この夏俺は世界を守る巫女に生まれ変わりました

りょう

第1話水の姫巫女

 夏。

 俺はこの季節が大好きだ。寒い冬と比べたら全然マシだし、凍えながら過ごす毎日よりも、海水浴とか花火大会とかイベントが盛りだくさんの夏なら、一年中同じ季節だとしても構わないくらいだ。

 けど、俺はその大好きな季節に不運にも水難事故にあってしまった。

 それが二十歳を迎えたばかりの夏。

 海で溺れかけていた子を助けに向かい、無事救出に成功するも助けに行った本人が帰らぬ人になってしまうという悲しい結末。でも俺は決して後悔はしていなかった。この命に変わって誰かを助けられたなら、それでいいと思っていた。

 そんな感じで俺、春風咲田の二十年という短い人生は幕を閉じた。

 いきなり何でこんな話をしだすのか、誰だって謎に思うかもしれないが、実は俺のこの三百字あまりの人生は終わってなんかいなかったのだ。

 誰がチャンスを与えたのかも分からない。

「巫女様、食事の時間ですよ~」

 誰が俺をこんな姿に転生何かさせたのか分からない。

「分かりました、今向かいます」

 もし仮に神様が与えてくれたチャンスだというなら、一言、たった一言だけ言わせてほしい。

「はぁ……。どうしてこうなっちゃったのかな……」

 せめて生まれ変わるのなら、男にしてほしかったよ。

「巫女様、早くしてくださいよ」

「あ、はいはい。今向かいますよ」

 これは水難事故で命を落としてしまった男の俺が、何故か異世界で水を統べる『水の姫巫女』(つまり女性)として転生してしまった、とても不運で不思議な物語である。

■□■□■□
 今現在、俺がこんな姿に生まれ変わってから三日が経つが、未だに何故こうなってしまったのか謎だらけだ。誰かがイタズラで仕組んだとも考えられないし、かと言って本当に偶然そうなってしまったのかとも考えられない。

だとすると、考えられる答えなんて一つしかない。

(おのれ神様め)

 神のイタズラか、気まぐれか。その二つしかありえない。

「何をボサーってしているんですか? 朝からそんなご様子ですと周りの者が心配されますよ?」

「あ、え、えっと、ちょっと考え事をしていまして……」

 人生で初めて神に対して恨んでいると、先ほど俺を呼びに来た小柄な女の子が心配そうに話しかけてきた。彼女はセリーナという名前の女性で、水の姫巫女に長年仕えている一族の後継ぎらしい。細かい事までは語っていなかったが、こう見えて俺の実年齢とさほど変わらないとか。

「考え事ですか? まあ、まだ巫女になって三日しか経っていませんから、できなくて当たり前ですよ。気に病む必要なんてありません」

「そうでしょうか? でも不安ばかりが残っていて、この先本当に自分に巫女の役割が務まるか自信がないんです」

「巫女になったばかりの者は最初は誰しも不安ばかりだと、お母様は言っていました。だから巫女様もきっと」

「ありがとうございますセリーナさん」

 三日間とはいえど一緒にいたおかげか、セリーナとは少しずつ会話ができるようになった。ただし、見た目は女性とは言えど、中身はバリバリの男なので、ずっと敬語を使っている。変な口調をしてしまうと、怪しまれかねないので当分はこの調子でいくつもりだ。

「セリーナさん、一つ聞いていいですか?」

「何でございましょうか」

「私水の姫巫女とは具体的にどのような事をするのですか? ある程度の説明は聞いたのですが、あまり分からなくて。あとここが具体的にどのような街になっているのか、少し教えて欲しいです」

「あ、申し訳ございません。私の説明不足で。では歩きながら詳しく説明させてもらいますね」

 セリーナはそう前置きをすると、今現在の俺の立場である『水の姫巫女』というものについて説明を始めた。

 まずこの世界ラグラディアは世界の半分が水や森といった自然豊かな土地で構成されているらしい。で、その世界の中心に大きな湖があり、更にその中心にある大型都市ウォルティアが今現在俺達がいる場所らしい。ウォルティアは湖の中心にある事から、水上都市とも呼ばれているらしく、まさに世界の中心と呼ばれる都市になっているという事だ。

 それで、肝心とも言うべき水の姫巫女というのは、この世界の中で最高の権限を持つものと言えるらしい。その代わりとして、毎日姫巫女としての仕事をこなさなければならない。でもそれは全て世界を守ることに繋がるとか。

「それで毎日の仕事というのがあの儀式なんですか?」

「あれはまだ一部です。最初の内はああいった仕事をこなして、徐々に巫女としての本格的な仕事を行っていく形になる仕組みになっています。ですから、しばらくはあの仕事を続けてもらうとのことです」

「なるほど……」

 ちなみに儀式というのは、毎日必ず行ういわゆる巫女の習慣らしく、俺は二日目にして昨日それを教えられた。ただ、色々複雑すぎて何が何だか理解できなかったが。

「つまり慣れるまではしばらく、あれ以外の仕事はやらせてくれないという事ですね」

「はい。そういう事になります」

(慣れるまで……か)

 俺はこの先ずっとこの姫巫女として生活していかなければならないのだろうか? 死んでしまった以上はそうするしかないのだが、果たして俺はこの先生活していけるのだろうか?

 春風咲田ではなく、水の姫巫女ミスティアとして。

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