魔術屋のお戯れ
第四章――決着――その四
夏姫が風呂に行った時間を見計らい、動く。
藤崎の部屋から失敬してきたのは、写真。病院で撮ったものだろう。ベッドに座るキグルミを着た藤崎とそれに抱かれた五歳くらいの夏姫。
「……かなり面倒なんだがね」
この写真を手がかりに動くしかないのだ。
「何の用かえ?」
行き着いた先で女に言われた。
「先日ここに来た、藤崎という男は?」
「妾は知らぬ。ここに日々どれだけの者来ると思うておる?」
「そうか、ならば忠告しておこう。これに宿る思いが事実なら、藤崎はここにある禁忌の呪術を盗もうとする」
女の顔色が瞬時に変わった。
「四条院のあれだけでも厄介じゃというに……。面妖なことを」
「やはり元則が来たか」
「来たが、すぐさま誰かに連れて行かれたわ。四条院の愚か者を追うことが先決と思うておったが」
「そちらのほうは私が手はずを整える。お前には藤崎を頼みたい」
「そなた絡みか。その藤崎も、四条院のあれも」
目を細め、取引を促す女に、冷たく笑った。
「いたしかたあるまい。妾の優先事項はここを守ることじゃ。そなたが四条院のあれを取り戻すと言うなら、妾はその藤崎とやらを追うことにするか……ケルベロス」
一頭のケルベロスが、するりといなくなった。
「これ以上面妖なことに妾を巻き込むでない」
「確約はできない。思いが強すぎる」
藤崎の夏姫に対する思いが事のほか強い。夏姫自身もこちらに来る可能性はかなり大きいのだ。
「ヒトの思いとは面妖なものじゃな。……妾が言うても仕方ないか」
「お前が言うからこそ、重みを増すと思うがね」
「そなたも妾のことは言えぬであろう?」
左の金目がこちらを見すえてきた。
何かこそこそと聖が動いている。その間にも夏姫は黒龍や葛葉との手合わせやら、魔術の基礎知識から、呪術の禁忌に至るまで叩き込まれていた。
「……う~~」
あまり使ったことのない脳みそが、悲鳴をあげている。ただいま、休憩という名の店番。客足が一番ない時間帯で、葛葉のおしゃべりに付き合っていた。
「あれくらい序の口ですわよ」
葛葉はにっこりと微笑むが、これが終われば獏がいるから使う程度で、夏姫におって魔術は今後、ほとんどおさらばに近いのだ。
魔青は聖に何か頼まれたらしく、ここにはいない。獏もフリルのついた服を着せられ(おそらく不本意だと思われる)、女子高生のマスコットとなっている。
「夏姫さんって、本当に不思議な方ですわね」
その言葉に、不機嫌になっている獏を撫でている夏姫の手が止まった。
「どんなことでも、あっさりと受け入れてしまえる。その度量が羨ましいですわ」
「……別に受け入れてないよ」
拒否もしている。面倒だから、あまり動かないだけだ。
「今日もあまり無理なさらない方がよろしいですわよ。まだ本調子ではないでしょうから」
夏姫からしてみれば、葛葉の方が全てありのままに受け入れていると思う。その言葉は照れがあり、なかなか言えないでいるのが、残念だ。
「……あと少し」
思わず呟いた。
部屋に行って藤崎の後悔を強く感じた。だから、死人返りででもいい。次に会えたときは、あの日から言えなかった言葉を藤崎に言おう。
「白銀様!兄様からの連絡です!」
数日後、葛葉が勢いよく食堂へ入ってきた。
「サンジェルマンの居場所がわかったそうです。やはり元則の肉体が一緒だったとか」
「死人返りと、御霊返りも行われているわけだ」
「そのようです。いかがなさいますの?」
「……明日にでも動くさ」
そう、明日は土曜日である。
藤崎の部屋から失敬してきたのは、写真。病院で撮ったものだろう。ベッドに座るキグルミを着た藤崎とそれに抱かれた五歳くらいの夏姫。
「……かなり面倒なんだがね」
この写真を手がかりに動くしかないのだ。
「何の用かえ?」
行き着いた先で女に言われた。
「先日ここに来た、藤崎という男は?」
「妾は知らぬ。ここに日々どれだけの者来ると思うておる?」
「そうか、ならば忠告しておこう。これに宿る思いが事実なら、藤崎はここにある禁忌の呪術を盗もうとする」
女の顔色が瞬時に変わった。
「四条院のあれだけでも厄介じゃというに……。面妖なことを」
「やはり元則が来たか」
「来たが、すぐさま誰かに連れて行かれたわ。四条院の愚か者を追うことが先決と思うておったが」
「そちらのほうは私が手はずを整える。お前には藤崎を頼みたい」
「そなた絡みか。その藤崎も、四条院のあれも」
目を細め、取引を促す女に、冷たく笑った。
「いたしかたあるまい。妾の優先事項はここを守ることじゃ。そなたが四条院のあれを取り戻すと言うなら、妾はその藤崎とやらを追うことにするか……ケルベロス」
一頭のケルベロスが、するりといなくなった。
「これ以上面妖なことに妾を巻き込むでない」
「確約はできない。思いが強すぎる」
藤崎の夏姫に対する思いが事のほか強い。夏姫自身もこちらに来る可能性はかなり大きいのだ。
「ヒトの思いとは面妖なものじゃな。……妾が言うても仕方ないか」
「お前が言うからこそ、重みを増すと思うがね」
「そなたも妾のことは言えぬであろう?」
左の金目がこちらを見すえてきた。
何かこそこそと聖が動いている。その間にも夏姫は黒龍や葛葉との手合わせやら、魔術の基礎知識から、呪術の禁忌に至るまで叩き込まれていた。
「……う~~」
あまり使ったことのない脳みそが、悲鳴をあげている。ただいま、休憩という名の店番。客足が一番ない時間帯で、葛葉のおしゃべりに付き合っていた。
「あれくらい序の口ですわよ」
葛葉はにっこりと微笑むが、これが終われば獏がいるから使う程度で、夏姫におって魔術は今後、ほとんどおさらばに近いのだ。
魔青は聖に何か頼まれたらしく、ここにはいない。獏もフリルのついた服を着せられ(おそらく不本意だと思われる)、女子高生のマスコットとなっている。
「夏姫さんって、本当に不思議な方ですわね」
その言葉に、不機嫌になっている獏を撫でている夏姫の手が止まった。
「どんなことでも、あっさりと受け入れてしまえる。その度量が羨ましいですわ」
「……別に受け入れてないよ」
拒否もしている。面倒だから、あまり動かないだけだ。
「今日もあまり無理なさらない方がよろしいですわよ。まだ本調子ではないでしょうから」
夏姫からしてみれば、葛葉の方が全てありのままに受け入れていると思う。その言葉は照れがあり、なかなか言えないでいるのが、残念だ。
「……あと少し」
思わず呟いた。
部屋に行って藤崎の後悔を強く感じた。だから、死人返りででもいい。次に会えたときは、あの日から言えなかった言葉を藤崎に言おう。
「白銀様!兄様からの連絡です!」
数日後、葛葉が勢いよく食堂へ入ってきた。
「サンジェルマンの居場所がわかったそうです。やはり元則の肉体が一緒だったとか」
「死人返りと、御霊返りも行われているわけだ」
「そのようです。いかがなさいますの?」
「……明日にでも動くさ」
そう、明日は土曜日である。
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