オレハ、スマホヲテニイレタ

舘伝斗

1-6 オレハ、《アク》ニネラワレタ

この世界マナスには人、獣人、魔人、精霊。
 この4種族が互いを尊重しながら生活している。


 人は腕力、魔法共に優れた種族であり、腕力の元となる"気"、魔法の元となる"魔力"、この双方を扱うことができる。

 獣人は4種族で最も腕力に優れた、"気"の扱いのエキスパートだ。
 だが変わりに"魔力"が生まれつき乏しく魔法が扱えないものが殆どだ。

 魔人は4種族で最も魔法の扱いに長けた、"魔力"のエキスパートで、"気"を扱えるものが少ない。
 ある意味獣人と魔人は対局の存在だと言える。

 最後に精霊、彼らは肉体を持たず他の3種族の住む世界とは別の、精霊界と呼ばれる場所に暮らしており、時折他の3種族の力有る者に情報を与えたりするが基本的には精霊界から出てこない。
 だが、"気"の扱いに長けた者による"深化"、"魔力"の扱いに長けた者による"降臨"により契約を結んだ精霊は精霊界から抜け、契約者の力となる。

 4種族の大多数は他の種族のことを強く差別したりはしていない。
 だが、どんな集団にも厄介な集団がいるのも事実。


 人には「人間は"気"も"魔力"も扱える唯一無二の種族である。」と声高々と宣言し、獣人と魔人を出来損ないと見る"聖人会せいとかい"。

 獣人には「"魔力"なる飛び道具は弱者の為のもの。"気"を極めた獣人こそこの世界の支配者たるに相応しい。」と言い張り、"魔力"を扱うことの出来る者を邪道と切り捨てる"万練鋼軍ばんれんこうぐん"。

 魔人には「"魔力"は万物を産み出した神の力。"魔力"を持たない者は古き神々が戯れで産み出した失敗作。」と"魔力"を神格化する"ケイオス教"。


 この3つの集団は互いを常に監視、牽制しつつ世界の支配を狙い続けている。」

  ガブリンとの死闘から数日、俺はヴィエラさんのこの世界の色々なことに関する講義を受けながらガロティス帝国へと繋がる街道をえっちらおっちら歩いていた。

「ほぉー、ウィンブルス王国の様子からそれぞれの種族の仲は良いのかと思ってましたけど、裏ではやっぱりそんなもんですよねー。」

「これが事実だ、何事にも完璧は存在しない。悲しいことにな。」

「じゃあやっぱりヴィエラさんが魔女兎って呼ばれてるっていうのは。」

  俺はヴィエラさんがガブリンを叩き殺した場面を思い出す。

「そうだな。私は兎人といあ獣人でありながら"魔力"を扱うことができる。だから獣人の集落に居づらくてウィンブルスまで出てきたんだ。私の場合、更に祝福呪い持ちということもあってウィンブルス王国でも距離を取られがちだがな。」

  ふとヴィエラさんの顔に影が落ちたことを俺は見逃さなかった。

「何言ってるんですか。ヴィエラさんの素晴らしさに気がつかずスラムに追いやるなんてウィンブルス王国の住民も阿呆ばかりですね。まぁレグルスさんや国王みたいな理解者もいますけど他はダメダメですね。特に"万練鋼軍ばんれんこうぐん"の奴らは。」 

