる。
結果としては1枚が割れ、2枚目が少し傷付くに至っていた。
「やるなぁ……ま、【羽衣天技】なら当然だがな」
「えへへぇ……」
ヘイラが褒めるとミズヤは頬を緩めて頭を掻く。
そのついでに帽子を取り、中からサラを出していた。
「んじゃ、次は俺ですかい、大将?」
「ああ、1枚割ってくれ」
「はいよっと」
ヘイラは相槌を返し、ヘイラは斧を携えて結界の上に降り立った。
「set――」   
ケバブのように黒く太い腕で斧を軽々と持ち上げる。
カチリとボタンが押され、半月の刃からは黄色い炎が燃え上がった。
「ミズヤ、結界は堅いだろう?」
「え? ……まぁ、はい」
トメスタスが不意に、サラを撫でているミズヤに問いかける。
羽衣天技――それは世界でも屈指の大技である。
魔法道具に頼らずに羽衣天技以上の技を出せる者は居ない。
「しかし、あの武器をあの男に持たせれば、どれほど強固であろうと関係がない。なんせ特注の武器だからな、あのアックスは……」
猛るように燃え、ギアが変わるように炎が一度吹き荒れて橙色の炎に変わる。
カチリとアックスについたダイヤルが回り、ギアが変わったのだ。
更にギアは回る。
ブオンと炎が吹き、炎が紅くなる。
「あれはギアが変わる度に、威力が変わる。だが入力魔力量は少なくていい。それが、イグソーブ武器の特徴だからな」
カチリ――そして炎は蒼くなる。
「蒼の色になると、威力がな――」
持ち手のボタンを押し、 炎は男の身長の倍ほどまで高く燃える。
空気をも熱し、炎の先からは湯気が舞った。
「――10倍になるんだ」
トメスタスの言葉がミズヤの耳に届いた刹那、
「Execution――!!!」
炎の斧は、振り下ろされるのだった。
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