魔術屋のお戯れ
第二章――懐かしいヒトと言葉――その七
「……で、何で屋上なんだよ」
あの場で空間を引き裂いたから、病院内のどこかに出るだろうなとは黒龍も見当がついていた。
だが、なぜ屋上の、しかも柵の外側に出る?
しかも空間を出た時、意識のない夏姫の足元に地面はなく、屋上から落ちるところだった。それを止めようとして足を踏み外し、意識のない夏姫の手を片手でとり、もう片方の手で柵を握っている。
「ちっきしょう、龍身になる許可取って来るんだったな」
そう思ってもあとの祭りである。
ぴくりと夏姫が動いた。
「気がついたか、嬢ちゃん」
「ここ、どこ?」
「屋上だな。それよりも……」
「落ちたら確実に死ねるね」
「んな事より使い魔だして、上にあげるように指示しろ!」
何でこんな時にのほほんとピントのずれた事言いやがる! 黒龍は思わず怒鳴った。
夏姫が瓶の蓋を片手で開けた次の瞬間、余計に重くなった。
「マスタ、何でこんなとこで魔青を出すの!? 魔青飛べないよ!?」
重くなった原因の使い魔は、夏姫に必死にしがみついていた。
「……守りは完璧じゃなかったのかよ」
この状況を想定してなかった可能性は大だが。
「阿呆はお前だ、黒龍」
でかいため息と共に樹杏が腕を差し伸べてきた。
「とりあえず、使い魔を元に戻せ。そうしてもらわんと俺でも引き上げられん」
だが、使い魔は怖い怖いと泣き叫ぶばかりで、黒龍の言葉はもちろん、夏姫の命令も聞き入れない。
「……黒龍、やばい」
危機感の無い声で夏姫が言い出した。
「魔青が掴まってるせいで、スカート落ちそう」
「はぁ!? ……やべっ!!」
爆弾発言に思わず夏姫を掴んでいる手を放してしまった。
だが、次の瞬間なぜかは分からないが、夏姫の身体はふわりと浮き、使い魔と共に屋上に降り立った。
「……今のはやむをえないだろうな」
それは、手を放してしまった黒龍に対しての樹杏なりの慰めだろう。思わず樹杏も手を放しそうになったのだから、おあいこというものだ。
「白銀の呪術師の言っていた『奇妙な守り』のおかげで助かったな」
そう言いながらも夏姫に近づき、スーツの上着を膝にかけていた。そう、夏姫は座り込んだものの、膝を立てていたために見えそうになっていたのだ。さすがは紳士と名高い樹杏である。そんなことはおくびにも出さずに黙っている。
「さっさと連れて帰れ。手遅れになる」
樹杏から手渡された呪符をもらいうけ、病院をあとにした。
「さすがは白銀の呪術師。手際がいいな」
残された場所で樹杏は呟く。いつもより早い時間に見舞いに来ていた理由はこれだ。聖に「念のため」渡されていた呪符を黒龍に渡すこと、それから相手の力量を見極めること、そして己の姪の葛葉を「仲介」にさせ巻き込ませること。主な理由はそれだった。
おそらくこうなることは見当がついていたんだろう。そう、樹杏が聖に桑乃木総合病院にサンジェルマンと関わりのある者がいるという、情報を与えていたから。
「今日、うちの見舞いは『ついで』なんやね」
不服そうに呟く妻と、一緒に見舞いに来ていた紅蓮を見つめ苦笑するしかない。
どっちが「ついで」と言われれば、聖からの依頼がついでで見舞いが主だ。だが、そんなことを言ったところで妻は納得しない。さんざん罵られるのがいつものことである。
「俺で駄目だった理由は?」
「お前が現在出入り禁止になっているからだ。お前にやらせたら、白銀の呪術師の店まで追いかけるだろうが」
趣味と実益を兼ねて。何事にも興味を示す息子は今回仕事として不向き。しかも四条院内部とも相手が繋がっている可能性がある中、次期当主と名指しされている息子を表に出すわけにはいかない。それは白銀の呪術師と、そして義父である四条院当主との共通意見だった。
「せやね。紅蓮やったら、あの子好みみたいやもんなぁ」
妻を抱き上げたら、少し機嫌が直ったらしい。
あの場で空間を引き裂いたから、病院内のどこかに出るだろうなとは黒龍も見当がついていた。
だが、なぜ屋上の、しかも柵の外側に出る?