「ふふっ、そうだな。だが私がスラムに居を構えているのはそれとは関係なく私の契約している従魔の為だがな。 何しろ私の従魔はあらゆる意味で目を引く。」

「あー、確かに・・・」



  ムキムキで体を覆う毛が少なく、常に歯を剥き出しで目がアーチ状になっているせいで常にニヤケて見えるクソ猿、カンフーモンキーのカンキ。

  ピンク色の毛に黒と白の縞柄の角を持つピンク羊、ファンシーシープのメープル。

  マナスの魔物の中で最強の座を持つドラゴンの集団を率いるリーダー、ドラちゃん。

  他にも見たことはないが、何匹か居るそうだ。

「まぁドラゴンとか普通に街中で飼ってちゃダメですよね。」

  そんな他愛ない話をしながら、時折出てくる魔物を狩りつつ街道を進んでいく。








「おい、本当にそろそろ着くんだろうな?」

「へい、さっき監視に行った新入りがそれらしき二つの影を見たと。もう時期に来るかと。」

「よぉーし、そうかそうか。おぉし、おめぇら、きっちり作戦通り動いけよ!男の方は殺してもサンドバックにしても何しても構わねぇ!女は必ず無傷で手に入れろよ!」

「「「「「おぉ!」」」」」

  髭面の厳つい男、親分の言葉に子分1~10は声を会わせる。
  その中に一人、周りの男たちより若く小綺麗な少年も混ざっていた。
  事情を知らないものが見れば盗賊たちの男娼かと思うほど整った顔立ちをしているが、彼らにこれから襲う二人組のことを告げたのは他ならないこの少年であった。

(ではこの二人組が僕達兄妹を助けてくれた。もう僕たちがこいつらから助かるにはこの二人に掛けるしかないんだ。
 多分女の人が強くて男の人は荷物持ちだと思うけど。)

  そこまで考えて二人組の様子を、特に男の様子を思い出す。

  防具を着けず武器も腰に差した一振りのナイフのみ。
  服装は何処にでも売ってるような麻の普段着。
  体の線も細く、12歳の自分にすら腕力で劣るであろう見た目。
  唯一の特徴は見たこともない青い首巻き・・・・・を巻いていることのみ。

  流石に一緒に行動しているこの男性が死んだら女性の方に自分達を助けてくれとは言いにくい。

(だからせめて死なないでくれよ。)

  行動を開始する"暴狼ぼうろう"の11人の背中を追いかけながら、僕はそう天に祈らずには居られなかった。








「ん?なんだ?」

  街道を進んでいると少し先に地面に倒れ込んでいる貧相な衣を纏った男性が倒れていた。

「ふむ?あれは、」

「人が倒れてる?助けないと!」

  俺は倒れているのが人だと分かると即座に駆け出す。

「あ、おい、ユウト!」

  ヴィエラさんの声が聞こえるが僕は気にせず倒れた男性に駆け寄り抱き起こす。

「大丈夫ですか!何があったん、」

「げひっ。」

 シュバッ

「ぐっ、なにするんですか!」

  僕が男性を抱き起こした瞬間、男性は手に隠し持ったナイフで切りかかってくる。
  咄嗟に男性から離れるがナイフの切っ先は僅かに僕の腕を切り裂く。

「げっへっへっ、おい兄ちゃん、大人しく後ろの姉ちゃんと荷物全部置いていけば命は助けてやるぜ?」

  男性は立ち上がるとナイフをゆらゆらと揺らす。
  明らかにこちらを舐めてるように見える。

  くそっ、この状況、あのテンプレな台詞。
  まさかこんな古風な盗賊の罠に引っ掛かるとは・・・
  だが、こちらにはガブリンを片手間で倒すヴィエラさんがいる。
 あの男に勝ち目はない。

