Re:勇者召喚

初柴シュリ

第六話



あの黒フードとの決戦から三日が経過した。

あの戦いは誰に語られるでもなく、優也達の胸の中に仕舞われる事となった。その為、あの日起こったことを知る者は俺達と黒フードを除いて誰もいない。といっても完璧には隠しきれるはずもなく、天の柱が現れ天使が降臨したという噂が街では囁かれていたりするのだが、これは完全に余談である。こらそこ。勇者であるお前のせいじゃんとか言わない。

そんな訳で、あれから特に変わることのない日々を過ごしていたのだが、それもパルメニアのある一言で変わる事となる。


「魔術学院……?」

「はい。ユウヤ様方も学生と聞いておりましたので、馴染みは深いかと」


差し出された紙とも藁半紙ともつかない感触の資料を、矯めつ眇めつしながら疑問の声を上げる優也。ちなみに彼が書類の内容を理解しているかと問われれば答えはNOであろう。

そんな優也を鼻で笑う雅。


「あら、優也は別に学校と馴染み深く無いじゃない。なにせ授業をサボって優芽とゲームセンターに遊びに行く位なんだから」

「わ、悪かったよ……」

「面目ない……」


しゅんとなる優也と、流れ弾を受けた優芽。遡るに一ヶ月ほど前の出来事なのだが、雅は未だ根に持っているようである。果たしてその怒りがルールを破ったことに関してか、除け者にされたからなのか、はたまた優也が誘ってくれなかったからなのかは謎のままであるが。

二人が意気消沈した所を見たパルメニアがフォローに入る。


「ま、まあミヤビ様もその辺りで……ね?」

「……はぁ、わかったわよ。ほら、そんなに怒ってる訳じゃないから顔を上げなさい。只の冗談よ」


そんな雅の発言にパァッと表情を輝かせながら顔を上げる二人。優芽は相変わらず無表情だが、その目は待ちに待ったゲームを手に入れた時と同じだ。なんともわかりやすい奴らである。


「そ、そんなキラキラした目を向けないでよ……大したこと言ってないじゃない。やめなさいって」


なんだか気恥ずかしくなった雅は顔を赤らめつつ止めるよう伝えるが、それでも二人は視線を切る事をしない。それどころかそんな雅の反応を目にしてより一層キラキラ度合いを強めに掛かった。


「ぐ……う、うう……」


これが生暖かい視線とかであればまだ怒る余地が雅にもあったのだが、いかんせん向けられているのは純粋な尊敬と感謝の視線。怒るにも怒れず、より顔を赤らめるしかない。そんな彼女を見てさらにキラキラ度合いを高める優芽と優也。無限ループに入っている彼らを見て、パルメニアはため息をついた。


「……いつになったら本題に入れるのでしょう……?」


一先ずは彼らを諫めることから始めようか。

四百年前から脈々と王家に受け継がれている聖剣ハリセンを片手に、彼女は行動を開始した。



◆◇◆



「……?」


突如感じた寒気にぶるりと体を震わせる。な、なんだったんだ今のは? なんというかこう、蛇を目の前にした蛙の如き感覚だったんだが……。

急に奇妙な動きをした隣人が疎ましかったのか、見知らぬ隣の男子が若干距離を取ってくる。ええい、男に蔑まれても興奮出来んわ。美少女になって出直してこい。

まあそもそもなぜ見知らぬ人が隣に座っているのかという事だが、なんのことはない、現在俺はヴァンフォーレ魔術学院の入学式に出席しているというだけの話である。席の並び順は適当なようで、案内されるままに席についた結果がこれだ。美少女は一体何処にいったのだろうか。世界は非情である。

ん? アリサはどこに行ったのかって? あいつってば、「隣に座って噂されると恥ずかしいし……」っつってどっか行っちまったよ。全く可愛いやつだよな!

はい。嘘です。すいません見栄張りました。なんか用事があるとか言ってどっか行ったんです。謝りますから殴らないでください。

それにしても退屈である。得てして校長の話というのは退屈な物ではあるが、もう二度と聞くことは無いだろうと思っていた物が目の前に現れるとその感覚も倍増されるという物である。せめて校長が爺口調のロリ美少女とかだったら拝聴に値するのだが、いかんせん今語っているのはリアル爺である。爺口調の爺とかまさに誰得という話である。


「……であるからして……」


爺の話はまだ続きそうだが、周りの生徒は完全ににお疲れモードである。よく見ると既に何人か寝ているやつまでいる始末。この中であれば俺もバレずに寝ることが出来るのではないだろうか。隣の奴は至極真面目に聞いているようだが、まあいいだろう。男からの好感度なんて稼いでも友達になれる訳じゃないんだ。

さて、そんじゃあおやすみなさーい……


『続いては生徒代表からのお言葉です』


……ん?

そんなアナウンスと共に舞台袖から現れたのは、つい先程まで俺と一緒にいたはずのアリサだ。装いも新たに豪奢な衣装に着替えており、まさに代表に相応しい格好となっている。何かキラキラとしたオーラが見えているのは気のせいではないだろう。寝ていた生徒たちもその目を擦りながら彼女を見ている。それほどまでにアリサは衆目を集めていたのだ。


……話を聞かないのは生徒として失格だよな!! 眠る? 何を言っているんだ。そんな失礼なことするはず無いじゃないか!!

あ、都合がいいとかそういう指摘は無しな。

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