自己犠牲錬装術師の冒険記

識詠 碧月

第3話「新しい一歩」


目が覚めると、人の手の入っていない石の天井が目に入った。
俺は祭壇の様な場所に寝かされていて、お陰様で体の節々が痛い…
「気が付きましたか?ここは安全な場所なので安心してください」
首を声の方へ向けるとまるで当たり前の様に女神様が立っていた。
「え?女神様はこっちにも来れるんですか?てっきり最初の部屋までだと…」
「普通はそうなんですけど、この場所はこの世界に数か所ある私の干渉領域の1つなのである程度の自由は出来るんです!」
ふんすっと胸を張る女神様、神様はやっぱり発育凄いのか…?
「そういう事なので、ここで実際に能力を試したりこの世界についての常識などを覚えてもらってから出発してもらおうと思います」
そう言って女神様は近くの棚からいくつかの石や木の枝などのいくつかの物を籠に入れて差し出してくれる。
「これは…?石に小枝に蔦に…結構量がありますね」
「冬樹さんの能力の練習ですよ、私の力で装備を作ることも出来るのですが…自分で作った方が愛着も湧きますし能力のテストも兼ねて自分で作ってもらおうと思います」
「能力…物質創造で装備を作るんですね。確か使い方は体が覚えてるはず…」
試しに適当な石と枝を手に取って小さなナイフをイメージすると体の中から腕を通して何かが出ていく感覚がして、続いて手に持っていた素材が光って1つになる。
おお、これが創造の力…赤いコートの錬金術師が使ってそうなイメージだなぁ…
光が消えるとそこには包丁よりも一回り小さいナイフが出来ていた
「完璧ですね!イメージもはっきりして無いと変な物が出来上がるので気を付けてください」
つい楽しくなってしまって、ノリノリで木刀とローブに簡単なカバンを作った
「これ楽しいですね!イメージさえ出来れば何でも作れそうです!」
「気に入ってもらえて何よりです、ですがその力は余り人に見られてはいけませんよ?」
「こんな事は普通出来ないでしょうし、怪しまれたり最悪捕まったりしそうですしね…」
周りに人が居ない所や見えない場所で使う事にしよう…
「そうです。この世界には魔法もありますが、一部の限られた者しか扱えない上に種類も少ないですから」
「魔法!もしかして俺も使えたりしますか!?」
「残念ですが、冬樹さんは相性が余り良くないので…小さな物なら何とか出来るかもしれませんが…」
少し残念だけど、物質創造も魔法みたいな物だし!と割り切ることにしよう。
そろそろこの世界の話をしましょうか。そう言って女神様は何処からか本を取り出す。
「まず通貨ですが…」
そして女神様の長い長い授業が始まった…
・・・・・・・
どれだけ時間がたったのか、もう分からない。それほどの時間授業は続いた…
「…と、以上がこの世界の状況です。…聞いてませんでしたね?」
耐えられず、船を漕ぎ始めていた俺を見て女神様は溜息を付く
「すみません…余りに心地よかったので…」
優しい声でずっと話しかけられていると段々眠くなってくるんだ、決して話が退屈だったわけじゃないよ!?
1人脳内で言い訳を言っている俺をジト目で見た女神様は仕方ないですね…と言うと本を仕舞う。
「冬樹さんは実際に見て覚える方が良さそうですね…」
「すいません…以後気を付けます…」
本当にね…女神様の話を寝ながら聞くって何やってんだ俺…
頭を抱える俺を尻目に女神様は部屋の奥にある扉を開いて
「では、準備はここまでにして外の世界に送りますね。目が覚めたら道に沿って歩けば小さな村に着けるので、まずはそこでこの世界に慣れるといいでしょう。色々大変でしょうが頑張るのですよ…それでは健闘を祈っています」
扉の先は光に包まれていて通った途端に視界は白一色に染まった…

・・・・・・

最初に感じた事は「空気美味しい!」だった
もちろん空気に味など無くて、けれども排気ガス等の一切の不純物を含まない空気に思わず美味しいと言ってしまう
左右は木々に囲まれていて、背面には岸壁にぽっかりと口を開けた洞窟がある。
唯一視界の開けた正面には道…と言うよりも獣道といった所々に雑草の生えた道が続いていた。
「確か道沿いに進めば村があるって言ってたから、まずはそこを目指すとしようか…」
腰の木刀に手を掛けて一歩を踏み出す、地球と重力が違ったりするのか足が軽くて少しふらついたけど…

しっかり踏みしめて歩みを進める俺は、新しい世界を前にとても期待していた。

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