「嫌だね。ヴィエラさんも荷物も渡すもんか。不意打ちで腕の薄皮切ったくらいで調子に乗るなよ!」

「へへっ、そうか。ならこうだ。」

 カチッ

 くらっ

「っ?」

  男がナイフの柄頭辺りのスイッチを押すと突然の倦怠感が俺の体を襲う。

「っ、魔道具か!」

  俺の様子にヴィエラさんが声をあげる。

「へっへっ、そういうこった。兎人のあんたには解毒の魔法が使えないだろ?大人しく俺と来るならその男は助けてやっても、良い、ぜ。」

  男の言葉は途中から勢いを失う。
  男の視線の先には苦しんでいた・・・・・・俺、その俺に手を翳すヴィエラさん。

「解毒の魔法が、なんだって?」

  ヴィエラさんは俺に向けて解毒の魔法を使い、盗賊の男を挑発するかのような笑みを浮かべる。

「くそっ、何で兎人のお前が魔法を使えるんだよ!折角俺の女にしてやろうと思ったのに!」

「ユウトはまだ動けないだろう?そこで少し休んでいろ。すぐ終わる。」

  ヴィエラさんはそういうと俺の前に立ち、盗賊の男を睨み付ける。

「へへ、あんたが相手してくれんのか?俺はこんな明るい時間より夜の方が好きなんだが、あんたが今が良いっていうなら相手してやるよ。」

  ヴィエラさんが目の前に立っているせいで表情は見えないが、明らかに気配が不快なものを目の前にした様な物に変わる。

「へっへ、来ないのか?それともその男の前じゃあ恥ずかしいか?ならその茂みに、」

「もう黙れ!」

 ドスッ、バキバキバキッ

「・・・・・・・・・・。こわっ。」

  盗賊の男の言葉は最後まで紡がれることはなく、瞬間移動のように目の前に現れたヴィエラさんの本気の拳により林の木を何本もへし折り沈黙する。

  思わず心の声が漏れた俺を咎められる人はいないと思う。

「さて、これで一人か。隠れている9人・・、出てこい!」

  その言葉に俺はギョッとする。
  考えてみればそうだ。
  今の男が単独犯ならあんな堂々と街道の真ん中に身を晒さず不意を打つだろう。

  そんなことを考えているとゾロゾロと前後の林から俺達を囲うように9人・・の男が出てくる。
  その内の8人は盗賊らしい風貌、簡単にいうと汚ならしい格好であったが、残りの1人は綺麗な格好をした少年でありとても盗賊をやるようには見えなかった。

  この人数は不味いと思い俺も立ち上がろうとするが毒の影響でまだ足に力が入らない。


 ポンッ

  そんな俺の頭にヴィエラさんの手が置かれる。

「ユウトはそこで休んでいろって言ったろう?大丈夫だから。」

  ヴィエラさんはそれだけ言うと9人を見渡して、いや、その後ろの茂みを見て声をあげる。

「私の言った隠れている9人はお前も入ってるんだが?」

  俺がヴィエラさんが見当外れの方向に声を掛けているのを見て首を傾げていると、盗賊たちは動揺したようにざわめきたつ。

  1、2、3、4・・・・・9。
  何度数えても今俺達を囲んでいる人数は9人だ。
  ヴィエラさんは何を言ってるんだ?

「おいおい、まさか9人って声を掛けたのはブラフだったのか?俺はてっきりこの中で一番気配を殺すのがうめぇ俺のことを見落としているのかと思ってたぜ。」

  俺が困惑していると茂みから髭面の厳つい男が現れる。
  多分この集団のリーダーなのだろうか、大斧を担いでいた。

「ふん、私は元からそこの少年以外・・の9人を指していたんだがな。」

「気づいていて逃げないのか。余程腕に自信があるのかはたまた俺達に犯されたいのか。お前はどっちだろうな?」

「さぁね。それよりそんな突っ立ってていいのか?」

「なに、を・・・」

 ドガッ

  髭面の男が声をあげる前にヴィエラさんは先ほど見せた、瞬間移動のような移動で盗賊の1人を殴り飛ばし、殴られた男は近くの男たちを巻き込み、合計で4人が林の奥へ消えていく。

「折角の人数差が縮まってしまったぞ?」

  ヴィエラさんはそういいつつ、移動の風圧で乱れた髪を手で後ろに弾く。

  か、かっけぇぇえーーー!
  ヴィエラさん、かっけぇー!
  何、今の。
  俺も死ぬまでに一度はそんな言葉を言ってみたいわー!

「くっ、お前ら、突っ立ってたら女の餌食だ!囲って足を狙え!機動力さえ奪っちまえばこっちのもんだ!足をやった奴に使用の優先権をやる!いけっ!」

  盗賊たちはそこそこ修羅場を潜っているのか髭面の言葉で即座に行動に移る。

「流石は暴狼ぼうろうというところか。数多の荷馬車を襲ったというその連携力は一流だな。盗賊なんてしなくても生活に困らなかったろうに。」

  そう言ってヴィエラさんは暴狼ぼうろうのメンバーを悲しそうな目で見る。

「そんな目で見るんじゃねぇっ!やれっ!」

「ヴィエラさん!」

  ヴィエラさんの視線に耐えきれなくなり、髭面の男の指示が飛ぶ。
  俺は暴狼ぼうろう4人・・がヴィエラさんに襲いかかる所を見ているしかなかった。

  だが、俺の予想に反してヴィエラさんを狙った男たちの凶刃はヴィエラさんの体に触れるどころか、優れた連携力を持っているはずの仲間の体に次々と当たっていく。

「ぐあっ。」

「痛ぇ!なにしやがる!」

「俺じゃない!この女が。」

  見る見る内にヴィエラさんに襲いかかる4人の体に傷が刻まれ、一人、また一人と脱落していく。

「お前で最後だ!」

 ボグッ

  圧倒。
  ヴィエラさんを狙った刃で己の味方を傷つけ、最後に残った一人を回し蹴りで一蹴。
  結局ヴィエラさんが今の戦闘で放った攻撃は最後の一撃のみ。
  先ほどに引き続き、これまた一撃で4人の悪漢を倒したことになる。

