Re:勇者召喚

初柴シュリ

第二十一話

「アキラ、どうだった?」

「ありゃダメだ、実力は兎も角、意志がまるでなってないな。そっちはどうだ?」

「こっちは上々。侵略を命じた資料も回収できたし、文句は無いわね」


お互いの戦果を確認する。どうやら第一目標は達成できたようだ。


「五日後、少しはまともになってるといいんだが……」

「やっぱり後輩の出来具合は気になる?」

「そりゃあな。今のままじゃ魔王には勝てねぇよ」


そんな話をしながら森を歩く。真っ暗だが、森を誰よりも熟知しているサーシャのお陰で迷うことはない。彼女の背中を見失わないように着いていく。正確にはそのお尻に着いていく。いや、しょうがないじゃん。前にあるんだから逆に見ないと失礼だとお兄さん思うの。


「……急に口数が減ったけどどうしたの?」

「んっ!? んん、なんでもにゃいよ?」


いきなり声を掛けられたせいで動揺してしまった。お陰で変な噛み方しちゃったじゃねぇか恥ずかしい。


「まーた変なこと考えて……あんたってやつは何時でもぶれないわね」

「そういうサーシャは随分と優しくなったじゃねぇか。以前なら弓矢の一本や二本ぶちこんで来たのに」

「あら、やってほしいの?」

「ひいっ!? す、すいません!」


笑顔が怖いです、サーシャさん。


「ふう、この辺りね」


唐突に立ち止まるサーシャ。


「ん? なんで止まったんだ?」

「ここでエルナと待ち合わせしてるのよ」

「ここでって……目印も何もないじゃないか」

「あるじゃない? 周りを見なさいよ。ほら、こんなに特徴的なのに」


エルナの言う通り周りを見渡すが、いくらみてもなんの変哲もない森林である。一体エルフにはどんな見え方をしているのか何とも気になる所だ。


「まあここが特徴的ってのは置いとこう。待ち合わせってのは一体どう言うことなんだ?」

「おっかしいわねー……凄い特徴的だと思うんだけど……」


その件はもういいから。


「エルナが先導してるというのは知ってるわよね? 私達も合流しないと里の人達だけじゃ心配だし、エルナが私達を迎えに来て合流する手はずになってるのよ」

「……俺それ初めて聞いたんだけど」

「言ってないしね」


ええ……サーシャさんちょっと冷たすぎやしませんかね。そりゃ俺はアホだから理解できない可能性もあったかもしれないけど……うん、言ってて悲しくなってくるわ。

自らの思考に辟易としていると、がさがさと茂みの揺れる音が聞こえる。


「エルナかしら? それにしては足音が荒い……でも気配は……」


弓を構えたまま何かを考え込むサーシャ。音の方向から目は外さないものの、なにか疑問に思うことがあるようだ。俺にはさっぱりだが……。


「っ!? エルナ!?」

「お、おいサーシャ! 急に走り出すなよ!」


はじかれたように飛び出す彼女。俺も見失わないように必死でついていく。


「大丈夫エルナ!?」

「う、サーシャ、さま……」


ついた先には傷だらけのエルナに、それを介抱するサーシャ。


「これは一体……」

「わからない。けどエルナがこんなに手ひどくやられるなんて……」


戦った限り、エルナはかなり腕が立っていた。それがここまでやられるというのは……これは里がやばいんじゃないか?

すると、瀕死のエルナがゆっくりと口を開く。


「……サーシャ様……申し訳、ありません……エーロが……」


グッ、と涙をこらえるような表情がひどく痛々しく見える。彼女は喉の奥から振り絞るような声で先を続けた。


「……エーロが、連れ去られました……っ!!」

「……は?」


プチン、と。

俺の中で何かが切れる音がした。



◇◆◇



「はっはっは!! エルフも地に落ちたものよなぁ。あっさりと目標を確保出来た」


一人の少女を小脇に抱えながら高笑いする黒フード。端から見れば通報物だが、夜の街に出歩く物好きは少ない。彼のことが気づかれる事はないだろう。

少女は目を瞑っており、起きる気配はない。それもそうだろう。男の魔法によって、強制的に深い眠りに付かされたのだから。


「いい触媒だ……こやつが居れば、魔王様復活の時も近い……」


慈しむように少女を撫でる男。しかし、その内面には少女への思いなど欠片もない。強い魔王への憧憬が彼を動かす原動力だった。

やがてとある小屋にたどり着くと、黒フードは少女を床へと投げ捨てる。その衝撃でも起きないことが、彼女の眠りの深さを物語っているだろう。

床には一面の魔法陣が描かれ、複雑な文様が四方八方へ伸びている。専門家が見れば卒倒してしまうような複雑なものだ。


「ここに私の肉体の一部と、こやつ。そして魔力を注げば……」


にやりと弧を描く男の口元。懐から一本のナイフを取り出し……

ザクン!! と擬音が付きそうな勢いで自らの左手を切り落とす。

噴き出た血が床を濡らすが、濡らした傍から魔法陣に吸われていく。カーペットも敷いていないのに消えていく様はいっそ異様と言えた。


「……新たな魔王様の降臨だ」

いや、新たなと言うのもおかしいか、と男は首を傾げる。

彼が行おうとしているのは、初代魔王の再臨なのだから。

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