魔術屋のお戯れ
第四章――決着――その五
聖の静けさは、葛葉や黒龍からみれば慣れたものである。何かがあるとき、必ず黙って支度をする。
しかし、夏姫の持つ別の意味の静けさは、慣れていないのもあいなって怖かった。
何かを決意するような、そして誰も寄せ付けない静けさが。
「夏姫さん!今日のセレクトはこちらですッ!」
葛葉はあえて明るく振る舞った。不機嫌そうに受け取った顔が、心なしか寂しそうだった。
半月近く一緒にいるが、ここまで不器用な表情の人を見たことがなかった。彼女の不機嫌そうな顔は照れ隠しで、本当は嬉しかったり、ありがたかったりしているのだと最近知った。
ある意味孤高の極みにいる彼女に、憧れを抱いていた。
「仕込み日傘は大丈夫かな?」
「もちろんですっ!前回からグレードアップしておりますっ!!」
聖の言葉に、わざとらしい位明るく答えた。
今日の服に似合うよう、日傘が前回から若干変わっている。手芸全般が苦手な葛葉から見れば「神業」に近い所業をしてくれたものである。
「ふむ、悪くない。それで今日のゴスロリにはポケットは……」
「白銀様の依頼どおり、つけてあります!こちらと、こちらとこちら!いかがですか?」
嫌がる夏姫の身体をなぞりながらあえて説明する。くすぐったそうに夏姫が身をよじっていた。
「いい場所につけたものだね。ほら、危ないと思ったらこちらに戻ってくるための呪符だ。ここに葛葉が留守番でいるからね。持っておきなさい」
そんな言葉に夏姫が黙って瓶を渡していた。
「預かっておくよ」
おそらく魔青の入った瓶だろう。
黒龍も黙って聖の傍に来た。これで用意は整った。
「では、行ってくるよ。こちらは手はずどおりに」
葛葉はぺこりとお辞儀をして見送った。さて、聖に依頼されたことをしなくては。
夏姫、聖、黒龍の三人が着いた先は先日夏姫が拉致された東屋だった。
「昔も言ったはずだが、私はいつでもお前に血をやるよ?ただ、他者を巻き込まなければね」
「ふざけた事を。私はお前の師、ならばお前の血に頼らずとも不老不死は得られると思わないのか?」
「あいにくだが、思わないね」
瞬間、聖がすっと手を上げた。地面がぐにゃりとゆがんでいく。
「そこにある元則は肉体だけか」
冷たく相手を見据え、別の呪を唱えていく。
何度も呪を唱えるのを見ているが、今回のは早すぎる。
「お前の手段などお見通しだ!私が上だと何度も言っていた!それをお前が痛感する番だ!!白銀の呪術師!その二つ名を返上しろ!!」
好き好んでそんな二つ名を名乗っているわけではないと思うのだが。自称でサンジェルマンを名乗るほうが、阿呆くさい。それくらいは一ヶ月間の勉強でよく分かった。
元則がゆらりとこちらへ向かってきた。
「夏姫、元則は任せたよ。黒龍、お前はあの辺りに群がっている妖魔の一部を駆逐してくれ」
「一部でいいのかよ」
「強そうなの数体で構わないさ」
不思議な指示に夏姫は思わず首を傾げそうになったが、すでに元則はこちらへ向かってきている。以前のように影を操れるのか、それすらも分からない状態で対峙しなくてはいけない。
動きをかわし、次の体勢に移るため獏を呼ぼうとした瞬間、それはおきた。
後ろから誰かに捕まれたのだ。
「嬢ちゃん!?」
すぐさま黒龍がこちらへ向かってきた。空間へと引きずられる夏姫の腕を、黒龍がしっかりと掴んでいた。
しかし、夏姫の持つ別の意味の静けさは、慣れていないのもあいなって怖かった。
何かを決意するような、そして誰も寄せ付けない静けさが。
「夏姫さん!今日のセレクトはこちらですッ!」
葛葉はあえて明るく振る舞った。不機嫌そうに受け取った顔が、心なしか寂しそうだった。
半月近く一緒にいるが、ここまで不器用な表情の人を見たことがなかった。彼女の不機嫌そうな顔は照れ隠しで、本当は嬉しかったり、ありがたかったりしているのだと最近知った。
ある意味孤高の極みにいる彼女に、憧れを抱いていた。
「仕込み日傘は大丈夫かな?」
「もちろんですっ!前回からグレードアップしておりますっ!!」
聖の言葉に、わざとらしい位明るく答えた。
今日の服に似合うよう、日傘が前回から若干変わっている。手芸全般が苦手な葛葉から見れば「神業」に近い所業をしてくれたものである。
「ふむ、悪くない。それで今日のゴスロリにはポケットは……」
「白銀様の依頼どおり、つけてあります!こちらと、こちらとこちら!いかがですか?」
嫌がる夏姫の身体をなぞりながらあえて説明する。くすぐったそうに夏姫が身をよじっていた。
「いい場所につけたものだね。ほら、危ないと思ったらこちらに戻ってくるための呪符だ。ここに葛葉が留守番でいるからね。持っておきなさい」
そんな言葉に夏姫が黙って瓶を渡していた。
「預かっておくよ」
おそらく魔青の入った瓶だろう。
黒龍も黙って聖の傍に来た。これで用意は整った。
「では、行ってくるよ。こちらは手はずどおりに」
葛葉はぺこりとお辞儀をして見送った。さて、聖に依頼されたことをしなくては。
夏姫、聖、黒龍の三人が着いた先は先日夏姫が拉致された東屋だった。
「昔も言ったはずだが、私はいつでもお前に血をやるよ?ただ、他者を巻き込まなければね」
「ふざけた事を。私はお前の師、ならばお前の血に頼らずとも不老不死は得られると思わないのか?」
「あいにくだが、思わないね」
瞬間、聖がすっと手を上げた。地面がぐにゃりとゆがんでいく。
「そこにある元則は肉体だけか」
冷たく相手を見据え、別の呪を唱えていく。
何度も呪を唱えるのを見ているが、今回のは早すぎる。
「お前の手段などお見通しだ!私が上だと何度も言っていた!それをお前が痛感する番だ!!白銀の呪術師!その二つ名を返上しろ!!」
好き好んでそんな二つ名を名乗っているわけではないと思うのだが。自称でサンジェルマンを名乗るほうが、阿呆くさい。それくらいは一ヶ月間の勉強でよく分かった。
元則がゆらりとこちらへ向かってきた。
「夏姫、元則は任せたよ。黒龍、お前はあの辺りに群がっている妖魔の一部を駆逐してくれ」
「一部でいいのかよ」
「強そうなの数体で構わないさ」
不思議な指示に夏姫は思わず首を傾げそうになったが、すでに元則はこちらへ向かってきている。以前のように影を操れるのか、それすらも分からない状態で対峙しなくてはいけない。
動きをかわし、次の体勢に移るため獏を呼ぼうとした瞬間、それはおきた。
後ろから誰かに捕まれたのだ。
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