  その光景は正に圧巻としか言いようがなかった。



  俺の首にソッと何者かの刃が添えられるまでは。

「そこまでだ!」

  4人を倒した直後に髭面の男の口から放たれる言葉。
  最初は意味が分からず、首を傾げようとした瞬間自分の命を脅かす刃に気が付く。

  ゆっくり見上げるとそこにはさっきまで戦闘に参加していなかった、盗賊には凡そ似つかわしくない少年が立っていた。

「ユウト、そこで休んでいろとは言ったが人質になれとは言ってないぞ?」

「・・・ごめんなさい。」

  ヴィエラさんの言葉に俺は即座に頭を下げようとし、首に添えられたナイフを思い出し言葉だけで謝る。

「へっへっ、よくやった新入り。さて、姉ちゃん。こうなったら後は、分かるよな?」

  髭面の男は俺を人質に取り余裕が戻ったのか、その髭面に見合う下卑た笑みを張り付ける。
  心なしか股間の辺りに膨らみが・・・まさかっ!

「脱げ。」

  髭面の男は俺が思った通りの言葉を発する。

「何故か聞いても良いか?」

  だがヴィエラさんは特に何でもないかのように髭面の男に聞き返す。

  あ、ちらっとこっち見た。
  なんだ?何か言いたいことがあるみたいだが。

「そんなの決まってるだろ?捉えた者は武装解除する。基本だろ?そして女なら・・・」

「楽しむ。と?」

「よぉーく分かってるじゃねぇか。そうさ。戦闘で高ぶってる今が一番良いんだよ。それに姉ちゃんは少し躾がなってないからな。これからどうなるのかっていうのを体に教えてやらねぇとな。おぉ、動くなよ?変な真似をしたと思った瞬間その男の首は。」

  そう言って髭面は自分の手刀で首をなぐ。

  ヴィエラさんが俺の目の前で無理やりあの髭面のものを受け入れるだと!?
  あり得ん!あり得んぞっ!
  ヴィエラさんのものは髪一本たりとも誰にもやらん。

「ヴィエラさん、俺のことは構いません。そんなゲスは吹き飛ばしてやってください!」

「おぉっと、お前は黙ってな。おい、新入り、自分の立場がわかってないそいつに少しナイフの味を教えてやれ。」

  髭面の言葉で後ろの少年は俺の髪を乱暴に掴み、首に添えられていただけのナイフに力を入れ、少しを切る。

 カチャンッ

 ピコンッ

  少年が乱暴に俺を持ち上げたことでポケットに入れていたスマホが足元に落ちる。

  同時にスマホが鳴るが、スマホが落ちた音に被り、誰も気がつかない。俺以外・・・


 「なんかささったぁー!」


  そう、スマホの通知は首に巻いた・・・・・クラトからのものだった。

  そうかっ!
  俺の首にはクラトが巻き付いてるからヴィエラさんはそこまで慌ててなかったのか。
  でもこれはいいぞ。
  髭面はクラトに気づいていない。なら。

「やれっ。クラト!」

  髭面の視線がヴィエラさんに戻った瞬間を狙い、俺はわざと髭面の注意を引くほどの大声でクラトに指示を出す。

 ウニウニッ、シュバッ

「がぼっ!」

  俺の指示を正確に理解したクラトは後ろの少年の顔に張り付く。
  少年はいきなりのことに為す統べなく無様にひっくり返り顔からクラトを引き剥がそうともがく。

  くくく。
  くっくっくっ。
  はぁーはっはっ!
  無駄無駄無駄ぁ!
  クラトの"顔面ホールド"の威力は身を持って体験済みだぜ。
  クラトの抱擁にもがき苦しみなっ!

