魔術屋のお戯れ
使い魔との関係
迷った夏姫は、自力で帰ることを諦めた。
まずは、こういうときに戦力にならず、我侭を言う使い魔、魔青に別の用件を託す。
その前に使い魔を出してもあまり目立たなそうな場所を探すのが先決だ。
その場所はあっさり見つかった。
公園である。
きょろきょろ見渡すが、傍に誰もいない。首からぶら下げていた瓶の蓋を開け、魔青を呼び出した。
「マスタ、なに?」
いつも能天気な、明るい使い魔、魔青だ。外見も幼く、十二。三歳くらいで赤い髪をツインテールでまとめ、空のような青い瞳。
「さっき、聖に来週からの予定聞いてくるの忘れたから、聞いてきて欲しいんだけど」
「わかった! 魔青頑張るから」
頑張らなくていい、そう言いたくなる元気のよさであっという間にいなくなった。
次は本当の用件になる。初めて己が自力で契約した妖魔の使い魔、獏だ。こちらは今回黒い小犬型である。
「……ごめん、獏のご飯買いがてら家に帰りたいんだけど迷った。道案内、お願いできる?」
応、と言うかのごとく、獏はゆっくりと歩き出した。
夏姫にとって「使い魔」は「家族」と同義語だ。だから、本当のことを言うと、こういうやり方はしたくない。
いつもお願い口調になる夏姫に、師匠である聖はあまりいい顔をしていないようだ。
結局三時間ほどかけて買い物がてらの「散策」は終わった。
本日購入したのは、獏用のドライタイプドックフード三キロ、水とご飯用のトレイ、それからスーパーで夏姫の食材だ。
ドックフードに関しては、獏が気に入ったかなり安めのものだった。そのうちシャンプーとかも買おうかな、と思ってはいる。
何もしなくても獏の毛並みは綺麗だが、獏が許せばたまにシャンプーをしてあげたいと思う。
「マスタ、ただいま!」
本来であれば、もっと早く着いているであろう、魔青がやっと帰ってきた。
「お帰り、魔青」
「聞いて! おっきいマスタヒドイの! 魔青が行ったら別のご用事おしつけたの! だからこんなに遅くなったの!」
おそらく、聖は魔青を使いにやった理由に若干思い当たったのかもしれない。だからわざと魔青に用事をおし付けたのかも知れない。
「で、明日おっきなマスタも言い忘れたことがあるから来てって」
「分かった。魔青、ありがとう」
魔青と接するようになってから、夏姫は謝罪と感謝の言葉が多くなったな、と思った。
「ありがとの言葉もいいけど、魔青をなでなでして欲しいの!」
相変わらず甘えん坊だ。これで使い魔としての役目をある意味こなせる魔青が凄いと思うが。
何の用事か分からないが、とりあえず夏姫は魔青と獏をなで、食事の用意をした。
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