魔術屋のお戯れ

神無乃愛

第二章――懐かしいヒトと言葉――その十四

 二人が店に戻ってくると、見知らぬ派手な車があった。
「白銀様、お帰りなさいませ」
「さっさと帰るように言いなさい」
 車で誰なのか見当をつけた聖が一つため息をつき、店舗部分で休んでた葛葉に忠告していた。
「私たちも今戻ってきたんですの。荷物が多かったものですから、兄様に車を出していただきました。私もこのお店を手伝うことになりましたし、私の服も購入しましたが、よろしいですわね?」
「それはありがたい。店番が増えるのは大いに結構だ」
 葛葉の中では既に店番をするつもりでいたようだった。

 そして、夏姫を置いて階段をあがって行く。
「さっさと帰るなら、この情報を与えるが、どうする?」
 聖の声が聞こえ、勝手口から車の主は出て行ったらしい。

「ほらっ、夏姫さん。この服絶対にお似合いですわ!」
 早速着せ替え人形と相成った。
「ほほう。よくぞこれだけ見繕えたね」
「もちろんですわッ!本当ならその場で試着させながら楽しみたいくらいでしたわ」
 楽しみたいと堂々とぬかしてないか?
「私も参加したいものだ。で、これは違うだろうに」

「えぇ。ミニスカチャイナですッ!これは兄様お勧めセレクト、深めのスリットに胸元が可愛らしく開いてセクシーな一品ですものッ!!」
 このチャイナにはこのタイツを!と叫ぶ葛葉に思わずあとずさりした。
「悪くはないが、制服にはならな……」
「これだけは兄様がご自身でお金を出しておりましたから、問題ありませんッ!タイツはゴスロリにも似合うよう、私が買いましたから」
「なら、問題はないね。相変わらずいい趣味を……」
「白銀様も人のことは言えないと思いますわよ?」
 ふふっと笑う葛葉も人のことは言えないと思ったが、夏姫は黙っていた。


「予想どおり『影使い』が動いていたよ」
「基本中の基本じゃありませんの」
 全員揃っての報告会で、聖が当たり前のように言っていたが、それに対し、葛葉は呆れて返していた。
「私もそれなりに影は使えます。ただ、白銀様が称号持ちとして『影使い』とおっしゃったのなら、限られてますわね」
「もちろん、称号持ちだよ。でなければ、相手の影を意のままに動かすことなんでできやしないだろう?」
「『称号持ち』はその力に特化した方の事です」
 葛葉が説明を入れるのは、夏姫により詳しく知ってもらうためらしいが、興味がないので夏姫は覚えるつもりもない。
「夏姫、どんな理由があるにせよ覚えておきなさい。称号持ちは厄介だ」
「樹杏や白銀の旦那の予想どおり、藤崎に影がなかったな」
「盗られたか」
 黒龍の報告に聖が不敵な笑みを浮かべて返していた。

「数人で動いているのなら、確定は難しいですが、単数で動いているなら、思い当たるのは数名」
 葛葉の声のトーンが低くなった。
「確定だね。しかも、『空間創生』も行える」
「私が知る限り、一人しか思いつきません。兄様を外したのも納得です」

「俺もあいつしか思いうかばねぇ。俺らが協力してるなら話は別だが」
「黒龍は協力しますの?」
「するわけねぇだろ。色んな意味で」
「黒龍すら協力しないもの、他の方がなさるわけがないでしょう?」
「当主の覚えも良かったはずだが」
 葛葉の言葉にダメージを食らっているであろう、黒龍を無視する形で聖は話を進めていく。
「えぇ。お爺様の覚えも、兄様や樹杏伯父様の覚えもよかったはずですわ」
「あの男、話術は巧みだからね。『影使い』は騙されたんだろうが。正直、あの男よりも優秀なんだがね」
 聖がこちらを見て、くすりと笑ってきた。
「まだ、君には名前を教えない」
 散策中は相手の名前を教えようとしていたのに、今度は教えないときた。おそらく何か思いついたのだろう。

「さ、ティーブレイクといきません?頭を使いすぎては、糖分が必要ですもの」
 話題替えにもってこいと言わんばかりに、葛葉が冷蔵庫からケーキを出してきた。……が、どう贔屓目に見ても、四人分にしては多すぎる。そして、夏姫は甘いものは嫌いである。
 自分が嫌いな甘味を葛葉が数人分と思える量を食べている光景に、夏姫はある種の尊敬すら覚えた。
「葛葉が買う甘味に外れはないと聞いてたが、本当だね」
 そんなこんなで、日が暮れた。

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