 ドグッ

  俺が心のなかで決めている間にヴィエラさんの方から今日三度目の恐ろしい音が鳴り響く。

「全く、周囲に気を配らないから人質になったりするんだ。バカ者め。」

「はい、申し開きがございません。」

  俺は素直に謝る。
  ヴィエラさんがいくら強いといっても何かが足を引っ張ればこうも何もできなくなる。
  今も俺がクラトのことを思い出さなければヴィエラさんはあの髭面に・・・あぁ、やめやめ。
  ヴィエラさんが他の男と致してる所なんか考えたくないっ!

  だがら俺は素直に謝る。

「ほんとに、無事でよかったぞっ。」

 だきっ

「bらてtmのてゆarwこゆz。」

  この顔を覆う至福は何だ?
  ここは極楽か?
  やっぱり俺は首を切られてしまったのか?
  あ、やばい。

 ブハッ

  遂に臨界点を突破した俺の血流が鼻から勢いよく放出される。

「ユウトっ、すまん。少しやりすぎた。」

「いえ、全然大丈夫であります。ばたばたっ。」

  俺は鼻血を吹き出しながらヴィエラさんの胸に向け敬礼をする。
  敬礼のため少し視線を下げた俺の目に誰かの足が映り込む。

「あ、そう言えばこの少年はどうします?盗賊も全滅させたしこの子も?」

「いや、この少年は私たちの力になってくれるから助ける。クラト、放れてくれ。あぁ、それとあの髭面だが、恐らく生きてるぞ?」

  ヴィエラさんの指示でクラトが少年から離れる。
  クラト、主は俺だって覚えてるよね?

「まじっすか。ヴィエラさんのあれを受けて。なんてタフな。」

「まぁ盗賊の頭になるほどの男だからな。それくらいタフじゃなきゃすぐに捕まってるさ。取り敢えず髭面がどこに逃げたか知るためにもこの少年を叩き起こすか。」

「えっ!?」

 ゴヅッ

「いづっ!?!?!?」

  少年はヴィエラさんの拳骨で飛び起きる。
  その瞳がヴィエラさんと俺と、最後にクラトを捉えると怯え始める。

 シュバッ

「どうか僕と妹を助けてくださいっ!」

  かと思ったが、予想に反して少年は華麗な土下座を決めそんな台詞を言い放つ。










「はぁはぁ、ぐっ、くそっ。あの女、とんだ化け物じゃねぇか。まさかたった一人の女に俺達、暴狼ぼうろうが全滅させられるとは。あの新入りにまんまと乗せられたぜ。まぁあいつは何かにやられてたがな。
 くそっ、こうなったら新入りの妹だけ連れて他の拠点を作るか。あの妹は上玉だ。仲間になれば抱かせてやると言えばまた暴狼ぼうろうはすぐに復活するさ。」

  街道外れの林の中を疾走する男。
  ヴィエラの一撃を受けたがその勢いを利用して林に突っ込み、うまく逃げ出せた髭面の男は規格外な獲物に悪態をつきながら折れている右手を庇いつつ拠点への道を走る。

「くっ、俺に力があれば。あの女は力も容姿も逃すには惜しいぜ。力だ。力が要るッ!」

 -ほぅ、お主。力を欲するのか?-

「誰だっ!」

  疾走する髭面の頭に直接鳴り響く声。
  その声に反応し、素早く身を翻し辺りを警戒する。

 -ほぅ、お主。中々の力を持っているな。-

「なんだ?皮肉か?たった今女一人にこっぴどくやられたところだよ!くそっ!」

 -ふっふっふっ。
  女一人にその有り様か。どうだ?その女に復習したくないか?
  その女を自分の物にしたくないか?-

  頭に響く甘言。
  髭面は多少疑いもしたがあの化け物に対抗するには生半可以上の力が要る。
  正体不明の声の主はあの女を倒す、俺の物にできる力を与えてくれるという。
  正直胡散臭いが近くにまだあの化け物が居ると思うと髭面はこの甘言に乗る他選択肢がなかった。

「あぁ、したいね。お前がどこの誰か知らないが本当にそんな力をくれるっていうなら寄越せ。」

 -ふっふっふっ。
  それでこそ男だ。存分に暴れるがいい。

  我、悪神・・マナシアの名に於いて汝に力を授けよう!-



 ゴオォッ



  林の奥、マナシアによって魔王が誕生する。

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