しかも空間を出た時、意識のない夏姫の足元に地面はなく、屋上から落ちるところだった。それを止めようとして足を踏み外し、意識のない夏姫の手を片手でとり、もう片方の手で柵を握っている。
「ちっきしょう、龍身になる許可取って来るんだったな」
そう思ってもあとの祭りである。
ぴくりと夏姫が動いた。
「気がついたか、嬢ちゃん」
「ここ、どこ?」
「屋上だな。それよりも……」
「落ちたら確実に死ねるね」
「んな事より使い魔だして、上にあげるように指示しろ!」
何でこんな時にのほほんとピントのずれた事言いやがる! 黒龍は思わず怒鳴った。
夏姫が瓶の蓋を片手で開けた次の瞬間、余計に重くなった。
「マスタ、何でこんなとこで魔青を出すの!? 魔青飛べないよ!?」
重くなった原因の使い魔は、夏姫に必死にしがみついていた。
「……守りは完璧じゃなかったのかよ」
この状況を想定してなかった可能性は大だが。
「阿呆はお前だ、黒龍」
でかいため息と共に樹杏が腕を差し伸べてきた。
「とりあえず、使い魔を元に戻せ。そうしてもらわんと俺でも引き上げられん」
だが、使い魔は怖い怖いと泣き叫ぶばかりで、黒龍の言葉はもちろん、夏姫の命令も聞き入れない。
「……黒龍、やばい」
危機感の無い声で夏姫が言い出した。
「魔青が掴まってるせいで、スカート落ちそう」
「はぁ!? ……やべっ!!」
爆弾発言に思わず夏姫を掴んでいる手を放してしまった。
だが、次の瞬間なぜかは分からないが、夏姫の身体はふわりと浮き、使い魔と共に屋上に降り立った。
「……今のはやむをえないだろうな」
それは、手を放してしまった黒龍に対しての樹杏なりの慰めだろう。思わず樹杏も手を放しそうになったのだから、おあいこというものだ。
「白銀の呪術師の言っていた『奇妙な守り』のおかげで助かったな」
そう言いながらも夏姫に近づき、スーツの上着を膝にかけていた。そう、夏姫は座り込んだものの、膝を立てていたために見えそうになっていたのだ。さすがは紳士と名高い樹杏である。そんなことはおくびにも出さずに黙っている。
「さっさと連れて帰れ。手遅れになる」
樹杏から手渡された呪符をもらいうけ、病院をあとにした。
「さすがは白銀の呪術師。手際がいいな」
残された場所で樹杏は呟く。いつもより早い時間に見舞いに来ていた理由はこれだ。聖に「念のため」渡されていた呪符を黒龍に渡すこと、それから相手の力量を見極めること、そして己の姪の葛葉を「仲介」にさせ巻き込ませること。主な理由はそれだった。
おそらくこうなることは見当がついていたんだろう。そう、樹杏が聖に桑乃木総合病院にサンジェルマンと関わりのある者がいるという、情報を与えていたから。
「今日、うちの見舞いは『ついで』なんやね」
不服そうに呟く妻と、一緒に見舞いに来ていた紅蓮を見つめ苦笑するしかない。
どっちが「ついで」と言われれば、聖からの依頼がついでで見舞いが主だ。だが、そんなことを言ったところで妻は納得しない。さんざん罵られるのがいつものことである。
「俺で駄目だった理由は?」
「お前が現在出入り禁止になっているからだ。お前にやらせたら、白銀の呪術師の店まで追いかけるだろうが」
趣味と実益を兼ねて。何事にも興味を示す息子は今回仕事として不向き。しかも四条院内部とも相手が繋がっている可能性がある中、次期当主と名指しされている息子を表に出すわけにはいかない。それは白銀の呪術師と、そして義父である四条院当主との共通意見だった。
「せやね。紅蓮やったら、あの子好みみたいやもんなぁ」
妻を抱き上げたら、少し機嫌が直ったらしい。
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