Re:勇者召喚

初柴シュリ

第五話

存外に俺が気絶していた時間は長かったようで、俺が目を覚ました時には既にヴァンフォーレ公国の領土に入っていた。

正直寝てる間に放り出されることも覚悟していたんだが、アリサに聞いたところ


「貴方を送り届けると言ってしまったのですから。貴族が一度口にしたことを曲げることは出来ませんわ!!」


だってさ。生臭貴族どもに彼女の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだよ。

……いや、やっぱ駄目だ。たとえ垢だろうと彼女の物を他人にやる訳にはいかない。なぜなら俺が欲しいから。彼女の爪の垢を煎じて飲んできます。三十杯ほど。

さて、そんなこんなで俺たちは首都であるオーフェリアについた訳だが。


「……なあアリサ」

「……何でございましょう?」

「……ヴァンフォーレ公国ってさ、お金無いの?」


オーフェリアの城門を抜けて見えてきたものは、ところどころ瓦礫だらけになった家屋の跡地と、未だ煙の燻っている木造の廃屋だった。これでは捨てられた街と見なされてもおかしくはない。俺も説明されていなければここが街だとは思わないレベルだ。


「独立後であまり財政に余裕があるとは言いませんが、ここまで酷くなるのは考えられませんわね……メイリン」

「はい」


アリサの呼びかけに答えて、例のスーパーメイドが現れる。ていうかあなたメイリンって名前だったのね。初めて知ったわ。


「この街で何が起こったのか、一通り調査してきて頂戴。私たちは先に学院へ向かいますわ」

「御意に」


そう言い残すと、瞬間的にこの場からいなくなるメイリン。去り際に俺にプレッシャーをかけてきたのは気のせいだろうか。まあいい。唯一の障害が無くなったんだ。この隙にアリサに―

はっ!? 殺気!!

上体を勢いよく後ろに曲げると、目の前を一本の短剣が高速で通り過ぎていく。避けるコースもほぼ読まれてるのか!?

石畳に甲高い音を立てて突き刺さったところを見るに、相当威力が高い。しかもなんか先の方が濡れて光を反射してるし。これ絶対毒じゃん。殺意にあふれてるよあのメイド。

冷や汗をかきながら短剣を引き抜く。アリサが訝しむような視線を向けてくるが、俺は半笑いでやり過ごした。

……彼女にはあまり手を出さないようにしよう。そう考える今日この頃だった。



◆◇◆



こんなボロボロの街では観光どころではない。馬車から覗く城はなかなか綺麗だったが、それゆえ街とのギャップが際立っている。


「まさかこんなことになってるなんてなぁ……この調子じゃ、魔術学院も危ないんじゃないのか?」

「学院には緊急時に魔術障壁を張れる機能がありますので、そうそう破られることも無いと思いますが……」


魔術障壁ねぇ。果たして効果はいかほどなのか。勇者の力にも耐えられるか検証してみたい所だが、それで壊れてしまっては元も子もないのでやめておく。


「しっかし、何が起こったんだろうな? たぶん賊の侵入だと思うんだが」

「魔物の襲撃という可能性はないのですか?」

「よく思い出してみろ。街の様子はどうだった?」


アリサは少し考え込むと、やがて納得した声を上げる。


「……なるほど! 街の破壊具合ですわね!」

「ビンゴだ。魔物ならば無作為に周りの建物を破壊するはずだ。しかし今回は、破壊されている箇所が点々と存在していた」


ま、勿論特定の建物から魔物が好む匂いが出ていたと仮定すれば、魔物の確立もゼロじゃないんだがな、と付け足しておく。


「しかし、賊となると目的はなんなのでしょうか? やはり略奪?」

「そんなしょぼい目的の賊に、この国の兵士があっさりやられるかねぇ?」


うーん、と二人して考え込んでしまう。

やがて痺れを切らしたのか、アリサがポンと手を打つ。


「これ以上はメイリンの情報を待ちましょう。ここで考えても、机上の空論にしかなりませんわ」

「……ま、そいつが妥当か。今は学院について考えないとな」


そもそも俺どこのクラスに振り分けられるかわかんねぇしな。


「クラス分けの紙は普通合格通知の手紙と共に届く筈なのですが……」

「サーシャからの推薦だからな。普通じゃねぇんだよ普通じゃ」


ま、魔力量的にAやらBやらには入れそうにも無いけどな。精々Dがいいとこだ。期待を裏切るようで申し訳無いが、裏口入学だから文句は言えん。


「まあいいですわ。貴方と同じクラスで会えることを楽しみにしておりますわよ?」


……ごめん。無理です!! 多分最低クラスです!!

まあまだ希望はあるし? 以前俺が言った「試験での成績は悪いけど実戦は最強系男子がE組に入って、A組の成績トップ美少女を倒して惚れられるまでがデフォ」ってセリフが実現するかもしれないし? むしろその未来しかあり得ないし?

あ、でも現勇者は介入しないでね。主人公の座が持ってかれちゃうから。


……ん? これもしかしてフラグになっちゃう?

自らでフラグを立てたことに一抹の不安を抱えたまま、馬車は壊れかけの石畳を急いだ。




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