Re:勇者召喚

初柴シュリ

第十四話

「……伝令です。『目』が三匹やられました」


マギルス皇国王宮、王の執務室。伝令役の兵士が男の眼前で膝をついていた。


「そうか……気づかれたか?」


重々しい口調で兵士に話しかけたのは第三十代マギルス皇国王、ガンドラ=マギルス。王としての評価は高くも低くもない、平均的な人物である。


「その可能性が高いかと……」

「ふむ、もはや猶予はないか……」


蓄えた顎髭を撫でながら思案に耽るガンドラ。やがて考えを纏めたのか、視線を兵士へ向き直すとその口を開いた。


「諜報部には捜査を切り上げさせろ。それと軍部に兵の準備をさせておけ」

「はっ」


伝令の兵士が部屋を後にする。残されたガンドラは、椅子に深く座り溜め息をつく。


「……これでいいのか?」

「ええ、完璧ですよ」


独り言にも思えるガンドラの言葉。しかし、誰も居ないはずの部屋からは返事が帰ってきた。

気づけば先程までは影も形も無かったローブ姿の人物が部屋の隅に立っている。しかし、それに驚いた様子も無くガンドラは言葉を続ける。


「こんなことをしてなんのメリットが……私にはさっぱりわからんよ」

「貴方がわかる必要はありませんよ。それに詮索は無用。そういう契約の筈ですよ?」


再び溜め息をつくガンドラ。


「わかっている。こちらとしても援助の上に領土も手に入るんだ。文句はない」

「それは重畳……」


そう言い残すと、フードは魔方陣を発動させ、何処かへ消えてしまった。

今度こそ一人きりとなったガンドラは、体を弛緩させ目を押さえる。


「あんな幼いエルフがそこまでして欲しいか……私には分からんよ」



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「なるほど……野性動物を使っていた、って訳ね」


ここはエルフの里を統括する場所。まあ有り体に言ってしまえば市役所みたいな物だと思ってもらっていい。そこで俺はサーシャに調査の結果を報告していた。


「狼ならば匂いで私達を辿れる……成る程盲点だったわ」

「獣対策はしてなかったのか?」

「魔獣対策ならね。魔力では探知出来ないようにしていたのだけれど……」


 野生を侮ったわね、と眉間を揉むサーシャ。どうやって魔力で探知できないようにしてたか気にはなるが、聞いたところで理解出来ないので質問しないでおく。所詮戦うことしか出来ない脳筋変態ですどうもこんばんは。


「どうする? 相手と一戦交えるか?」

「冗談は顔だけにしなさい。里の仲間を戦火に巻き込むつもりは無いわ」

「ちょ、流れで俺の顔ディスるの止めてくんない?」


謝れ。今すぐ俺の両親に謝れ。まあそれを言ったら普段から両親に顔向け出来ないことしてる俺が謝れと言われるだろうから言わない。俺は自分を客観視出来る男なんだ。


「とりあえず避難先は……この辺りね」


そういってサーシャが目の前の地図を指差す。


「参考までに教えて欲しいが、そこは何処なんだ?」

「ここはヴァンフォーレ王国。代々亜人が王家を継いでる国よ」


へえ、亜人の国か。

亜人とは、容姿だけで言えば『人と獣が合わさった存在』である。人間内でもそう考えている人が多いが、実際は人間と少し違う進化を遂げた民族だと言われている。亜人と一くくりにしてしまってはいるが、種族の違いもちゃんとあり、そこをしっかりしないと怒り出すので注意が必要だ。

しかし四百年前は小さい集落が点々とあっただけなのに、今では一国家……年月とは感慨深いものだ。


「あそこなら移民にも寛容だし、いざというときの保険もあるわ」

「保険?」

「ええ。王家の秘密をちょっと、ね……」


ニヤリと黒い笑いを浮かべるサーシャ。とても……怖いです……。


「ま、まああてがあるんなら良いことだよなぁ! うん、本当!」


哀れ亜人王家。このままサーシャに骨の髄までしゃぶり尽くされてしまうのだろう。合掌。


「……変なこと考えてるわね?」

「滅相もありませんサーシャ様!」


もはや条件反射のレベルで敬礼をする。この立派過ぎる下僕意識。思わず感動の涙が出てしまいそうだ。


「下らない事を考えるのも相変わらずね」


ジト目でこちらを睨んでくるサーシャ。あ、興奮するんでやめてもらっていいですか?


「ま、変わってないのはお互い様だろ? サーシャも……このままただで終わらそう、って訳じゃ無いんだろ?」

「あら、まるで私が諦めの悪い女みたいな言い草ね……ま、その通りなんたけど」


そう言うとサーシャは側にあったナイフを手に取る。


「首謀者と目的。それを吐かせるまでー」


タン! と目の前の地図にナイフを突き立て、目をキッと細める。


「ーやつらを楽にはさせないわ」


サーシャ=クロイツェル。現役時代の二つ名は『極炎』。

彼女の炎は、燃え尽きることはない。

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